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北海道で暮らす人・暮らし方
月形町

主婦からガーデンデザイナーとして起業した女性のお話20180118

主婦からガーデンデザイナーとして起業した女性のお話

北海道の空知エリア中西部に位置する月形町。札幌市からは車で1時間位のところにある人口3,300人ほどの町です。月形町を知る人にとってまず思い浮かぶのは「月形温泉」や日本一広いと言われる森林公園の「道民の森」ではないでしょうか。また、北海道日本ハムファイターズの大谷選手が応援大使として月形町を訪問したニュースによって、全国的にも月形町という町を知った方も多いかも知れません。

そんな町で頑張る1人の女性に出会えました。彼女の半生のお話を通じて、夢を追いかけたい女性の方にとって、お子さんを育てる主婦の視点として、業界のお話として、経営者としてなど、多くの方に勇気を与える物語をいただいた気がします。

彼女の名前は、有限会社コテージガーデン 代表取締役 梅木 あゆみさん。そのお名前にピッタリなガーデンデザイナーとして会社を運営しています。

梅木さんのこれまで

kote-ji 04.JPG取材にうかがったのは12月。かわいらしい建物が目印です。


梅木さんは、産まれは月形町。今から22年ほど前の1995年にコテージガーデンを創業するに至りますが、創業の前のお話をこう語ります。

「元々は普通の主婦なんですよ。4人の子どもを育てながら、自宅のまわりでガーデニングを趣味でやっていたんですが、一番下の子が4歳の時、事業としてやってみよう!って思い立ったんです。当時はガーデニングブームがきていた時代っていうのも背中を後押ししてくれた理由でもありました」。

梅木さんのご実家は100年もの長きに渡り、月形町で代々続く金物店。ご主人がその家業を受け継ぎ経営されているそうですが、その家業とは全く関係なく個人的に始めたと言います。お子さんが4人もいらっしゃって、家業もあって、大変ではなかったのでしょうか?と尋ねると、「小さい子が家庭にいると大変っていう声を世の中でもよく聞きますが、お子さんが1人とか、2人だから大変で、4人もいると上の子が下の子を見てくれるようになって、実はすごく楽になるんですよ」と笑います。「家業の金物屋も、おかげさまで多くのお取引があって、建設や土木の資材なんかも扱ってまして、空知エリアを中心に頑張らせていただいてます。私としては、おかみさんとして家業を支える道もあったのかもしれませんが、奥さんが職場にいるって、夫にとってはやりずらいでしょう?だからあまり入り込まないようにしてたんです」。経営者としての先輩である旦那さんからは、事業としてやっていくのなら、ちゃんと経営しないとダメだぞと止めるどころか応援してくれたそうで、さらには家庭の掃除や洗濯を率先してやってくれるなど、奥様である梅木さんをサポートしている様子も教えてくれました。

「花屋を始めたってこんな田舎に誰も買いになんてきてくれないよ!なんて声も少なからずあったなか、普通の主婦だった私が『花』を事業としてやっていくと決めたとき、家族のサポートが大きかったのはもちろん、周りの多くの助けてくれる方々に支えられたからこそやってこられたと本当に思っています。...でもお金なんてなくって、創業の資本金は5万円(笑)」。

そもそもなぜ花の道へ?

kote-ji 03.JPG月形町からの指定管理者として施設を使っています。こちらの立派な鉄骨製のハウスもそのひとつ。ここで春を待つ植物たちがいっぱいです。


そもそも、なぜ「花」に興味をお持ちになったのでしょうか。

梅木さんは昔を思い出しながら教えてくれます。「月形は昔から『花のまち』として取り組んでいて、生活していく上で花に囲まれていたことが大きかったと思います。特に北海道を飛び出した後、月形に戻ってきてからさらに身近に感じるようになり、いつかは花屋さんみたいなことが、心のどこかに芽生えたんだと思います」。

月形町で生まれ育ちましたが、梅木さんは中学生という小さな頃から町を出ることを決意します。中学生、高校生と札幌市に身を寄せ、その後、東京の美術大学へ進学。月形へUターンしてきて、若くしてお母さんになった梅木さん。「自身の経験から、一度は自分の産まれた町を出てみて、外から自分の町を感じてみるのもとてもいい経験になると実感していますね。東京に出るときも、北海道の良さはわかっていたのですが、出てみてやっぱり!と思えました」。

美術を学んでいましたが、その頃もまだ『花』で起業しようと行動するまでは考えていなかったそう。それでも「好きなことだったので、インターネットもない時代でしたけど、いろいろ本を読んだり資料をみたりと、勉強はいっぱいしていました。実は大学を卒業するにあたっても就職活動はしなかったんですけどね(笑)。子どもたちにはちゃんとしなさいって言ってたクセにね(笑)」。

ご自身の経験も踏まえ、面白くお話をお教えいただく梅木さんでしたが、実は大きな日本の課題が隠れています。小さな子どもたちの将来なりたい職業のなかに「お花屋さん」というのも根強く残っていて、「花」に関わる仕事がもっと認知されるといいはずなのに、実は「ガーデナー」という国家資格は日本にありません。国家資格がありませんので、資格を養成する学校もありません。また、この業界に関わられている方でさえも違和感があることも多いそうですが、花を栽培するのは農業...花卉(かき)農家...として一次産業に分類され、どうしても野菜やお米などを育てる農家さんに比べると、その関わる人口の少なさも相まって陰に隠れてしまう背景もあるようです。花で観光につなげたり、地域おこしをする市町村や、花のイベントも数多くある北海道という土地柄でもあるにも関わらず、梅木さんが切り開いてきたこれまでは、決して楽な道のりではなかったのは容易に想像ができました。

花屋からガーデンデザイナーへ

kote-ji 06.jpg夏の滝野すずらん丘陵公園の様子

周囲から少なからず言われていたように、経営は決して楽ではなかったそう。20年以上続いている今でも、「大変なんだよ〜」と梅木さんは笑います。

そもそもなぜそのようななか続けられたのでしょうか。「最初は花苗を育てて販売するというシンプルな業務でしたけど、続けていく中で、育てて売るだけという枠組み以上のご相談が入るようになって。ご相談された仕事は断らないっていう信条で頑張ってきたのが良かったのかもしれないですね」。

新しい仕事に関わるたびに、学びながら、事業のスタイルも変わっていきます。今では、「花や植物のある生活を、暮らしの中に取り込んでいくための提案」をするというのが、梅木さんのメインタスクとなりました。その力はどんどんついていき、今では北海道で唯一の国営公園、滝野すずらん丘陵公園や苫小牧市にある体験型公園のノーザンホースパークといった北海道を代表する公園のガーデンデザインも梅木さんが手がけています。また、北海道の層雲峡温泉で目玉のひとつになっている、観光客の方を花でもてなそうというイベント「層雲峡花ものがたり」も地元のみなさんとずっと続けています。他にも札幌市にある百合が原公園のショップもコテージガーデンさんの出店であるなど、実は北海道の多くのエリアで花を通じた取り組みに至っているのです。

そんなガーデンデザイナーの仕事として、気をつけていることがあるそうです。「ガーデンデザイナーってなんだかカッコイイ仕事に見えるでしょう?一般的には、机上でプランを立てるデザイナーという職業と、現場仕事であるガーデナーという職業で分業されていることが多いのですが、それを私はどちらも合わせたカタチの『ガーデンデザイナー』っていう肩書きを持って仕事をしています。だから、泥だらけになって、石と格闘して、自然も相手だから上手くいかないことだってあって、名前から連想されてしまうようなオシャレでキレイなお仕事!ではないんですよ(笑)。そして私がプランを練る時に最も気をつけていることは、お客様のご希望を『聞くこと』です。自分の考えを押しつけるのではなく、あくまでもどうされたいのか、何が課題なのかをお話を聞き、それらを解決するためにご提案するのが仕事なんです。家を設計するプランナーさんとかインテリアコーディネーターさんに近い仕事なのかもしれないですね」。そう説明される梅木さん。「先生」としてではなく、「良き相談者」としての立ち位置が、梅木さんのファンが多いのがそこに答えがあるようでした。

コテージガーデンの今

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たった5万円で、趣味から始まった事業でしたが、今では夏場の最盛期では30人ものスタッフが働く場所になり、そのうち5人もの正社員を雇用し、社員の生活を支えています。

「現在は、ガーデニングブームは落ち着きを見せてしまったので、かなり育てる品種は絞り込んだのですが、それでも1,000品種以上を育てています。パンジーやビオラでは150品種くらいあります。また、花にとどまらず、トマトを中心に野菜の栽培も始めていて、トマトに限っては、150品種ほどを育て、60品種位を販売しています。イギリスのスタイルなんですが、キッチンガーデンという、野菜を育てる畑をガーデンのように見せる作りにもチャレンジしています。花だけ、野菜だけ、果樹だけっていうのではなくて、植物として組み合わせて見せる家庭の庭のイメージですね」。

さらに面白い取り組みも教えてくれました。農林水産省が推奨する農泊を中心とした都市と農山漁村の共生事業の取り組みです。「私たちコテージガーデンと地元のNPO法人サトニクラスさんが農泊事業を事業主体となって推進しています。農泊はファームステイといった、農業体験をして農家さんのお宅に泊まるというのともちょっと違い、もっと地域のいろいろな面に関わる感じですね。コテージガーデンとしてはその事業のなかで、収穫体験のコンテンツも提供しています。月形の行政に関わる方々も巻き込んで、食と体験と宿泊のリレーションを町でつくって、それが月形の魅力を伝えることにつながれば...と思っています。また、農業体験としてでなく、野菜の栽培種類ももっと増やして、自分が食べたい野菜を選んで、ご自身が収穫する、イギリス風に言うと『ピックアップ・ユア・オウンズ』という販売スタイルも拡げていきたいですね。育てるのは私たちですが、自分の庭で収穫するような感じに使ってもらえたらいいなって」。

さらに地元の活性化につながる、カフェも開設

kote-ji 07.jpg夏季限定でのオープンですが、多くの方で賑わう「コテージカフェ たね」

2017年から始めた新しい取り組みのひとつ。ガーデンカフェについても教えていただきました。

「カフェの名前は『コテージカフェ たね』です。初年度はトライアルの感じで始めたのですが、しっかりとブラッシュアップして、引き続きガーデンカフェを開設して運営していくことも決めました。4月末から10月中旬位までの夏季限定なんですが、ナチュラルガーデンを見ながら、のんびりしてもらえたらって思っています」。カフェでのお勧めのひとつは「トマトカレー」。もちろんコテージガーデンで採れたトマトを使い、化学調味料も肉類も一切使わない、シンプルな自然の味を感じられる健康的なカレーだそう。他にも、「トマトアイス」も売りのひとつで、千歳市にある「ファームレストラン 花茶」さん(くらしごとの記事はこちら)とのコラボ商品です。

「冬季はカフェを閉めている時期なんですが、カフェの空間はワークショップの場としても使っていたりして、クリスマス用のリースづくりをみんなでしました」。と梅木さん。月形町から指定管理を受ける約束事として、マチの賑わいをつくるという使命もあるそうですが、カフェというスペースを活用して、月形に交流人口を増やす場所としても、地元の人々が集う場所としての機能もさらに強化されていきそうな予感です。

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さらには、『ブレインズ』という取り組みの事務局にもなっていました。
「種まく私たち」という素敵なキャッチフレーズもついていました。

「これは、北海道にはご自宅でガーデニングを趣味で楽しむ方がたくさんいらっしゃるのですが、みなさんのご自慢のガーデンを、一般の方に開放して見ることができる『オープンガーデン』という取り組みがあって、そこにも関わっています。オープンガーデンの開催情報を北海道全域の各家庭から集めて、そのガイドブックを有志のみなさんで自費出版する取り組みもしています」。

月形だけではなく、北海道の人々をつなぐ活動もされていました。

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ガーデナーを目指す人へ

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ガーデナーを目指したい人々や子どもたちへのアドバイスもいただきました。

「造園業とか、庭師さんという職業ともちょっと違うガーデナーというジャンルですが、まずは『花や植物が好きなことを大切に育むこと』だと思います。好きでさえあれば、自然が教えてくれることっていっぱいあるんです。土とか水や太陽と仲良くなって、いっぱい趣味でやられているガーデナーさんのお庭を見て、本当にこれを仕事にしたい!そう思うことが最初ですね。現場仕事ですから、天候とか体力とかの面でもタフなことがいっぱいある仕事。それを支えるのはやっぱり『好きであること』なんです。なので、うちの会社のスタッフに対しても『好きでいられるような環境づくり、喜びのある仕事づくり』に代表者として努めていて、最終的には自身で独立したいという夢を持った人だって応援していきます。本心は長く働いて欲しいんですけどね(笑)。私自身も今だって勉強の毎日。道端に自生している草花や川や木々との調和に目を奪われて、車を駐めて観察するなんてしょっちゅう。自然につくられたデザインからインスピレーションを得ること...自然から教えられることが今も尚たくさんあるんですよ」。

最後に

kote-ji 10.JPG無造作におかれたポットも、どことなくアートな雰囲気をかもしだします。

取材中は自慢されることもなく、後から知った事実ですが、2009年度北海道「輝く女性のチャレンジ賞」、2010年度内閣府「女性のチャレンジ賞」などのすごい賞を梅木さんは受賞されていました。自分を大きく見せたりすることもなく、常に和やかにお話をしてくださいました。最後に、花に関わる事業もたくさんあるなかで、梅木さんはこう語りました。

「もっともっとたくさん生産して販売をどんどんして利益を出していくっていうスタイルも世の中にはあるのでしょうが、自分の目が届く範囲での商売を心がけていけたらいいですね。植物を通じた人々の交流が自分を生かしてくれるのであって、やっぱり、根底には、いろんな方々の生活や暮らしに花や野菜を添えるお手伝いをしたいというのがありますからね」。

月形で育った梅木さんのお子さんたちは、月形を出て、それぞれがそれぞれの地でしっかりと頑張っているそうですが、そのお一人が、ご主人が継いだ金物屋さんに戻るという決心をされたそうです。
息子の彼が言った言葉は「産まれ育った地域に貢献できる仕事もできたら」...だそうです。

きっと子どもたちには、梅木さんとご主人の背中を見て、外の土地を感じ、故郷と比較し、自分の未来を自身が決められるように成長したのでしょう。子を育てる親にとって、子どもたちが産まれ故郷に戻ってきてくれることほど嬉しいことはないかもしれません。そして梅木さんのスマホの待ち受け画面は、待望のお孫さんの写真が。「孫なのよ〜」と笑顔で見せてくれた梅木さん。まだまだ北海道のためにも、月形町の活性化のためにも、その素敵な取り組みを拡げてもらいたいと思うのと同時に、北海道の、特に地方都市にお住まいの多くの主婦のみなさんにも、梅木さんの半生を知って、好きなことを事業としてやってみる...という人生の選択肢にチャレンジしてくれたら嬉しいですね。

有限会社コテージガーデン
有限会社コテージガーデン
住所

北海道樺戸郡月形町北農場1

電話

0126-37-2185

URL

http://www.cgarden-hokkaido.co.jp

<百合が原公園ガーデンショップ>
北海道札幌市北区百合が原210


主婦からガーデンデザイナーとして起業した女性のお話

この記事は2017年11月29日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。