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震災を機に移住。テーマパークのような農園を造る20171030

この記事は2017年10月30日に公開した情報です。

震災を機に移住。テーマパークのような農園を造る

きっかけは「阪神淡路大震災」

四大を卒業後、新卒で入社した会社を26歳で辞め、車1台に荷物を積み込んで北海道に移住してきた男性がいます。その方は北海道でも有名なアスパラ農家、押谷ファームの社長、押谷行彦さんです。


押谷さんは兵庫県尼崎市出身。工業地帯に囲まれた場所で生まれ育ったこともあり、何度か旅行で訪れた北海道の自然に憧れを抱いていたそう。

そんな押谷さんが北海道に移住を決意したきっかけが、阪神淡路大震災。兵庫の自宅は倒壊しなかったものの、家の中は悲惨な状態に。交通網ももちろん乱れ、当時食品流通の会社に勤めていた押谷さんは、時間になっても商品が届かず、業者とも連絡が取れず、仕事がまわらないという状態を目の当たりにします。

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機能しなくなったまちに食べ物は無く、兵庫の人々は電車で隣の大阪まで大きなリュックを背負い食料調達に向かいます。一方大阪では食糧が溢れている。そんな状況を見て「現物」の価値の大切さを思い知ったそうです。

その思いをきっかけに、「現物の価値」を自らの手で生み出すことができる「農」の世界へ飛び込むことを決意します。

農業の門を叩く

農業を始めるにあたり、北海道深川市の農業系コースがある短期大学への進学を決めました。仕事を辞め、単身で北海道へ渡った際に不安はなかったと言います。
「小学校から中学校にあがるような感覚。知らない人に混じるだけです」と、押谷さんにとっては至ってシンプルなこと。


こういった農業を学べる学校は全国にありますが、やはり昔から憧れの気持ちを抱いていた北海道という地を自然と選んでいたようです。

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また、入学した理由は勉強面だけではありません。そこで「人脈」が出来ると考えたからです。

現に押谷さんは、互いに切磋琢磨できるライバルであり、同士である仲間に出会いました。当時はまだ新規就農者が少ない時代。まわりの農家の目にも負けず、共に突き進み、今ではみんな北海道農家として活躍し、成長を遂げています。

仲間たちとは今でも頻繁に集まり、互いに気持ちを高め合っているのだとか。

農家にとって不人気な土地が、自分の農地となる

短大卒業後、2年の農業研修を経て、北海道の千歳市北部に位置する長沼町という地に空き地があることを知り、そこを自分の農地として手に入れました。しかし、たまたま空いていたその土地は多くの農家にとって不人気な土地だったようで・・・。


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「この土地は防風林がすぐ横にあるため、日が当たらないというマイナスの土地だったんです」。
しかし、この地に身を置くこと決めた押谷さん。

「マイナスを0にすればいいだけの話。日の当たる作物と同じように育てるのではなく、日の当たらないところにはそこなりの育て方をすればいいんです」ときっぱり。
日陰の中で100点の育て方をすればいいということを私たちに教えてくださいました。
今では農家たちから煙たがられていた防風林のメリットを利用し、広々とした美しいガーデンをもつくりあげています。

oshiya_farm6.jpgこだわりがたくさん詰まったガーデンです

そう、この農地には作物だけではなくこういったガーデンや、コンテナを利用したカフェも併設しているのです。

oshitani_farm14.jpg農園の入り口すぐに建つコンテナハウスカフェ

夏限定ではありますが、コンテナカフェでかき氷を販売。なんと、普通のかき氷のように削られた氷の上にシロップをかけるのではなく、100%凍らせたトマトやとうもろこしといった食材を削っているのです。まさに100%食材の味。しかも、今流行りの「インスタ映え」にもってこいのふわふわのかき氷なんですよ。

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これらの他に、さらに釣り堀も手掛けたという押谷さん。
「ここは空がとても綺麗なところ。夕日もはっきりと見ることが出来て、夕日を見ながら釣りをして、夜には天の川が綺麗に見えるから、その星空の下でバーベキューをすることも出来ます。あとは、露天風呂も作りたいんですよね」
・・・どうやらまだまだ進化していきそうです。

oshitani_farm3.jpgこちらが噂の釣り堀。「ここにウッドデッキをつくって・・・」と構想は続きます

もはやここはただの農地ではありません。長沼に出来た小さなテーマパークなのかも。ここで1日過ごすことができる押谷さん自慢の農園です。

「農業って、3Kと言われるじゃないですか。きつい、汚い、危険とか。でも、ここでこうして楽しいことをやっていたら誰かの心を動かせるかもしれない」押谷さんはそう考えます。
押谷ファームに訪れた人が「農業って楽しそう」「農業もう辞めようと思っていたけど、自分たちも楽しそうなことやってみようか」と思ってくれる人が増えたら、農業界がまた何か変わるのかもしれませんね。

「農業をやりたい」って思ったら一度立ち止まってみるのも1つ

新規就農に憧れる人が年々多くなっている傾向の中、そんな夢を抱く人に何か伝えるとしたら?と尋ねてみると・・・
「『今の仕事が嫌だから』という理由で農家になりたいと考えている人は辞めた方がいいですね。農家は土地を買わなくてはいけないのだから、辛いと思っても簡単に逃げることが出来ないんですよ。」


確かにその通り。現実の厳しさも知ってほしいと押谷さん。

「農業をやりたいなら『目的』はあった方がいいです。その内容は何だって良い。おいしいものを作って食べる人に喜んでもらいたい、有名になりたいとか、そんな理由でも良いと思います。農業に限らず、仕事には『辛い』時が絶対にあります。でもそれを乗り越えた時に『楽しさ』があるはず。乗り越えるためにも、明確な目的がないと何事も続きませんよね」

だからこそ、就農という道も気になっているというサラリーマンには「思い立ってすぐ仕事を辞めるのではなく、まずは土日だけの農業体験とかに挑戦してみて欲しい」と話します。

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長沼の人口増加の陰の立て役者

そんな押谷さんは、人材育成も大切だと考えています。事実、農業研修生の受け入れも行い、これまでに6名の研修生が独立して自分の農園を持つまでとなりました。その内、5名は同じ長沼の地で農業をスタート。長沼町の人口増加をお手伝いしている押谷さんです。


また、長沼町が行っているグリーンツーリズム。これは、都市と農村の交流促進と相互理解を図るためのものであり、都心で生活する子どもたちが農業などの自然に触れあって欲しいと、農業者・関係団体が一体となって子どもたちの農家民泊・農業体験を実施しています。関東・関西などの高校生が修学旅行の一環で、このグリーンツーリズムを利用し、押谷ファームにも過去に何人も生徒たちがやってきました。アスファルトが多い都会で育った子どもたちにとってこの体験は貴重な時間になっていると手応えを感じているそうです。

「中には土を触ったことのない子どもたちもいます。このグリーンツーリズムがきっかけで農学部に進んだ生徒もいました」と感心した面持ちの押谷さん。短期間ではありますが、子どもたちは長沼の土に魅了されたはず。

人と人とが繋がる農園

せっかくなので、奥様とも一緒に写真を撮りましょうと呼んでいただきました。すると、今日はもう1人スペシャルな人がいるということ・・・

oshitani_farm15.jpg真ん中が奥様志都香さん、そして一番左にいる方がなかなか会えないスゴイ方

最初の方でもお伝えした、農園内にある広々としたガーデン。実はこのガーデン、押谷夫妻はもちろんですがもう1人強力な協力者がいるのです。それが「山本先生」と呼ばれるこの方(写真左)。なんと、ディズニーランドの造園も担当しているスゴイ人だったんです。

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基本的には公共事業の造園を担当している山本先生が、花卉栽培も手掛ける奥様と知り合ったことがきっかけでした。その後、この農園内にあるガーデンも一緒につくったりと、アドバイスをいただいているそう。しかも山本先生が一般の家庭のガーデンを手掛けることはほぼ無いことだと言うのです。

この防風林を活かした立地でのガーデンづくりに興味を持っていただき、年に3回ほど押谷ファームに訪れるという山本先生。取材陣、ナイスタイミングでした。押谷さんご夫妻の人柄もあり、きっとこの関係が続いているのでしょう。他にも、イラストレーターの人がガーデンを見にやって来たりとこの農園には多くの人が集まり、そこで繋がりも出来て行っているようです。

oshitani_farm12.jpg山本先生のご指導が入ります。

oshitani_farm10.jpg基本ガーデンは奥様のお仕事。「俺は力仕事の方が向いてるなぁ」と押谷さん。


oshitani_farm11.jpg「じゃあそこの石持ってきて〜」と言われ。さすが力仕事、かっこいいです!

北海道長沼町。この地で、楽しそうにイキイキと農業を営み生きている押谷さん。きっと、これからもこの農園内は進化していくことでしょう。長沼に訪れた際にはちょっと寄ってみたくなるそんな場所。押谷ファームは、いつでも誰でもウェルカムですよ。

oshitani_farm18.jpgここで育ったアスパラは、今や絶大な人気を誇り、多くのリピーターがこの旨みを味わっています。

押谷農園
押谷農園
住所

北海道夕張郡長沼町東3線北13番地

電話

0123-89-2180

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震災を機に移住。テーマパークのような農園を造る

この記事は2017年9月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。