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北海道で暮らす人・暮らし方
滝上町

カソチをステキな場所にするため、Uターンした女性。20190107

カソチをステキな場所にするため、Uターンした女性。

2018年11月20日、例年よりも遅めの雪が降ったオホーツクの北海道滝上町。札幌市から約241km、紋別市から約33kmの場所、約70ヘクタールの敷地に150頭ほどの牛たちが暮らしている井上牧場さん。ホルスタインだけではなくブラウンスイスやガンジーといった色々な種類の牛を飼っている酪農家さんです。

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ここに「カソチサポーター」として、Casochi合同会社を運営する扇みなみさんと愛美さんがいます。横浜の大学を卒業、東京で就職、結婚を経て夫婦で故郷へUターンし、妹の愛美さんと一緒にCasochi合同会社を立ち上げた扇みなみさんには、どんなストーリーがあったのでしょうか。

父からの「しっかりと外の世界を見て来い!」の言葉

「私と愛美は札幌の高校に進学しました。同学年の人が40人くらいいる中で、札幌に進学するのは私を含めて2、3人くらいだったので、かなり珍しかったと思います。半分以上、6割近くが地元か紋別でしたからね」と話すみなみさん。
地元を出ることに対して、ご両親の反応はどうだったのでしょうか。

「実は北見や旭川への進学という選択肢もあったんですが、父から『中途半端に近いところに行くな。しっかりと外の世界を見て、そして経験して来い。むしろ海外でも良い』と言われたんです」

casochihito9.JPG真ん中がお父様。娘二人に挟まれてちょっと恥ずかしいような嬉しいような

なんと、お父様が自らみなみさんの背中を押したそうで「さすがに海外はちょっと......」と苦笑いしながらも、高校は札幌、大学は横浜、そして就職は東京という、「外の広い世界」へと飛び出していきました。

実は、お父様が「外の世界を見て来い!」と言ったのには理由がありました。井上牧場はみなみさんの曾祖父、つまり今の牧場主であるお父様の祖父が始めたそうです。大正時代の初期、サハリン(当時の樺太)へ渡り、農業をしていた曾祖父は昭和23年に戦後開拓としてサハリンから滝上町に入植し、本格的な酪農を始めました。

「父はアメリカで牧場研修を経て、曾祖父が造り上げた牧場を基盤に平成元年に今の井上牧場の原型をつくったんですが、当時は大規模牧場なんて周りにはなく例はない。周囲から『無理だ。上手くいくはずがない』と言われていたみたいなんです。しかし、祖父から『好きにやってみろ』と言われ、今ではスタンダードになった大規模な牧場スタイルをつくったんです。しかも、当時は今みたいに環境が整っていなかったし、農業や酪農などに関する補助金制度もほとんどなかったので、借金をしたり試行錯誤の連続で、本当に大変だったと思います」

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「前例がないことにチャレンジする」これがどれほど大変なことか、想像に難くありません。

お父様もまた、「経験が何よりの財産になる」ということを祖父や父から教えられ、背中を押してもらったからこそ、迷わず娘のみなみさんと愛美さんに「外の、広い世界を見てこい!」と言えたのでしょう。親子の絆は脈々と受け継がれていることを目の当たりにしました。

ターニングポイントは東日本大震災

2009年に横浜の大学を卒業し、東京で就職したみなみさんの暮らしぶりについて伺ってみました。

「とても大きな会社で、仕事では営業職でした。やっぱりノルマみたいなのはあり、とにかくものでもサービスでも、いろいろなものを売っていましたが、お客様が必要としていないものを勧める、売るということに疑問を抱きながら仕事に向かう日々が続いていました」

会社という組織に属し、理想と現実のギャップに徐々に悩み始めたと振り返ります。

「『会社員とはそういうもの。仕事だから仕方がない』と自分に言い聞かせていましたね。会社は利益を出さなければいけないし、自分もお給料を貰わないといけないので......」

そんな自問自答を繰り返し、悶々と過ごしていたある日、未曾有の大災害が起こりました。

2011年3月11日、東日本大震災。

「交通機関が麻痺してしまい、家に帰れない人たちがたくさん歩く姿と全く進まない車が窓から見えました。そして、コンビニから食料が消えていく......そこで思ったんです。私たちは自分の力ではどうにもならない、見えない力に支えられ、生かされている。人生何が起こるか分からない。明日死ぬかもしれない。今こそ自分のやりたいことやライフスタイルについて考えるべきなんじゃないかって」

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そして翌年の2012年、結婚を機に3年間勤めた会社を退職し、偶然なのか運命なのか、旦那さんの転勤で岩手県盛岡市、青森県青森市と、住む場所は少しずつ北海道へと近付きます。それと同時に、徐々に頭の中でその存在が大きく、はっきりする故郷。まるで霧が晴れるように、迷いが晴れていきます。

実家の牧場で、牛飼いをやる!

「夫婦の普段の会話の中で、冗談交じりに『なんかあったら北海道の実家で牛飼いやればいいじゃん!』という話は出ていたんですが、本格的に「よし!やるか!」となってきたら、さすがに長い時間をかけて話し合いました。2、3年はかかりましたね」

casochihito7.JPG旦那さんの扇直也さんとみなみさん。旦那さんのご出身は栃木県です。

でも、旦那さんは北海道移住、さらに牛飼いの経験がないのにいきなり牧場の仕事をしたら大変じゃないですか?

「お正月や連休で帰省した時、旦那さんに牧場の仕事を手伝ってもらって、少しずつ滝上町と牧場の生活に慣れてもらったんです。そしたら『あ、楽しい!いけるかもしれない!』って。(笑)」

旦那さんには少しずつ牧場の仕事に慣れてもらい、理解を深めてもらったそうです。準備と話し合いに長い時間をかけ、ついに2016年、実家である滝上町の井上牧場にUターンしました。旦那さんは牧場の仕事を、そしてみなみさんは妹の愛美さんと共に過疎地を元気にする「Casochi合同会社」を立ち上げます。

過疎地を『いいね、ステキだね』と思える場所へ

「2012年に札幌の大学を卒業してUターンしていた妹の愛美が、牧場を手伝いながら漠然と『地元のために何かしたい』と言っていたんです。そして私も滝上に戻ってきた。もちろん牧場での仕事をメインにしながら『地元のために』という想いは戻ってきたからこそより強まっていて。そこで『本格的になにかやってみない?』と誘いました」と話すみなみさん。

自分たちが今何ができるのかを考え、デザインの得意だった愛美さんを代表に、『できることをやる』というCasochi合同会社を立ち上げたのです。

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Casochi合同会社はロゴマーク、パンフレット、チラシ、名刺などのデザインや身近にある素材を活用したハンドメイド品の制作、販売、そしてウェブサイトの制作や管理運営などをしています。ブログやSNSなどを使い、滝上町やオホーツク近辺の魅力を発信しながら、今後はイベントの企画・運営やみんなが気軽に集まれるコミュニティづくりをしたいと考えています。

外の世界を見てきたからこそ、地元の魅力を再発見出来たお二人。特に東京での生活と大災害を経験し、自分のライフスタイルとやりたいことのバランスを見いだしたみなみさん。一歩一歩自分たちの出来ることをやりながら、ここ滝上町をステキなまちにしたいと考えています。

Casochi合同会社はまだまだ始まったばかり。たくさんの構想を実現させるために今は少しずつ広がりだしている人脈をつかって色々なイベントに行くことも多いのだとか。Casochi合同会社の今後に注目です。

「Casochi」という名前について、妹の愛美さんにもお聞きました。

「過疎地ってマイナスイメージがあるので、『K』を『C』にして、ちょっと丸いイメージにしました。そんなちょっと違う視点から良いところを見つけたいと思ったんです」

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過疎地、へき地、田舎......言葉がもつのはマイナスイメージ。ですが、そこから目は背けずに。

『地方創生』とか『地域活性』とか『町おこし』みたいな大げさなことではなく、自分たちの目線とやり方で過疎地(地元)を「ステキな場所」にしたい。確かに都会と比べたら過疎地は人も少ないし、遊ぶ場所もオシャレなカフェもない。自分たちも過疎地(地元)を好きになれない部分はある。でも、みんな気付いてないだけで、過疎地だって都会にないもの、楽しいことがたくさんある!まずは自分たちが好きなことや楽しいこと、そして好きな生き方をして、過疎地は楽しいって思いたい!

Casochiには、そんなお2人の情熱が込められている名前なのでした。

『みなみ』の由来はあだち充さんの漫画!?

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姉のみなみさん、妹の愛美さん。姉妹で力を合わせて合同会社を運営していますが、ちょっと気になったのは他の家族構成。みなみ?愛美?ここまできてピンときたするどい方もいるかも知れませんが、最後に気になる質問を投げかけた取材陣にニコっと笑いながらみなみさんが答えてくれました。

「もう一人姉がいて、結婚して別の場所に住んでいます。名前を『みゆき』と言います。実は父があだち充さんの漫画のファンで、みんなヒロインの名前なんですよ。でも、私が一番『当たり』ですよね。みなみちゃんだから(笑)。姉も私たちのことを気にかけて応援してくれていて、一時期Casochiのお仕事としてアクセサリーづくりなどを手伝ってくれていたんですよ」

なんとやはり某有名漫画のヒロイン名で取材陣は納得。名は体を表すと言いますが、ヒロイン株さながらの明るい笑顔と志です。姉妹の絆も強めるCasochiでのお仕事は、今後も広がりを見せていくことでしょう。

都会と田舎、両方の価値観が生み出したもの

地元から離れ、日本の中心地である東京で就職し、Uターンしたみなみさん。都会と田舎、どちらが良いか悪いかではなく、両方を見て、そして両方を経験した目線と価値観があるからこそ、Casochi合同会社が誕生したのかもしれません。

そこには、「しっかりと外の世界を見て来い!」と背中を押したお父様の存在が大きかったことでしょう。都会と田舎、両方の価値観が生み出したものが滝上町でさらに飛躍していくことを楽しみにしています。

「カソチってステキ!」

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Casochi合同会社 扇みなみさん
Casochi合同会社 扇みなみさん
住所

北海道紋別郡滝上町滝下51線

URL

http://www.casochi.jp

e-mail:wakuwaku@casochi.jp


カソチをステキな場所にするため、Uターンした女性。

この記事は2018年11月20日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。