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せたな町

映画「そらのレストラン」のモデル。グラスフェッド酪農家の話。20190206

この記事は2019年2月6日に公開した情報です。

映画「そらのレストラン」のモデル。グラスフェッド酪農家の話。

広大な緑の絨毯の上を心地よい風が吹き抜けていきます。

わずかに隆起した丘陵の向こうには晩夏の陽光に輝く日本海、その水平線には美しい島影が浮かんでいます。

くらしごと編集部が訪れたのは、北海道の道南。せたな町。ここでグラスフェッドのチーズづくりに情熱を傾ける村上 健吾さんにお話を聞くためです。実は村上さん、2019年1月に公開された「そらのレストラン」という映画の、主人公のモデルになった方でもあるのです。

※グラスフェッドとは、ストレスのない放し飼いで良質の牧草を食べて育ったという意味。

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慣行酪農があってグラスフェッドがあるんです。

まずは村上さんのプロフィールからご紹介しましょう。

せたな町の村上牧場の3代目。2006年から父親の片腕として酪農に従事し、その2年後からチーズづくりに取り組んでいます。注目すべき点は、自然の恵みだけで牛たちを育てていること。チーズ製造のために健吾さんが飼育管理しているジャージー種とブラウンスイス種の乳牛は、放牧地の草だけを食み、野趣たっぷりのミルクを生み出すのです。その理由を村上さんはこう話します。

「牛たちは人間が食べられない草を摂り込んで、人間が口にできるたんぱく質や脂肪を生み出してくれます。その営みに敬意を払うために、牛が安心する持続可能な環境で育ててあげたい。それが自分にとって一番矛盾の少ない酪農なんです」

一般的にはこうした『グラスフェッド』の対照となるのが『慣行の大型酪農』と言われがち。けれど村上さんはこうした構図を否定します。
「大型酪農が社会への安定供給という大切な役割を果たしてくれているからです。自分の酪農はこうした酪農との共存の上に成り立っているんです」

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村上さんの考え方の原点ともいえる「やまの会」。

村上さんを紹介する上で欠かせないのが『やまの会』の存在。

せたな町とその近隣町村で自然栽培やオーガニックな農法に取り組む農家や酪農家、畜産家で構成されている小さな集団で、現在メンバーは5軒。マルシェの企画や料理会の開催、都会のレストランへの素材提供、ユニークな加工品の開発などに精力的に取り組み、その評判や人的交流は全国に及んでいます。

「自分流の酪農に取り組むことができたのも、僕のチーズが知られるようになったのも、いろんな方々とネットワークを築くことができたのもこの集いがあったから。やまの会は自分の原点だと思っています」

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「やまの会」の取り組みやメンバーの生き様を残したい。

この若き自然派農家集団や村上さんの姿勢に共感したのが、大泉洋さんら人気俳優を擁するクリエイティブオフィスキュー。

『やまの会』の活動をもとに「チーズづくりに情熱を傾ける主人公とその仲間たちが繰り広げるヒューマンドラマ」を描きたいと申し出ます。
ここで小さな疑問がわきました。映画は人々を楽しませるエンターテイメントという特性も兼ね備えています。

自分たちが娯楽の題材になることに戸惑いはなかったのでしょうか。

「ぜんぜん(笑)!むしろやまの会の存在を多くの方に知っていただくいい機会だと喜んだくらい」

もちろんその理由はビジネスのためではないでしょう。村上さんがつくるチーズも、他のメンバーの農産物も生産量はごくわずか。宣伝したところで増産できるものではないからです。

「要するに大きな思い出づくりです。やまの会がモチーフとなりそれが映像となって後世に残っていくなら、それはとても光栄なこと。オーガニックを広めたいとかそんな大上段に構えたものじゃなく、僕らの生き様を形にしていただけるのだとしたら、僕らも全力で協力させていただこうと思っただけ。それがエンターテイメント作品であってもね」

この先、自分も成長しやまの会も進化していくだろう。ならばなおのこと、今この瞬間の自分たちの取り組みを記憶や記録にとどめておきたい。村上さんはそう考えたのです。

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せたなという町があったからこその作品です。

映画の構想が生まれたのは2014年。そこから歳月を重ねるごとに作品としての具体性を帯びていきました。

「監督さんや関係者が何度もこの町に足を運び、メンバー個々の生い立ちや取り組み、体験談などを一つひとつ丁寧に集めてくれたんです」

例えば奥様との出会いの経緯、例えば北海道チーズの祖の故・近藤恭敬さんに学んだチーズづくり...さらにマーレ旭丸の西田船長をモデルにした仲間の登場、せたなに開いた1日レストランの話、果てはメンバーがUFO好きというネタまで、今回の映画の中にはやまの会の本当のエピソードがたっぷり。放牧のポイントやチーズづくりに関する演技指導にも精を出した、という村上さんならば映画を観た時の感動もひとしおなはず。

「映画にはやまの会のメンバーも出演していますからね。他の人が気づかない場面で、ホロリときたり声を潜めて笑ったり。エンドロールが流れた時は、いい映画に関われた幸せを心の底から噛み締めました」

実はもうひとつ、村上さんが喜びを感じることがあります。それは映画の公開を通じ、愛すべきせたな町の存在が広く知られること。

「こうして『やまの会』がクローズアップされているけれど、あの映画ができたのは、せたな町民や行政の方々、道南のチーズ製造者の皆さんの協力があったから。心を打つ景色、心に沁みる味、心優しい人々がこの町に本当に存在したから、あの素敵な作品が生まれたと思ってる。僕はそれが嬉しいし、そしてちょっぴり誇らしくもあるんです」

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映画の企画製作担当の伊藤代表にもお話を。

最後に「そらのレストラン」の企画製作を担当したクリエイティブオフィスキュー代表取締役の伊藤亜由美さんにお話を伺いました。

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〜北海道映画シリーズの第三弾ですね。

「一作目はパン、二作目はワインを通じてその土地に暮らす人々の人間模様やドラマを描いています。三作目はどうしてもチーズを取り上げたいと思っていました。パン、ワイン、チーズは北海道の食文化を担う大切な食材ですからね」

〜やまの会のメンバーとの出会いは...?

「とても運命的でした。最初に訪ねたのはリーダーの富樫さんのお宅。リビングに通していただくと、大きなテーブルいっぱいにおいしそうな料理が『これでもか』っていうくらいに並んでいて、富樫さん曰く『お客さんが来たら、こうしてメンバーが料理を持ち寄ってお迎えしているんですよ』って。なんて温かな人たちなんだろうって思いました。

〜そこから時間をかけて『やまの会』を探求していったわけですね。

「私や脚本家もせたなに通いましたし『やまの会』主催のイベントにも参加させていただきました。さらにSNSも駆使し交流を幾度となく重ねながら、「やまの会」の大切にしていること、メンバーそれぞれの思いやエピソードを一つひとつ拾い集めていったわけです。その間実に3年以上、今回の映画製作ではこの期間が一番長かったんです」

〜北海道映画シリーズで心がけていることは?

「公開されたらおしまいではなく、その後も地域に活気やエネルギーを生み出す作品を目指しているということです。住民や行政の方々に参加や出演、ご協力をお願いしているのもそのため。このシリーズは製作者がつくる映画ではなく、地域のみんなでつくりあげる映画なんです」

murakamibokujo_8.jpg「そらのレストラン」
2019年1月25日(金)より全国ロードーショー
(C)2018「そらのレストラン」製作委員会

今回、ご縁がありまして、当サイト「北海道の人、暮らし、仕事。くらしごと」を運営しております、北海道アルバイト情報社は、映画「そらのレストラン」の製作委員会のメンバーとして、参加させていただきました。ぜひご覧いただき、北海道の良さをさらに感じていただけましたら幸いです。〜くらしごと編集部〜

村上牧場 レプレラ
住所

北海道久遠郡せたな町瀬棚区西大里359

電話

0137-87-2009

URL

https://ja-jp.facebook.com/murakamifarm/


映画「そらのレストラン」のモデル。グラスフェッド酪農家の話。

この記事は2018年9月22日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。