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恵庭市

地域創成を担う道の駅近接のホテル、マリオットの企業風土を探る20240924

地域創成を担う道の駅近接のホテル、マリオットの企業風土を探る

近年、道の駅に近接したホテルが各地に増えているのを知っていますか?北海道では恵庭市、長沼町、南富良野町にある道の駅にホテルが近接しています。ホテルを展開しているのは、フェアフィールド・バイ・マリオット。アメリカ発祥でグローバルに世界展開するマリオット・インターナショナルの一ホテルブランドです。

「あの世界のマリオットがなぜ道の駅に?」
「大変失礼ながら世界的に有名な観光名所があるとは言えない市町になぜ?」そんな疑問を感じます。

「フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道えにわ」を訪れてホテルの狙いや想いを伺ってみると、これぞ地方創成という取り組みに驚嘆しました。そして、根底にあるものはスタッフ各人のホスピタリティを重視する職場環境であり、企業風土でもあります。地域経済の潤いとともに、地元の方の雇用を通じた生活環境の好転など、道の駅に進出し地域創成を担うホテルの現状を紹介します。

フェアフィールド・バイ・マリオットのコンセプト

今回お話を伺ったのは、恵庭市の道の駅「道と川の駅 花ロードえにわ」に近接した「フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道えにわ」の支配人を務める高嶋武さんと、支配人代行の秦暢章さん。高嶋さんは恵庭市のほか長沼町の道の駅「マオイの丘公園」と南富良野の道の駅「南ふらの」に展開するフェアフィールド・バイ・マリオットも合わせ、3カ所の支配人を兼任されています。まず、そもそもフェアフィールド・バイ・マリオットとはどのようなコンセプトのホテルブランドなのかを確認しましょう。

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フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅プロジェクトは、マリオット・インターナショナルのホテルブランドの1つとして、2024年8月現在、日本全国に宿泊特化型のホテルを29施設運営しています。どれも各地の道の駅に近接しているのが特徴です。このプロジェクトは「未知なるニッポンをクエストしよう」をコンセプトに掲げ、ゲストに地域の知られざる魅力を体感し、各地を渡り歩いてもらうことを目指しています。その土地ならではの自然と歴史や文化、食事などを堪能できるホテルステイを提供しています。

フェアフィールド・バイ・マリオット道の駅ホテルの特徴的なことは、宿泊に特化し、食事は道の駅を中心とした地元に委ねている点です。快適に安眠できるベッドやバスタブのないレインシャワータイプの浴室を備えた客室と、ゲストが自由に利用できるラウンジやランドリールームなど、施設自体はシンプルな展開です。もちろん、マリオットグループならではの世界一流のホスピタリティは健在です。一般のホテルのロビーなどでよく目にする近隣ガイドや観光案内パンフレットなどは一切設置しないという、洗練されたスタイルや雰囲気を提供するマリオットグループの方針も踏襲しています。

ただ、旅行者の立場からすると、近隣の見どころや穴場の場所など地域情報を収集するため、観光案内パンフレットなどは手にしたくなる方は多いのでは。「だからこそ、ゲストとスタッフのコミュニケーションが生まれるのです」と高嶋支配人。地元の情報に精通したうえで、ゲストの旅行の目的や希望などを把握し、楽しく快適に過ごしてもらうための案内など丁寧な接客をしているようです。さすが、世界のマリオットグループです。

宿泊に特化しているため、館内にレストランや大浴場はありません。食事は道の駅や近隣の飲食店、浴場は部屋のシャワールーム以外を利用する場合は近隣の温浴施設を利用します。こうした方針がフェアフィールド・バイ・マリオット道の駅ホテルの大きな特徴であり、道の駅に隣接して展開する背景です。また、必ずしも有名な観光地である必要はなく、食を中心とした地域のコンテンツがあり、魅力をより発信しやすい環境という視点で道の駅にフォーカスをあてています

ゲストに対しては、心地よいホテル滞在の環境とともに、ホテル周辺に出かけて地元の方と触れ合ったり食事を楽しんだりするための仕掛けや案内など、新しい旅のスタイルを提供。地域に対しては、各施設・各店舗への送客とともに、安定的な勤務先としての雇用の場を提供しています。地域創成を担うホテルという由縁です。

夕食や朝食の提供は地域で担う

具体的な取り組みについてと職場環境についてなど、より踏み込んだ内容を高嶋さんにじっくり教えていただきました。高嶋さんは神奈川県横浜市出身で、前職は日系のホテル勤務でした。同業の知人から「今度マリオットグループで地方創成をテーマにしたホテルができるからどうか」と誘いを受け、2021年に転職。はじめは三重県にある同ブランドのホテルで勤め、2022年に恵庭市での開業に続いて2023年に長沼町と南富良野町に開業して道内3施設になるのを機に異動の声がかかり、現在に至ります。前職で北海道勤務の経験が数年間あったことから、雪国でのホテル運営に携わっていたノウハウを買われたそうです。

eniwa_mariotto06.jpg支配人の髙嶋武さん

はじめに、地方創成を目的としたホテルの現状を深堀りすべく、フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道えにわでの取り組みについて確認してみます。高嶋さんは、「ホテルはあくまでも泊まる場所で、食事については市内の飲食施設を大いにご利用いただいて、市内の消費拡大につなげたいという想いです」と語り、地域と協働する夕食や朝食の仕組みついてを教えてくれました。

夕食に関しては、道の駅にあるレストランのほか、市内各所にある飲食店を積極的に案内しているそうです。道の駅は市内の繁華街から離れた場所にあり、道の駅以外の施設を利用するには車で5分から10分くらいの距離にて車かタクシーが必須です。夜にお酒を飲むならタクシー一択になります。
そこで、恵庭市はとても粋な取り組みをしています。消費拡大事業としての予算を組んで、ホテル宿泊者に対して片道1000円分のタクシー利用券を往復分提供しているのです。「片道1000円あれば市内の飲食店や温浴施設に行けます」と高嶋さん。行政も地方創成を掲げるホテルの取り組みを評価し、地元にお金が落ちる仕組みをしっかり後押ししてくれています。

朝食に関しては、地域の食材をふんだんに盛り込んだ朝食BOXを、道の駅や地域のレストランなどに依頼をして用意しています。フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道えにわに関しては、宿泊日の5日前までにインターネットで朝食ボックス付き宿泊プランを予約すると、宿泊翌日の朝に朝食ボックスを受け取れます。

eniwa_mariotto07.jpeg各地域のオリジナリティーが溢れる朝食ボックス

朝食ボックス以外には、フロント脇にある小規模な売店で地元の飲食店が製造した冷凍の釜飯をはじめ、市内の飲食店や仕出し弁当店の商品を委託販売もあります。冷凍品といっても侮れません。「かなりクオリティ高くて冷凍食品という感じはしないです」と高嶋さんも太鼓判を押します。売店は小規模ながらも道の駅で取り扱っている飲料などを委託販売もしており、ホテルと道の駅の密接な関係性や取引状況は朝食以上だそうです。夕食と朝食の展開について教えてもらうと、このホテルが地域の食の消費を促す核になっているのだと実感します。

地元の方々を正社員雇用し、良好な職場環境を維持する

ホテル内に観光案内やパンフレット類が一切なく、食事場所が市内の各所となると、いくらホスピタリティ溢れるスタッフが揃っていても案内するのは大変なのではないかと気になります。そもそも、市内の飲食店などの情報を把握して覚えるだけでも大変でしょう。

お話を伺っていると、そう思うのは杞憂でした。スタッフの多くは恵庭市民を直接雇用。長沼町や南富良野町に関しても地元の方々を採用しています。当然ながらみなさん地元に詳しい方々ばかりです。地方創成をテーマに掲げるホテルの求人へ志望をしてきた方々ということもあり、地元愛にも溢れています。地元の方だからこそ知っている地元のおすすめグルメや穴場スポットなど、スタッフ間での情報共有もしたうえでブラッシュアップし、ゲストに接しているようです。高嶋さん自身は市内の飲食店に挨拶に出向いて地域との信頼関係を築きつつ、情報収集に努めたそうです。

大都市に比べて働き口が少ないと言われることが多い地方市町にマリオットグループが進出し、地元の方を採用する意義も大きいです。北海道のホテルでは、契約社員や季節限定社員の雇用が多いのが実情ですが、マリオットグループは夜勤が一切できないなど特段の事情がない限り基本的には正社員雇用。安定した雇用状態で働けるので、安心して仕事に集中できる環境と言えます。

さらに、正社員雇用というだけではなく良好な職場を維持することにもかなり腐心しているそうです。

「外資系のホテルは初めてだったのですが、ハラスメントに対する意識と、あらゆる部分でのセキュリティの高さは、日系企業よりもはるかに厳しく、しっかりしていると感じました」

高嶋さんがマリオットグループに転職した時、ハラスメントやセキュリティに関する会社の厳しい姿勢を真っ先に感じたそうです。そのうえで、支配人として組織を運営していく際に一番気をつけていることは、職場環境だそうです。高嶋さんはこう語ります。

「働いているスタッフがすごく働きやすい環境を整えることが重要だと思っています。職場内がギスギスしないってことですね。お互いに敬意を払って接するってことが大事です。たとえば、スタッフは年齢が20代から50代 までいらっしゃるので、50代の方が20代の方に対して何々君と『君』で呼ぶのではなく『さん』と呼びなさいとか。言葉遣いとかもハラスメントに感じるような言葉を使わないとか、もしそのような場面があったら注意するとか。少人数の組織なので協力関係がないと成り立たないです。この部分が一番大事です」

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ホテルのフロントスタッフはみな対等、清掃スタッフもみな対等という意識をもって取り組んでいるので、ギスギスした感じはなく良好な人間関係と職場環境が保たれているようです。だからこそ、接客のホスピタリティにも磨きがかかるのかもしれません。恵庭市だけではなく、長沼町と南富良野町でも同様のスタンスで同じく良好な職場環境を保っているそうです。

ホスピタリティは自然に湧き上がるもの

実際の職場環境など働きやすさはどうなのでしょうか。日々の業務とともに支配人が不在時に業務を代理で対応している、支配人代行の秦さんにお話を伺ってみます。

秦さんは愛知県豊橋市出身で、大学卒業後に就職を機に北海道へやってきました。ホテルの飲食部門に就いたのち飲食店へ転職し、地方創成を掲げるホテルの求人に魅力を感じてマリオット・インターナショナルへ再度転職。接客業が長いとはいえ、ホテルの飲食業務以外は未経験で入社をしました。
フェアフィールド・バイ・マリオット北海道えにわのフロントなどを担うスタッフは、高嶋さんと秦さんを含めて総勢10名。そのうち半数以上の方がホテル業界未経験の方だそうです。世界有数のホテルチェーンのマリオットグループで、ホテル業界未経験の方が多いというのは少々意外に感じました。

eniwa_mariotto11.jpg支配人代行の泰暢章さん

「例えば、荷物が多いお客様が目の前でいた時にその人に手を差し伸べるかどうかって、多分教えて身につくものじゃなくて自然に動いているっていうのが、接客が好きな人の特徴かなと思います」

秦さんはこのように語りました。当然ながらマニュアルがしっかり整備されているうえ、入社をして約2カ月間研修があるため、フロント業務の大まかな流れなどはここで身につくそうです。ただ、ホスピタリティは学んで習得できるものではなく、あくまで個々人のパーソナリティ次第。ホテル業界の経験有無よりも接客業自体に向いているかどうかということのほうが大事なポイントのようです。秦さんは、「全然違う業界の考え方とかを生かしながら一緒に運営できる」と言い、多様性を生かすことをメリットと捉えています。

スタッフ同士お互いを尊重し合う風土

ホテルは365日24時間稼働している仕事で、特に週末や連休などは忙しくなりがちです。他業界から転職した方々は年末年始などまとまって長期間の休みが取りにくいということに戸惑いを感じるということもあるようです。もちろんみなさん働き詰めではなくシフト制で動いており、連休もあります。また、家庭環境などの事情を考慮した働き方を意識した職場環境のようです。

秦さんには幼少の子どもがおり、秦さん以外にも子育てをしながら夜勤もこなしているスタッフが複数いるそうです。

「私に子どもがいるからなおのことわかるのですが、スタッフみんなお互い様って感覚は強いです。子どもが急に体調崩したので迎えに行くため早退したりシフトを変わってもらったりとか、みんな理解し合って仕事をしています」と秦さん。スタッフはみな対等でギスギスした環境を作らないという方針が徹底されているからこそのお話かもしれません。スタッフ同士の会話でも相手の受け止め方を意識した話し方や伝え方を心がけているうえ、スタッフの様子が普段と少し違うと感じたり何か問題やトラブルが起きたりした時は、すぐに問題を解決しに動いているそうです。

高嶋さんの話に続いて秦さんにもお話を伺うと、ホスピタリティのマインドを持つ方々が、年齢や性別などに関係なく、対等に思いやる意識を持って接する職場なのだということを強く感じられました。当然、ゲストに対するサービスもこうしたホスピタリティのマインドがあるからこそでしょう。

高品質なサービスを提供する地域創成ホテルに期待

フェアフィールド・バイ・マリオット道の駅ホテルは地方創成を担う期待のホテルです。ゲストには全国の道の駅と地域を巡る新しい旅のスタイルを提案。全国の29施設を泊まって集める「スタンプラリー手帖」を販売しており、ゲストの中には、そのスタンプ帳を手に、10拠点以上訪れた方もいらっしゃるそうです。

地域に対しては送客と雇用を提供し、それぞれにウィンウィンな関係を築いています。スタッフに対しては、安心して働くことができる職場環境を提供することで職場内トラブルや離職がほぼなく、ポジティブで安定した運営をしています。

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「安定的に働いて将来の計画を少しでも立てられるっていうのがすごく魅力があるんじゃないかなと思いました。そう感じたのは、現にここにいる入社した社員は1年ぐらい経ってきますと『車が新車に変わりました』とか『結婚しました』とか、『マンションを購入しました』という話を聞くんです。ああ、よかったな、って思いました」

高嶋さんはそう語ります。

新しい取り組みや新しい施設ができても、そこを維持して運営するスタッフがいないと機能しません。高嶋さんの言葉や第一線で働く秦さんの姿から、かなり働きやすい環境なのだと実感しました。社会的・経済的な余裕は心の余裕にもつながります。だからこそ、世界最高水準のホスピタリティを維持しているのかもしれません。道の駅に近接した地域創成を担うホテル。これからもより地元に密着した高品質なサービスを提供していくのでしょう。ほかの各地にも広がっていくことを期待します。

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フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道えにわ
フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道えにわ
住所

北海道恵庭市南島松828-9

電話

0123-29-6250

URL

https://www.marriott.com/ja/hotels/ctsfe-fairfield-hokkaido-eniwa/overview/

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地域創成を担う道の駅近接のホテル、マリオットの企業風土を探る

この記事は2024年7月24日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。