北海道の南東部・十勝エリアに位置し太平洋に面したまち、広尾町。こちらに事務所を構える林業会社、ログオーバー株式会社の平均年齢は、なんと28歳。これ、道内各地に数ある林業会社の中でもダントツの若さ。いや、全国的に見てもこれだけ若いスタッフが揃っている林業会社は珍しいはずです。同社は、2022年に創業したばかりの若い会社。2024年の春からは20歳の林業女子も入社し、現場でバリバリ活躍中ということで、お話を伺いに広尾町から北へ車で30分ほどの幕別町忠類の作業現場へおじゃましました。
森=林業は田舎の元気の源
北海道の代表的な木材「カラマツ」。強度が高く、建築材にも使用されています。
伐採されたカラマツの木が積み上げられている土場に到着すると、代表をはじめ、この日現場に出ていたスタッフの皆さんが揃って笑顔で迎えてくれました。日が照っていて本当に眩しくもありましたが、皆さんの笑顔も同じくらい眩しく、本当に平均年齢が若いのだなと実感。しかも、和気あいあいとした雰囲気で仲の良さが伝わってきます。
まずはログオーバーの会社について代表の平恭輔さんに伺うことに。同社では、良い森を育てるための植林や間伐といった森林整備の事業をはじめ、木を伐採し商材として出すための素材生産や丸太加工も行っています。さらに、後継者がいない山林の買取やそれらの相談も受けています。また、木育マイスターの資格を持っている平さんは、林業のことを知ってもらうためのイベントなどにも参加。ほかにも、林業に従事する人を確保するための林業機械運転の特別教育事業も展開しています。
ログオーバー株式会社 代表 平恭輔さん
平さんは広尾町出身。高校を卒業後、地元の森林組合に就職し、15年間勤務しました。林業の世界に入ったきっかけを尋ねると、「林業について詳しいわけでもないし、林業がどうしてもやりたかったわけでもなかったんです」と笑います。「ちょうど就職難の年だったこともあり、管理系の業務に就きたいと思って仕事を探していたら、たまたま森林組合の募集があって...」と振り返ります。とはいえ、祖父が山林を所有していたなど林業とはいくらか縁もあり、特に林業に対して抵抗はなかったそう。
平さんは森林組合に入って仕事をするうちに、林業の仕事の意義や重要性を知り、魅力を感じはじめます。
「林業って、森林があってはじめて成り立つもの。地域の環境と経済にダイレクトに繋がっている仕事なんです。山が整備されていないと、自然災害の発生の原因になるし、伐り出した木材は資源として供給していかないと地域の経済にも影響を与えてしまう。田舎の元気の源でもあると思うんです」
さらに、「林業は環境問題の解決にも大きく関係している仕事で、山を整備することが社会貢献にもつながる、意義もやりがいもある仕事」と話します。
森林組合の職員として林業に携わる中、従事者の高齢化、後継者不足により、技術の継承も行われないままの状況を目の当たりにし、このままではいけないと痛感。よくピンチはチャンスと言いますが、「若手と言われる自分たちが動くことで、この状況を打破し、問題を解決し、業界を盛り上げることができるのではないか。さらにそこには新たなビジネスチャンスもあるのではないか」と考え始めます。
仲間とともに新しい林業の形をめざして
平さんは長年勤務した森林組合を退職し、林業の会社ログオーバーを立ち上げようと決心します。「ログオーバー」のログは丸太、オーバーは超えるという意味。「丸太を超えるということで、今ある林業を超えていく、新しい林業の形を作っていくという想いを込めました」と社名について教えてくれました。
そんな平さんの想いに共感し、同じく組合で働いていた仲間と、異業種にいた地元の友人が立ち上げから関わってくれることに。平さん含め3人でのスタートとなりました。
会社を立ち上げる際に平さんがこだわったのが、理念や行動指針です。企業理念は「ログオーバーに関わる全ての人を豊かにする」。経営理念は「自利利他の精神をもって、人を育て森を育て、21世紀を代表する林業会社をつくる」。自利利他とは仏教用語で、他人を幸せにすることが自分を幸せにするという意味。つまり、お客さまやほかのスタッフのために動いた結果、それが自分の利益や豊かさに繋がるということ。ホームページの採用情報に掲載されている行動指針にも、この理念を反映したものが細かくしっかり書き記されています。
ここにすべては書ききれませんが、その行動は自分の為ではなく誰かの為になっているか、森を育てるにはまず人を育てる、人が笑える環境こそ生産性の最大化につながる...など、平さんが「人としての在り方」を重視しているのが分かります。
現在は平さんを含めて正社員が8人、季節雇用の臨時社員が6人。皆さん、平さんの掲げている理念や指針に賛同して仕事に携わっているスタッフばかり。「これ以上のメンバーはいないんじゃないかと思うほど、それぞれが自発的に動き、自分の役割をきちんと果たしてくれています。人間性も技術力も素晴らしい」と絶賛。「みんな、一緒に仕事をしたいと言ってうちに来てくれた人たちで、しかも能力が高い。そんなスタッフの雇用を守り、労働環境をよくしていくためにも新しいことにチャレンジしていきたいし、それが新しい林業の形に繋がっていけばと考えています」と続けます。
毎月開催している社内会議では、造林班、造材班がお互いにスケジュールを共有しながら、社員持ち回りで「勉強会」も行っているのだそう。
さらに、林業以外のこと、たとえばユニフォームのデザインを社員に挑戦してもらうなど、「いろいろなことをやってみてほしいし、それらを楽しんでほしいと思っている」と平さん。実際、次に登場する林業女子の山口結晶(きらる)さんが、もうすぐ完成するロングTシャツの色やデザインを担当したそう。
平さんの話をひと通り伺い、土場でスタッフの皆さんに会ったとき、本当に仲が良いと感じた理由が分かった気がします。平さんは、「林業の現場は黙々と作業することが多く、孤独な場面も結構あります。だから、みんなが一緒にいるときは笑い合えるような環境、関係性を築いていたいと考えています」と語ります。とは言っても、林業は安全第一ですから、「きちんと締めるところは締めています」とニッコリ。決してなれ合いの仲良しこよしではないというプロ意識もしっかり感じられました。
チェーンソーや重機を駆使する期待の女子
さて、次に登場してもらうのは、2024年の春に新卒で入社したばかりの期待の新人、山口結晶(きらる)さんです。旭川にある北海道立北の森づくり専門学院(北森カレッジ)を卒業して、ログオーバーに入社しました。まだ20歳という山口さん、社員の中では最も若く、しかも現場で作業するスタッフの中では唯一の女性。写真撮影中、平さんやほかの先輩スタッフが「きらちゃん、頑張れ」と見守っている様子から、山口さんがみんなから可愛がられているのがよく分かります。
オシャレも仕事も楽しむ!期待の新人・山口 結晶さん。
ネイルを施した爪に、ピアス、染めた髪。その姿は街中で見かける20歳の女の子そのもので、おっとりした口調で話す姿からは、山林の中でチェーンソーを持ち、重機を操縦するなんて想像もつきません。
「小学校時代は野球とスピードスケート、中学時代はソフトボール、高校は弓道をやっていて、もともと体を動かすのが好きなので、草刈りするのも、チェーンソー使うのも、あとは重機に乗るのも好きです」
そう笑顔で話す山口さん。出身は十勝管内の豊頃町で、高校は隣町にある池田高校へ通っていました。母方の祖父が浦幌町で林業会社を営んでいたこともあり、幼いころから身近に林業があったそうですが、仕事として興味を持ったのは高校の授業でした。
「授業の中で池田町の地域おこし協力隊の女性が山に入って木を伐る姿を見る機会があって、そのときにすごくカッコいいと思ったんです。そこから興味を持つようになりました」
子どもが好きで、当時は保育士になりたいと考えていた山口さん。「でも、小さい子の命を預かるって考えたら、急に怖くなっちゃって...」と、保育士になるのを断念します。そして、卒業後の進路に悩んでいた際、高校の先生から北森カレッジを勧められます。
「チェーンソー持ったらカッコいいんじゃない?って先生に言われて(笑)。確かにじっとパソコンの前に座って事務仕事ができるタイプではないし、どちらかと言えば体を動かしていたいほうだったし、地域おこし協力隊の女性のことも思い出して、カッコいいならいいかもと思って北森に行くことにしました」
ところが、母親から猛反対されます。男社会と言われた古い林業の世界を知っている母親としては、大事な娘をそんな業界に進ませたくないと思ったそう。「でも、押し切って旭川へ行きました。雪があるところに住んでみたいというのもあって」と笑いながら振り返ります。
「北森に入学してすぐは、みんな人見知りだったからあまりしゃべったりもしなくて、ホームシックになっちゃったんですけど、1カ月もしたらみんなすごく仲良くなって、それ以降はとにかく楽しい学校生活でした。全道各地の林業にまつわる会社などを泊まりで回る地域見学というのがあったんですけど、それは修学旅行みたいな感じで本当に楽しかったです」
在学中にインターンとしていくつかの会社を訪れますが、そのひとつがログオーバーでした。
「飽きっぽいところがあるので、造林から造材まで、何でもやっている会社に就職したいと考えていました。ログオーバーはいろいろやっている会社だし、2回インターンで来たんですけど、とにかく雰囲気がいいし、皆さん仲が良くてやさしいし、いい会社だなと思っていました」
インターンの際、平さんに「保育士になりたかった」という話をすると、木育マイスターについて教えてくれたそう。学校で行った木育イベントに山口さんも手伝いで参加し、「林業の仕事でも子どもと関われることがあるんだと知りました。そして、イベントに来ていた子どもたちはもちろん、お母さんたちが笑顔になっているのを見て、木育を通してお母さんたちを笑顔にしたいなって思ったんです」と話します。「うちに来て木育マイスターの資格を取ればいいよ」と平さんに言われたことも後押しとなり、ログオーバーに入社を決めます。
「木育」の一環として、さまざまなイベントで木材や林業を身近に感じてもらう活動もしています。
林業を通して自分のなりたい姿へ
入社してからは、先輩たちにいろいろ教えてもらいながら仕事に取り組んでいる山口さん。仕事でやりがいを感じるのはどういうときか尋ねると、「草刈りも植付も皆伐も、終わったあとの達成感が凄くあるんです。作業したあと後ろを振り返ったらすごくキレイで、『私、めっちゃ頑張ったじゃん!』って思う」と楽しそうに笑います。「それに、外で仕事をするってとても開放的で気持ちいいんですよ。そういうことをもっと若い人にも知ってもらいたい」とも話します。
アクティブに活動することが好きな山口さんにとって、林業という仕事が肌に合うようです。
山口さんは夏の終わり頃に専用の重機を与えてもらったそう(しかも新車)。「最初は怖いって思いましたが、2カ月経った今は慣れてきて、楽しいなと思えるようになりました」と話し、運転席に乗っている姿もなかなか様になっています。新人に新車を預けるとは意外な気もしますが、平さんは「とにかくいろいろな経験をしてほしいと思っています。それに、新車に乗っていると気持ちいいし、やる気も出るでしょ」と笑います。
実際に現場で山口さんの指導もしている生産管理部マネージャーの坂本龍之助さんは、「きらちゃんはとにかく素直。裏表がないし、サバサバしていて接しやすいです。自分から積極的に仕事に対して取り組むし、自分の作業が終わったら、できることありますか?って声をかけてくれるからすごく助かっています」と話します。
切り出された木を掴んで持ち上げ荷役を行う「グラップル」の操作もお手のもの!
先輩たちからの評価も高い山口さんですが、「会社の人たちがみんないい人なんですよ。本当に優しい人ばかり。分からないことやできないことがあっても、しっかりサポートしてくれるからありがたいです。だから、自分も頑張ろうって思えます」と話します。そして、「肩の力を抜いて、みんなで笑いながらホッとできる休憩時間が一番好きなんです」とニッコリ。その話からも会社の雰囲気の良さが伝わってきます。
最後に、山口さんにこれからやってみたいことや夢を尋ねると、「今、木育マイスターの結果待ちなので、資格が取れたらいろいろなイベントに出て、子どもやお母さんたちに木を使ったものの良さを伝えるとともに、林業にもっと関心を持ってもらえるようにアピールしたいですね。あとは、いつか大きな木をチェーンソーで伐倒してみたい!」と元気に答えてくれました。
そう話す様子をにこやかに後ろで見ていた平さんが、「ミズナラとか銘木市に出せるような立派な木を伐れたらいいね」と優しく声をかけると、「はい!そういうのを伐ってみたいです!」と満面の笑みの山口さん。そんなやり取りを見て、あらためて人を育て、森を育てる会社なのだなと感じました。
- ログオーバー株式会社
- 住所
北海道広尾郡広尾町紅葉通北1丁目4番地7
- 電話
080-1897-4618
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