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喜茂別町

羊蹄山麓で描く「田舎の働き方」20180402

この記事は2018年4月2日に公開した情報です。

羊蹄山麓で描く「田舎の働き方」

北海道を代表する名山として、蝦夷富士とも称される羊蹄山。高山植物が豊富で日本百名山のひとつにも数えられており、毎年登山やトレッキングへと多くの人が訪れる山です。後志地方南部に位置し、山頂は倶知安町・喜茂別町・京極町・真狩村・ニセコ町の境をなしています。この5つの町村の中の一つ、喜茂別町へ「羊蹄山麓で羊蹄山を毎日眺めながら暮らしたい」という想いから移住されたご家族がいらっしゃいます。そのご家族のご主人、そして喜茂別町の地域おこし協力隊でもある加藤朝彦さんにお話をうかがいました。

羊蹄山麓に魅せられて

平成29年8月、加藤さんは地域おこし協力隊として、東京から喜茂別町へと移住されました。元々ご出身は札幌市ですが、大学進学をきっかけに上京。その後もそのまま東京で就職し、生活をされていました。東京にいたころに奥さまである聡子さんと出会い、その後ご結婚、そしてお子さんも誕生します。このお子さんの誕生をきっかけに北海道への移住「羊蹄山麓にある喜茂別町」で暮らすというビジョンが大きく動き出します。

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「実はいつかは北海道に戻り、北海道を盛り上げたいとずっと思っていました。あと、子どもが産まれ、家族との時間をつくりたかったのも非常に大きかったですね」と、移住の理由を加藤さんは話します。

大学卒業後、加藤さんはデザイン事務所に就職。3年間勤務したころ、友人の誘いでITのスタートアップ企業へと転職します。入社した時の社員数は5名のベンチャー企業ということもあり、社員の方々はみな「専門家がいない業務は全員で解決する」という環境で、加藤さんは専門でやっていたグラフィックデザインだけではなくWebサイトの制作や、広報マーケティングなど、ノウハウがない業務も含めてさまざまな業務にチャレンジします。「この会社での経験が今の自分のベース。挫折もたくさん経験しましたけど、みんなで助け合い楽しく仕事ができました」といいます。

ですが、そんな忙しい毎日を過ごしているとどうしても減ってしまう家族との時間。家族との時間をつくるため夜は仕事を持ち帰り、子どもを寝かしつけてからそのままご自宅で仕事をするといったこともされていたそうです。そうして、会社もどんどん大きくなり、5年が過ぎたころ、「北海道に戻ろう。選ぶなら子どもを自然の中でのびのび育てられるところにしよう」と、過去に奥さまと旅行で来たことのある喜茂別町を選択します。

katou18.jpg取材日はあいにく雪模様だったのですが、晴れているとこんなに綺麗な羊蹄山

「旅行した時に見た羊蹄山。羊蹄山麓で毎日あの山を見ながら暮らせる土地、そしてこれからの可能性を感じました」と喜茂別町を選んだ想いを話してくださいました。いざ喜茂別町への移住を決断した時、以前の仕事などでも時折耳にしたことのあった「地域おこし協力隊」が自然に頭に浮かんできたといいます。幸い喜茂別町でちょうど地域おこし協力隊の募集を行っており、まるで運命のように喜茂別町へ移住することになります。

喜茂別町での地域おこし協力隊

地域おこし協力隊としての採用も無事に決まった後、住まいも喜茂別町役場で町営住宅を用意してくれました。地域おこし協力隊としての主な活動内容は「町のPRと商業活性化」。豊かな自然や特産品をアピールし、まちに訪れる方を増やしていくことが主なミッションです。

katou12.jpg喜茂別町のおすすめスポットや特産品、お土産を紹介するパンフレット

着任初日のことを思い出しながら、こう話してくれました。「喜茂別町は過去にも地域おこし協力隊の方が何人もおり、OBの方々が今でもここに定住していらっしゃいます。着任日がちょうど町のお祭りの日で、私も少し緊張しながらお手伝いに行ったのですが、OBの方、役場の方、町民の方などいろいろな方に声をかけてもらって、本当に親切なまちだなと思ったことを覚えています」。

地域おこし協力隊が制度化されたのが平成21年。喜茂別町はその翌年平成22年からこの制度を活用し、たくさんの方が地域おこし協力隊として活躍されてきました。そして任期を終えた方の定住率はなんと約80%にのぼるといいます。きっとこの時もまち全体で加藤さんご家族を歓迎してくれたように感じます。

katou15.jpg第1期の地域おこし協力隊の方が作成した手作りの地図

その後も、イベントの運営やPRポスターの制作も行ったりと東京での経験を活かした活動をしながら、地域を盛り上げるためのプロジェクトの準備もスタートしています。「羊蹄山麓の魅力、おもしろさを伝えたい」この想いを胸に、まずはWebメディアの立ち上げを構想しています。

「一番大事なことは人。ここに住む人の生き方をメインに伝え、喜茂別町というまちを知って欲しいと思っています」と加藤さん。このWebメディア立ち上げのため、これまで何人かの町民の方にお話を聞いたといいますが、お話を聞く中でも新たな構想が広がっていっているといいます。例えば、農家の方が生産に集中できるような販売手法や環境の構築、住宅の空き屋情報がないため情報発信の方法を考えたりなど。また「誰でも気軽に集まれるコミュニティを作りたい。おもしろいことを考えている人がもっと気軽に喜茂別町に集まって欲しい」という想いから宿泊機能も兼ねたシェアオフィスの構築も検討されています。

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新しい「田舎の働き方」

このシェアオフィス、これから移住される方の「田舎の働き方」を大きく変えたいという想いも詰まっています。それは加藤さんが感じたこんなことからです。

「田舎=仕事がないって思われがちですが、そんなことないんです。人材を必要としている企業がたくさんあります。ただ、一人の人を正社員としては雇えないケースが多くあるのも事実です。そんな時、複数の企業が人材をシェアするような仕組みがあり、働く人も拠点にできるような場所があればいいなと思ったんです。この喜茂別町にも季節によって働き方を変えたり、Wワークをしている方などがいらっしゃいます。こういった多様な働き方など、雇用主と働き手の双方にメリットのある仕組み作りが必要なんじゃないかと感じました」。

収入は移住する人にとってもちろん重要なこと。こういった仕組みはこれからの田舎暮らしを大きく変える日がくるかもしれません。

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また、「中山峠森の美術館」が平成29年11月で閉館となり、町民が美術やアートに触れる機会が減ってしまったことを受け、ギャラリーも併設し、町民の方が気軽に芸術に触れられる場にもしたいといいます。そして、その町民の方が集まる場でワークショップを行ったりすることも考えていらっしゃいます。

お子さん、そして家族との時間

奥さまである聡子さん、ご出身は鳥取県です。そこで、北海道への移住について聞いてみました。「移住してきて思ったことは、やっぱり冬は寒い!そして雪の多さにはビックリしました!でも、今はもう慣れてしまって大丈夫です。買い物もほとんどの物は喜茂別町や近隣の町で揃いますし、1時間ちょっとで札幌までも行けるので、なんの心配もいらないですね」と力強くお話されていました。フリーでライターをしている聡子さん、東京に住んでいた時の繋がりで、今は3カ月に1度くらいのペースで東京出張も行くことがあるそうですが、これからは北海道での仕事を増やし、徐々にシフトしていきたいとのことです。

katou7.jpg移住について笑顔で話をしてくださる奥さまの聡子さん

北海道への移住の目的の一つでもあった「子どもとの時間」についても加藤さんはこういいます。
「子どもとの時間、家族との時間はとても増えましたね。休みの日には車で買い物に出掛けたり、ご飯を一緒に食べたりしています」。またこうもおっしゃいます、「まちには保育所が一つあるのですが、東京では当たり前だった待機児童の問題もないので、共働きもできる点は安心でした。やっぱり東京にはない環境がありますね。子どもにはこの自然の中で自分の想いに正直に育って欲しいです」。
お子さんはまだ小さいので、雪の中を走り回ったりなどはできないようですが、ゆっくりと時間が流れる雄大な自然の中での子育てはやはり東京とは違うものがあるようです。

これからの歩みについて

最後にこれからについて加藤さんに聞いてみました。

「私の人生では東京のベンチャー企業での経験がとても大きく、今の生き方のベースになっていて、『やりたい!』『困ってます!』っていうのを口に出すようにしているんです。何かというと、なんでもチャレンジすることの大切さと、一人じゃどうしようもないことも助けてもらうことで何とかなるってことなんですよね。これからもこの場所でいろんなことにチャレンジしたいと思っていますが、決して新しいものをただ入れたりすることではなく、喜茂別町と一緒に伴走していきたいと思っています」。

katou8.jpg「これ私が作ったポスターです」と加藤さん

続けて、これから地域おこし協力隊としての活動を考えられている方へのアドバイスもくださいました。

「やってみたいと思ったらぜひチャレンジしてみたら良いと思います。ただ、私自身着任前に思ったのは、おおむね3年間迄という限られた任期の中で、その後の『道』を見つけて定住するぞ、というモチベーションを保つのは結構難しいのではないのか?ということ。私は『北海道を盛り上げたい』というビジョンのもと移住しましたが、みなさんも何か大きな軸となるプランを立てて挑戦するときっと良いと思います。その想いに共感してくれる方との出会いがいろいろな市町村にもあると思いますよ!」と笑顔でいいます。

〜この取材から約1年後の2019年5月現在、加藤さんは地域おこし協力隊を卒業され喜茂別町でカフェ&シェアスペースの「tigris」をオープンさせました!〜
こちらに店舗情報がございますので、ぜひご覧ください!

喜茂別町地域おこし協力隊 加藤朝彦さん
住所

北海道虻田郡喜茂別町字喜茂別293番地1(喜茂別町商工会)

<Facebook/喜茂別町地域おこし協力隊>

https://www.facebook.com/kimobetsu.chiikiokoshi/


羊蹄山麓で描く「田舎の働き方」

この記事は2018年2月13日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。