北海道のほぼ中央に位置する深川市。高速道路を使えば札幌市までクルマで約1時間半、旭川市までは一般道でも約30分、さらに深川駅には特急列車も停まるため、都会への交通アクセスが抜群です。マチナカにはスーパーやコンビニ、ドラッグストアが一通りそろっていながら周囲には雄大な自然が広がり、全国屈指の良質なお米をはじめ、ソバやりんご、ねばり長いもなどのおいしい農産物にも恵まれています。そんな丁度良い「北海道」を感じられるからか、ここ最近は移住者も増加傾向といいます。
深川市役所職員として働く田中 優伍さんもそんな移住者の一人。20代の中盤〜30歳前半くらいに、仕事や未来、家族のこと、そしてどこで暮らし、どんな毎日をこれから積み重ねていくのかといった迷いや不安など、必ずターニングポイントがやってくるもの。このまちにたどり着くまでの田中さんの道のりや人生の選択を紐解きました。
田中さんと深川市とをつないだのが、リアルの「くらしごと」!?
田中さんが生まれたのは宮城県塩竈(しおがま)市。風光明媚な港町として知られる地元には、大学を卒業するまで暮らしていました。卒業後の就職先はオフィスコーディネートや設備の維持管理を手がける大手グループ企業です。
「前職では2〜3年に一度は転勤があり、東京で3年間働いた後に2年間だけ札幌に住んだことがあります。北海道の気候や空気が肌に合ったことはもちろん、人の波長が自分に馴染むといいますか、穏やかで大らかな雰囲気にひかれました。実は仕事で深川に来たこともあったんですが、正直なところその時はあまり印象に残らなかったです(笑)」。意外にも深川市との最初の出会いは、第一印象でピタっときた!というものではなかったようです。
田中さんは転勤で再び東京に戻ると、徐々に北海道暮らしを意識するようになりました。
「今後暮らしていくなら自分が好きな場所が良いと考えるようになりました。将来的に家族ができたら自然が多いところで子育てしたいとぼんやり思い描いてみたり。え? 地元の宮城に帰るという選択肢ですか? う〜ん...塩竈もとても好きなんですけど、人生のなかで、全てが良い思い出っていうのではなく、悲しいことや辛い経験もあったのでいろんな感情が渦巻きそうで。だったら、思い切って新しい自分の故郷とする気に入った土地に住みたかったんです」
田中さんは札幌で作業療法士として働いていた奥様と出会い、3年ほど前にご結婚。奥様は北海道士別市のご出身で、今は旭川市に実家があるそうです。
取材陣としては、奥様が北海道のご出身とうかがったので、「きっと奥様が地元に戻りたい!」というご希望があったのだろうなと、安易に想像してしまっていましたが、実はその逆だったそう。奥様は北海道から上京し、華やかな都会で働くことに魅力を感じていたとか。
そんな事情もあって、田中さんは2017年東京で開催された、北海道への移住を提案するイベント「本気の移住相談会」(NPO法人住んでみたい北海道主催)に、まずは一人で参加しました。「正直にいって、かなりふらーっと、立ち寄ったっていうのもあって、会場に来てみたのはいいんですけど、さて、どうしようかな?どの市町村の話を聞いたらいいのかなって思ってたんです。まごまごしてたら、超フレンドリーに話しかけてくれた人がいて、いろいろ話していくなかで、あれよあれよと、じゃあ、深川市さんのお話しを聞いてみますか!ってなったんですよね(笑)」。実はそのお声がけしたのが、北海道の移住イベントにも関わっている、当サイト「くらしごと」編集部のスタッフだったのでした。田中さんと深川市の出会いを少なからずお手伝いできたことに、何とも不思議なご縁を感じます。
本気の移住相談会、会場の雰囲気
「絶対に移住するゾ! と決めていたわけではなく、情報収集しようという気楽な気持ちで参加しました。でも、深川のブースでは移住定住サポートセンターの職員だけでなく、実際の移住者からもお話を聞けたので説得力が大きかったんです。とにかく親身に接してくれて、ウエルカムムードをひしひしと感じました。この人たちがいるなら移住後もきっと安心。そう感じて、直観的に深川で暮らしたいと心が動かされました」
実際の移住者が経験談を伝えることを重視!
では、深川市の移住定住サポートセンターは、移住相談にどのような対応をしているのでしょうか? ココで、移住コンシェルジュの仲西 康至さんと、佐藤 絵里子さんにプチインタビューを実施!
「深川市ではおよそ10年前に『ふかがわ元気会議』を立ち上げ、市民主導で移住促進や特産物のアピール、商店街の活性化に取り組む一方、行政がサポートに回るというスタイルが生まれました。当時から移住相談会には市の職員と移住者がペアになって出展し、実際の体験談を伝えるようにしているんです(仲西さん)」
仲西 康至さん
「現在、深川への移住をお考えの方に対応するため、『深川市移住定住サポートセンター』を深川市役所の地域振興課内に設置しまして、そこで私たち2人がワンストップで情報を提供することをモットーに、『住まい』『仕事』『子育て』などのご相談や情報のご提供を行っています(佐藤さん)」
「深川は日本屈指の米どころで、野菜やくだものもおいしいまち。自然もたっぷりで...という説明もしますが、どちらかというと不安や困っていることをヒアリングし、同行の移住者の経験を話すことに力を入れています。実は僕自身も移住組。例えば田中さんには、『深川にもたくさん仕事はありますが、それで希望するところがなければ、選択肢の多い旭川で働き、このマチで暮らすっていう考え方もアリだと思いますよ』ということをお話しました。もちろん、深川市でも求人情報を発信し、企業とのマッチングを図るウェブサービスを用意しています(仲西さん)」
深川市の移住パンフレット
「知らないマチでは人間関係をゼロからつくっていかなければなりませんよね。なので、私たちが最初の友人というスタンスで『深川に行ったら仲西や佐藤がいる』と心強く思ってもらえるように努めています(仲西さん)」
「その人間関係でいえば、深川には移住後のアフターフォローとして移住者のボランティア組織『移る夢(いるむ)深川』があり、定期的に交流会を開いているのも特徴です。バーベキューパーティやゲーム大会などに毎回30名くらいは集まります(仲西さん)」
「子育ての面でいえば妊婦さんの健診通院費を一部助成したり、保育料の軽減があったり、一通りのサポートは整っています。私も利用者として大変助けられているのは、『子育てサポート・ふかがわ』というファミリーサポートです。子育て家族と、市民の有償ボランティア家族とのマッチングをして、保育園のお迎えや仕事でどうしても遅くなる時にお子さんを預かってもらえる制度なんですが、移住者は深川に家族や親戚がいないケースが多いので、いざという時に頼れるのは安心だと思います(佐藤さん)」
佐藤 絵里子さん
「移住は即決できることではないと思うので、ピンポイントに深川に住みたいということではなくても相談してほしいですね。移住を希望する方が『本当はどうしたいのか』、それを『深川で実現できるか』、その見通しを立てるためのお手伝いをします(佐藤さん)」
今後、深川に若者が集える場を。
今度は田中さんにインタビューのマイクを戻します。「本気の移住相談会」に参加した後、移住には転職を伴うことから仕事の面について思いを巡らせるようになったそうです。
「自分には深川ですぐに生かせそうなスキルがなかったので、市職員として働けば移住が叶うと公務員試験の勉強に力を入れたんです。仲西さんや移住者に出会ったことで頼れる人がいると思え、試験に合格さえしたら後は大丈夫だろうと不安はありませんでした。強いて気になっていたことといえば、妻の説得くらいでしょうか(笑)。もうものすごく頼み込みました(笑)」
深川市職員の試験も、奥様の説得も無事に「突破」した田中さん。移住前には東京で行われた空知の移住セミナーに足を運び、移住定住サポートセンターの仲西さんにあいさつしたというから実に律儀です。「後に深川市職員になるからには、どんなPRをしているのか知っておくべきだとも思いました」とニッコリ。ますます好青年度合いがアップ!
「深川はある程度のマチですから住む場所を探すのにも苦労はしませんでした。今は、深川市のホームページの空き家バンクで見つけたマチナカの賃貸住宅に暮らしています。以前は通勤に50分もかかっていましたが、コッチでは自転車で10分。それだけでもずいぶんストレスがなくなりました」
田中さんは今年の4月に市民福祉部市民課医療年金係に配属されました。かつては営業職だったことから事務処理に苦戦することもありますが、国民健康保険や年金などの相談にのり、市民と直接コミュニケーションをとるのが楽しいと笑います。
年の近い同僚も多く、楽しく働ける雰囲気です。
「妻は移住してから作業療法士ではなく、大手ファッションサイトのコーディネートの仕事を自宅で始めました。まさにITは場所を選ばないということですね。移住者のイベントに一緒に顔を出したり、近隣のまちのお祭りを楽しんだり、できるだけ外出して暮らしを楽しむようにしています。何といっても妻の幸せが一番大切ですから(笑)」
下川町のイベントでスラックラインをしている田中さん。深川からさまざまなエリアに行っています。
とはいえ、深川のすべてに満足がいっているわけではありません。マチナカに遊びに出かけても若者の姿が少なく、年齢が近い人同士が集まれる場所が見つけられずにいるといいます。
「今後、深川に若者が集まれる場をつくりたいと考えています。実は、中学生や高校生も気軽に集まれるコミュニティスペースとコワーキングスペースを設けてはどうかという提案をしました。若者が深川の生活をもっと楽しめるようになり、マチに残り続けるきっかけになれるのではないかと思って。こうした提案やイベントの企画にもどんどんチャレンジしたいですね」
深川市では移住を支援するため、移住コンシェルジュが相談に応じているほか、日帰りツアーやお試し移住など各種移住体験メニューを用意されているそうで、気になる方はまずは深川にきてみる、お話しを聞いてみるというのを気軽にできるのはとてもいいポイントだと思います。もしくは年に何度かは東京などの移住イベントに出展されているので、それもチャンスのひとつです。そして、深川への移住を実現した先に、田中さんだけでなく、多くの移住者がいることや、仲西さんや佐藤さんといった「顔の見える相談者」がいるというのはとても安心できることじゃないでしょうか。
田中さんと奥様が更別村のイベントに参加した際のツーショット。飛び切りの笑顔から、北海道の暮らしを楽しんでいることが伝わってきます。
冒頭にもご説明した通り、20代中盤から30歳代の前半あたり、「このままでいいのか」「新しいチャンレンジをするのか」を考えるタイミングがきます。田中さんの場合は後者を選び、北海道を選びました。取材陣の突っ込んだ質問で、「お給料はかなり下がった」とお話ししてくれた田中さん。でもその後の言葉は、「それを埋めるだけの価値は充分にあった」と。そう語る田中さんの笑顔は清々しいものでした。転勤がなくなったこと、通勤時間が減ったことや、新しい土地で新しい人々と関われていること、いつでも美味しいものを食べられることなど、データや雇用条件には現れない要素がありました。
移住やUターン、あるいは転職は、簡単に決められることではないでしょう。でも、くらしごと編集部としては、「新しいチャレンジをしなかった後悔」のお話しや「もっと早く移住していれば良かった」と過去のことを聞くことも多々あります。それも人生の選択の結果であり、先人からのアドバイスともとれます。田中さんのように、新しいチャレンジに挑んでくれる方が増えてくれて、北海道で新しいステキな暮らしを送ってくれる方が増えてくれたら嬉しいなと願うばかりです。
- 深川市役所 田中 優伍さん・深川市移住定住サポートセンター
- 住所
北海道深川市2条17番17号
- 電話
0164-26-2627(移住定住サポートセンター)
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