飛行機を1便飛ばすために、どれだけたくさんの人たちが関わっているか知っていますか? 飛行機を動かすパイロット、飛行機の中で乗客の対応をするCA、飛行機の点検保守を行う整備士、飛行機の離発着の指示を行う管制官など、さまざまな職種の人たちが関わっています。
今回は、オホーツクエリアの空の玄関・女満別空港におじゃまし、ANAの女満別地区総代理店として旅客業務や運航支援の業務を行っている三ッ輪エアサービス(株)(以下、(株)略)のグランドスタッフ(旅客サービス)、グランドハンドリングのスタッフさんに、仕事のことやこのエリアのことなどを伺いました。普段何気なく乗っている飛行機ですが、定刻かつ安全に飛ばすため、実はこんなにたくさんの人の努力や働きがあって飛んでいることに驚くとともに、今度飛行機に乗ったら、見えないところで尽力してくださっている方たちがいることに感謝しなければと思うインタビューでした。
英語が好きで、目指した航空業界。コロナ禍に旅客サービススタッフとして入社
道東、網走市や美幌町と隣接している大空町にある女満別空港。のどかな田園風景の中にある空港で、その一角には夏になるとひまわりが咲き誇ります。オホーツクエリアの空の玄関として、羽田、新千歳、丘珠(札幌市)の3つの空港と繋がっている同空港は、世界自然遺産・知床を訪れる人たちの、空からのアクセスポイントとしても知られています。
この女満別空港でANAのグランドスタッフ(旅客サービス)として働いているのが矢島琴和(ことは)さん。笑顔がチャーミングで、丁寧な受け答えはさすが!といった印象です。標茶(しべちゃ)町出身で、この仕事に就いて今年3年目を迎えます。
グランドスタッフの矢島琴和さん。とても丁寧にお話してくれました
「高校時代、学校の授業の中で英語が好きでした。留学したいという思いもありましたが、ちょうどコロナ禍だったために国外に出るのは難しく、できることをしようと思って、ニセコにインターンシップのような形で海外の人たちと生活や仕事を共にさせてもらいました。英語で話すのが楽しかったので、卒業後の進路を考えたとき、英語に関係ある仕事ができればと思い、航空関係を目指すことにしました」
札幌のエアライン学科のある専門学校へ進学しますが、まだまだコロナの真っ最中。就職活動時は、CAの募集はどこの航空会社も行っていませんでした。空港勤務の仕事も含め、もし航空関連の仕事に就けないようなら、ニセコで働くことも考えていたという矢島さん。そんなとき、ANAの女満別地区総代理店の三ッ輪エアサービスで、旅客サービスのスタッフを募集していると知り、入社を決めます。
心がけているのは、1人ひとりのお客さまに笑顔で丁寧に接すること
グランドスタッフ(旅客サービス)の仕事は、基本的に接客。空港カウンターでの対応、搭乗の案内などを行います。最近はeチケットやオンラインチェックインなどが主流になりつつありますが、中には窓口でチケットを購入する方もまだまだ多いため、チケット販売などの対応も行います。
「スマホを使ったオンラインチェックインの仕方などが分からないというお客さまもいらっしゃるので、その操作方法をお伝えすることもあります。システムがどんどん進化しているので、新しいシステムが入るたびに分かりやすく説明できるように気を付けています」
女満別空港を利用する層は、オホーツクエリアに出張で訪れる札幌圏からのビジネスマンもたくさんいますが、旅行を楽しみたい地元の高齢者の方たちも多く、それぞれのお客さまに合った対応を心がけているそう。
「季節によって多少異なることもありますが、ANAは基本的に1日5便。最初に飛ぶのが10時55分の新千歳行き。その便に合わせて事前に準備をし、毎日9時にはカウンターをあけます。昼からは羽田行きと新千歳行きが続くので、忙しさのピークを迎えます」
どんなに忙しくても、お客さま一人ひとりに笑顔で向き合うように心がけているという矢島さん。空港を利用したお客さまから感謝や称賛のメッセージが届くこともあるそうです。
「小さなローカル空港ならではだと思うのですが、よくご利用いただくお客さまから『皆さんでどうぞ』とお菓子の差し入れなどをいただくこともよくあります。また、お客さまからは、いい意味で親しみやすい、距離が近くて話しやすいというお言葉もちょうだいします」
コミュニケーションの良さは仕事にもつながります
天候不順などの理由で飛行機が欠航したり、遅延したりする際、お客さまとその場でやり取りするのもグランドスタッフの仕事。大きな空港と違い、振替が簡単にできないため、ほかの空港へ移動してもらうようお願いするなど、心苦しく思いながら対応にあたることもあると言います。
三ッ輪エアサービスでは、天気がいい日はグランドスタッフも駐機場に出て、飛行機をお見送りします。羽田などでは、飛行機周りの作業にあたっている外のスタッフがお見送りとして手を振ることはありますが、グランドスタッフも一緒というのは珍しいそう。
「お客さまで飛行機の中から私たちが手を振っている姿を写真に撮って、プリントしてわざわざ送ってくださった方がいて、それをいただいたときは嬉しかったですね。きちんと見てくださっていることが分かり、心を込めてお見送りしようとあらためて思いました」
矢島さんと同じくグランドスタッフとして活躍しているのは8割が女性。しかも20~30代が中心なのだそう。
「和気あいあいとした雰囲気です。年齢の近い人が多く、仕事のことも相談しやすいですし、お互い励まし合ったりすることもあります。同僚にはたくさんサポートしてもらい、本当に感謝しています。プライベートでも仲良くしてもらっています」
月1回ある全スタッフを対象にしたミーティングでは、活動報告やサービスの改善点などについて話し合いが行われます。お客さまにメッセージタグを用意し、「旅行を楽しんでください」「受験頑張ってください」などのメッセージを手荷物につけるなど、お客さまに喜んでいただけるプラスアルファのサービスもみんなで考えるそう。また、グランドスタッフは、地域のイベントなどにも業務の一環として積極的に参加し、PR活動も行っています。
美しい景観スポットがたくさんあるエリア。休日にドライブで満喫
現在、隣接する美幌町に暮らしている矢島さん。このエリアの魅力を観光スポットがたくさんあること!と話します。また、去年からスノーボードやスキーも始めたそう。
「網走湖などの湖、美幌や津別の峠、東藻琴の芝桜、あとは知床など、車でちょっと行けば素晴らしいスポットがたくさんあるので、休みの日にはドライブに出かけることもよくあります。空港にいると、そういった観光スポットの最新情報がたくさん入ってくるんですよ。花が見ごろだとか。あと、土日が休みではない分、どこへ出かけても空いているのがいいなと思います」
これからの目標を尋ねると、「もっと英語力をアップさせて、海外からのお客さまにも満足していただけるよう空港内でサポートしていきたいです」とニッコリ。そして、「一緒に楽しみながら仕事をしてくれる仲間が増えると嬉しいです」と最後に話してくれました。
飛行機を無事に運航させるために縁の下で支える・グランドハンドリング
さて次に話を伺ったのは、グランドハンドリング担当の宮下卓也さんと日下聖也さんです。このグランドハンドリングという言葉、耳にしたことがないという人も多いと思うので、お2人にどのような仕事なのかをまずは伺うことにしました。
「飛行機の到着から出発まで、無事に運航させるためにいろいろな仕事を行います。飛行機の誘導からはじまり、到着した飛行機の扉を開けたり、飛行機の貨物室の荷物をおろしたり、積んだり、機内清掃も行います。そして、専用の車両で飛行機が安全に自走できるところまで押し出す『プッシュバック』という作業も我々が行います」と宮下さん。
左が宮下卓也さん、左が日下聖也さん。
グランドスタッフのように直接お客さまとやり取りすることは少なく、どちらかというと裏方仕事なのだそう。でも、定刻通りに飛行機を飛ばすための準備の重要な部分を担っている仕事だというのは分かります。
宮下さんは釧路市出身で、日下さんは白糠町出身。実は2人とも、同社の釧路空港営業所が担当する釧路空港でグランドハンドリングの仕事に就いていたそう。宮下さんは1年前に女満別空港へ、日下さんは2カ月前に異動してきました。
宮下さんは社歴30年以上の大ベテラン。新人のころ、宮下さんに仕事を教わったという日下さんも入社から7年になります。
もともとは東京の会社で働いていたという宮下さん、じもとの釧路に戻るタイミングで三ッ輪エアサービスが釧路空港で人を募集しているのを知り、「飛行機も空港も好きだったから、関われる仕事なら楽しいかな」と思って応募したそう。「入社するまで、空港の中にこんなにいろいろな仕事があるとは知りませんでしたね。窓口の人や自分たちの仕事以外にも、整備士、管制官、消防、警察といろいろな人が関わっているんだなと驚きました」と話します。
一方、日下さんは千歳市にある日本航空大学校を卒業後、じもとでもある釧路空港で三ッ輪エアサービスの社員として就職。「羽田や新千歳空港での就職も考えましたが、家族や友達がいるじもとがいいなと思って戻ってきました」と話します。「航空の専門学校に行っていたので、知識はありましたが、実際に現場に入ってみると違うこともいろいろありましたし、資格も必要なので、入社してからも勉強していましたね」と振り返ります。「でも、飛行機を送り出したあとの達成感というのは想像していた以上にありましたね」と続けます。
安全に定刻通りに飛行機を送り出すために
女満別空港や釧路空港は、飛んできた飛行機が折り返しで羽田や新千歳空港へ戻るため、限られた時間の中で出発までの準備を万全に整えなければなりません。
「いろいろな事情があって、飛行機が遅れてくることもあります。それでも、次の飛行機に乗るお客さまたちは定刻通りの出発を待っているわけです。遅延を回復させ、安全を守って飛行機を送り出すのがとても大変です」と宮下さん。
飛行機が積んできた貨物、手荷物をおろし、次は乗せていくものを積む。この作業に時間がかかるそう。
「普段からミーティングで、いかに安全にスピーディーに作業できるか、改善できるところを話し合っています。安全に関することは常に皆で共有し、事故を未然に防ぐように徹底しています」と日下さんが続けます。
乗客の私たちには見えないところで、安全に飛行機を飛ばすために力を尽くしている人たちがいるとは...。頭が下がります。
そんな2人にこれまで仕事で経験した印象に残っているエピソードを伺うことに。まずは宮下さんが、釧路空港にいたときの忘れられない大雪の日の出来事を教えてくれました。
「釧路にしては珍しく大雪が降り、なんとか空港に飛行機が到着し、次に送り出すための準備を急いで行っていました。飛行機の翼の上の除雪も我々が行います。飛行機は、翼に雪が積もったら出発できないんです。それで、積もった雪を落とす液体と次に雪が積もらないようにする2つの液体を駆使し、翼の雪の対処をするのですが、その日は本当にひどい雪で、やってもやっても雪が積もって...」
飛行機の中ではお客さまたちが何時間も待機していて、飛行機自体はいつでも飛び出せるようスタンバイ。宮下さんたちもなんとか飛行機を飛ばそうと必死で作業し、滑走路の除雪は終わりましたが、肝心の翼の雪が積もり続け、とうとう2つの液体をすべて使い果たしてしまいます。
「もうダメか...と思ったとき、見かねたJALの整備の方たちが自分たちの液を我々のために撒いてくれたんです。そのおかげで、何とかギリギリ離陸ができ、無事送り出すことができました。ライバル会社ではありますが、力を貸してもらえたのはとても嬉しかったですし、それと同時にあらためて1便を無事に送り出すことの大変さを実感しました」
聞いているだけでハラハラする内容でしたが、その日はそのあとも雪が降り続き、宮下さんは大雪で車を出すことができず、結局家に帰れなかったそう。それだけすごい雪の中、懸命に作業をされたことに驚きます。
日下さんは、「プッシュバックをはじめて担当したとき」のことを今でも鮮明に思い出すと話します。プッシュバックは、グランドハンドリングの数ある仕事の中でも、経験を積んでから任される一番大変な仕事でもあり、失敗が許されない仕事。
「僕の先生は宮下さんで、何度も一緒に練習をしましたが、練習では実際の飛行機をもちろん使わないので、実機を使うのはデビューのそのときが初めてなわけです。緊張で足がガクガクしていました」
みんなで力を合わせて飛行機を飛ばす準備をし、空港から飛行機を送り出す最後の作業がプッシュバック。「本当に最後なので、すごく責任も感じるし、緊張しました。でも、無事に飛行機が飛んでいったのを見ると、大きな達成感が得られました」と話します。
裏方でこのように支えてくれる人たちがいるからこそ、自分たちが安心して空の旅を楽しめるのだとよく分かりました。
オホーツクの自然の中で得る、責任感のある仕事と充実のプライベート
もともと釧路空港に勤務していたというお2人。女満別空港やこちらのエリアについてどのような印象を持っているかと尋ねると、「釧路とは空港の周りの景色が全然違う」と揃って言います。
「女満別は周りが畑で、緑や土や花でいろいろカラフル。釧路は市街地から離れた少し高台にあって、周りが林だったからね。あと釧路は霧が多かったので、独特の雰囲気ですね」と宮下さんが印象の違いを話してくれました。
お2人とも現在は美幌町に住んでいるそう。生活面での不便はまったくなく、宮下さんは「温暖で気候がいい」と話し、こちらに移って2カ月の日下さんも「今のところ温かくて過ごしやすい。湿度もないし」と言います。
それぞれ休みにやってみたいことを尋ねると、日下さんは「近くにいいキャンプ場がいろいろあると聞いているので、今年の夏は妻と一緒にキャンプに行ったり、あとは北見や網走のおいしいお店を探したり、オホーツクエリアを楽しみたいですね」と話し、宮下さんは「僕はあと1,2年で釧路に戻る予定ですが、こちらにいる間に景色のいいところや隠れた名所のようなところへ行って、写真を撮りたいですね」とニッコリ。実は写真が趣味だという宮下さんの撮った写真は、到着ロビーの手荷物受取レーンのところに採用されているそうです。
気象状況に左右されることが多く、忍耐を必要とされるときもあるグランドハンドリングの仕事。「それでも空港で働くみんなの力を結集させて飛行機を飛ばしたときの達成感はほかでは得難い」と日下さん。オホーツクエリアでの暮らしも楽しみつつ、仕事も充実。未経験からでも始められるそうで、宮下さんや日下さんが丁寧に仕事を教えてくれるとのこと。雄大な自然の中、メリハリのある仕事と暮らしを手に入れたいという方にはぴったりかもしれません。
信頼できる、頼もしいスタッフたちと一緒に
最後に、上司として皆さんを見守る、所長代理の宮本順一朗さんにも、このお仕事のことをうかがってみました。
宮本さんは、お隣の美幌町出身。鉄道関連のお仕事に就くお父様の影響で、小さなころから、鉄道や飛行機などの乗り物が大好きだったそう。さらに、よく空港につれてきてもらっていたこともあり、それらの乗り物が身近なものとして、インプットされていました。
大人になって、空港で働くようになったのは「自然な流れですね」と、笑います。
そんな宮本さんにも、忘れられないエピソードがあります。
当時、グランドスタッフとして接客にあたる中、アクシデントが起こります。あるご夫妻の機内お預かり荷物である、ブランドバッグが破損していたのです。実はこうしたことは、100%さけることは難しいそうで、どんなに気を付けていても、まれにおこってしまいます。
お客様は当然、怒りをあらわにします。限定品らしく、きっと大事にされていたことを思うと、その怒りもわからなくもありません。
宮本さんも、もちろん誠心誠意対応しますが、なかなかお許しを頂けない状態だったといいます。
何と、こうした時のための専用の修理工場もあるそうなのですが、悪いことに、そこでも修復不可能だったのだそう。
お話をうかがうだけで、ハラハラしてしまいますが、その後、どうなったのでしょう?
「最後には、感謝のお言葉を頂けました」と笑顔で話す宮本さんですが、その経緯をうかがうと、決して特別な方法があったわけではなく、ただひたすら、納得頂けるまで向き合ったそうです。お手紙もお送りしたそうですが、最後には、ご納得頂き、丁寧な対応に感謝します、と言って頂けたそうです。
そうした、様々な経験を積んできた宮本さんだからこそ、現場で働くみなさんの頑張りがわかるそう。
「矢島さんは、いつでもお客様の気持ちに立って、たとえイレギュラーなときでも、丁寧な接客をしてくれます。宮下さん、日下さんも、外の仕事は、寒い日や暑い日もあって大変なこともあるけど、いつでも丁寧な仕事をしてくれます」と、信頼をよせます。
この仕事が好き。そんな人たちの力が集まって、今日も、無事に飛行機が飛び立つのでした。
- 三ッ輪エアサービス 株式会社 女満別空港営業所
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