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中頓別町

酪農のまちを支える、「人工授精師」の話。20201022

酪農のまちを支える、「人工授精師」の話。

自然交配よりも多くの種付けができるだけではなく、良質で優秀な家畜を効率的に増産できるため、乳牛や肉牛の飼育においては人為的な授精が一般的となっています。これを専門的に行うのが家畜人工授精師。道北の中頓別町に暮らす小金丸陽香さんも、この裏方仕事に取り組む一人です。

大好きな北海道で大好きな酪農のシゴトがしたい。

「こんにちは」の笑顔が初々しい。小金丸さんは今春(2020年)に家畜人工授精師の仕事に就いたばかり。社会人としてもピカピカの1年生です。
ご出身は福岡。幼い頃から一途に抱き続けたのは、大人になったら酪農のシゴトに就くという夢。地元の農業高校を卒業後は、「酪農といえば北海道」の思いから江別市の酪農学園大学へと進学します。

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「入学当初は漠然と牧場を経営したいと考えていましたが、就活の時期が近づくにつれ新規就農は資金的にも体力的にも険しいと気づきはじめて...」
それでも大好きな北海道で酪農に関わる仕事がしたい、いっそ牧場ヘルパーのバイトでもしようか...そんな悩める小金丸さんの耳に届いたのが、人工授精師の資格取得セミナーの開催の知らせ。
「北海道の酪農には無くてはならない大切な職業ということに強く惹かれました。聞けば最近はなり手が減少しているとか。就職の意味でもこれはチャンスだと思いました」
早速セミナーを受講し資格を取得。22歳の若き家畜人工授精師が誕生したのです。

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まちの温かさに惹かれて中頓別へ。

就職率100%と言われるように、家畜人工授精師は引く手あまたの職業。全道に就職先がある上に、地域によって仕事内容も微妙に異なるため、職場選びはたっぷり時間をかけたと小金丸さん。数多ある勤務先の中、最終的には中頓別町農業協同組合を選択しました。
「大学時代に実習やアルバイトで全道各地のさまざまな牧場を訪ね歩く中、道東エリアは大規模な酪農、それに対し道北は家族経営が多いことを体感していました。近代的な大工場を思い起こさせるメガファームより、人とのふれあいを感じながら働くほうが自分の性に合っていると考え、就職するなら道北がいいかなと。中頓別には実習でお世話になった牧場もありましたし、まちに暮らす人たちの温かさも身をもって実感していました」

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母牛の発情と体調を見据えながら。

家畜人工授精師の一日はどのようなものでしょう。
「仕事は農家さんからの『発情したようだ』頼むよ〟といった連絡から始まります」
すぐにクルマを走らせ酪農家のもとへ。ただしすぐに受精の作業に取り組むわけではありません。受精の取り組みは母牛の発情の状況と密接な関わりがあるため慎重な見極めが必要となるのです。
「十分に発情していなかったりあるいは発情が終わりかけていたりすると、受胎する可能性はグンと低くなります。また無理に作業に取り組むと母牛に余計な負担やストレスをかけることにもなります。母牛の体調が優れない場合、病を患っている場合も受精には適しません」
小金丸さんが時期的にも体調の面でも今が最適と判断した場合、液体ボンベから凍結精液が入っているストローを取り出して温水で融解したのち、注入器にセットして子宮の中に送り込みます。その間わずか10数秒足らず。

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「ちなみに精液の種類によって『乳房の形が整っている』とか『乳量が多い』など、生まれてくる仔牛の資質が変わってきます。どの雄牛の精液を選ぶかは農家さんとの話し合いで決めます」
小金丸さんの受精作業が成功した場合、順調にいけばおよそ10カ月後に仔牛が誕生することになります。

チーム酪農の大切なメンバーとして。

受精に関する作業が注目されがちな家畜人工授精師ですが、仕事はそれだけではありません。
「例えば繁殖の確認をしたり、分娩後の牛の健康状況を把握したり。授精までで終わりではなくその後も経過も継続的に見ていきます」
時には肛門から直腸に腕を入れ、大腸の壁を介して子宮の状況を観察することもあるのだとか。
「医療行為はできませんが、牛の健康管理は私たちの大切な役割のひとつです」

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こういった取り組みで重要になるのが、農家、獣医、普及員や役場の担当など、中頓別町の酪農を支えるプロフェッショナルたちとの連携。過去から現在に至るさまざまなデータを共有し、各々が専門的な意見や知恵を出し合うことが、確実な受精、安全な分娩、さらに受胎率の向上という好結果を導くからです。
「私はチーム酪農って呼んでいるんです。誰か一人が欠けててもうまくいかない大切な仲間。このチームの団結力が牛たちの生命や健康を支え、酪農を営む牧場を支え、酪農のまち中頓別を支えているんです」

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都会暮らしをしたから田舎の良さが分かる。

生まれは福岡、大学時代は江別。休みの日は札幌に遊びに行くことも多かったという小金丸さん。4カ月ほど過ごした中頓別での暮らしはどう?
「いやもう気持ちがいいくらいの田舎(笑)!スーパーですら近所にありません。大学時代は都会暮らしだったけれど、今は山菜を採ったり稚内や豊富までドライブをしたりと、ここでしかできないワイルドな暮らしを満喫しています」
都会からきた女性、農協に入った新人さん、酪農を支える人工授精師... 小さな町だから注目される機会も多いよう。
「本当にたくさんの人から声をかけられます。野菜のおすそ分け、夕餉のおかずを貰うなんてのも日常茶飯事。でもそれが心地よいんですよね、これがつまり田舎の魅力...なんでしょうかねぇ」

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※小金丸さんの記事は、北海道農業・農村情報誌『confa(コンファ)』の2020秋号にも掲載されています。ぜひあわせてご覧ください。
道の駅等で配布されていますが、下記webサイトからもご覧いただけます。
北海道 confa詳細ページ

中頓別町農業協同組合
中頓別町農業協同組合
住所

北海道枝幸郡中頓別町字中頓別23−2

電話

01634-6-1231


酪農のまちを支える、「人工授精師」の話。

この記事は2020年7月28日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。