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剣淵町

絵本のまちで人生というキャンバスに描く夢とは。20180730

この記事は2018年7月30日に公開した情報です。

絵本のまちで人生というキャンバスに描く夢とは。

北海道に「絵本」でまちづくりをしている市町村があるのをご存じでしょうか?今から30年前の昭和63年、このまちを訪れた版画家と児童図書編集長、そしてまちの商工会青年部との出逢いにより動き始めた「絵本のまち」という構想。まちの若者たちの想い、そして行政の協力もあり、今ではマスコミにも取り上げられる「絵本の里けんぶち」が生まれました。そう、北海道中央部にある剣淵町が今回の舞台です。
この絵本のまちに魅せられて、和歌山県から地域おこし協力隊として移住された佐々木里紗さん。元々、大阪でバリバリの営業をしていた佐々木さんですが、その移住の経緯や現在の活動についてお話を聞かせていただきました。

本当に必要なものを与える仕事がしたかった。

ご出身は和歌山県の佐々木さん。地元の高校を卒業、大阪の大学を卒業され、大阪にあるラッピング資材を販売する会社に営業職として就職したのが社会人のスタートでした。その後、同じく大阪で建築メーカーの営業職へと転職し、剣淵に来るまではずっと営業畑で過ごされてきました。

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「大学では経営学部で主にビジネスについて学んだこともあり、就職活動では営業職に絞って探していました。人と話をすることも好きでしたので、外に出ていろいろな方と話がしたいというのも営業を選んだ理由の一つでしたね」。

こうして商売の街とも言われる大阪で、営業を邁進する中、一つの葛藤が佐々木さんの中に生まれます。『お客様は本当に必要としているのだろうか?』。営業職を経験したことがある方は、もしかすると似たような感覚を覚えたことがあるかもしれません。佐々木さんはこうも続けます。

「お客様が本当にこの商品を求めているのかと疑問に思いつつも、会社の営業として売り込みをしなくてはいけないこともありました。そんな状況で葛藤をする中、会社の環境が悪いわけでは全くないんですが、虚しさを感じることも正直あったんですよね。なので、本当に人が求めているものを与える仕事、人の役に立つ仕事をしたいと思うようになっていったんです」。

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そんな想いから、1カ月間ほど老人福祉施設のボランティアに参加をしてみたりと、いろいろとこれからの自分を模索している時、ある夫婦が地方に移住して古民家カフェを運営し、まちおこしをしているというテレビをたまたま目にします。素敵だなと思って見ていると、その夫婦は『地域おこし協力隊』という働き方なんだと知りました。

「これだったら、そのまちのためにそれぞれの個性・能力を活かして幅広い仕事ができる。私がやりたかったのはまさにコレ!と感じました」。
ビビビときた佐々木さん。ここから剣淵の地域おこし協力隊への道が始まります。

剣淵町に辿り着いたのは、やはり絵本!?

佐々木さんが地域おこし協力隊として着任したのが平成28年。この年、地域おこし協力隊の受け入れを実施した自治体は886、このうち都道府県は12、市町村数でみると875にも上ります。数ある場所の中から剣淵を選んだのはなぜなのでしょうか?

kenbuchi04.JPG道の駅『絵本の里 けんぶち』

「はじめ、場所は日本中どこでもいいと思っていました。ただ、そうすると選択肢が多すぎて正直選びきれず・・・。旅行好きな知人や周りの友人などにも相談してみると、みんな行ってみた中で北海道が良かったっていうんです。たぶん本州の人は北海道好きな人が多いんですかね?私自身は北海道に来たことは一度もなかったのですが、なんとなく北海道を意識するようになりました」。

エリアが大分絞れてきた佐々木さん。ですが、北海道は思っているより広いんです。剣淵まではもう少し長い道。次はどのようにされたのでしょうか?

「実はたまたま、剣淵の『絵本の里』というフレーズを知っていたんです。あと、大阪に絵本を題材にしたメニューがあるカフェがあるんですが、『ぐりとぐら』という絵本に登場するパンケーキが食べられるとして大人気なんです。ここに学生時代に行ったことがあり、その時に店内の世界観や、かつて小さい時に見た絵本の思い出を味わえることに感動したことを思い出したんです」。

kenbuchi05.jpg絵本の里 剣淵のシンボルともいえる『絵本の館』。絵本をメインとして70,000冊以上の本が収蔵されています。

こうして今度は剣淵にビビビときた佐々木さん。ただ、一度も北海道へ来たことはないので、もちろん剣淵も。地域おこし協力隊へ応募する直前に一度まちの見学と初めての北海道旅行を兼ねて剣淵に訪れます。この時、季節は夏。最初のまちの印象は「想像以上に自然が溢れるまち」だったそうです。当時いらっしゃった地域おこし協力隊の方にも剣淵を案内してもらい、一面にひろがるきれいな畑、映画のロケ地としても使われた『眺望の丘』、こうした風景を目の当たりにして「本州とは畑や風景の美しさが本当に全然違う」と感じたといいます。この自然と絵本でのまちづくりにすっかりと魅了され、大阪に戻りすぐに応募書類を剣淵町宛てに送ります。

佐々木さんプレゼンツ!剣淵活性化企画。

kenbuchi06.jpg佐々木さん、これまで企画した内容を丁寧にまとめてきてくださいました!

こうして佐々木さんの剣淵での地域おこし協力隊の活動がスタートします。10月の秋に着任した佐々木さん、基本的に町からこれをやってくださいという決められた業務はありません。自分自身でまちのためになること、観光PRといったまちおこしを企画し、それを役場の担当者に提案します。そして、提案が通るとそれを実行に移すという、自由な活動ができる形式となっています。これまでに佐々木さんが企画したものをいくつかご紹介いただきました。

◆道の駅『絵本の里 けんぶち』売場のディスプレイ刷新

道の駅は剣淵の中で最も人の出入りが多いところ。かつて初めて剣淵に訪れた時に佐々木さんも立ち寄りましたが、たくさんある商品の中で、どの商品が剣淵の特産品なのか分からなかったといいます。その経験を踏まえ、初めて訪れた観光客の方々に、剣淵ならではのモノをもっと知ってもらえるようにと、手書きで商品説明のPOPを設置したり、『けんぶち絵本の里大賞』の受賞作品を展示するケースを設置したりとディスプレイに工夫を施しています。

◆新しいまちのグッズ マンホールコースター・缶バッチの制作

マンホールカード(※)いうものをご存じでしょうか?いま巷では密かに注目されています。このカードを集めることを目的にそのまちに訪れる方もいるといいます。この個性溢れるマンホールを通じたまちおこしは以前から行っていたのですが、このマンホールのデザインを活かして何かグッズを作れないかと企画した佐々木さん。今までまちのグッズはあまりなかったことから、コースターや缶バッチを制作しました。今後もキーホルダーやストラップも制作予定とのこと。

(※)GKP(下水道広報プラットホーム)が企画・監修するマンホール蓋のコレクションアイテムで、マンホール蓋を管理する都道府県や市町村とGKPが共同で作成したカード。

◆剣淵のお菓子を作りたい『絵本型のクッキー』を

絵本の里をアピールするための何かお土産を作れないかと考え、できたのがこの絵本型クッキー。とはいえ、当初お菓子作りは全然したことがなかった佐々木さん。一人では難しいとまちの人に協力を呼びかけます。すると主婦さんが集まってお菓子作りなどの活動している『トイ・トイ・トイ』というグループの代表さんがぜひ一緒にやろうと賛同してくださり、企画が実現しました。そして、構想から1年くらいかけて佐々木さんもお菓子作りを勉強し、今では道の駅で販売しています。

インスタ映えが溢れる北海道。

たくさんの企画を実行に移されている佐々木さん。仕事以外の休日の過ごし方や移住されてきてからの暮らしについても伺いました。

「最初、剣淵に来た時にも感じたように北海道はやっぱり景色が本当にすばらしいなと今でも思っています。なので、休みの日には車で出掛け、田植えの時期に田んぼの水に写る山や、長く続く平地に広がる夕焼けといった、いわゆるインスタ映えするような景色や自然を満喫しています。あと夏には上司から畑を借りて、野菜づくりを楽しんでます。特別な手入れなどしてないんですが、気候や土が良いのか、ものすごいたくさんできちゃうんですよね(笑)」。

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北海道へ移住を希望される方の中には農業をしたいという方もたくさんいらっしゃいますが、仕事としてではなく、こういった家庭菜園を楽しむのも一つの手かもしれませんね。あと佐々木さんはさすが剣淵の地域おこし協力隊。習い事で絵を勉強しているそうです。パステルや色鉛筆を使って描くそうですが、こういった習い事でも新しいコミュニティが生まれ、知り合いが増えることがとても楽しいとも仰います。

kenbuchi14.jpg『けんぶち絵本の里大賞』は、毎年夏に絵本の館で開催される、来館者から一番選ばれた絵本に贈られる賞です。

「そうそう、暮らしでいうと私は町が手配してくれた公営住宅に住んでいて、築25年なんですがまだまだすごいきれいなんです。何なんでしょう?湿度とかなんでしょうか、本州だと築25年は結構古くさくなっちゃうんですけどね・・・。あと、北海道を語る上で欠かせないのが冬ですよね。私は10月に着任したのですぐに初めて北海道の冬を経験しました。一言でいうと『いろいろビックリ』です(笑)。空気はやっぱり違うし、『しばれる』とはこのことか!と思いましたね。雪も多いんですが、雪かきはしてみると思ってたよりも全然軽くてそこは大丈夫でした。でも車の運転は今でも細心の注意を払っています」。

これからの道。変わらぬ想い。

もうすぐ剣淵の地域おこし協力隊として活動されて約2年が経過する佐々木さん、任期はあと1年。最後に今後の目標について伺いました。

「最初に剣淵に地域おこし協力隊として来ると決めた時から変わらないんですが、人のために、人の役に立つことを、これからも仕事としてできたらと思っています。社会の問題を解決すること、というと少し抽象的なんですが『こども食堂』のようなソーシャルビジネスにも興味がありますね。あと、実は剣淵は絵本のまちですが、剣淵を題材にした絵本はまだないんです。まちを紹介するような絵本が作れたらいいなとも思っています!」。

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剣淵町役場
住所

北海道上川郡剣淵町仲町37-1

電話

0165-34-2121

URL

https://www.town.kembuchi.hokkaido.jp


絵本のまちで人生というキャンバスに描く夢とは。

この記事は2018年5月29日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。