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映画のロケ地、誰もが心震わす場所
北海道が生んだスター、大泉洋さん主演の『探偵はBARにいる』や、ベテラン俳優西田敏行さん主演『星守る犬』のロケ地として使われた場所。そこは日本海を見渡すことが出来るどこか懐かしい心安まるカフェでした。
夏場は海で遊ぶ人々で賑わう石狩市のビーチ方面へ車で走り続けると、ぽっと現れる「マウニの丘」という建物。ここが今回のくらしごとの舞台です。
『マウニ』は、アイヌ語でハマナスの意味。毎年その季節になると、カフェのまわりにはたくさんのハマナスが咲き乱れると言います。取材した時はちょうど9月の頭。まだ少しだけハマナスの花が綺麗に咲いており、そのいくつかは実を結んでいました。
さて、このカフェの売りはなんと言っても180度のパノラマ、オーシャンビューという点。店内にお邪魔すると、息を飲むほどの美しい景色が広がっていました。
思わず「すごい・・・!」と声を漏らすと、奥からここの店のマスターである中澤琢さんが出てきてくださいました。
ロサンゼルスから北海道への移住
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スタッフからもお店の常連客からも「マスター」と呼ばれ親しまれている中澤さんは、実は東京生まれの東京育ち。高校卒業後は単身ロサンゼルスに渡ります。ご両親は北海道出身とのことですが、マスター自身は北海道と何ら関係なく過ごしてきたそうです。
「中学、高校まで東京の学校に通い、卒業後にロサンゼルスに渡って『音楽ビジネス学科』がある大学に入学しました。音楽に関わるビジネスを学ぶ上で、しっかりと『学位』を得たいとも考えていたところ、その選択肢が日本には当時なかったというのが渡米の大きな理由です。昔は路上で弾き語りをしていた経験もありましたし、今でもピアノの鍵盤に向かうこともあります。ただ、プレイヤーとしてではなく、音楽業界の裏方として支えられることを求め、大学では著作権について多くを学びました」。そして卒業後もロサンゼルスに身を置き、学んだ知識を活かして働いていたのだそうです。
ある時北海道出身のお母様と、このマウニの丘に訪れる日がやってきました。当時からカフェとして運営されていたこの場所。マスターも店内に入った瞬間、この景色の美しさに心が震えたと言います。
海を眺めながらお食事が出来る席は大人気
「このお店はずっとここに存在し続けるべきだ」と、マスターは感じました。そして、東京や海外の生活の中で、質の高いレストランや、逆に質の低いレストランを見てきた経験をここで活かしたい考え、なんとロサンゼルスから北海道へ移住を決めます。
そしてマウニの丘を受け継ぎ6年ほどが経ち、今では「マスター」としてこのお店を切り盛りしています。
夕日も美しく映えるんです
海の幸に恵まれた立地のカフェ
このマウニの丘がある石狩市という場所は、小樽や積丹、留萌など海の幸の宝庫と呼ばれる場所に囲まれているという好立地。ここのメインメニューでもあるパスタにも新鮮な海の幸の食材が使われています。もちろん海鮮類だけではなく、食材は基本北海道産を使用。『海が見える雰囲気の良いカフェ』で終わらせず、味にもこだわりを持つということが、ここの店の魅力の1つです。
パスタの種類は豊富。こちらは『たらこパスタ』
アルコールも置いています
提供している料理は主にパスタやカレー、そしてケーキやコーヒー、紅茶を始めとするドリンク類。マウニの丘のケーキは、マスターが自分の足で赴き試食し、選び抜いたケーキ屋でつくられたものを置いています。
「ここに来てお食事をするお客様に、石狩近隣の美味しいケーキを食べてもらえることが嬉しい」と話します。近隣のケーキ屋を知ってもらえるきっかけにもなり、この地の盛り上げの貢献にも繋がっているようです。そうしてマスターがこだわりをもって選んだデザートは、飛ぶようにお客様のお席へと届けられます。
この日の取材は11時のオープン前からスタート。取材中、東京からの観光客の方から「オープン前にお店の中を見学できないでしょうか?」なんてお問合せも入るほど、店内の美しさは北海道外の方まで広がっているようです。オープン後、駐車場には道外ナンバーの車がいくつも並んでいました。一番遠いところで、鹿児島ナンバーまで!
「道外ももちろんですが、海外からのお客様も多いんです」と、マスター。
11時のオープンとなれば、続々お客様がご来店。取材日は平日の水曜日だったにも関わらず、11時半の時点で窓際の席は全て埋まるほどの盛況ぶり。
「土日はお待ちいただくくらい本当に多くのお客様にご来店いただいておりますが、平日でもおかげ様で多くの方にご来店していただいてます。平日に限って承ることができるのですが、ご予約のお電話をいただけましたら、海辺側の席をご用意することもできます」と、アドバイスもいただきました。
実は『夏季限定』のカフェなんです
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マウニの丘の営業は、4月中旬~11月中旬まで(※変動ありますので、HPにて要確認です)。冬場、お店は休業となります。お休みの冬の間、マスターは何をして暮らしているのでしょうか?
「今はネットがあればどこにいても仕事が出来る時代。ロサンゼルスで培った音楽ビジネスを少しやってみたり、あとは、企業に対して社員の英語教育のお手伝いをしたり、英語の翻訳をしたりと、自分の得意なことを仕事にして過ごしています」。
そう話してくれたマスターの生き方は、とってもモダンな働き方のように感じました。また、マスターと共に機敏に働く大切なカフェスタッフの皆さんは大半が主婦のスタッフ。夏場はがっつりカフェで働き、冬場は家庭に戻るという方が多いようです。
「おかげさまで、スタッフの皆さんには長いこと働き続けていただいています。辞めてしまうという人があまりいらっしゃらなくて、本当に感謝しています。今は私を含め、時期にあわせて7~8名のスタッフで頑張っています。もちろん女性の方しか募っていないということはありませんので、男性の方にお手伝いいただくことも歓迎しておりますから、機会がありましたら参加いただけたら嬉しいと思っています」。
北海道に移住してきて、現在は石狩市に身を置くマスター。生まれも育ちも東京で、その後ロサンゼルスで過ごしたマスターにとって、北海道の生活はどう感じたのでしょうか。
「北海道に移ってきた頃は、まだ暖かい季節でした。そこから初めて冬を迎えた時は衝撃でした」と笑います。
人生初の雪かきは、相当大変だったそう。当初は冬の車の運転など慣れないことばかり。北海道の冬はちょっぴり苦手なマスターです。
今後のビジョンは「今のまま変わらずに存在し続けること」
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まもなく、先代から始まり今期には10年目を終えるマウニの丘。観光雑誌にも載り、ドライブコースの1つとして多くの方に立ち寄ってもらえるようになりました。そして、その口コミがさらに人を呼び、常連のお客様もどんどん増えていっているのです。そんな多くの方から愛されているマウニの丘。今後のお店としてのビジョンを尋ねてみると、「特別何かを変えたいとは思っていません。むしろ、『このまま』でいたい、そう思っています」とハッキリと答えてくださいました。
「もちろん、もっとより良いお食事を提供したい等の思いはあります。しかし、大事な何かを捨ててまで、現在のお店のスタイルを変えるつもりはありません」。
人気のデザート『ふんわり抹茶』と紅茶。こちらのデザートは抹茶好きにはたまらない逸品です。
海を見に来たというお客様も多くいますが、それと同じくらい「マスターに会いに来たよ」と来てくれる常連のお客様も多いと言います。きっとマスターの誠実な接客に惚れ込んで通うお客様も多いのだろうと感じました。
また、調理師専門学校の学生さんの実習先として受け入れることもあり、そこで出会った学生さんとは今でも繋がっているのだとか。
「先日その学生さんが自分のお店を出すということで相談を受けました。今もこうして繋がっていられるのは嬉しく思います。もちろん、オープンまでお手伝いさせていだきました」とマスターは優しく笑います。
テラスに出ることも出来、目の前に広がる海の潮風を感じることが出来ます
この場所が昔と変わらないからこそ多くの人に愛され、リピーターを呼んでいるのかもしれません。だからこそ、取材陣もお店に入った時にどこか懐かしい、ほっとする気持ちになれたのかも。
マウニの丘はこれからも変わらずに、皆さんが帰れる場所として存在し続けてくれるでしょう。まだ訪れたことがない方は、ドライブがてらぜひ遊びに行ってはいかがでしょうか。その時は、予約も忘れずに。
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- マウニの丘
- 住所
北海道石狩市弁天町番外地(鮭料理の店「あいはら」2F)
- 電話
0133-62-3955
- URL
◎営業期間/4月中旬〜11月中旬まで(毎年変動。詳しくはHPにてご確認下さい)
◎営業時間/11:00〜17:00(最終入店は16:30まで)
◎定休日/月曜・火曜(祝日の場合は営業)
◎ご予約は平日のみ承っておりますのでご了承下さい。