北海道暮らしのあこがれを果たした後、蘭越町・湯里で新たに木工房を共同開設
旧「湯里小学校」の校舎で工房とショールームを開く田代さんと佐々木さんの経歴は、驚くほどよく似ています。年齢はわずか1歳違い、蘭越町に移り住むに至った経緯など、出会うべくして出会った2人です。
どちらも、首都圏で会社勤めをしながら自然豊かな北海道での暮らしにあこがれ、木工の仕事を選択。そこで、田代さんは飛騨高山、佐々木さんは長野で基本を学んだ後、北海道は東川町に本社を構える家具メーカーの工房に、それぞれ就職したのです。
やがて田代さんは蘭越町でさらなる理想の土地・建物と出合い、勤務先の同僚だった佐々木さんを誘って木工房を開設しました。共同で制作と経営を進めると、自然に田代さんがデザイン、佐々木さんが制作と作業分担ができあがりました。田代さんは東京での書店勤務の経験を生かし、大好きな本に関連する机まわりのグッズを次々に開発。木のぬくもりあふれるシンプルでスタイリッシュな商品は、新千歳空港や道内各地のリゾートホテルのショップで評判となり、東京・代官山などでも人気を集めています。
2人はきっかけも経歴もそっくり。理想の土地探しが独立への扉を開いた
「妻が道内出身で、家族で何度も帰省するうちに住みたいと思うようになったんです」と、田代さん。一方の佐々木さんも「もともと緑ある田舎にあこがれがあり、小中学生の頃にテレビで『北の国から』や『ムツゴロウ王国』を見て、いつか北海道で暮らしたいとおぼろげに考えていました」ときっかけを語ります。
2人が移住への道筋を模索していた1990年代は、まだインターネットがさほど一般的ではなく、情報源は本や雑誌に限られました。当時、田舎暮らしを紹介する専門誌が勧める職種は「農業、林業、木工くらいしか選択肢がなかった」と口を揃えます。それでも気持ちは揺るがず、それぞれ「体力的なことも考えて、木工ならなんとかできるかな」と会社を辞し、数年間の修業を経て基本を身につけ、北海道で就職を果たしたのです。
2人が職場で出会った頃は、どちらも「独立してみたいと話してはいましたが、まだ強い意志や具体策はなかったですね」。やがて田代さんは勤務を続けながら、「羊蹄山の見える場所に住みたくて」車で理想の土地探しを始めます。すると、人づてに蘭越町の教育委員会を紹介され手紙を送ったところ、閉校が決まった「湯里小学校」の情報を得て、いよいよ独立に向けて焦点を絞ります。
土地・建物・人々...すべての出会いに感謝し、迷わず始めた二人三脚をこれからも
校舎の使用許可が下りるまでには、2年かかりました。「小学校は総務課、教育委員会、議会など町の多くのセクションが関わっていて、土地の方々にもお許しをいただく必要があり、簡単ではありませんでした」と田代さん。町長をはじめ関係者が心配したのは「本当に続けられるのか」「家族がいて、暮らしは成り立つのか」。ここの雰囲気と木製品のコンセプトが合致すると確信していた田代さんは「必ずうまくいくから大丈夫です」と、力強く説得したと言います。
そして2002年、小学校の閉校が翌月に迫った2月、単独での校舎の運営にふと難しさを感じて、田代さんはついに佐々木さんに声をかけました。急な誘いに対し、佐々木さんは「土地探しの話は前もって聞いていたので、迷いよりも『やってみたい』という気持ちが強かったですね。家族も許してくれました」と快諾。2人揃って町の人々と話し合いを重ね、念願かなって許可をいただいたのでした。
夢が実現し、実践を続けて今や10数年。「木工品を通し、北海道の中の『蘭越』をもっとPRできたら、それが恩返しとなるでしょうか」と、今後もオリジナルの良品を生み出していきます。
四季折々の風景や体験、人とのふれあいが作品を豊かに育てる
工房の最初の発注者は町長でした。ご自宅の机を製作し、その後2007年には「コミュニティープラザ花一会」のカウンターとイスを町から受注。今も同館の図書室で大切に使われています。佐々木さんは越してきた当時を振り返り「この湯里地区には、早期定年退職した本州からの移住者が多いので、まったく違和感なく溶け込めました」と話します。『移住組』の方たちは、むしろ積極的に地域と関わり、仕事で忙しい若者に代わって行事のボランティアの中心を担っているそうです。
また、工房には時に職場見学などで子どもたちが訪れ、2011年には旧校舎の写生会も行われました。廊下に貼りだした絵を眺めながら、田代さんは「この子たちはもう、ここが小学校だったのを見ていない世代なんです。でもこうしてやって来て歴史を知り、親しんでくれるのはうれしいですね」と、目を細めます。
町の中心部からやや奥まった湯里地区で、制作に追われがちな2人ですが「田植えの手伝いは毎年頼まれます」。気温や天気など好機を見計らっての作業なので、欠かせない働き手となるのです。「圧倒的な自然」の中でのそうした体験ひとつひとつが、作品に深みと味わいを加え、見る者に伝わるのかもしれません。
- 木工房 湯ノ里デスク
- 住所
北海道磯谷郡蘭越町字湯里131
- 電話
0136-58-2330
- URL
◇営業時間/ショールーム 9:30〜17:30
◇不定休