
みやもと家具金物建材店は、新千歳空港から車で20分ほどの安平町(あびらちょう)早来(はやきた)地区にあるお店です。外見は普通の小売店といった佇まいですが、店内に入って驚くのは品揃えの豊富さ。鍋や包丁などの調理器具からバケツやほうきといった掃除用具、長靴、軍手などの商品が所狭しと並んでいます。しかも、アイテムごとの種類が実に多彩。さらに奥のスペースには、建築や土木のプロ向けの商品が数多く取り揃えられています。店舗に並べきれない物は倉庫に置いてあるそうで、大型ホームセンター並みの品揃えにビックリ!なぜ、こんなに多種多様な商品を取り扱うようになったのでしょうか。かつては首都圏の大企業でサラリーマンをしていた3代目社長の小山良雄さん、学生時代はアイスホッケーで活躍し、いまは専務として仕入れ、販売、配達をこなす息子の大地さんに、お話をお聞きしました。
お店の外観からは想像できないスペースの広さ
JR早来駅周辺の飲食店や小売店が立ち並ぶ商店街に、昭和10(1935年)創業の「みやもと家具金物建材店」はあります。林業がまちの産業の中心だったころに、伐採用ノコギリの目立てをしていた宮本さんの妻が始めた下駄屋さんが発祥で、2代目になると家具や金物、資材などを扱うようになりました。現在は木材やパイプ類、職人さんの使う工具など、土木や建築資材はなんでも揃う、地元のプロの建築業者さんにとって欠かせないお店となっています。そのほかにも、競走馬の生産・育成で有名なノーザンファームをはじめ、地元の農家さんも大事なお客さんです。小山社長は、こう話します。
こちらが、みやもと家具金物建材店3代目社長の小山良雄さん
「農家さんは、昔から小屋などを自分で建てていたんですよね。施設や設備を直すのも、基本は自分たちで行っています。もし水道が壊れて水が出なくなると、牛や馬に飲み水をあげられないし、畑にも水やりができなくなってすぐに影響が出てしまう。悠長に修理屋さんを待ってはいられない、一刻でも早く自分で直したいというニーズにこたえて、必要な資材を一式備えるようにしました」
大量の資材とストックスペースがあるのにも訳があります。
「商品を小ロットで仕入れたら、どうしても値段が高くなってしまうんですよ。だから、例えばコンパネ合板なら10トントラックで1台分まとめて発注しています。仕入れた商品を保管するために、先代が土地を買い足しながら増築を重ねて店を奥へ奥へと拡張していきました。いまでは裏口の道路向かいの土地まで店舗を拡張していますし、別の場所には資材保管用の倉庫もあります」
数あるアイテムのなかには、年に1つしか売れない商品や、ある特定の顧客しか買わないようなものもあるそうです。商売としては効率が悪いように思えますが、「必要なお客さんがいるからね」とほほえむ社長には、地域の建設業者さんや農家さんが困ることのないようにという配慮と、「みやもとさんに行けば、部品が必ずある」と言わせるほどの、品揃えに対する自信を感じさせます。
多品種の在庫とスピード配達で隣町から注文も
みやもと家具金物建材店の開店時間は朝の7時。ひっきりなしにお客さんが訪れていて、店内には活気が溢れています。私たち取材班がおじゃましている間にも、裏口にトラックを乗り付けて入ってきたり、台車を押して買い物に来たりする常連さん、カタログの補充に来た業者さんと、さまざまな人たちが出入りしていました。
お店には、注文や問い合わせなどの電話も多く掛かってきます。社長と専務が即応すべく電話応対をしながらパソコンで在庫確認や発注業務を行っていました。配達を担当する専務の大地さんは、このお店が支持される理由に、「スピーディーな配達」を挙げます。
こちらが、商品配達を担当している、専務の小山大地さん
「電話注文で『すぐにコンパネ(合板)2枚を持ってきて』といった急ぎのお客さんにも、在庫があればすぐに配達するようにしています。やはり、長持ちする質の良い商品を扱うようにしていますし、価格で勝負することは難しいですからね。お隣の厚真町からも、うちに注文すると早く届けてもらえるからと、いつも使ってくれているお客さんがいます」
大地さんの言う通り、みやもと家具金物建材店の顧客台帳には、安平町内だけでなく近隣のまちの企業名も並んでいました。
みやもと家具金物建材店が、ホームセンター並みの品揃えと在庫を常に用意している理由には、店の強みである配達の早さも関係しています。社長の説明によれば、安平町では製品を取り寄せるのに、お隣の千歳市よりも到着日が1日遅れるといった流通の事情があるのだとか。
「うちは千歳の隣りだから、お客さんは、送った荷物は千歳と同じ日に着くだろうと思われるんですよ。しかし、千歳市は石狩管内、安平町は胆振(いぶり)管内と、振興局が別だから、普通の運送会社を使うと千歳に比べて荷物の到着が遅くなるんです」
千歳や苫小牧からもう少し離れたまちだと、お客さんも荷物が届くのが遅れるのにも納得してくれるんだけれど...、と苦笑いする社長。そのため、みやもと家具金物建材店では、注文が入ってから卸に発注するのではなく、商品がすぐお客さんの手に渡るようにと在庫をどんどん増やしていきました。取り扱う商品はあまりにも膨大な種類があるので、仕入れはコーナーごとの担当制。木材関係は社長と専務、水道関係は社長の奥さん、塗料は妹さんと分けて管理しているそうです。
「人間らしい暮らし」を求めて安平町へ、店の3代目社長に
現在の3代目社長が、みやもと家具金物建材店に入ったのは昭和後期、約40年前のこと。2代目は奥さんの父親で、結婚した社長が後を継いだことになります。横浜市で生まれ育った「ハマっ子」だった社長。このお店に入るまでのことや、息子の大地さんのこれまでについてお聞きしてみました。社長の小山良雄さんは横浜市出身。青山学院大学を卒業した後、大手スーパーマーケットに入社します。全国展開しているスーパーで充実感はありましたが、仕事はとても忙しく、満員電車での通勤はつらかったとか。やがて異動になり、横浜の自宅から通勤先までバスと電車を5回乗り継いで通勤することに。「2時間半、満員でずっと立ちっぱなしで往復するのはキツかったですね」と社長は振り返ります。やがて安平町出身の奥さんと出会い、結婚。1人目のお子さんが生まれたときに「これではいけない、人間らしい暮らしをしたいと思ってね」と、奥さんの地元である旧早来町、現在の安平町に移ることを決心しました。奥さんの実家に同居したので大所帯でしたが、義理のお母さんはとても喜んでくれたそう。みやもと家具金物建材店で働きはじめ、さらに2人の子どもも生まれました。この仕事にやりがいを感じているという社長はこのように話します。
「自分がこの店に入った40年前には、すでにこの店の経営基盤は整えられていました。店の礎を築いた初代、それを発展させた2代目のおかげだと感謝しています。この仕事は頑張った分だけ自分の取り分も増えるから、やりがいはありますよ。ただ、売り上げが下がったときは、社員ではなく自分の給料を削ることになるから、大変でもありますよね」
お店のスタッフ8名は、全員が正社員。お店の将来を見据えて10年前にはリフォーム部門をつくり、今年は20代の若手社員を採用しました。千歳市から往復1時間かけて通っているそうで、社用車を貸し出して通勤にも使ってもらい、ガソリン代もすべて支給しているそうです。
そんな社長は、家族思いの父親でもあると、息子の大地さんが語ってくれました。
「私が子どものころは、冬休みになると横浜の父の実家に帰省するんですが、いつも東京ディズニーランドや鎌倉など遊びに連れて行ってくれました。それが、すごく楽しい記憶として残っています。いま考えれば、子ども3人を連れていくのはお金がすごくかかることだし、その間、忙しいお店をスタッフに任せるのは調整も大変ですよね。そんななかでも父は毎年、家族が良い思い出を残せるよう、気を使ってくれていました」
大地さんは少年団からアイスホッケーをしていました。これもかなりの費用がかかるのですが、続けさせてくれたことにも感謝していると話してくれました。
学生時代はアイスホッケーに打ち込んだ息子の大地さん
それでは、専務の大地さんにもご自身のことを聞いてみましょう。
小山大地さんは、お兄さんとお姉さんがいる3番目の末っ子として生まれました。学校の帰りには必ずお店に寄っていくという「家のきまり」があり、大地さんは、子どものころにお店のなかで遊んでいたことをよく覚えているそうです。
安平町にはスポーツセンター内にアイスアリーナがあり、お兄さんはアイスホッケーの少年団に入っていました。大地さんは自分も入りたいと親にお願いして入団、そこからアイスホッケーに熱中する日々が始まります。中学卒業後には、白老町にあるアイスホッケー強豪の北海道栄高校で寮生活をしながら活躍、高3のときにはチームが全国大会でベスト8に入りました。
高校卒業後の進路を考えるに当たって、お兄さんは家業とは別の道に進むと聞いた大地さんは、お店の後継ぎになることを意識します。進学した札幌大学では経営学を専攻、アイスホッケー部にも所属しました。大学卒業後は、住宅資材を中心に扱う札幌の商社に入社します。その会社は、大地さんのような実家の建材店を承継する人の修業先として知られていました。
札幌の商社で鍛えられ、後継ぎとして安平にUターン
当時の大地さんの担当は、建材や金物を扱う札幌市内のお店のルート営業。まず驚いたのは、朝からオフィスの電話という電話がけたたましく鳴っていたことでした。「8回線あるんですが、注文や問い合わせの電話が朝から晩までかかってくるんです。外の営業に出ていても、ケータイの着信記録の画面が1日で埋まってしまうほどでした」と話す大地さん。扱うアイテムも膨大な数で、覚えるのがとても大変だったといいます。
短気なお客さんも多かったとのことですが、それでも「認めてもらえるには地道にやるしかない」と覚悟を決めた大地さん。カタログ1冊の注文でもすぐに持って行くようにするなど、どんな小さなことにもすぐに対応して名前と顔を覚えてもらうようにしました。休日返上で頑張るうちに、お客さんのほうから融通をきかせてもらえるようになるなど、信頼関係を築ける顧客も増えていったといいます。
2017年に結婚、札幌での「修業」を終えた大地さんは、みやもと家具金物建材店の後継者として安平町に戻りました。札幌での同業種の仕事の経験から、家業もスムーズにこなせたのでは?とお聞きしたところ、「そうでもなかったんですよ」と苦笑する大地さん。
「安平の店では、お客さんの言う商品が、何を指すのか分からなかったんです。というのは、例えば木工用のビスを会社では『コーススレッド』と呼んでいたんですが、お店のお客さんから『もく(木)ビス』と言われて戸惑ったり。それも、お客さんにごとに何通りもの呼び方があったりするんですね。それに加えて、私は金物専門の営業でしたから、木材のことはまったく知らなかったんです。初めは、どの板も同じに見えましたね。お客さんのほうが、店のどこに商品があるかを知っていたりする。社長やスタッフに聞いたり、スマホで調べたりしながら、とにかく地道に覚えていきました」
震度6強の大地震、災害復旧の資材調達や配達に奮闘!
大地さんがみやもと家具金物建材店に入って2年目の2018年秋、大きな災害が起こりました。全道で停電となった「北海道胆振東部地震」です。震源地に近かった安平町では震度6強の強い揺れを記録しましたが、幸いにも2代目が太い柱を選んで丈夫に建てたというこの建物にはほとんど被害はありませんでした。しかし、店内では大部分の棚が倒れて大量の商品が散乱し、元に戻すのに2カ月かかったといいます。
大地さんがとても感謝しているのが、苫小牧にある電動工具メーカーの営業所さん。地震があったその日から停電の中バッテリーや食べ物をもってきてくれたり棚を元に戻す作業を手伝ってくれるなどとても助けられたそう。また、早来に北海道工場を構えているプレハブ住宅の建築メーカーさんから復興仮設住宅の資材の仕入れを担当を指名して頂き助けられました。
この地震により、安平町内で全壊・半壊した住宅は450棟にも上りました(住宅以外の建物を含めると、軽く千棟を超えます)。家に住めなくなった被災者用の仮設住宅を建設するために多くの大工さんが町内にやってきました。みやもとでは住宅建設に必要な建築資材を確保すべく奔走します。
専務の大地さんが当時の様子を説明してくれました。
「仮設住宅の建設では、1回の注文で石膏ボードが千枚とか、コンクリートパネルが500枚とか、普段は考えられないような数が必要になるんですね。小さな部品のビスだってトラックが満杯になるほどの量を運びました」
資材調達の早さも求められます。
「被災者の方々が入居する仮設住宅は、完成納期が決められていますからスピードが重要なんです。そこで私たちは、大工さんたちの作業を滞らせないために、以前の札幌の職場も含めて複数の商社に、それこそ『かき集める』ような感じで手配を進めました。建材メーカーさんも頑張ってくれましたね。本来は北海道まで届くのに2週間かかるようなところを、4日で届けてくれたりもしました」
また、建物や道路などの復旧作業に当たる地元の業者さんからは、ブルーシートなどの注文が次々と舞い込みます。強い揺れで道路は陥没したり隆起していたり、ひび割れていたりしましたが、とにかく行けるところまではトラックで商品を運びました。地震後2カ月間は「休み無し、寝るのがやっと」の毎日を過ごしていたといいます。
地域と家族を支えていく、4代目としての専務の思い
10年ほど前から、みやもと家具金物建材店では、主に高齢者のいる住宅向けに、トイレや浴室の手すり取り付けやスロープの設置などのリフォーム事業を手掛けるようになりました。
このリフォーム事業をもっと拡大していきたいと、大地さんは話します。「自分たちが施工を行うだけじゃなくて、注文を地元の工務店さんにも回せるようになればと思っています。一般の方々がリフォームをするときには、やはり知名度があるハウスメーカーに行ってしまうことが多いんですよね。地域密着で頑張っている地元の工務店さんたちは60代の方が多く、後継者がいなくてやめてしまうところもある。それは、自分としても寂しいし、やはり残ってほしいと思うんですよ。資材が売れるのはうれしいんですけれど、それ以上に、工務店の方たちの雇用とか、売り上げにも貢献したいという気持ちがあります」
また、大地さんは、みやもと家具金物建材店の認知度をもっとアップしたいとも考えています。「地元の人でも『お店があるのは知っているけれど、何をしているのか分からない』と言われたりするんですよね。うちのお客は主に業者さんなので仕方ないところではありますが、『こういったことをやっているんだ』ということを、もっとアピールしていければと思っています」
そこで、数年前に始めたのがインスタグラム。忙しくて、なかなか更新できていないそうですが、まちのキャンプ場に来た人が、インスタを見て薪を買いに来てくれたりもしているとか。
4代目の事業承継に向けて、さらなる業務の拡大を目指す社長。店で働くほどに父親の業務の大変さを知り、家族を養ってくれたことを感謝しつつ、しっかりと後継者としての経験を積んでいる専務の大地さん。はやきたこども園に通う娘さんは、まちのNPO法人である「アビースポーツクラブ」のチアダンスチームに所属しているそうで、「一生懸命に躍る様子がかわいいんですよ」と話します。大地さんも同じクラブの子ども向けアイスホッケーチームではコーチを務めていて、「楽しくみんなで頑張ること」をモットーに指導を行っているそうです。
休日には、北広島市のエスコンフィールド北海道のキッズエリアや、新千歳空港の「ドラえもん わくわくスカイパーク」へ遊びに行くなど、家族との時間も大切にしている大地さん。「安平は妻の実家がある札幌も車で1時間ほどですし、意外と都会から近くて利便性がいいんですよね。程よい田舎で自然も多くのんびり子育てできる、このまちを気に入っています」と話す大地さん。社長と同じように、仕事と家庭の両方を大切にする姿勢を引き継いでいるようです。
- 有限会社 みやもと家具金物建材店
- 住所
北海道勇払郡安平町早来大町25番地
- 電話
0145-22-2070
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