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最近、仕事で涙がでたことはありますか? ある日の羅臼町20170713

この記事は2017年7月13日に公開した情報です。

最近、仕事で涙がでたことはありますか?  ある日の羅臼町

まちと家族が大好きで「出たいと思ったことがない」

世界自然遺産の知床を抱える羅臼町。羅臼岳の雄大な姿や野生動物の躍動を一目見たいと多くの観光客が訪れる一方、長く続く漁業の不振からまちの人口はじわりじわりと減っています。とりわけ、北海道羅臼高等学校の卒業生は大半が都会へ流れ、若者が少ないのだとか。けれど、そんな「地元離れ」とは真逆、まちの介護施設「グループホーム羅臼しおさい」で元気に働く若き羅臼っ子がいると聞き、取材陣は根室中標津空港に飛び、クルマを走らせました。どこかこれまで遠い町と思ってた羅臼町。想像ほど遠くない...という印象の羅臼町入りでした。

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「こんにちは!こんなに遠くまでわざわざありがとうございます」。キュートな笑顔で出迎えてくれたのが介護職員の森涼香さん、24歳。介護職として働くお兄さんの影響を受け、高校時代の職場見学ツアーで「グループホーム羅臼しおさい」を訪ねた時、まったりとした温かい空気感にあこがれて就職を決めたそうです。ところで、同級生はどれくらいまちに残ったのでしょう?

「残念ながら同学年60人くらいのうちの約1割です。私は羅臼町が補助をしてくれたおかげでヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)の資格を格安で取れましたし、何よりまちも家族も大好きだから外に出たいと思ったことはありませんが...」

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日々の買い物は町内の商店で済ませられ、家電や洋服などのショッピングはクルマで1時間ほどの中標津町で大概のモノがそろえられます。「都会の札幌は人の歩くスピードが速くリズムが合わなくて、ごくごくたま〜に遊びに行くくらいで十分。地下街に入ると方向感覚がまったく分からず、一生出られないかもと焦っちゃいます(笑)」と冗談交じりにお話しします。

そんな森さんの言葉に「昔は商店が夜6時には閉まっちゃったけど、今はコンビニもあるから不便はないもんね」とうなずきながら、お茶を運んできてくれたのはホーム長の富山 栄さん。せっかくですから、一緒にお話をうかがうことにしました。

夏場は天気が良ければ利用者様とBBQ!

rausu shiosai haj1.JPG施設の管理責任者 ホーム長 富山 栄さん(左)

富山さんが子どものころは、羅臼の漁業が最盛期だったとか。目指す仕事が決まっている友人は別として、同級生のほとんどが地元の漁業関係の仕事に就いたといいます。

「私自身も漁業の商売をしていた両親に育てられました。今でこそグループホームの食事に使う魚介は仕入れていますが、昔は魚といえば浜に行ったらタダでもらえるもの(笑)。カニだって脚の太い部分以外は食べられないと思っていたくらいです」

なんとも贅沢なお話。やっぱり森さんもそういうふうに育ったの?「イイエ。ウチの両親は漁業関係の仕事じゃないので魚は買うモノですよ(笑)」

ホームの利用者様は現在12名。中には元漁師さんも暮らしていて、朝の起床時間がかなり早かったり、食事のスピードが「漁師の早メシ」だったり、羅臼ならではの地域性がチラホラ見られるところもユニークです。今は利用者様6人に対して介護職員を2名配置し、3交代制で施設を運営させています。
「とはいえ、厳しい羅臼の冬なんかは、猛吹雪の日に職員が帰れなくなることも...。だけど、みんなは『なんとかなるヨ』といって、自分たちで柔軟にシフトを交代してくれるんです。むしろ、『どうせ出られないんだから利用者さんと一緒に鍋でもしようよ』って楽しんじゃうみたいな(笑)。都会から見ると大らかすぎるかもしれませんが、だからこそ利用者様もスタッフ同士も家族みたいに仲良く暮らせるんです」

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その言葉の通り、富山さんは職員にとって母のような存在。実は、森さんのお兄さんはかつてこのホームに勤めていて、自分の経験値を高めるためにと札幌の介護施設に転職しました。「ウチは利用者さんと密接に関わっているけれど、都会の大きな施設での働き方は肌に合うのかしら、慣れないリズムにうまく対処できているのかしら」と今でもよく心配しているといいます。

さらに、富山さんは利用者様が浴衣を着たいといえば盆踊りを企画し、体を動かしたいという希望が飛び出せばすぐさま運動会を開催。「夏場の天気が良い日はサカエさん(富山さん)がいきなり炭をおこし始めて利用者様と焼き肉をしたり(笑)。周りに何もない環境だからできることなんですよね」と森さんは笑います。でも、そんな富山さんが、そっと教えてくれたのは、「介護の仕事は人と人が向き合う仕事。感情のぶつかり合いももちろんあります。みんな家族なんだから当然です。そして『みとり』といった気持ちの行き場がなくなることだって時にはあります。なんかそんなやるせないことがあった時こそ『外で炭をおこして美味しいモノをみんなで食べよう!』って。あ、もちろん、私の趣味っていうのもありますけどね笑」と。富山さんにとっての、「炭おこし」は、スタッフや利用者様への心づかいであると同時に、古来の文化の狼煙(のろし)を上げる...自分たちの居場所を知らせる行為...なのかもしれません。

感謝と涙と絆

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森さんに羅臼町の好きな点を尋ねようとしたところ、「すずちゃ〜ん(森さん)!お見送りだよ〜!早く早く!」という声が聞こえてきました。慌てて玄関まで走って行く彼女を追いかけると、オープン当初からここで暮らしているという利用者様が町内の特別養護老人ホームに移るために退所するというのです。

初めは「元気でね」「遊びに行くからね」と笑顔で接していたけれど、しばらくすると森さんも退所するおばあちゃんも涙ながらに抱き合って、名残を惜しんでいました。

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「すずちゃん。ご飯ちゃんと食べるんだよ」

涙を流しながら、この言葉を最後にクルマに乗ったおばあちゃん。そしてクルマが見えなくなるまで、涙を浮かべながら手を振り見送り続けるスタッフのみなさん。これほど胸を打つドラマが生まれるのも、家族と暮らすように働けるグループホームの雰囲気があるからなのでしょう。

実は取材陣は数多くの介護施設に取材に行っています。しかし、利用されている方の涙は初めて。みんな涙。きっとここでは語りつくせない、いろんなことがあったのでしょうが、そのみなさんの涙には「お互いに出会えて良かったね。」という言葉が声に出さなくても聞こえてきます。「家族のような対応」という月並みな言葉では語れない、この施設の良さ、人の良さを感じると共に、取材陣も涙せずにはいられませんでした。
おばあちゃん、どうか末永くお元気で...。近くにみんないますからね。

夜空を仰げば、天の川とたくさんの流れ星!

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ちょっぴりシンミリしてしまいましたが、改めて質問。森さんにとってまちの好きなところって?

「う〜ん...。う〜ん...」

あれ?出てこない...?それもそのはず、ずっとココで生きていたからこそ、他のまちと比べられないんです。ココでの普通が他のまちではないことってたくさんあるはず。「休みの日は友だちと遊んだり、1日中家でゴロゴロしてたり、カラオケ行ったり...うーん、うーん」と、普通の女の子です。他には?日常でしていることは??

「その辺で山菜を採ったりもするけれど趣味というワケでもなく、ダイビングの体験やクマ撃ちの見学は高校の授業だったし...。あ!でも、知床峠に星を見に行くことは好きです!天の川は引き込まれるくらい美しいですし、アッチもコッチも流れ星だらけだから願いごとをし放題(笑)」

「その辺」で山菜が採れる自然環境。「クマ撃ち」が見られる学校の授業。そして、夜空に瞬く幾千もの星に願いを届ける時間。羅臼っ子にとっては普通のことで、ひねり出すように答えてくれましたが、いやいや、どれもこれも他のまちではなかなか味わうことのできないことでした。

険しい山々や手つかずの自然がすぐそこにある、海に育てられた町。海の香りと緑の香りが混在する街並みに、ホテル・民宿に味のある飲食店や商店の数々。厳しい自然と共生していくことを選んだ人々。表現するのがとても難しいのですが、日本の高度成長と共に失ってしまった大切な何かが、ここ羅臼には確実に存在していました。そんな環境に育てられた人々、そんな人々が入居し、そんな人々がスタッフとして頑張っている小さな介護施設。人手不足、少子高齢化の問題はこのまちにも、もちろんあるけれど、決して消してはいけない灯りをともし続けている人々がいること...北海道の小さなまちのひとつ羅臼町のことを、1人でも多く、どこか身近に、大切に感じてもらえたらと、願うばかりです。

グループホーム羅臼しおさい
グループホーム羅臼しおさい
住所

北海道目梨郡羅臼町湯ノ沢町14番5号

電話

0153-87-6160

URL

http://mandy946.com/facility/shiosai.php


最近、仕事で涙がでたことはありますか? ある日の羅臼町

この記事は2017年6月9日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。