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室蘭市

地元の海で小さな頃からの夢を叶えた女性船長。20180416

地元の海で小さな頃からの夢を叶えた女性船長。

最近、NHKのドキュメンタリー番組「ブラタモリ」でも紹介され、いま注目が集まる海のまち室蘭市。むろらん夜景・白鳥大橋・地球岬とさまざな観光名所を目的に、近年では観光客数も増加の一途を辿っているといいます。なかでも工場夜景は日本六大工場夜景の一つでもあり、室蘭を代表するスポット。この工場から放たれるおびただしい数の幻想的な光と室蘭の夜景を海上から楽しむことができるナイトクルージングは誰もが心を奪われる人気の観光です。このナイトクルージングやイルカクジラウォッチングなどを運営しているスターマリン株式会社の常務取締役兼船長である山田京香さん。会社の経営、クルージングの船長、そして時には造船までも手掛ける女性のお話です。

starmarine25.jpg船の上から見る、室蘭の幻想的な工場夜景

お父さまが創業したスターマリン株式会社

山田さんが常務取締役兼船長を勤めるスターマリン株式会社は、現会長である山田さんのお父さまが創られた会社です。近年、室蘭市が工場夜景観光に力を入れ始めたことをきっかけに、ナイトクルージングの運営依頼を室蘭市より受け、今では室蘭の代名詞にもなりつつある工場夜景の観光を担うのが、このスターマリン株式会社です。また、登別市に船舶造修業を営む有限会社いぶり造船という関連会社を創られたのもお父さまで、実はあの北海道を代表する湖の一つ、洞爺湖の遊覧船「エスポアール」の造船を手掛けたのがこちらの会社です。

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幼少期から「海の仕事」を夢見て

生まれも育ちも室蘭市の山田さんは、生まれた時から、お父さまの背中を見続けて育ちました。4兄姉の末っ子で、ご両親はなんでも自分で決断をさせるように育ててくれたといいます。一番初めに決めさせてくれたことは、なんと「幼稚園の選択」でした。船長は決断力が欠かせないその船の最高責任者。もしかするとかなり早い段階から船長になるための英才教育を自然と受けていたのかもしれません。そんな山田さん、船長になろうと思ったのはいつ頃からなのでしょうか?

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「2、3才の時にはすでに『私、大きくなったらパパみたいな船長になる』と言っていたみたいですが、実際に生業として意識をしたのは、高校進学の時だったと思います」と振り返る山田さん。将来は大型船の船長を目指したいと、小樽市にある国立小樽海上技術学校への進学を希望していました。ですが、女子寮がなく、通学するにも近隣へと親との引っ越しが必要という壁に当たり、国立小樽海上技術学校への進学は諦め、地元の高校への進学を決意します。

starmarine18.jpg左から山田さん、お兄さま、お父さま。最近お父さまはいろいろな方に「次期社長」と山田さんを紹介しているんだとか。

幼少期からピアノや合唱、高校に入学してからは声楽と小さな頃から音楽を続けていた山田さん。それもあってか高校在学中には周りから音大への進学も勧められたといいますが、高校での月日が経つにつれ、やはり家業である造船や船に乗ること、つまりは「海の仕事」への興味が日に日に増していきました。

「正直、学校や音楽より、船に乗っている時が本当に楽しくてしょうがなかったです。造船の仕事も手伝ったりしていました。洞爺湖の花火船を造る機会があり、その時にも父にくっついて、はじめて原図の仕事を手伝わせてもらいました」。

starmarine15.jpg造船に関する技術や資格取得は入社してから学んだそうです。

心の奥にあった「海」への想いが大きく動きだします。高校在学中の16才で2級小型船舶操縦士、そして18才で1級小型船舶操縦士を取得します。あの幼少期から描いた「船長」いう夢への船出です。

月日は流れ、高校の卒業式の日。一般的には青春時代を過ごした、なんとも名残惜しい日だと思うのですが、卒業式からすぐに帰宅し、なんとそのままスターマリン株式会社へ入社するという、これも山田さんの海への想いが感じられるエピソードです。

森町と室蘭市を結ぶ新たなプロジェクト

かくして、船長として室蘭の観光を担うお仕事、そして常務取締役として会社の経営がスタートしました。そんな中、ある日お父さまからこんな相談を受けます。「『森蘭航路』を復活させるという話があるけど、おまえどうしたい?」

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少し説明をすると「森蘭航路」とはかつて明治の北海道開拓時代に誕生した、函館エリアの渡島に位置する森町と室蘭市を結ぶ航路です。開拓時代を支えた航路ではありましたが、函館市と小樽市を結ぶ新たな航路の誕生や、鉄道の開通といった新たな交通網に押されるように、昭和3年「森蘭航路」は廃止されました。ですが、噴火湾の豊かな自然の魅了と北海道開拓の歴史を体感することができるこの「森蘭航路」を復活させたいと日胆地域の有志が集います。このことから、先にありました山田さんへの相談へと話は繋がっていくのですが、この航路は海流や波の状態、安全面などからも難しい航路といいます。ですが、山田さんは有志の方々の熱意を感じたこと、そして「『森蘭』、森と私たち室蘭じゃなければこう呼べない。やるしかない」と自身もこの航路復活への強い想いを持って決断します。

starmarine8.jpg森蘭航路の船である「ライジング・ドラゴン号」。就航にあたっては長崎県から船を運んできたそうです。

そうして、平成27年には、道南と日胆地域を結ぶ新たなプロジェクト「北海道新幹線 x nittan地域戦略会議(※)」の一員として、そしてこの航路を渡る船「ライジング・ドラゴン号」の船長として、山田さんは航路の復活を果たすことになります。
「この航路ではなんといっても海から見える室蘭八景や駒ヶ岳などの絶景を楽しめますし、時期によってはイルカも見ることができます。この航路がきっかけになり、日胆地区に観光客の方などたくさんの方が来てくださることが、これからの大きな目標です」と強いまなざしで山田さんはおっしゃいます。

(※)胆振・日高18自治体の官民で構成・活動する広域連携組織

starmarine10.jpg「森蘭航路」を新たな観光として北海道外の方にも伝えるべく、東京などに営業に出掛けることもあるとのこと。

海外の旅行者にも届けたい景色がある

近年増加する室蘭市への観光客。そうした中で北海道全体でも非常に増えているインバウンド、もちろん室蘭市へも高水準で推移しています。ただ、山田さんが運営するクルージングにおいては、海上で言語が通じないことは非常に危険に繋がるという理由から、なかなかサービスを提供できないのが現状だといいます。

「この室蘭の風景は素晴らしく、私自身も大好きです。本当はこの風景を船の上からインバウンドの方にも楽しんでいただきたいんです」。

starmarine4.jpg「自分の言葉でも伝えることができたら嬉しいですね」と山田さん。

山田さんは英語や中国語ができるガイドの配置や船上にある注意事項が書かれた看板の多言語化などを今後考えられています。インバウンドへの対応を勉強する研修などにも積極的に参加されており、これからは安全面をしっかりと確保できるようにし、この室蘭で印象に残る体験をたくさんの方々にしていただきたいといいます。

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船長、経営、そして母

山田さんにはもう一つ母という顔があります。19才の時に女の子を出産されました。ご家庭の事情で現在はお一人でお子さんを育てていらっしゃいますが、お仕事との両立は大変ではないのでしょうか?

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「仕事との両立はやはり大変なことが多いですが、室蘭市内には10カ所の保育園があり、無事に入園もできました。そして、幸いなことに実家の家業が仕事ですので、母の支えもあり、家族みんなで楽しく過ごしています。また、船長という海に出る仕事ではありますが、私の場合は観光船なので、普通の船乗りとは違い、1日の中で必ず室蘭に帰ってくるんですね。なので、毎日子どもと過ごせるのは安心です」。

starmarine6.jpg高校進学で希望校を諦めるしかなかったこともあり、「子どもにはやりたいことを精一杯やらせてあげたい」とおっしゃいます。

山田さんご自身も幼少期から音楽に触れる生活が長かったので、お子さんにも音楽をさせてあげたいとのことですが、お子さんはこんなことを言っているみたいです。「私は大きくなったら『船長』に変身するの!(仕事をすることを変身することと思っているようです(笑))」。ご自身の幼少期と同じことを言っているお子さんのことを微笑みながらお話してくださいました。

大好きな「海」と「室蘭」

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最後に山田さんがこれまでずっと過ごしてきた室蘭の好きなところを聞いてみました。

「室蘭は昔から『鉄のまち』として発展をしてきたこともあり、よく赤やグレーといった色をイメージされることが多かったのですが、私はそうは思いません。『海』や『空』といった青をイメージします。私は落ち込んだ時なんかは海を見にいくんです。ほんと海が大好きすぎますね(笑)。あと、冬には雪も少ない土地ですし、あまりガヤガヤしていなくて落ち着いた感じの町なのも好きかな。私と同じ若い世代で町を出て行ってしまった人もいますが、この室蘭にいつか戻ってきて欲しいなあ」。

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春になり今年も4月から室蘭の夜景を楽しめるナイトクルージングが始まりました。普段の生活の中ではなかなか見られない光り輝く室蘭の夜景。もしこの夜景を船上から見られる際には、その操縦席にも目を向けてみてください。舵を握っている方が女性でしたら、それは山田船長です。

スターマリン株式会社
スターマリン株式会社
住所

北海道室蘭市祝津町1丁目127番地12

電話

0143-27-2870

URL

http://www.muro-nc.com

<関連会社>
有限会社いぶり造船(北海道登別市登別港町1-21-6)
http://www.iburizousen.com

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地元の海で小さな頃からの夢を叶えた女性船長。

この記事は2018年3月6日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。