十勝産ハーブ農園、いろどりファーム
毎朝のコーヒーは欠かせないとか、焼き菓子のお供には紅茶と決めている、なんて方もいらっしゃることでしょう。日本にはコーヒーや紅茶の浸透は深くまで根付いていますが、未だハーブティーの普及はそれには及びません。ましてや国産のハーブなんてもっと珍しい現状。
ここ北海道十勝エリアに位置する芽室町の中心部から車で20分程走らせたところにある上美生(かみびせい)という土地。高くそびえる日高山脈の麓、「いろどりファーム」という農園に、農薬・化学肥料ゼロで育てたオーガニックハーブティーを生産しているご夫婦がいます。飛田暁(とびた あきら)さんと彩夏(あやか)さんです。
こちらが飛田さんご夫婦が営むいろどりファームでつくられているハーブティー。
お二人は帯広市内の高校の同級生。互いを認識したのは、高校1年の時、書道の時間でした。同じクラスではなかったお二人ですが、たまたま他クラス合同のその授業で、偶然暁さんの隣の席に座っていた彩夏さん。筆を忘れたと言う暁さんに貸してあげたのが初めての出会いという、まるでここからドラマが始まるかのような出会いでしたが、その日から高校卒業以降も二人は会話を交わすことはなかったのでした。
その後、30才の節目の時に行われた同窓会で再会、そして結婚。やっぱり、ドラマティックな結末が待っていたようです。こうして二人はここ芽室町に身を置き、ハーブ農園を営むこととなったのですが、その軌跡を少し辿ってみましょう。
お二人が包む空気感はとても柔らかく、そして温かいものでした。彩夏さんは現在妊娠中。夏頃には新しい家族が増える予定です。
東日本大震災をきっかけにUターン
高校まで帯広で過ごした暁さんは、その後大学進学と同時に上京。就職もそのまま東京でした。そんなある日起きた東日本大震災。暁さん自身もこの日帰宅難民となり、ホテルのロビーで一夜を明かすことに。
「ちょうどそのタイミングで母方の祖父が亡くなり、母が倒れ...色んなことが重なって帯広へ戻ろうと決意しました」。
帯広に戻ってきてからは、農業関連のお仕事をしていたお父様の仕事のお手伝い。農家さんのもとへまわる日々の中、暁さんの目に飛び込んできたのは日高山脈の美しい景色でした。「もともと高校まで帯広に住んではいたけれど、そこまで深く地元のことを知らなかった」。ここ、十勝にはこんなにも素敵な景色があるのだと、この時がっつりと心を掴まれたと言います。
その後彩夏さんとご結婚し、もともと田舎暮らしへの憧れを持っていたこともあって、街中ではなくもっと郊外に住んでみたいと家探しをスタートさせました。「家を探しているって色んな人に言うもんですね。運良く、空き家が出来るよっていう話が舞い込んできたんです」。
それが今住んでいるこの、赤いサイロがある大きなおうち。
それに付随して、売主は3ヘクタールの農地と同時譲渡を希望していました。
2017年のゴールデンウィークに初めてその家に訪れた際「この家を逃したら、もうこんな最高の機会はないかもしれない!」そう想った2人は即決でした。
引き継いだ家、そして探し求めていた農園を手に入れる
このお家、前のオーナーの方が化学物質アレルギーの娘さんのためにと家の素材も農園も完全オーガニックにこだわってつくりあげられています。「健康オタク」と自負する暁さんは、日本の全農地面積の約0.4%ともいわれるそのオーガニックの農園に心奪われ、自分が求めていたものがここにあると感激したのです。さらに健康オタクの暁さんは、いち早く以前からハーブティーに目をつけ自身が飲んでいたということも心が動かされた要因の1つだったのかもしれません。
この農園には、ハーブの他、ブルーベリー、ハスカップ、カシス、ラズベリーなどの果樹も植樹されていました。いざこれらを最初から育てるとなると、とても時間のかかる大変な事。しかし、これらをゼロから育てるのではなく、すでに完成されたものを全て引き継げるのは二度と無いチャンスです。
「特に、国産のハーブティーって本当になかなか手に入らなく、ニッチなところだなと思って」。そこに目を付けた暁さんでした。
全くの未経験から始めた農業。学ぶソースはいくらでもある。
農園も丸ごと引き継いだ暁さん。「最初はもちろん農業経験ゼロでやっていけるか大丈夫かなとも思いました。でも、今は分からないことは検索すれば情報は得られるし、youtubeなんかでは映像を見ながら学べる。オープンソースな世の中、不安はないだろうと思っていましたね」。
暁さん自身はとても前向き。しかし、反対の声もあったのは事実。「正直、3ヘクタールもあるので自分1人では結構厳しい広さです。反対意見もあったけど、それを見返してやりたいという思いが強くて」と力強く真っ直ぐな瞳で語ります。早速昨年は前オーナーさんと共に教えてもらいながらハーブの収穫を行いました。今年から専業としては1人で、お手伝いさんたちの力を借りながら収穫を行っていく予定です。
「ハーブはどう乾燥させるかで味が決まるんです。年中通して、収穫したものをどう管理するか。寒さに弱いハーブを生き延びさせることが肝心です」と、ハーブについて私たちに教えてくれた姿はもはやベテランの風格です。
「うちの農園は『他と競争しない』がテーマ。北海道でも小さい農場はある。小さくてもやれるということを証明したい」。
そう自信を持って思えるのも、インターネットの登場が大きいと暁さんは話します。
「自ら発信することって本当に大事だな〜って思います。ネットがあれば、全国からファンを探すことが出来るんですよ。今までは地元にしかアプローチできなかったけど、ようやく皆がスマホを持って、気軽にいつでもどこでも情報を見れるようになった。お客さんの分母がスマホによって増えたんです」。
暁さんはその発信の一つとして、ブログを始めました。嬉しいコメントも届いているようで...「帯広の慶愛病院の入院患者さん向けにハーブティーを卸しています。お産を終えたある女性がうちのハーブティーをすごく気に入ってくれてブログにコメントをいただきました。直接こうして気に入ってくれた人が調べて、ブログを見つけ出してメッセージをくれるってとても嬉しいですね」。
今は毎日ブログを更新することを意識しているそう。書くネタをつくるため、行動的になったと自身の行動を振り返って笑います。
自然がそのまま活かされた美しいエリア
いろどりファームが位置する「上美生」という場所は、そのままの自然が活かされてる気持ちの良い場所です。
自然が多いとなると、やはり虫も多い。虫が大の苦手の彩夏さんでしたが、人は強いもので最近では少しずつ慣れてきたという。愛犬バニラちゃんと広大なお庭で楽しくお散歩中です。
2017年、このエリア唯一のAコープというスーパーが閉鎖してしまうという事件がありました。その際、地域住民が「ここに店を残したい」とNPO法人を立ち上げ、「みんなのお店KAMIBI」と名前を改めてスーパーを再稼働させたのです。店頭にはそのNPO法人に所属する町民が交代制で立っています。
また、戸数は少ないけれど実は子どもも多いエリア。だからきっと、彩夏さんのお腹にいる子もたくさんの友達が出来ることでしょう。その点に関して不安はないとお二人は話します。
暁さんはこのまちの魅力についてこう話します。
「あまり田舎って感じはしないですね。過ごしやすい。外で焼肉して楽しんだり、あと、たまらないのは朝焼けを見ながらコーヒーを飲むひととき」。
あれは本当に最高なんだ〜と幸せを噛みしめている暁さんでした。
これから目指すべきところ
コーヒーが好き、紅茶が好きという人は多いけれど、ハーブティーが好きという人はまだあまりいない現状に関して暁さんは「その分伸びしろはあると思っている」と話します。
「成熟した市場がまだないからこそ、やりがいに繋がっている」。
だからこそ、今後はもっとイベントなどにも出展し「リアル」の場に出ていきたいとその目標を話します。
「今もネットで販売などもしていますが、買ってくれるのは過去にうちのハーブティーを飲んだことのある人ばかり。もっとそういう場に出て、新たなユーザーに出会いたい」。
また、いろどりファーム自体も「観光農園」にしたいとその想いを語ってくださいました。
「観光農園にすることによって、リアルな関わり合いも出来るし、何よりここから見渡す景色がすごく綺麗。この景色はきっと他には真似できない。ここに来てもらって、遊んでほしいな。日高山脈を見ながら果樹を摘んでもらったり」。
暁さんの真っ直ぐで純粋で、キラキラしたそのキレイな瞳から、今後の目標への楽しみが伝わってきました。
まだ始まったばかりだからこそ、様々なことに挑戦しながら模索中。これからもっともっと自分たちの「色」を見つけていき、きっとその色が集まって、綺麗な「彩り」溢れる農園としてまた進化していくことでしょう。
「いろどりファーム」、その名前に込められた「彩り」は、彩夏さんの名前の中にも入っています。「偶然だけどね」なんて笑う彩夏さんでした。
- いろどりファーム
- 住所
北海道河西郡芽室町上美生8線55番地23
- URL