旅人と動物が集まるスープカレー店
北海道と言えば「スープカレー!」と思い浮かぶ方も多いのでは?北海道に数多くあるスープカレー店のひとつ、「奥芝商店」の新十津川店にお邪魔しました。実はここ、ただのスープカレー店ではないのです。
同じ敷地内には、旅人が集まるゲストハウスをはじめ、猫や馬・ヒヨコなどの動物と触れ合える場所もあり、みんなで自給自足の生活を目指すべく畑を耕していたりと、なんだかただの飲食店では無さそう・・・。よく自転車で日本一周旅行をしている旅人や海外からの旅人が訪れ、そのまま居候する人も多いのだとか。どこからか口コミで広がっていき、いつしか旅人の集合地点になっているようです。
猫が見つめる先はシェアハウス。猫も自由気ままにこの敷地内で過ごしている様子。
今回お話をお伺いしたのは、ここで働く佐藤さんご夫妻。お二人がなんと交際0日で結婚されたという話は後に取っておきましょう。実は、旦那さんの佐藤港(みなと)さんは生まれも育ちも東京。新十津川に移住してきたのは2013年のことです。
震災をきっかけに東京から出ることを決意
東京にいた頃は仕事の傍らHIP HOPラップをやっていて、いつかは表舞台に立ちたいという想いもあったという港さん。そんな時、東日本大震災を経験。東京という大都会に居ながらも、水が手に入らないという体験をし、食料のありがたみを心から感じたと言います。
そして、東京での生活を改めて見直し「土を感じながら生活がしたい」と考え始めました。それから港さんは生まれ育った東京から出ることを決意。その時は、「とにかく東京を出る」という想いだけで、新十津川どころか北海道に行くことさえ決めていたわけではないと言います。
そんなタイミングの中、北海道にいる友人の風間龍行さんに「新十津川に遊びに来ないか?」と声をかけられました。「ちょっと遊びに行ってみよう」そんな気持ちで、港さんは初めて新十津川の地に足を踏み入れたのです。
スープカレーと、大人が童心に帰れる環境を!
風間さんに呼ばれた場所は、現在港さんが働いている「奥芝商店 新十津川店」でした。ここは、奥芝商店の経営会社NEXT LEVELの奥芝社長が、新十津川に出店と同時に「大人が童心に帰れる村をつくろう」と構想し、スープカレー店の他に、取りかかりとしてゲストハウスやシェアハウス、動物たちと触れ合える場所などを構築。
さらには『村』ということで、村長という役職を風間さんが奥芝社長より任命されました。風間さんは、デザインの専門学校に通っていた経験を活かし、店内のテーブルやイスなどはもちろん、コテージ3棟のほか、犬小屋や鶏舎なども造成を開始。
そんな時に港さんはこの地を訪れ、これらのものづくりのお手伝いに携わったのです。
そして、気づけば新十津川に身を置き、風間さんから二代目村長の役職を譲り受けていたのです。今は村長として、畑をメインに力を入れている湊さん。運営を任される身として、地域との繋がりを大事にしようと、奮闘中です。
港さんのご両親は今も東京にお住まいとのこと。縁もゆかりもなかった北海道に行くと決めた時、反対されなかったのでしょうか?
「両親共に昔から海外の仕事をしていて、自分自身も子どもの頃から多くの海外に連れて行ってもらいました。色々な国を見て、知って、自分が常識だと思っていたものが、この国では常識ではないんだということが多々あって驚愕しましたね。色々な世界を知るという経験が今の自分を創り出してくれたと思います。よく人から変わってるねって言われますが(笑)」。
そういった幼い頃からの経験により、将来進む道も色々と考えていたそうです。
「早く社会に出たいと思って、高校を中退。その後は、建設系の現場で働いていました。実際働いてみるとお金を稼ぐって大変なんだなって身に染みて感じましたね(笑)。他にも、自転車で日本縦断してみたり、作詞作曲をしてみたり、自由にのびのびやってきました。そうやって自分の好きな道を進んできたからこそ、北海道に行くと言っても両親は見守ってくれていましたね。たまに両親も東京から遊びに来ますが、ちょっとした田舎暮らしを体験させてあげられるのが嬉しいですね」。
そう語る港さんの横で、優しく微笑む奥様の唯さん。唯さんに、港さんとの出会いについてお聞きしました。
変わった奴が新十津川にやって来た!
実は先ほどからお話にあがっている風間さんは、唯さんの友人でもあります。新十津川に港さんがやって来た頃、唯さんの元に風間さんから興味深いお誘いが届きました。
「うちにちょっと変わった奴がやって来たから、遊びに来ない?」
その『変わった奴』こそが、将来唯さんの旦那様となる港さんのこと。風間さんからのお誘いを受けた唯さんは、噂の港さんと出会います。それは、まだ雪が降り積もる時期でした。初めて会った時から、唯さんは港さんに好意を抱いたそうです。しかし、その想いを伝えるも叶わず・・・。
やがて雪が解け春を迎えた頃に、なんと突然港さんの方から結婚の申し出が。そしてその日のうちに二人は、唯さんのご実家へ挨拶へ行くという驚きの行動の早さ。その日がたまたま4月1日だったということもあり「エイプリルフールでしょ?」なんてご両親もびっくりされたそうですが、二人が決めたことならと背中を押してくれたそうです。
この村で結婚式を。村×ブライダルで「村イダル」
「ブーケいくよ〜!!」
全てがトントン拍子に進み、冬には楓くんが生まれました。楓くんが生まれてからも、おんぶをしながら店内で働くというパワフルぶり。
「お店に来てくださったお客様が私の代わりにだっこして、面倒を見ていてくれることもよくあります(笑)」。
唯さんは札幌のお隣江別市出身で、高校から札幌に通う生活をしていました。そんな中、突然結婚が決まり新十津川へ移住。どんな心境だったのでしょうか。
「私は、江別の中でも田舎の方に住んでいました。だから何もない田舎に移住する!という意識は特別なかったですね(笑)」。
そして唯さんはこの地で、楓くんを「自然分娩で産む」という選択をしました。
「自然分娩がしたい」その想いに賛同してくれた新十津川
もともと「自然分娩で子どもを産みたい」という想いがあった唯さん。しかし、その想いを叶えるには多くの壁もあり、妊娠8カ月まで病院での出産になるかな・・・と覚悟はしていたそうです。しかし、助産師さんや保健師さんの協力もあって自然分娩が行えることに。「新しい事例を受け入れてくれて、私の想いを叶えるために多くの人が動いてくれたことが嬉しかった」と、唯さんは話します。
無事に元気で生まれてきてくれた楓くん。子育ての環境としても、ここはとても過ごしやすいと言います。
「周りにいつも人がいるからこそ、『ちょっとうちの子見ていてください!』なんてことが叶います。現在3人家族ですが、核家族という感じが全くしません」。
港さんが言葉を継ぎます。
「自然はもちろんですが、人に囲まれながら育ってほしいというのが一番の願いです」。
自然溢れる新十津川での暮らし
近隣の滝川市や砂川市にも車で15〜20分位で行けるので、買い物はもちろん病院など生活に関して不便を感じることは無いと言います。冬によく心配される除雪に関しても、町がしっかりとやってくれるのが安心。「でも、店舗敷地内の除雪は自分たちでやらなくてはいけないのが辛いですね」と笑う唯さん。
そんな便利さもある中、自然も豊富な新十津川。そしてこの新十津川店には、これからも多くの動物を連れて来たいと港さんは言います。「来てくれた人が動物たちとたくさん触れあって欲しい」そう港さんご夫婦は話します。
ここでは、農業生活や農業体験をしてみたいという人をボランティアスタッフというかたちで迎え入れています。その日一緒に作業をしてくれれば、寝床にはゲストハウスがあるし、食事もつくという「一宿一飯」というスタイル。ものづくり・自然とのつながり・人との出会いがここにはある、なんだか心がぽっとあたたかくなるようなそんな素敵な場所ですよ。ぜひ旅の途中、もしくはここを目的とする旅に出てみてはいかがでしょうか?
- スープカリー奥芝商店新十津川店 romantic village nijinos(浪漫村 虹の巣)佐藤さんご家族
- 住所
北海道樺戸郡新十津川字総進217-21
- URL
※現在は閉店しています。