
照明、エアコンなど、家の中を見渡せば、いたる場所に電気にまつわるものが揃っていますよね。いかに電気の力を頼りに自分たちが暮らしているかよく分かります。近年は北海道でもエアコンを付ける家庭が急増しているほか、防犯カメラなどの設置件数も増えており、電気と私たちの暮らしは切っても切れないものになっています。
旭川市内で個人・法人に対して、電気設備の設置や修理といった電気工事を引き受けているのが、今回おじゃました「デンキュー株式会社」です。一般的な電気工事のみならず、照明空間デザインを設計から手掛けているほか、新築やリフォームを手掛けるグループ会社と一緒に設計の段階から照明設置に関わることもあるそうです。
お客様の立場になって考え、「思いやり」の気持ちを大切に仕事に取り組む
元気が出そうなイエローやオレンジ、グリーンなどカラフルな壁が印象的な社内。壁には海の絵なども飾られています。取材スタッフを迎えてくれたのは、スーツ姿の成田智裕社長。2013年にデンキューを自身で創業しました。
デンキューを立ち上げたときは成田社長一人でしたが、現在は従業員の数も5人に。建設会社からの下請けの電気工事を主軸に、個人や法人のお客さまからの仕事も請けています。2016年にはご縁のあった建設会社から事業の継承を依頼され、新築の注文住宅やリフォームを手掛ける「ビーンズ株式会社」の代表も務めています。
競合他社が多い中で他社との違いを伺うと、「ほかとの違いとか、強みを聞かれると困っちゃうんだけどね」と笑いながら、イエローカラーの壁に掲げられた企業理念や社是をそっと指さします。「ほかでも同じようなことをやっているかもしれないけど、仕事をする際はこの心構えを忘れないようにしています」と話します。
こちらが、デンキュー株式会社代表取締役の成田智裕さん。
企業理念には、お客様の立場に立ったサービスの提供・技術の提供・「気」と「心」の提供とあり、社是には、お客様の立場になって行動することをモットーに、「小事が大事」「凡事徹底」「仁の心の実践」と書かれていました。文言だけを見ていると硬派な印象も受けますが、「要はね、相手を思いやる気持ちを大切にして仕事をしたいし、従業員にもそうしてもらいたいと思っています」と話します。
「技術的にほかの電気工事の会社と比べ、大きな開きはないんです。でも、現場で照明器具を設置して終わりではなく、作業が終わったあとに簡単であったとしてもちょっと掃除をしていくとか、作業したところを軽く拭いておくとか、お客さまに対するそういう気遣いや心くばりが大事だと思っています」
下請けの仕事の場合、地元の建設会社の協力会社として現場に入るわけですが、「またここの会社にお願いしたい」と思ってもらうには、技術力はもちろんのこと、こうした現場での気遣いも大切だと成田社長。「一緒に仕事していて、お互いが気持ちよく仕事ができるかどうかは大きいと思うし、信頼関係というのはそういうところから生まれていくと思います」と続けます。
「そういう意味では、現場にいるのは技術職の職人たちですが、時代の流れというのか、建設業であっても『サービス業』の要素が必要になってきているのかなと思いますね」
旭川の電気工事会社へ就職。自身がされて嫌だったことは決してしない
デンキューを創業する前は、電気工事の会社でサラリーマンをしていたという成田社長。ここからは創業までの歩みを伺おうと思います。
旭川出身の成田社長は19歳で関東へ。東京や神奈川でさまざまな仕事に就いていたそう。
「主に飲食の仕事が多かったです。寿司を握っていたときもあれば、フレンチの店でワインの名前を覚えていたときもあったし、バーテンダーをやったこともありましたね。ほかにも、建設現場で肉体労働もしましたよ。とにかく仕事も転々として、フラフラしていました(笑)」
フラフラと言いますが、実は神奈川の鵠沼(くげぬま)でサーフィンに出合い、すっかりはまっていたそう。週5で海にいたと笑います。各地を旅するように波を追い求め、23歳で一旦旭川へ戻ります。
サーフィンに没頭していた、2010年当時のお写真。
「戻ってきたら、子どものころからかわいがってくれていた建設会社の社長のおじさんに、『お前、このままじゃマズイんじゃないか。周り見てみろ』と言われたんです。周りの同年代は大学に行っていたり、きちんと就職したりしていて、確かにちょっと考えたほうがいいかなと(笑)」
就職する気があるなら力になろうと、そのおじさんの建設会社と仕事をしている数ある協力会社から好きなところを選ぶように言われます。そこで成田社長はいろいろな業種の中から、何となく電気ならできるかな...という感じで、電気工事の会社に就職をします。
「でもね、3日で辞めようと思ったんですよ」と成田社長。当時の業界は、現場で先輩の背中を見て仕事を覚えろというのが当たり前でした。入社してすぐの成田社長も年の近い先輩たちに現場に連れて行かれますが、電柱の下からただ見ていろと言われたそう。
「仕事を覚えなきゃならないから、先輩たちに何をすればいいですかって聞いたら、お前は見てろって、何も教えてくれないんですよ。そのとき、ちょうど冬だったから、吹雪の中、先輩たちが電柱の上に登って作業しているのをずーっと下から見上げているだけ。上を見ながらだんだん腹立たしくなってね。3日目もそうなら辞めようと思っていたら、結局かわいそうに思ったのか、先輩のほうから手を差し伸べてくれて...。あとで話を聞いたら、当時の僕がギラギラしていたらしくて、関わりたくないって思ったらしいです(笑)」
このときの経験が忘れられなかった成田社長は、自分のあとから入ってきた人にはきちんと仕事を教えようと思ったと言います。それはデンキューを立ち上げてからも変わらず、新入社員が入ってきた際は「とにかくみんなで声をかけようって言っています。自分もできるだけ声をかけるようにしています」と話します。
こうしてサラリーマンとして電気工事の仕事に励む傍ら、趣味のサーフィンも続け、朝3時に起きて留萌の海まで車を走らせ、波乗りをしてから会社に出社していたそう。「あのころは週4で海に行っていましたね」と笑います。
「サーフィン熱が再燃してウェットスーツを購入しちゃったよ」と笑う成田社長。波に乗る姿も、仕事に挑む姿勢も全力です。
恩義のあった社長に尽くしたサラリーマン時代。独立する気はなかったが...
電気工事の仕事を続けられたのは、「技術のこととか、単純に面白かったというのもありますけど...、自分は新卒で入った子たちと違ってスタートが遅めだったから、追いつくために巻いていこうという感覚でがむしゃらだったというのもあるかな」と成田社長は振り返ります。
電気工事士の資格も独学で勉強して取得。「今から20年以上前になるけど、当時の建設業界は、今みたいに働き方改革なんてないから労働時間もめちゃくちゃ。夜中まで仕事するときもあれば、夜中から集合して現場に行くことも...。資格も取りたかったら自分で勉強して取ってという感じだったので、夜中から学科の勉強を自分でしていましたね」と話します。
この経験から、デンキューに新入社員が入った際は「資格取得の補助は会社でしっかりやろうと思いました」と言います。デンキューでは、電気工事士の資格取得を全面サポートし、学科も先輩が教える時間を設けるなど工夫し、資格がスムーズに取れるようにしています。「だってね、自分で勝手にやれって放り出すほうが効率悪いでしょ」と話します。
現場の意見を積極的に取り入れながら、より良い方向へと議論を重ねるミーティング。活発な意見交換が、次の一歩を生み出します。
サラリーマン時代、ゆくゆくは独立を考えていたのか尋ねると、「いやいや」と首を振ります。「僕は、ずっと当時の会社の社長に尽くすつもりでした。社長には恩義があったので...。会社の売上を上げるために頑張ったしね」と話します。
ちょうど30歳のころ、下請けの電気工事の仕事が下火になっていたため、売上を少しでも上げようと、新しい部署の立ち上げを提案。エンドユーザーから仕事を請ける部署を創設します。
「当時、会社には20人くらい従業員がいたから、そのうちの何人かを回してもらって、新しい部署を立ち上げました。大変でしたけど、面白くもありました。売上もどんどん伸びていって、2億だった売上が倍になったんですよ」
ところが、恩を感じていた社長が退任することになり、成田社長も会社を辞めることにします。
「辞めたはいいけど、次のことを決めていなくて(笑)。できることと言ったら、電気工事だから、辞めて5日後にデンキューを1人で創業することにしました。お金もなくて大変なスタートでした」
従業員がゆとりとやりがいを持って働ける会社にしていきたい
前の会社のお客さんから仕事を引っ張るようなことは絶対しないと決めていたこともあり、そう簡単に仕事の受注ができず、創業から半年近くは無給だったそう。
「初めて請けた仕事は今でもはっきり覚えています。新しくオープンする雑貨屋さんの照明を全部やってほしいとお願いされて」と懐かしそうな表情を浮かべます。その後、力を貸してくれる業者や人も現れ、少しずつ仕事の依頼が増えていきます。
現場第一主義で、今もなお電気工事の最前線に立つ成田社長。その背中が語る、職人としての誇りと経営者としての信念があります。
創業して6年ほどはとにかく売上だけを必死で追いかけていた時期もあったそうですが、「売上うんぬんよりも中身が大事だと気付き、仕事の請け方も見直しました」と成田社長。
「数字を上げようと利益を考えずに何でもかんでも請けて、それがいいことだと思っていましたが、疲弊している従業員を見て、これは違うなと思ったんです。やっぱり一緒に仕事をしてくれる従業員のことも大切にしていかなければと思い直しました。きちんと儲けが出て、きちんと従業員にも還元できるようにしなければ、彼らのモチベーションも下がると思ったんですよね」
社員の人数やスケジュール、キャパなどを見定めて、儲けが出るような形で仕事を請けるように工夫するようになりました。
「おかげさまで業績は安定していますが、このままあぐらをかいていてはいけないと思っています。かと言って、会社をめちゃくちゃ大きくしようという気もないんです。バランスを見ながら、人材も育てつつ...というところでしょうかね。従業員がやりがいを感じながらゆとりを持って働ける環境がもっと整えば、会社も必要なサイズに成長するでしょうしね」
デンキューを創業してからはサーフィンを封印していたという成田社長。一昨年からサーフィンを再開したそう。オフが充実していると、仕事への取り組み方も前向きになっていくと、社長自ら実践中です。
「遊んでいる暇なんてないとがむしゃらにやってきましたけど、最近やっと遊ぶ時間も必要かなと思えるようになりました」と最後に話す笑顔が印象的でした。
写真撮影で集まってくれた、社員のみなさん。「一生モノの技術」をデンキューで身に付けませんか?