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滝川産ワインの歴史が始まった!えべおつWein20190919

この記事は2019年9月19日に公開した情報です。

滝川産ワインの歴史が始まった!えべおつWein

2019年8月31日、滝川市で「そらちワイン×ワインFesta2019」というイベントが行われました。このイベントは、近年空知のワインが注目される中、その空知のワインと滝川市のグルメを中心に、ワインにピッタリな食を楽しめるイベントです。

毎年美味しいグルメとワインで大賑わいなイベントなのですが、今年はそこに新たなワインが加わりました。それが「えべおつWein(ヴァイン)」。「ヴァイン」はドイツ語でワインを意味します。

これまで「滝川BYO」記事はこちらといった、そらちワインを飲食店に無料で持ち込めるサービスを始めるなどワインを活かしたまちづくりを進めてきた滝川市にとって、念願の滝川産ぶどうワインの登場に、ワイン×ワインフェスタは大盛り上がりでした。

今回はそんなお祭りのステージトークにも登場したえべおつWeinの代表、髙橋 孝輔さんのお話です。

「農業がやりたい」から始まったワイン農家への一歩

滝川市江部乙という地域は滝川市の北側に位置し、メディアなどに取り上げられることも多い日本一の菜の花畑(記事はこちら)や、防風林に囲まれたりんご畑の風景がとってものどかで「日本で最も美しい村」に選ばれるほど素敵な景色の広がる地域です。えべおつWeinのヴィンヤード(ぶどう畑)はそんな江部乙地区の中にあります。

「目が紫外線に弱くて...」と言ってサングラス姿で私たちを出迎えてくれた高橋さんは東京生まれ東京育ち。現在31歳なのですがとっても落ち着きのある雰囲気です。しかしそのストーリーには熱いものがありました。

ebeotuwain5.JPGこちらが髙橋孝輔さん
「今からもう8年くらい前ですね、北海道には農業をやりたくて移住したんです。それであちこちの農家さんにお話を伺ったのですが当然『ゼロから農家を始めるなんて厳しいよ、やめとけやめとけ!』なんて言われてしまいました。
それでその時は私も、やっぱりそんなに甘くないよな、と一度は断念して一般の会社に就職してサラリーマンをしていたのですが、どうしても農業をやりたいという気持ちはずっと持っていました」

東京で生まれ育った高橋さんが、移住してしまうほど農業に惹かれた理由は?と伺うとこう教えてくれました。

「どんな仕事もやってみてわかる苦労と楽しさがあると思うので、農業を始めたばかりの私はこれから色々な経験をして苦楽を理解していくのだと思うのですが、漠然と農業に惹かれた理由の一つは1から10まで自分で手掛けることができるイメージを持っていたからです。会社員だとひとつの仕事を全て自分が担当するということは難しいと思いますが、農業であればそれができるのではと思いました。
それと、私は東京生まれで親戚にも友達にも農業に携わっている人は1人もいません。なのでそういった全く知らない分野にチャレンジしたいと思ったのも一つの理由ですね。今思うと完全に勇み足なんですけどね」

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そう高橋さんは笑いますが、そんな「農業をやりたい!」という情熱とチャレンジ精神は、とあることをきっかけに高橋さんを突き動かします。それが、近年の空知ワインの広がりでした。
少しずつヴィンヤード(ブドウ農園)やワイナリー(醸造所)が増えていく様子を見た高橋さんはすぐにワインについて調べ始めます。すると見えてきたのは、「自分が一から手掛けてひとつのモノを作り上げることができる」というまさに高橋さんの求めていた農業の姿だったのです。元々ワインが好きだったという高橋さんにとってこれ以上ない存在でした。

さっそく行動を開始した高橋さんは、余市の(株)平川ファームという農場に社員として入社し、新規就農に向けた研修を始めます。ブドウの栽培の他、自社でワインの醸造も行っている平川ファームでは多くのことを学ぶことができたと高橋さんは振り返ります。

「農業は机上で勉強できることももちろんあるのですが、実際に体験してみないと分からないことが非常に多いんです。特にブドウの栽培に関してはワインの本場のフランスやドイツの文献が多くありますが、それだけでは十分じゃありません」

5D3B4673.JPG木の幹は横へと伸びていきます

そう言って高橋さんは木の幹が斜めになっているブドウの木を指しました。これは北海道でしか見られない形で、理由は冬の厳しさにあります。収穫が終わったブドウの木はワイヤーから外され、地面に寝かされます。そうすることで冬の間は雪におおわれ、マイナス25度にもなる厳しい寒さから守られるのです。
もちろん北海道の中でも気候や雪の多さによって栽培方法は違い、そういった違いを学ぶには実際に経験してみるしかないと感じたそうです。
こうしてブドウの栽培、そしてワインのことを学んだ高橋さんは2年間の研修期間が終わるころには担当の方にお墨付きをもらうほどワイン造りの基礎を習得していました。

菜の花畑に惹かれたお父さんの移住ストーリー

ebeotuwain13.JPGお父様の満さん。笑顔がとっても素敵
こうしてついに新規就農にこぎ着けた高橋さんですが、そもそも江部乙を選んだのはなぜだったのでしょうか?
そこには高橋さんより一足先に滝川市に移住をしていたご両親の影響もあったのです。

高橋さんのお父さん、満さんは元々プラントなどを作る技術者でした。そのため全国あちこちに仕事で滞在し、1年だけ北海道にも住んだことがあったそうです。その1年の間に北海道中を見てまわり北海道が大好きになったご両親は「老後は北海道に移住したい!」という気持ちを強くしました。

そしてついにその時が来たご両親は、移住先を決めるため改めて北海道のあちこちに足を運びました。その時に出会ったのが江部乙に広がる菜の花畑でした。その美しい光景に惹かれた二人が滝川市について調べた際にさらに背中を押したのは、移住制度が充実していることでした。

こうして10年ほど前、様々な条件が合致した江部乙に移住してきた満さんでしたが、だんだんと一つの想いが芽生えてきます。それは「自分たちのような移住者が増え、良い環境で暮らしていくためにはどうしたらいいのだろうか」ということでした。

「やっぱり人に来てもらうためにはまずは観光だ!って思いまして、イベントだったりフットパスだったり、色んな事に私も携わるようになりました。ある程度その活動が充実してきまして次は産業だ!と思った時に何がこの地域の産業なのかを考えると、やっぱり農業だったんです」

ebeotuwain11.JPG親子3人でパチリ!

こうした満さんの想い、そして息子である高橋さんの想いが重なって始まったのがえべおつWeinだったのです。しかし農業を始めてみて満さんはさらに気付きがありました。それは高橋さんに多くの農家さんが『農家は厳しい、やめておけ』と言った理由の1つでもありました。

「農家って収入が安定して生活できるようになるのに最低5年はかかってしまうんです。それに冬になると収入がありませんから、多くの農家さんは冬の間は別の仕事をするしかないんです。安定した収入がない状況では小さいお子さんがいたりとか、若い人の新規就農はかなり難しいですよね。それで私たちは北海道の在来種のニンニクの栽培を始めていて、これが軌道に乗れば冬の間の収入につながるのではと思っているんです。
これから滝川で新規就農する若者たちが安心してやっていけるために何か役に立てたら嬉しいですね」

ebeotuwain9.JPGぶどう園の一角ではブルーベリーも栽培。立派な実がなっていました

江部乙という土地から生まれた虹のワイン

そうして家族でスタートしたえべおつWeinは現在ブドウの木が約6,000本、2ヘクタールの広さがあります。この広さは1人で管理できる限界だと言われているそうです。しかも新しく始まったばかりのこのヴィンヤードは管理するばかりではなく、新しい木を植えたり育てたりという作業があります。
実際収穫作業などはとても大変で、1人ではとても難しかっただろうと言う高橋さん。それではご両親が江部乙に移住したからここで就農を決めたのかと言うと、それだけではなかったようです。

「もちろん両親が江部乙にいたのでここを中心に探しましたが、滝川に限らずに場所を探していました。しかし実際あちこちと比べてみたときに、この江部乙が非常にブドウの栽培に適しているということが分かりました」

江部乙はリンゴの一大産地なのですが、なんとリンゴ畑のある場所は平均気温、日照量、土壌条件、風、雪などの諸条件がブドウの栽培にも適していたのです。
最近では少しずつりんご農家さんが減っているという現状があり、その使われなくなってしまった土地が江部乙にはたくさんありました。高橋さんが研修をさせてもらった余市町は確かにブドウの栽培に適しているのですが、既に畑にできる土地は満杯状態。一方で江部乙では栽培に向いている土地を確保することができたのです。

ebeotuwain6.JPGどんなぶどうがこの土地に最適なのか、試行錯誤が続きます
「条件などは調べることができますが、江部乙ではブドウ栽培の実績がないので本当にこの場所が適しているのかはまだ分からない状態です。ですのでこの土地に合ったブドウを見つけるためにも7品種を植えたのですが、今はこの土地に合ったブドウがどれなのか見つけていくという段階ですね。
もちろん農業は気候が相手ですから、去年のやり方が今年は通用しないといったことがあります。これからもずっと勉強の繰り返しですね」

高橋さんはそう言って私たちに今年できあがった白ワイン「Regenbogen(レーゲンボーゲン)」を見せてくれました。これはドイツ語で虹の意味で、7種類のブドウから作ったことから命名されました。
えべおつWeinでは赤ワイン用の黒ブドウを2品種、白ワイン用の白ブドウを5品種栽培していますが、その全てがこのワインに使われているため色はごくわずかに赤みを帯びています。
新規就農から3年、この念願のワインを醸造してくれたのは同じ空知にある岩見沢の「10R(トアール)ワイナリー」さんです。10Rさんと相談を重ね、ワイン好きの高橋さん自ら「本当に美味しいです」と自信を持って出せるワインへと仕上がりました。

ebeotuwain3.JPG今では剪定も手慣れたものです

夢は江部乙にワイナリーを!

これからのシーズンまさに収穫が始まるブドウ畑ですが、ご両親の手助けがあるとは言え1人でこの広いブドウ畑を管理していくのはとても大変なことです。お休みなんかは取れていますか?という質問に高橋さんはこう答えてくれました。

「確かに会社員をしていた頃と比べると圧倒的に休みの日は少ないと思います。もちろん雨が降って作業ができない日なんかはありますが、そういう日には帳簿を作ったり、書類を作る作業があったりしますからね。しかし「この日は休みを取っても大丈夫そうだな」とか作業量を自分でコントロールできることは農業をやっている良さですかね」

実際休みの日や空いている時間には映画を見たり、他の農家さんからお話を聞いたりといった時間も取れているという高橋さんは、江部乙に住んでみて「思ったより不便じゃないな」といった印象だったそうです。これも豊かな農村地帯でありながら市街地に隣接する江部乙という地域の良さでもあります。

まずは今年300本のワインを作ることができたえべおつWeinですが、今後はどのような農園になっていくのでしょうか。

「最終的な目標は自分のところで醸造ができるワイナリーを作ることです。そのためにはブドウ畑がこの面積では足りないんですよね。なので今はしっかりと良いブドウをつくりその生産量を増やしていくことが当面の目標ですね」

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ワイン用のブドウ1本の木が成長しきるのに5年かかり、収穫ができるようになるのは3年目からなのだそうです。今年できたワインは2016年に植えた1,000本の木から採れたブドウでつくられました。これから徐々に収穫量が増えていき、ワインの生産量も増えていくと、この2ヘクタールのブドウ畑の全てが手作業なのでますます忙しくなっていきそうです。

「冬の準備や剪定も大変ですが、一番大変なのは収穫作業ですね。これからはきっと私たちだけでは手が回らなくなって色々な方の手を借りなければならなくなるかもしれません。それでもやっぱり去年の初収穫を迎えた時は一から自分が手掛けたものが形になったことを実感して嬉しかったですし、最もやりがいを感じた瞬間でした。
今年できたワインは300本ですが、これからもっと生産量を増やして地元の飲食店にも置いてもらったり、広く色んな方に飲んでもらえるようにしたいですね」

一から手掛けてひとつのモノを作り上げたい、そんな想いから始まりついに出来上がった念願の滝川産ぶどうのワイン。きっとこれからたくさんの方に愛されていくことでしょう。そしていつかは江部乙にワイナリーが完成し、ぶどうの収穫から醸造まで100%江部乙産のワインが誕生する日が来ることでしょう。私たちもそんなワインを飲むことができる日を心待ちにしたいと思います

5D3B4819.JPGあたりにはアキアカネがたくさんいました。トンボの幼生であるヤゴは農薬を使っていない場所にしか住めないそうです

えべおつWein(ヴァイン) 代表 髙橋孝輔
えべおつWein(ヴァイン) 代表 髙橋孝輔
住所

北海道滝川市江部乙町東11丁目758

電話

080-6087-3650


滝川産ワインの歴史が始まった!えべおつWein

この記事は2019年8月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。