HOME>北海道で暮らす人・暮らし方>同じ思いの女性農業者と出会い、農業に対して前向きになれた

北海道で暮らす人・暮らし方
南富良野町

同じ思いの女性農業者と出会い、農業に対して前向きになれた20190404

この記事は2019年4月4日に公開した情報です。

同じ思いの女性農業者と出会い、農業に対して前向きになれた

北海道の真ん中あたりに位置し、高倉健さん主演映画『鉄道員』ぽっぽやロケ地になった駅が当時のまま残っているなどとしても有名な南富良野町。取材班が訪れた日は、真っ白な新雪が積もる真冬の日。北海道の冬景色を絵に描いたような雪原の農村風景の中に、真新しい一軒のお家がありました。そこが、久保田佑美香さん夫婦のお家です。

出迎えてくれた佑美香さんは、明るい笑顔が印象的な女性。農林水産省の「農業女子プロジェクト(※)」のメンバーにもなっており、まさにキラキラ農業女子かと思いきや...。「私、農業が好きになれなくて...」と言います。詳しく話を聞いてみました。

※女性農業者が集まり、日々得た知識を活かして新たな商品やサービスなどを発信していくためのプロジェクトのこと

「農家にだけは嫁ぐな」の言葉が現実に

kubota_farm2.JPGこちらが久保田佑美香さん

佑美香さんは旭川に隣接するまち、東神楽町の出身。

実家は公務員の家庭ですが、母が農家出身、父も仕事柄農業の大変さを知っており、「農家にだけは嫁ぐな」と言われて育ったと言います。保育士を目指して大学に通い、縁あって音更町の保育所に就職。10年勤めましたが、たまたま農業の研修で音更を訪れていた今のご主人の裕輝さんと出会い、結婚を考えるように。

しかし案の定、佑美香さんの両親は大反対。
裕輝さんは結婚を認めてもらえるように佑美香さんの実家に通いました。佑美香さんの両親は農家の大変さを知っているだけに、「大切な娘を苦労するのがわかっているところにいかせようとは思わない。お前が嫌いとか悪いわけじゃない。ただ農家じゃなければ...」と話してくれたといいます。
そんな中、佑美香さんの身体に婦人病が見つかります。佑美香さんは「子どもを産めないかもしれないから」と別れを決意するも「子どもが出来なくてもずっと一緒にいたい」と言う裕輝さんの言葉に結婚を決め、「自分だけはどんな時も味方でいる」と約束した裕輝さんの人柄を両親も認めてくれて、農家の仕事に一緒に従事することになりました。

ところがいざ嫁いでみると、佑美香さんは現実を見ることになります。

「農家の仕事も、南富良野の土地も、周りの人も、全てわからないことだらけ。一つ一つの作業にどんな意味があってやっているのかもわからないまま、ただただ毎日必死でついていくだけでした。キツかったですね」

右も左もわからない農作業に三世帯同居、先の見えない不妊治療、慣れない環境での生活で心身ともにボロボロに。とうとう体調を崩し、一時は実家に戻って療養することになってしまいました。

農業も、知れば楽しくなるかもしれない

kubota_farm4.jpeg農場での一枚。虹が大きくかかっています。


一度休養をとって戻ってきた佑美香さんは、「毎日楽しく働きたい!農業が好きな人の話を聞いたり、農業のことを知ったら楽しくなるかもしれない」と思い、様々な研修に参加して農業について勉強してみることにしました。

すると、そこには農業を楽しみ、輝いているさまざまな年代の女性農業者たちがいました。そんな人の話を聞いていると、農業が好きになれそうな自分がいたと言います。

そして、とあるセミナーでの自己紹介で「私は農業が嫌で、好きになりたくて参加しました」と正直な気持ちを言ってみました。すると、「わかる、わかる!私もそうだったよ」と共感してくれる人がたくさんいたのです。「バカにする人は誰もいませんでした。悩んでいたのは自分だけじゃなかった。嬉しかったですね」

研修の日程を終えるころには、「こんな女性農業者になりたい!次この人たちに会う時、恥ずかしくない自分でいられるよう、少しずつ農業を頑張ってみよう」と、すっかり気持ちが切り替わっていました。

「私は恵まれていた」と気づいたきっかけ

kubota_farm5.jpg


それからは、女性農業者のグループなどに積極的に参加。

「生活の中では、仕事をする時間が一番長い。だから楽しんで仕事ができたらいいなと思うんです。農業が好きな人の話を聞いて、どうしたら楽しく仕事ができるかを探っていました」
そんな時、裕輝さんの両親の勧めで富良野市にある農業の学校、北海道富良野緑峰高等学校農業特別専攻科に入学することに。そこは、年間73日間の通学で農業経営の実践から応用まで学べる学校で、農家の後継者や新規就農を目指す人、主婦、農家に嫁いできた奥さんなど同じ30代の学生もいます。

「専攻科では資格取得や自分の興味があることなどを先生方が授業に取り入れてくれたり、年齢や男女関係なく素敵な農業仲間と出会えたりと良い環境で勉強が出来るので本当に入学して良かったです。夫の経営パートナーとして今後しっかり自家を支えていけるように日々勉強です」

kubota_farm10.JPGこちらが学校紹介のパンフレット

たくさんの女性農業者と交流し話をするうちに、佑美香さんは、自分がいかに恵まれていたかに気づかされたと言います。
「私は、仕事を『やらされている』と思っていましたが、色々な経験を『させてもらえていたんだ』と気づきました。周りの話を聞いて、乗りたくても機械に乗せてもらえなかったり、出かけるのも制限されているという人が多いことに驚きました。私は、一番新しいトラクターに乗せてもらい、大型特殊免許も取らせてもらった。学校にも行かせてもらい、外へ出る時も家族は気持ちよく送り出してくれる。私がやりたいことを応援してくれる家族の理解に感謝の気持ちでいっぱいです」

二人で話し合い、自分たちの農業を模索

kubota_farm3.JPG夫の裕輝さん。いつも笑顔で佑美香さんを見守ります。


夫の裕輝さんも、佑美香さんの横でもどかしい思いを抱えていたと言います。

「自分の親だからこそ言えないこともあるけれど、もっとやり方を変えなければいけないと思っていました。そうしているうちに佑美香が体調を崩してしまい、慣れない環境で辛い思いをさせてしまい本当に申し訳なく思いました」

裕輝さん曰く、佑美香さんは「真面目な性格で、0か100かというタイプ。今となっては、僕よりやる気満々で、引っ張ってくれています(笑)」

ずっと計画していた二人の住居も昨年新築し、さらに同年父から経営移譲し、新たなスタートを切ることなりました。

kubota_farm6.jpeg完成した家の前で。とっても素敵なお家なんですよ。

佑美香さんが出会ってきた女性農業者は、経営に携わっている人が多く、そんな女性たちがカッコよく見えたと言います。経営移譲を機に「うちでは何ができるかな」と今は二人で今後について話し合う時間も楽しみながらこれから自分達がやりたい農業(品質向上や農福連携など)を模索共有しています。

農業を子どもの人気職業トップに!

最近では地域の集まりにも顔を出し、まちのことも少しずつ見えるようになりました。

「南富良野は水がきれいで自然が豊か。カヌーやラフティング、ワカサギ釣りなどアウトドアも充実しており、カーリングの日本代表選手を輩出しているのも自慢です!また、農業後継者育成事業として私のように嫁という立場でも専攻科へ通えるよう補助をしていただけたりと背中を押してくれる魅力多いまちです。これからずっと住むこのまちをもっと素敵なところにしていきたいと思っています。」

佑美香さんは現在、保育士の経験を生かし、町のファミリーサポートセンターの立ち上げメンバーに。地域で育児のサポートをする制度で、佑美香さんも自宅で子どもを預かったり、相手の家で子どもを見る援助会員として活動する準備を進めています。

「南富良野がもっと子育てしやすいまちになったらいいなと思います」

kubota_farm7.JPG家の中の一室。ここでお子さんを預かったりしたいと考えているのだとか

佑美香さんの目標は、「農業を子どもたちの人気職業にしたい!」。保育士をしていた時も、「将来の夢は農家」という子はほとんどいませんでした。

「農業は命をつないでいく産業。農業を楽しんでやっている人がいなければ、子どもたちがなりたいと思うわけないですよね。美味しい食べ物を作る農業は人を笑顔に、幸せに出来る仕事。私は子ども達が農家になりたい!と思えるキッカケになりたいと思っています。そのために農業の3Kを『キツイ、汚い、危険』から『稼げる、感動、かっこいい』にしたいです!」そう言って目を輝かせる佑美香さんと、優しく見守る裕輝さん。仲睦まじい二人が歩む道は、まだ始まったばかりです。

kubota_farm8.JPG

くぼた farm
住所

北海道空知郡南富良野町字北落合171

URL

https://www.instagram.com/farm_kubota/


同じ思いの女性農業者と出会い、農業に対して前向きになれた

この記事は2018年12月22日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。