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東川町

イイモノを作る。実直な姿勢が会社を成長させた「ヒグマ乾燥機」20240825

イイモノを作る。実直な姿勢が会社を成長させた「ヒグマ乾燥機」

一度聞いたら忘れられない社名ってありますよね?今回紹介する「ヒグマ乾燥機株式会社」もまさにそう。「ヒグマを乾燥?」と、思わず想像してしまいますが、同社が乾燥するのは「木材」。木材専用の乾燥装置を製造・販売している会社なのです。

木材乾燥機を製造販売している会社は全国で6、7社しかないと言われ、ヒグマ乾燥機は道内だけでなく全国各地に顧客がいるそう。最近は九州方面からの引き合いが多いということで、出張も多く忙しい中、代表取締役の鈴木吉彦さんに会社のことや仕事、従業員への思いなどを伺いました。

ひょんなことから40代半ばで会社を立ち上げることに...

6年前、北海道東旭川から北海道のほぼ中心部、旭川市の東隣にある人口約8,000人のマチ、北海道東川町に本社と工場を移した「ヒグマ乾燥機株式会社」。創業自体は平成11年(1999)で、翌年「ヒグマ乾燥機」という社名に。

「1回聞いたら忘れられないようなインパクトのある名前にしようと思って、『ヒグマ』と付けました。本州に行くと、必ずみんな1回で覚えてくれますね。それから、普通は『製作所』とか『鉄工所』と付けると思うんだけど、うちはすぐに乾燥機の会社だって分かるように『乾燥機』と付けました」

higuma_05.jpgこちらが、ヒグマ乾燥機株式会社代表取締役の鈴木吉彦さん。

そう言って笑う鈴木社長は、今年73歳。雄大な大雪山の麓・上川盆地の東端にある、小さな町の北海道当麻町出身で、今も当麻町から会社に通っているそうです。もともと木工機械関連の会社で営業マンとして活躍していた鈴木社長、40代で子会社だった木材乾燥機の会社に移りますが、1年ほどして会社が倒産してしまいます。

「もともと自分で会社をやろうというような野心もなければ、社長の器ではないと思っていたから、会社を興す気はまったくなかったんです。でも、技術スタッフらに会社をやってほしいと言われ、引き継ぐような形で仕方なく...というのが実は始まりです」

40代半ばだった鈴木社長は、なんとか創業資金をかき集め、「腹をくくった」と話します。木材乾燥機の会社としては後発だったこともあり、最初のうちはかなり苦労したと言います。

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木材をしっかり乾燥させることで、丈夫な建物が建てられる

ここで素人的な質問。そもそも木材を乾燥させるのはなぜなのでしょう。乾燥させる必要性などを教えてもらいました。

「昔は生木を多く用いて住宅を建てていました。乾燥したとしても自然乾燥だったため、水分は残っている状態です。ですから、家を建てて1年もすると、木が乾き始めて、割れたり、寸法が変わったりして、住宅に不具合が出てきてしまいます。そのしわ寄せは建具にいくわけで、不具合が出てくると建具職人が呼ばれて、建具を調整していました」

higuma_07.jpgヒグマ乾燥機が製造している木材乾燥機の一例。

30年近く前は、こうしたことから住宅業界のことをクレーム産業と呼ぶ人もいたそうです。

「業界全体で、20数年前から木材はしっかり乾燥させてから使いましょうとなり、今は木材の含水率18%が常識となっています。乾燥させた木材を用いることで、気密性が高い、丈夫な家を建てることができるようになり、クレームも減っていったというわけです」

木材乾燥機設置に関する国からの補助金も出るようになり、木材会社だけでなく今は住宅メーカーなどでも自社の専用機械を設置するようになっているそうです。

とにかくイイモノを作ろう。必死に走り続けた最初の10年

会社を立ち上げた際、営業は鈴木社長のみ。あとは前の会社から残った技術職のメンバーだけでした。

「木材の機械関連の会社で営業をやっていたと言っても、木材乾燥に関しては1年足らずしか営業をやっていなかったので、ほぼゼロからのスタートでした。出る杭は打たれるじゃないですが、同業他社から足を引っ張られることも多々ありました。それでもね、従業員には『とにかくイイモノを作ろう』と言い続けました」

「イイモノを作っていれば、きっといつか認めてもらえる」という強い信念を持ち、技術担当の従業員たちを信じ、日々営業活動に奔走。これといった伝手もなかったため、最初のうちは電話帳を見ながら順に電話をかけ、飛び込み営業もしたそうです。

higuma_08.jpg社長と社員のみなさま。いまでも営業を続けている社長の姿に感服しているそうです。

「周りに『あそこは潰れるよ』と噂されたこともたくさんありましたし、最初のうちは確かに給料が払えないようなこともありました。途中で会社を畳むことを考えたときもありましたが、最後は意地でしたね。イイモノを作っているという自信はあったし、会社を興した以上は結果を出そうと思っていました」

鈴木社長は、「各都道府県に1台ずつ自社の乾燥機を設置する」という目標を掲げました。

「実際に使ってみてもらわないと分からないし、木材乾燥の良しあしの真価は1年や2年では分からない。10年以上経って、はじめてうちの良さが分かってもらえると考えていました。最初の10年は本当に必死でした」

納品して終わりではなく、お客さまと一緒にベストなものを作り上げる

ヒグマ乾燥機の特徴は、お客さまの希望や用途に合わせて、設計から設置までを一貫してすべて自社で行っているという点。実はこれが一番の強みにもなっています。

「ひとことで木材乾燥と言っても、乾燥させる木材の種類、その木材の使用用途、気候などによって、細かい設定が異なります。うちはお客さまごとにソフトを設定。すべてオーダーメイドです。ですから、乾燥機を納品して終わりではなく、納品したあと実際に現地で稼働させ、調整を繰り返しながらベストな状態を設定していきます。現地で動かしてみないと分からないことも多いので」

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一般的には納品したその日にスイッチを入れて、動作確認できれば納品完了となりますが、ヒグマ乾燥機はそこからがある意味重要に。気候や木材の状態を見ながら、お客さまと一緒に木材を乾燥させ、詳細設定を決定していきます。そのため、従業員は数週間現地に滞在することもあるそう。

「一緒にいい木材乾燥を実現しましょうという気持ちで、お客さまと共に作り上げていくのがうちのスタイル。お客さまには納得いくものを使っていただきたいという思いでやってきました。私たちもお客さまからたくさんのことを学ばせていただいていますし、これまでのたくさんの実績はお客さまのおかげです」

乾燥機そのものの品質の高さはもちろん、こうした丁寧かつ真摯な姿勢でお客さまとの信頼関係を構築。クレームはほとんどないと話します。メンテナンスの巡回サービスも行っているので、お付き合いの長いお客さまが多いのも特徴です。直販をせず全国各地に代理店を置いて営業を行っていますが、ここ数年、新規のほとんどがこれまでお付き合いのあるお客さまからの紹介なのだそう。

higuma_12.jpg全国に顧客を持っているヒグマ乾燥機。乾燥機の設置やメンテナンス時には必ず訪問するようにしています。

特許はなくてもいい。これまでの実績に裏付けされる揺るがない自信

こつこつと築いてきた実績を見て、木材乾燥に関する共同研究の依頼などもくるようになります。実際、道産のカラマツ材を住宅建材として有効活用したいというハウスメーカーと北海道総合研究所と共同で乾燥機の開発も行ったそうです。

ということは、特許などもたくさん取得しているのかと思いきや、「ハウスメーカーとの共同開発はメーカーのほうで特許は取っているけれど、うちは特許とか取っていないんです」と鈴木社長。

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「うちは、基本的にすべてオープンにしています。イイモノは業界全体のためになると思っているから、乾燥工程など、独自でやっているものもあえて特許は取らないんです。それから、これまでやってきた自分たちの技術に絶対的な自信があるので、そう簡単に誰でもすぐに真似はできないと思っています」

そんなこともあり、最近は同業者から乾燥機の相談を受けることもあるそう。また、お客さまからの依頼であれば、ほかのメーカーの乾燥機の修理やメンテナンスなどにも対応。創業から25年、後発メーカーだったとは思えない圧倒的な存在感を感じます。

ちなみに、建築の構造材として不向きとされていたカラマツ。これを新しい乾燥技術を用いて構造材として使用し、2019年のグッドデザイン賞に選ばれたのが当麻町役場の建物でした。ここで使われているカラマツの乾燥も、もちろんヒグマ乾燥機の乾燥機で行ったそうです。

higuma_14.jpg「顧客第一でありながらも、社員の暮らしを豊かにすることも私の役目」と語る鈴木代表。

商売は信頼関係がすべて。今の願いは、従業員の暮らしをもっと豊かにすること

「ここまでやってこられたのは、従業員のみんなと取引先のみなさん、そしてお客さまのおかげ。本当に感謝しています」

そう話す鈴木社長は、従業員の皆さんについて「一生懸命やってくれる人ばかり。誇りに思っています」と続け、だからこそ働く環境をもっと整えたいと考えているそう。会社の売上を大きく伸ばすことより、大事なのは従業員がもっと豊かに暮らせるようになることとキッパリ。「給料、休み、福利厚生などをもっと充実させ、みんなが友達に自慢できるような労働環境に整えたいですね。それができたら、自分は引退してもいいと思っているんです。もういい年ですから」とも話します。

higuma_15.jpgこちらが、工務部の伊吹誓さん。

モノづくりに興味があり、中途採用で入社して今年で5年目という工務部の伊吹誓さんは、「社長はとても話しやすい人で、気さくに声をかけてくれます。いつも従業員のことをよく見てくれていますね。また、社内は風通しがとてもよく、いろいろことに挑戦させてもらえる環境」と話します。

創業時、辛酸をなめたことが多々あったにも関わらず、絶対に他社の悪口を言わず、地道にお客さまとの信頼関係を築いていった鈴木社長。「結局ね、商売というのは最終的に取引先やお客さまとの信頼関係、絆だと思うんです。だから、それを大事にしてきました」と言います。乾燥機を作るために必要なあらゆる材料の取引も価格で決めるのではなく、これまでの信用、信頼ですべて決めているそう。

「あとはお客さまからヒグマの製品はやっぱりいいね、良かったよと言ってもらえたら、もう十分」と笑います。イイモノを作り続ければ認めてもらえると信じ、実直に仕事に取り組んできた鈴木社長。「近くに来たから」「ちょっと顔を見ようと思って」と、お客さまや取引先の人たちが会社をよく訪ねてくるそう。そんなエピソードからも鈴木社長が慕われ、信頼されているのが伝わってきました。

higuma_16.jpg「みんな社長を見て笑って〜!」の問いかけに緊張した面持ちのスタッフたち。社長の笑顔がステキです(笑)

ヒグマ乾燥機株式会社
ヒグマ乾燥機株式会社
住所

北海道上川郡東川町北町8丁目9-13

電話

0166-76-9026

URL

https://higumakansouki.jp/

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イイモノを作る。実直な姿勢が会社を成長させた「ヒグマ乾燥機」

この記事は2024年6月18日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。