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「会社員」として海に出る、寿都町の2人の漁師。20180308

この記事は2018年3月8日に公開した情報です。

「会社員」として海に出る、寿都町の2人の漁師。

ホッケやカキが特産の寿都で漁師として活躍。

雲一つない冬晴れの寿都港に浮かぶ、第十一勇宝丸。その船上で爽やかな笑顔を見せてくれたのは漁師の仙石剛士さん(写真左)と徳田祐介さん(同右)。2人は共に漁業法人カネサ漁業の従業員。仙石さんは37歳、漁師歴18年。徳田さんは27歳、漁師歴10年。見た目は若々しい2人ですが、漁師としては既にベテランの域。早朝の漁港で颯爽と働く姿からは「海に生きる男」という雰囲気も漂ってきます。
寿都町の近海で獲れるのはサケやサクラマス、ホッケ、カレイ、ホタテ、ウニ、アワビなど。道内日本海では数少ないカキの生産地としても知られており、「寿がき」は、生ガキが手に入りにくい4~6月に旬を迎える特産品となっています。

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漁師になったきっかけは「たまたま」。

港での仕事が一段落したところで話を聞くと、2人とも初めから漁師を目指していたわけではないのだそう。徳田さんの祖父はウニ漁をする漁師でしたが、父親は土木関係。仙石さんの家業も漁業ではありません。
「自分が今の仕事をするようになったのは、本当にたまたま(笑)。当時、ここで働いていた漁師さんが腰を痛めて船に乗れなくなり、代わりに乗らないかと声を掛けてもらったんです(仙石さん)」
「爺ちゃんがここの社長と知り合いだったので、手伝ってみないかと誘われたのがきっかけ。最初はアルバイトでした(徳田さん)」
ちなみに仙石さんは、この界隈で、従業員として働く漁師の第一号。カネサ漁業は仙石さんを採用したことで、家族経営から法人組織に変わりました。

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法人の従業員にも与えられる漁業権。独立も可能。

偶然の縁が重なり漁師の道を歩むことになった2人ですが、時には命の危険もある仕事。これまで続けてこられた理由は何だったのでしょう?
「なにかを『獲る』っていうのが楽しいからじゃないかな。例えば海水浴に行って、ただ泳ぐより、生き物を探してるほうが面白かったりするでしょ?それと同じ感覚。たくさん獲れたり、大きな魚が獲れた時にはうれしいし、達成感があります。 ここは季節によって獲れる魚も違うし、カキやホタテの養殖もある。飽きずに働けるのも魅力かな(仙石さん)」
「親方が若手に目をかけてくれるのも長く続いている理由。寿都では条件を満たせば従業員にも組合員の資格がもらえて、一人でも漁ができるんです。獲った分は給料とは別に自分の収入になる。親方もそれを応援してくれるので、稼ごうと思えばどんどん稼げます(徳田さん)」

kaishain_ryoshi_4.jpg2児のパパでもある徳田さん。住まいは町営の漁師専用住宅。

漁業を営むための権利を「漁業権」といい、通常、漁業権は漁業協同組合の組合員にならなければ得られません。カネサ漁業のような法人の従業員に漁業権を付与している漁業組合は、北海道でもまだまだ少なく、漁師として独立を目指すには恵まれた環境であるといえます。漁業権があれば独立も夢ではありません。

kaishain_ryoshi_5.jpg仙石さんの出身は隣町蘭越町。仙石さんも徳田さんも一級船舶免許を保有。

漁業権があるからできるウニ漁。夏場の大きな収入源に。

ウニが獲れる夏場は、カネサ漁業としての漁の合間に、個人的な漁をさせてもらえるのだと仙石さん。
「会社の仕事をしながらアルバイトをしているようなもの(笑)。ウニは1シーズンでかなり良い収入になります」
漁師の間では海の状態が良く、漁がしやすいコンディションを「凪が良い」と表現するそう。そんな時は決まって親方から声がかかると徳田さん。
「『凪イイのに、漁出ないのか?』と冗談めかして言われます(笑)。船に乗れば乗るほど操船技術も身につくし、収入も増える。社員を育てようとしてくれるのがありがたいですね」

kaishain_ryoshi_6.jpgカネサ漁業の「親方」、佐藤匡将さん。

船上活〆で札幌へも出荷。ブランド力を高める努力も。

2人の師であり、カネサ漁業の屋台骨を支える「親方」こと佐藤匡将さん。従業員の育成にも熱心で、常に一歩先を見る先見性と経営センスを備えています。
「今の時代は魚の付加価値をどう高めていくかが大事。昔は何でもかんでも、ひとまとめにして市場に送っていたけど、今は買う人のニーズに合わせてサイズごとにそろえるのも大事な仕事。ウチでは魚の味を良くするために船上活〆の技術も取り入れ、『カネサ漁業』というブランドを高める工夫もしています」
このごろは地元の漁協だけでなく、札幌の市場にも出荷。鮮度を維持するために、従来よりも溶けにくい氷を作る製氷機も導入したのだそう。

kaishain_ryoshi_7.jpg船上活〆した魚にはタグを付け、ブランド力を高めている

独立がすべてではない。これからの漁師の姿。

漁業の未来を考える匡将さんにとって、若き2人の漁師に寄せる期待は少なくないようです。
「親方は『俺がデキる仕事はお前もデキるようになれ』といろんな仕事を任せてくれます。カネサ漁業の一員として、親方の期待に応えたいですね(仙石さん)」
「新しい仕事をどんどん教えてくれるので、他では3、4年かかるようなことも、ウチでは1年ぐらいでできるようになります。成長を感じられる職場だと思います(徳田さん)」

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漁師という言葉からは「腕一本で身を立てる」といった働き方を想像しがちです。しかし、カネサ漁業という良い職場に出会えた2人にとって、収入面の安定など「会社員」として働くことの魅力は小さくないと声をそろえます。海に生きる男たちの新しいワークスタイルを垣間見ることができました。

有限会社カネサ漁業
住所

北海道寿都郡寿都町歌棄町美谷237-11

電話

0136-64-5377


「会社員」として海に出る、寿都町の2人の漁師。

この記事は2018年2月6日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。