
北海道安平町の早来地区にある「東胆振清掃企業組合」は、長年この地域のゴミ回収やリサイクル事業などを支えてきた組織です。北海道胆振東部地震の際にもわずか1日で業務を再開するなど、この地になくてはならないエッセンシャルワーカーの集まりです。
昨今は戸別訪問による高齢者支援の取り組みを実験的に始めたほか、従業員の働き方改革を進めるなど、時代のニーズに応えた業務展開もしています。どんな仕事をしているのか、どんな気持ちで日々業務に取り組んでいるのかなど、代表理事の藤田義博さんにお話を伺いました。
地味でも必要とされるゴミ回収と清掃の仕事

東胆振清掃企業組合が手がける主な事業は、家庭などから出る一般ゴミの回収と企業などから出る産業廃棄物の回収、カン・ビン・ペットボトルなどの資源ゴミの回収とリサイクル事業です。担当しているエリアは、安平町の早来地区全域と、隣町の厚真町の海岸に面した浜厚真地区などです。それぞれの地域に収集車1台ずつ用意し、全スタッフ約12名(パート雇用の方を含む)で地域の衛生環境を支えています。
ゴミの回収は、人が暮らしている以上、絶対に必要な仕事。必ず誰かがやらなくてはいけません。「僕らの仕事って地味ですよね。なくてはいけない仕事ではありますけど、うちじゃなければいけない仕事なのかと言われるとどうなのか。自分たちがどうこう言うのではなく、周りの方々がうちじゃなきゃいけないって思ってもらえるかどうかだと思います」と、藤田さん。派手さはなくても藤田さんが手がける事業は長年地元の方々から必要とされ、現在に至ります。
町の生活のために。地震後も1日でゴミ回収を再開

東胆振清掃企業組合のはじまりは、藤田さんの祖父が個人事業主として始めたゴミ回収の事業です。戦後の数十年間、主に早来地域の清掃業務を担当してきました。
ものづくりが好きだった藤田さんは工業高校を卒業後、地元を離れて就職しましたが、事業拡大に伴い実家へ戻って仕事に就いたそう。以来、父とともに二人三脚で真摯に取り組んで来ました。
そんな藤田さんに、大きな試練が訪れました。2018(平成30)年9月6日の北海道胆振東部地震です。
「すぐ隣の山が全部崩れてきたんですよ。ここに通じる道路もなくなっちゃって」
夜が明けて会社の状況を確かめに訪れようとしたものの、土砂崩れで道路を通ることができず引き返したといいます。そんな中、父は手前の安全な場所に車を停めて土砂を乗り越え、約2km歩いて会社までたどりついたそうです。
裏山が崩れて変わり果てた敷地。ただ、建物の横に停めていたトラックが土砂を堰き止めていたため、奇跡的に社屋と収集車はほぼ無傷でした。ただ、道路が土砂で埋まっている限り収集車を動かせないので、ゴミの収集はできません。
「収集車が出せないから収集に行けませんといっても、人がいる以上ゴミは出ますし、ましてや震災があったらゴミが大量に出てきます。なんとしても早く再開しないと大変なことになりますよね」
行政と組合は収集車が街へ出られるように道路を復旧させるよう奮闘しました。町内には被災した住宅や通行止めになった道路が多々ある中、真っ先に重機を投入して土砂を取り除いて安全な通路を確保し、なんとか収集車を出せる状態に。藤田さん自身も被災して自宅が全く片付いていないながらも、震災翌日にはゴミ収集を再開しました。
「長年この仕事をやっていて、突然休んだのはこの時の一日だけです」と藤田さん。地域に必要とされている証であり、地域を守る究極のエッセンシャルワーカーです。
休みがない仕事から連休のある仕事へ働き方改革を

藤田さんも一緒に働く仲間も、みな被災して家の片付けもできない中、今まで通りに収集の仕事を行う日々。
「みんな疲弊しているけど仕事はあるから休めないって経験をして、やっぱり労働環境について考えないとダメだよなって思いました」
藤田さんは働き方改革に取り組みます。ただ、ゴミ収集日と場所は決められているので勝手に休むわけにはいきません。
「雨が降ろうが大雪だろうが台風が来ようが、ゴミ収集の仕事に休みはないとだと、父からもずっと言われてきました。ただ、僕ら経営側は休みがなかったとしても、働いてる従業員はある程度休みがないとやっぱり厳しいですよね。家族もいるしお子供さんもいますし、町民のみなさんのゴミを収集している私たちも同じ町民ですしね」
以前の収集日は月曜から土曜まで。休みは日曜しかなく、藤田さんも従業員も連休は正月とゴールデンウィークくらいしかなかった状況でした。震災をきっかけに、休日の大切さをあらためて実感した藤田さんは行政へ相談。収集日を調整してもらい、従業員の土曜の休みを確保することができました。
行政とともに「個別回収」もテスト中

藤田さんは、労働環境の改善に取り組むとともに、行政とともに新たな取り組みにも挑戦しています。その取り組みとは、「戸別訪問」。高齢者の中には身体を思うように動かすことができず、家の外にあるゴミステーションへ毎日ゴミを出すことが難しい方もいます。そのような方のため、対象者の自宅の玄関へ訪れてゴミの回収をするサービスです。
毎日ではなくても定期的に自宅へ訪問することで、ゴミ出しが難しい方の家の衛生環境を良好に保つことができます。また、安平町の通常のゴミ分類11種類。認知症の方などは分別すること自体が難しい場合もありますが、藤田さんが分別をするようにしています。
個別に訪問するこの取り組みは、安否確認のための見回りとしての役目も果たします。対面で会うため、何か異変が起きていないか、顔色や身体の調子が悪くはないかなど、電話では分かりかねる状況も把握できるのです。
2025年1月時点で戸別訪問をしている家は早来地区の数件とそれほど多くはありません。行政とともにまずは「やってみている」段階だといい、課題もいろいろと見えてきているのだそう。
「今はテスト期間なので僕が回収行っていますけど、本格的に始まったら僕以外のスタッフが行くこともあります。僕は『ゴミ収集の仕事している藤田さんね』って早来地区ではある程度知られていますが、馴染みのないスタッフだと安心して受け入れてもらえるかどうか心配ですね」
また、藤田さんが気にかけているのが、人手が足りないということです。
いまも現役を貫いている父は70歳を超えていますが、勇退するためには「代わりになる戦力として1人もしくは2人は必要」と話します。
「今うちにいる方で一番若い方は37歳です。19歳くらいからずっと働いてくれています。うち、みなさん長く働いてくれる方ばかりなんです」
離職率が低いため今までスタッフ募集をかけることはあまりなかったそう。ただ、世代交代を図っていくためにも、そろそろ若い世代の力を求めて組合の未来を託していきたいと考えています。
仕事も野球も全力投球。そのバイタリティでまちのキレイを守る

地域の衛生環境を守り続ける藤田さんは、休む暇などあるのでしょうか。参考までにお休みの時の過ごし方を伺ったのですが、
「休みの時はほとんど野球ですね」と笑顔。
高校生の息子さんは町外の高校で野球部に所属し、小学校6年生の娘さんも中学では野球部を志望。その娘さんの野球のために苫小牧まで送り迎えをするのが休日の過ごし方ということですが、
「私も野球チーム2つに所属しています」というからびっくり!
日中も体力勝負のお仕事をしているのに、野球は大好きで、仕事が忙しくても辞められないと笑います。
東胆振清掃企業組合が手がける仕事は、世の中に人がいる限り絶対に必要とされること。藤田さんは働き方改革を進め、働きやすい環境を整えつつ、個別回収など新たな挑戦も行っています。地域になくてはならないインフラとして、ゴミ回収は必要です。日々の仕事と野球で鍛えた藤田さんが、これからも「まちのキレイ」を支えてくれると思うと、とても心強いですね。