HOME>このまちのあの企業、あの製品>富良野に来て推し変!? 藤井牧場で見つけた夢いっぱいの酪農。

このまちのあの企業、あの製品
富良野市

富良野に来て推し変!? 藤井牧場で見つけた夢いっぱいの酪農。20240831

富良野に来て推し変!? 藤井牧場で見つけた夢いっぱいの酪農。

動物が好きな人なら、一度くらいは「牧場で働くこと」を夢見るのではないでしょうか。愛らしい牛たちに囲まれて、豊かな自然の中で暮らす―。そんな毎日は憧れでもあります。

とはいえ、実際に牧場に就職する人は多くありません。それはきっと命を育むことの大変さや、責任の大きさ、イマドキとは言い難い働き方などを想像してしまうから。それゆえ、酪農に従事する人は年々減少し、業界は慢性的な人手不足。高齢化も深刻で、酪農事業者は年々少なくなっています。

そんな中、社員50人の内、20代の若者が4割。さらに毎年のように新卒学生が入社を希望するのが富良野市にある藤井牧場です。創業は今から120年以上前、明治37年。北海道でも指折りの歴史を誇る牧場ですが、酪農業界に次々に新しい風を吹かせる姿勢は、気鋭のベンチャー企業のよう。

「今はホルスタインが可愛くて仕方がない」と、人懐っこい笑顔で話してくれた吉野健さんも、藤井牧場のほかとは違う一面に惹かれ、はるばる富良野にやってきた一人です。

fujiibokujo_02.jpgこちらが、今回インタビューを受けていただいた吉野健さん。

オフィスワークは無理〜(笑)

出身は神奈川県。小学校から高校まで野球に打ち込み、大学進学の際、動物に関わる仕事に就けたらと北里大学の獣医学部、動物資源科学科を志望しました。北里大学を選んだ理由は、田舎暮らしへの憧れ。というのも同大学の獣医学部は、1年次は神奈川県の相模原キャンパスで学び、2年次以降は自然豊かな青森県の十和田キャンパスで学びます。「一人暮らしをする、良い口実になると思って」と吉野さんは笑います。

動物資源科学科で学ぶのは、資源としての動物の能力を引き出す技術や、動物が快適に生活できる飼育方法など。キャンパスでは豚や鶏、羊などを飼育し、中でも吉野さんが興味を持ったのが牛。特に和牛品種のひとつである日本短角牛を「牛で一番可愛い」と感じ、その生態をテーマに研究を行いました。

卒業後の進路については、これという目標はなかったものの、豊かな自然と動物たちに囲まれる学生生活を経験し「オフィスワークは無理(笑)」と判断。大学で学んだことを活かそうと牧場に就職することを考えました。

「牛を育てる以外にいろいろな仕事にチャレンジできるのが良いと思い、『六次化』に取り組んでいる牧場を探しました。その際、求人サイトでヒットしたのが藤井牧場を含む3つの牧場。肉牛を生産している所が2軒、牛乳を生産している所が1軒。全部の牧場にインターンシップを申し込みました」

fujiibokujo_08.jpg

藤井牧場に入社できないなら、就職そのものを止めてもいい!

3つの牧場を訪ねた結果、「ダントツで楽しかったのが藤井牧場だった」と吉野さん。

「ここはスタッフ同士の"距離"が近いというか、どの部署へ行ってもコミュニケーションが活発で、会社としての一体感があると感じたんです。ステップアップの仕組みも整っていて、最初はこれ、次はこれ、その後はこれ...と覚えるべきことも明確。ここなら自分の成長も感じられ、働いていて楽しそうだと思えました。社員食堂のご飯もすごくおいしかったですし(笑)」

また藤井牧場では、日本初の「農場HACCP」認証を取得したり、牛の安楽性を追求して牛舎に「サンドベッド(砂のベッド)」を導入したり、その砂を自社でリサイクルする「サンドセパレーター」を取り入れたり。前例がないことにも果敢にチャレンジする姿勢に「働きがいがありそう」と期待を膨らませました。

もうひとつ、吉野さんが「衝撃を受けた」と話すのが若い社員の活躍ぶりです。

「年齢は自分と大きく変わらない社員たちが、しっかりとした考えを持って責任ある仕事に携わっていたんです。中には20代で役職に付いている人もいて、学生気分でインターンに来ていることに、正直、恥ずかしさすら覚えました。
藤井牧場で働けば自分もこんな風に成長できるのかと、迷わず入社を希望。ここに入れないなら、就職そのものを止めてしまおうかと思ったくらいです(笑)」

fujiibokujo_09.jpg多くの若い社員が活躍している藤井牧場。

生産量にも影響する、削蹄(さくてい)の技術を習得中

2022年4月、吉野さんは晴れて藤井牧場の一員になりました。同社では、新人はまず搾乳から学び、ジョブ・ローテーションしながらさまざまな知識・技術の習得を目指します。

「大学では酪農について専門的に学んでいなかったので、何もかもが初めての経験でした。搾乳では、先輩たちが手際よく作業する様子を見て、自分にも簡単にできるだろうと思ったらぜんぜん乳が出ない...(苦笑)。そして、何百頭も搾乳すると手に力が入らないくらい腕がパンパンになる。そんなことも入社して初めて学びました」

fujiibokujo_10.jpg

「搾乳を一通り学んだ後は、牛舎の掃除と牛舎から牛を出す「牛追い」、サンドベッドの砂の管理などに携わり、現在は削蹄を学んでいる最中です」

削蹄とは牛の蹄を切る作業のこと。削蹄には伸びた部分を切る目的と、蹄の病気「蹄病」を治療する目的があり、蹄病は管理を徹底していても発生しやすい牛の病気のひとつだそう。蹄に傷が付くと膿が溜まったり、蹄に穴が開いたりすることもあるとか。足が痛い時に歩くのが嫌になるのは人も牛も同じ。運動量が減ると食べる餌の量も減り、生産される乳量も低下してしまいます。

「特に夏場は蹄病が発生しやすく、早めの治療が肝心。牛の状態を細かく観察して、歩き方がぎこちなくないかなどに注意を払っています」

fujiibokujo_01.jpg

成長支援制度でステップアップの基準が明確

藤井牧場のスローガンは「牛も人もどんどん育てる牧場」。その人材育成で重要な役割を果たしているのが独自の成長支援制度です。
同社が作成した「成長支援シート」では、それぞれの社員に求める業務が明確に示され、達成度を上司が評価して三カ月ごとに本人にフィードバックします。社員はそれに基づいて、自分で成長目標を作成することができます。

社員には「プレイヤー」「プレイングマネージャー」「マネージャー」という階層があり、階層のアップには、各段階において成長支援シートで80点の獲得が必要。
「プレイヤー」は牧場の全ての仕事を7〜8年で習得することを目指し、「プレイングマネージャー」は自身も働きながらプレイヤーを育てることが目標。人を育てるスキルを身に付けた社員は「マネージャー」となり、経営者と共に牧場の経営を担う立場となります。いずれは分場牧場の運営に携わることも期待されています。

「今は目の前の仕事を覚えるのに必死ですが、いずれは会社の経営方針を考える、社長の右腕のような立場になれればと思っています。と言っても、あの"太い腕"の役目を果たせるようになるのはまだまだ先になりそうですが...(笑)」

fujiibokujo_07.jpg

2030年、富良野に新しい村が誕生する!?

酪農業界の未来を考えさまざまなチャレンジを続ける藤井牧場が、2030年のスタートを目指して進めているのが「富良野未来開拓村」というプロジェクトです。

今から100年以上前、北海道の開拓に携わった人々は、困難に直面しながらも、大地を切り拓き、農業を営み、生活の基盤を作ってきました。そして現在、北海道の農業は高齢化や人手不足、環境への負荷、輸入飼料の高騰といった100年前にはなかった課題に直面しており、新たな時代を「開拓」することが同プロジェクトの目的です。

離農者の畑を活用した飼料生産や、温暖化の原因となる「牛のげっぷ」を抑える飼料の研究、職場としての働きやすさの追求などが予定されている取り組みの例。藤井牧場が積み重ねてきたノウハウや外部の専門家の知見、最新のテクノロジーも活用しながら、さまざまな課題に挑んでいくと言います。

また近年、開拓村の設立に先立ち、多方面から注目を集めているのが、お腹にやさしく、ゴロゴロしにくい「A2ミルク」です。藤井牧場が遺伝子レベルの研究を経て、お腹を崩す原因となるタンパク質を含まない牛乳を商品化。牛乳が苦手だった人、飲むのに不安を感じていた人など、新しいマーケットを開拓するものとメディアでも話題となっています。

fujiibokujo_06.jpg藤井牧場が研究を重ね、開発した「お腹にやさしく、ゴロゴロしにくいA2ミルク」

開拓村の中心には、乳牛生産の研究施設や情報交換のための交流スペースの建設が予定され、酪農に従事する社員の住まいや子育て支援施設を作ることも構想に含まれています。

「開拓村のプロジェクトは、働く社員から見ても夢があり、いろいろなことに挑戦できそうだとワクワクした気持ちになります。新たにできる研究所で、消費者が求める牛乳を一から自分たちの手で作っていけるのも楽しみ。今まで以上のやりがいが得られると期待しています」

fujiibokujo_04.jpg

牛柄に惹かれて「推し」が変わりました

吉野さんが学生時代、日本短角牛という和牛品種の研究をしていたのは前述のとおり。日本短角牛は、その名のとおり角が短く、全身が黒く、主に肉牛として東北から北海道にかけて生産されています。

「日本短角牛は、とにかく顔が可愛いんです。やさしい目をしていて、ここに来るまでは"牛で一番"だと思っていました。ただ、どの牛も黒くて見分けるのはちょっと難しい。
一方、乳牛のホルスタインは一頭一頭、模様がぜんぜん違うので識別が簡単。どれがどの牛かわかれば、それぞれの特徴や性格も際立って感じられ、愛着も湧いてきます。もともと人懐っこい品種でもあるので、今はホルスタインが自分の中でナンバーワン。富良野に来て『推し』が変わりました(笑)」

fujiibokujo_03.jpg

有限会社藤井牧場
住所

北海道富良野市八幡丘

電話

0167-29-2988

URL

http://www.fujii-bokujo.com/

GoogleMapで開く


富良野に来て推し変!? 藤井牧場で見つけた夢いっぱいの酪農。

この記事は2024年7月19日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。