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このまちのあの企業、あの製品
栗山町

町に良い変化を与えられるような存在に。The北海道ファーム20240603

町に良い変化を与えられるような存在に。The北海道ファーム

札幌市からも新千歳空港からも車で約1時間、のどかな里山がたくさん残る栗山町。基幹産業は農業で、お米や小麦、タマネギ、大豆などを中心に栽培しています。今回おじゃましたのは、その栗山町で、約10年前に新規参入した農業法人「The北海道ファーム」です。

米作りを中心に、アスパラやタマネギ、サツマイモ、醸造用ブドウなど多品目を栽培しているほか、オリジナルの甘酒、米粉麺などの加工品も販売。水色の殻が特徴の鶏卵「水芭蕉卵」も扱っています。敷地内の可愛らしいショップでは、ほんのり甘酒の味がする「ライスミルクソフト」などを提供しながら、バラエティ豊かな加工品や野菜も販売。無料のドッグランも併設されています。

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今回は、2023年の春から代表になった髙野龍一さんに会社のことを伺い、栃木県から栗山町に移り住んだスタッフの東(ひがし)洋祐さんに仕事のこと、ここでの暮らしなどについてお話を聞きました。

葬儀会社が立ち上げた異色の農業法人は「大家族主義」

「The北海道ファーム」は、千葉県の葬儀会社を中心とした「穴太(あのう)ホールディングス」のグループ企業。2013年に栗山町内にある旭台エリアでスタートしました。

20240513_hokkaidofarm_24.jpg終始笑顔でやさしくお話ししてくださった髙野社長

2023年に代表に就任した髙野龍一さんは栗山町出身。The北海道ファームと同じ旭台エリアで代々続く髙野農場の5代目でした。

「The北海道ファームができたときから、同じ地域ということもあって、穴太ホールディングスの代表と話す機会がよくあったんです。代表は葬儀会社を中心に、生花販売や仕出し屋も経営していたのですが、何度も会って話をするうちに、代表から世界の経済のこと、資本主義のこと、会社経営のことなど、いろいろなことを教えてもらうようになりました」

穴太ホールディングスの代表・戸波亮さんは、人口減少とともに葬儀業界の市場が縮小していくのが明らかな中、供花や仕出しなどの外注業務を自社で行い、経費を減らして収益を上げていく工夫を行っていました。そして、葬儀の返礼品として活用できるものを開発しようと考えた際、着目したのがお米でした。

20240513_hokkaidofarm_14.jpg「特別栽培米」とは、農林水産省の基準に基づき、減化学肥料と減農薬で栽培した特別なお米のこと

返礼品として使えるのはもちろん、仕出し屋で用いることもできると、栗山町に「The北海道ファーム」を立ち上げ、その軌跡は、著書「葬儀会社が農業を始めたら、 サステナブルな新しいビジネスモデルができた」(幻冬舎)にも綴られています。

「戸波はとにかく分かりやすく説明をしてくれるんです。たとえば、1ドル160円なんて話は農家に関係ないとこれまでは思っていたのですが、戸波にいろいろ教えてもらってからは、1ドルが160円になったら肥料代がまた上がるとか、世界で起きているあらゆる出来事が自分たちの仕事や暮らしにも関係しているときちんと理解できました。ぼんやりとしか分からなかったことが、戸波の説明を聞くと腹落ちするんですよね」

戸波代表の人柄にも惹かれたという髙野さんは、戸波代表の理念「大家族主義」にも強く共感。自身がずっと考えていた組織や地域への考え方と共通する点がたくさんあったそうです。

20240513_hokkaidofarm_25.jpg「うちの社員は異業種からの転職者も多くて、いろんな場面でそれぞれの得意を活かして貰っています」と髙野社長

「大家族主義とは、社員はみんな家族という考えのもと、互いに良い関係を築き、みんなの力で地域社会の発展に貢献し、幸せの輪を広げていこうという考え方。自分も栗山町で代々農業を営んできて、地域を元気にしたいという気持ちはずっとありましたし、この地域の農業を途絶えさせたくないと思っていました。後継者不足などが問題になっている中、地域で農業に携わる人たちが手を取り合って課題解決を進めていく必要性は感じていました」

地域のためにもこれからの頑張りが大事

そして、2023年4月に高野農場とThe北海道ファームは合併し、髙野さんが社長に就任しました。

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「確かに社長という肩書きですが、まだまだ社長にはなっていないと思います。経営者として学ばなければならないことがたくさんあると痛感していますし、外にも目を向けていかなければと考えています。『農家のおっさん、社長になる』って感じで(笑)、自分の中では3年くらいかけてやっと『僕が社長です』と言えるのかなと考えています」

社長になったことで、「野心家だと勘違いされると困るんだけど...」と話す髙野さん。自分の生まれ育った旭台エリアの人口減少、後継者不足などの課題を少しでも解決していきたいという思いから、社長になっただけと言います。髙野さんの地域への想いと責任感の強さを感じます。

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「自分たちが栗山町を変えてやろう!とは全く思っていなくて、自分たちがいることで何かこのまちに良い変化をもたらせたらいいなと考えています。そもそも、むやみやたらに会社を大きくしようとは思っていません。旭台の農業を守り、残していくために、The北海道ファームという大家族の一員になったわけで、結果としてそれがまちのためになるのかなと考えています」

社長になってからは、自ら経営者の集まりに参加するなど、農作業の合間を縫って学ぶ日々を過ごしています。

「頑なに従来のやり方に固執するのではなく、いろいろなことにチャレンジしてみることも大事。だから従業員にも外に目を向け、学んでほしいと思います。そしてやりたいことをやってほしいし、やれる環境をこちらも整えていきたいと思います。決して強いものが残れるわけではなく、いつの時代も変化に対応できるもの、変化を続けられるものが生き残れると思っているので、そのためにも外への意識を持ってもらいたいです」

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チャレンジという点では、ただ米や農作物を作るだけでなく、加工品作りにも力を入れています。特に農場で育てたお米から作った甘酒は、製造、瓶詰め、シール貼りまで、一気通貫で行っているそう。これからさらに力を入れて販売していきたいと考えています。

「現在6人の正社員、4人のパート社員が在籍。中には農業経験の浅い人も多くいるので、覚えることもたくさんありますし、どうしても今は必死にこなすだけに...。自分も彼らに教えたり、実際に畑に出たり、加工品のことをやったり、外へ学びに行くなど、目の前のことを一つずつクリアしている状態です。とにかく今頑張って、3年後にはもっと明確なビジョンや自分たちの目指すものをきちんとお伝えできればと思います。今は、従業員一同、しっかり仕事をこなせるように頑張ります!」

髙野さんのお話を伺っていると、やりたいことや挑戦したいことなど、構想はいろいろあるというのが伝わってきます。それらを実現するためにも、今は基盤作りに力を入れている時期なのでしょう。

取材の日、事務所の入り口に、私たち取材陣を歓迎する手書きのウェルカムボードが置かれていました。これを準備してくれたのは、夏季期間にオープンする敷地内のショップ運営を担当している宮内さん。「宮内さんは、こちらから何か言わなくても、こういった心配りが自然とできる素晴らしい人。そういう社員がうちにはたくさんいますよ」と髙野さんは教えてくれました。髙野さんの人柄や会社の雰囲気もまた、宮内さんのような人を呼び寄せているのかもしれません。

20240513_hokkaidofarm_15.jpg千葉県出身の宮内さんは、夏季期間は北海道で、冬期間は千葉県で働くという二拠点勤務スタイル。手に持っているのはイチオシの「米麹甘酒」。ノンアルコールなのでお子さまも飲めます

自然に囲まれた栗山の祖母の家での暮らしに憧れ、移住・転職を決意

そんなThe北海道ファームの一員として、2023年から勤務しているのが、栃木県から移住してきた東(ひがし)洋祐さんです。昨年は田んぼや畑の作業に携わっていましたが、この春からは、The北海道ファームのグループに加わった栗山町内の「藤島園芸」でハウスのイチゴ栽培に取り組んでいます。ちなみにこのイチゴ栽培、今年からスタートしたそう。

20240513_hokkaidofarm_21.jpgステッカーでカスタムされたかっこいい車に乗って颯爽と現れた東さん

現在48歳という東さん。オレンジ色の車で現れ、オレンジ色の髪にTシャツ、サングラスとファンキーな印象ですが、見た目と違って口数も少なく穏やか。「ずっとオレンジ色が好きで、この髪の色、実は生まれて初めて染めたんです。栃木の会社にいたころはできませんでしたから」と笑います。

札幌生まれの東さんは幼い頃、父親の転勤で東京にいたこともあったそうですが、中学、高校を札幌で過ごしたのち、東京にある機械系の大学へ進学。卒業後は、自動車の部品を製造する栃木県の会社に就職します。

「24年ほど勤務しました。機械関係が好きだったので仕事自体は良かったのですが、とにかくハードで、休みの日はひたすら寝るという生活。テレビで、ゆったりとした田舎暮らしを楽しむ人たちを紹介する番組や、人里離れた場所にある一軒家を調査する番組を見ては、『いいなぁ』と思っているような感じでした」

20240513_hokkaidofarm_19.jpgこの春からスタートしたイチゴ栽培。ハウスの中には赤い実がちらほら

そんな東さんが栗山町へ移住するきっかけは、いくつかの理由が重なったためでした。ひとつは、栗山町に住んでいた祖母が亡くなったため、住まいが空き家になってしまったこと。札幌に暮らす父親が大病を患ってしまったこと。コロナがきっかけで、栃木の会社でやっていたことが思った通りにできなくなったことなど。

「祖母の家は、栗山町の中でもちょっと引っ込んだところにあって、隠れ家的な感じなんです。後ろに小さな山があって、沢があって、前には田んぼがあってという、自分にとってはまさに憧れの場所。家族に移住したいと相談し、OKをもらったので単身で移り住むことにしました。3人いる息子のうち、上の2人はすでに独立してますし、中学生の末っ子と妻は栃木県に残りましたが、下の子ももうそんなに手がかからないので」

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家の目の前にある田んぼは現在休耕田になっていますが、いつか田んぼをやってみたいという思いから、栗山町で米栽培を行っている農業法人へ就職しようと思った東さん。探し当てたのが、The北海道ファームでした。引っ越しと同時に働きはじめ、「土をいじるのも、農業もすべて初めて。右も左も分からないまま、とにかく教えてもらったことを必死でやった1年でした。まったくの未経験なので、勉強になることはたくさんありました」と振り返ります。

「1年経験して、米作りの流れは何となく理解できたと思います。そして、漠然と家の前の田んぼをやりたいと思っていましたが、機械設備がいろいろ必要で、そのためにはとてもお金がかかるということもよく分かりました(笑)」

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家の前にあるのはそれほど大きな田んぼではないそうで、機械を使わなくてもできる田んぼの作り方をゆくゆくは学びたいと話します。

仕事も休みの日も農作業。それでもストレスフリーな暮らし

休みの日は何をして過ごしているのか尋ねると、「夏の間は、家の周りや畑の草刈り、近所の方にトラクターを借りて畑を耕すなど、結局ずっと外にいて体を動かしています。仕事もプライベートも同じようなことをしているのにイヤではない」という答えが返ってきました。

以前は、ゆっくり眠れる土日が待ち遠しく、「そういう生活が苦痛だった」と話します。栃木県にいた頃より肉体的にはハードな日々ですが、「ストレスはない」とキッパリ。栗山町へ遊びにやってきた次男が「お父さん、穏やかな顔をしていたよ」と奥さんに話していたそうで、「自分では分からないのですが、以前は険しい顔をしていたのでしょうね」と笑います。

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栗山町の良いところを伺うと、「都会に近いけれど、自然豊かなところ。あと、ご近所さんに恵まれているところかな」と東さん。近くに札幌から移住してきた30代のご夫婦がカフェとドッグランを経営しており、トラクターを借りたり、休みの日にコーヒーを飲みに行ったりしているそう。ほかにも、近隣の農家さんの収穫作業を手伝うなど、ご近所付き合いもうまくいっているとのこと。

「実は家に水道がないんです。井戸があるので、洗濯くらいはできるのですが、飲み水では使えないし、お風呂にも入れないのですが、風呂は栗山温泉に行けばいいし、それほど不自由は感じていません」

その発言に取材陣は驚きが隠せませんでしたが、そんな生活も東さんにとっては楽しいようです。

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「農家の方からユンボを譲ってもらったので、今年は裏の山に道をつけて、車を通せるようにしたいと考えています。今は会社で仕事をしながら農業のことをいろいろ勉強させてもらい、いつか田んぼももちろんですが、自分で大豆を育てて豆腐を作ったり、小麦を育ててパンを焼いたり、そばの実を育ててそばを打ったりと、自給自足的なことをしたいですね。そして山の上に自分で小屋も建ててみたいです」

やりたいことはたくさんありますが、焦らずのんびり自分のペースでやっていけたらと思うと話してくれました。

多様な働き方で栗山町の農業を未来へつなぎたい

The北海道ファームの代表・髙野さんは、東さんのように新規就農せずとも農業をやってみたい人はもちろん、独立して新規就農を目指す人も受け入れられる体制を整えたいと話します。

20240513_hokkaidofarm_6.jpg「家庭菜園が大好きだったから、好きなことを仕事にできて嬉しい」と教えてくれた中村さん。(写真左)前職で培った建設業の経験が現在も活きています

「いろいろな働き方に対応できるようにしたいと考えています。また、うちから独立した人に関しては、きちんとやっていけるようにこちらとしてもサポートできることはしたいと考えています。農業は自然相手なので、思った通りにいかないこともよくあり、はじめは苦労することも多いと思うので」

そう考えるのは、研修を経て新規就農したものの経営がうまくいかず、町を去って行った人たちを見てきた苦い経験があるから。最後に髙野さんは、「栗山町のことを嫌いになってほしくないし、ここで農業を続けてほしいしね」と、町への想いも込めて語ってくれました。

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The北海道ファーム
The北海道ファーム
住所

北海道夕張郡栗山町字旭台168-63

電話

0123-72-2422

URL

https://thehokkaido-farm.co.jp/

The北海道ファーム直営店(5月〜10月末位までの期間限定営業)

◎営業時間

平日/10:00〜16:00(水曜定休)

土日祝/10:00〜17:00

◎駐車場 10台位

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町に良い変化を与えられるような存在に。The北海道ファーム

この記事は2024年5月13日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。