豊かな森林に恵まれ、「星の降る里」というキャッチフレーズの通り、美しい星空が観察できる芦別市。同市の宿泊施設「芦別温泉スターライトホテル」は、2019年のリニューアルを機に、若い層をターゲットにしたホテルに様変わり。遊び心満載の楽しいホテルだとSNSや口コミでその噂が広がり、地元はもちろん全国各地から若い人たちが遊びに訪れています。また、若手が足りないといわれる宿泊業界で、若いスタッフが大勢楽しく仕事をしていると聞き、そのワケを知りたいとホテルを訪れました。
天然温泉に3つのサウナ、そして1万冊のコミックや雑誌がズラリ
まだ雪が残る3月、芦別の市街地から15分ほど車を走らせると、木々に囲まれた中に大きなホテルの建物が現れます。平日でしたが、駐車場にはたくさんの車が停まっています。 エントランスを入ると、天井からさげられたたくさんのピンク色したペーパーフラワーが迎えてくれ、気持ちが華やぎます。出迎えてくれたフロントのスタッフの方たちは、話には聞いていましたが確かに若い!
まずは社長であり総支配人でもある田中慎二さんに館内を案内してもらいました。2019年12月のリニューアルを機に、従来の温泉とは一線を画す全国展開の温浴施設ブランド「おふろcafé」の一員として、ホテルの中に「おふろcafé星遊館」を立ち上げたそう。
日帰りでも利用できる星遊館には、芦別の豊かな森をイメージしたという「森の図書館」があり、木で造作した棚には1万冊ものコミックや雑誌、書籍がズラリ。「これらのコミックはスタッフが自分たちの読みたいものをチョイスしています」と田中社長。取材陣も「読みたい!」と思うものがたくさん並んでいます。 森の図書館には、緑のカーペットが敷かれ、座ったり寝ころんだりできるほか、畳1枚分ほどのプライベート空間「ヒトシェルフ」も用意されています。取材時も、館内着を着た湯上りのお客さんたちがめいめい好きなスタイルで読書を楽しんでいました。無料のデトックスウォーターなども用意されており、ここだけで何時間もいられそうな雰囲気です。
奥には、地元や近郊の食材を用いたメニューが味わえる「空のカフェ」もあります。また、ツリーハウスやハンモックがある「湯上りラウンジ」にもコミックや雑誌が用意されているほか、マッサージチェアも備えられていました。 共通して言えるのは、どこも思わず写真が撮りたくなるようなインテリアや装飾であるということ。館内の季節の飾りつけなどもスタッフのアイデアを取り入れ、みんなで作っています。エントランスのペーパーフラワーは田中社長も一緒に作ったそうです。 肝心の温泉は、2つの源泉が楽しめます。大浴場には、露天風呂、源泉かけ流しの壺湯などのほか、高温のフィンランド式サウナ、樽型のバレルサウナ、塩サウナもあり、水風呂は源泉をそのまま使用。 このほか、お土産やサウナグッズを扱っているショップ、体育館、キッズパークもあります。館内の施設だけでも十分ワクワクしますが、実はすぐそばの林の中にグランピング施設ともう1つのバレルサウナも備えられています。
大胆なリニューアルを機に、ターゲットを若年層にしぼる
さて、ひと通り施設の紹介をしてもらったあとは、従来のホテルとは異なるスタイルにリニューアルした理由などについて、田中社長に伺うことにしました。 上富良野町出身の田中社長は十勝岳温泉のホテル勤務を経て、2016年に株式会社芦別スターライトホテルのグループ会社である北海道ホテル&リゾートへ。「ずっとお客さまに喜んでいただけることを第一に考えて仕事をしてきました」と田中社長。実は十勝岳温泉時代に宿泊客からの高い支持を受け、業績をアップさせた実績の持ち主で、その手腕を買われての転職でした。
芦別スターライトホテルは、市営の温泉施設のひとつとして1989年にオープン。地元の人たちに愛される施設でしたが、人口減少や少子高齢化に伴い業績悪化が続いていたそう。2017年から北海道ホテル&リゾートが指定管理者となり、まずは毎年1億円近く出ていてた赤字をストップさせる必要がありました。
入浴料を上げることを決めた際は市民の方から苦情も寄せられましたが、痛みを伴わない改革はないと、理解してもらうよう努めたそうです。 「私は最初、ホテルナトゥールヴァルト富良野にいたのですが、2018年の秋から芦別の業績をアップさせるためのプロジェクトにも関わってきました」 ホテルとしての機能をしっかり復活させ、赤字解消も進める中、次のステップとして館内を改装することになります。「おふろcafé」を始めることも決まり、田中社長はプロジェクトリーダーに。市や市議会との調整など大変なこともあったそうですが、2019年12月に無事リニューアルオープン。ターゲットを若い層にしぼり、オープン後は若い客層が一気に増えます。
2020年のコロナ禍に会社が分社化することになり、田中社長は「なるつもりはなかったのですが、そのままずるずると社長になってしまいました」と笑います。
休業日を設けるなど、スタッフの「楽しい」を活かすための取り組み
社長就任後も、「お客さまを客室にいさせない」コンテンツを増やし、より魅力的な施設にしていくため、雇用や労働環境に関しても改革を進めてきた田中社長。その一つがスタッフの若返りでした。
「ターゲットが若い層なので、若い人の意見や感覚が重要だと考えました。若いスタッフが言いたいことが言え、やりたいことがやりやすいように働く環境を整えることに力を入れました」
さらに、「仕事は遊びで、楽しくなければ意味がない」と、スタッフの「好き」や「楽しい」をサービスにつなげ、まずはトライしてみようと機会を提供。たとえば、サウナにハマっていたスタッフに熱波師になっては?と勧めたそう。人は好きなことなら一生懸命になれるので、積極的に学び、今は毎週、熱波デーを実施するまでに。サウナイベントを企画したり、次の熱波師育成にもチャレンジしたりしているそうです。
「本好きに書籍の選定を行ってもらったり、ショップに置く商品もスタッフがおすすめしたいと思うものを選んでもらったり。イヤイヤ仕事をするより、自分が楽しいと思って取り組めるのが一番だと思っています」
実際に遊びに行って、体験しないと「楽しい」が分からないため、スタッフにはどんどん遊びに行くように言っているそう。そのため、休みを取りやすいように「休業日」を設けました。
「ホテル業界は365日24時間稼働というイメージがあると思いますが、既成概念にとらわれ過ぎているんですよね。効率的な経営のために、閑散期はあえて無理に営業せずに思い切って休業日を設けた方がいいと考えました」
採用に関しても、ホテル業界での経験は重視していないそう。面白いことをやってみたいという意欲を大事にしており、実際に異業種からの転職者がほとんど。
「極端なことを言うと、これからの時代、ホテルの仕事もロボットに置き換えられるところがどんどん出てくると思います。そんな中、我々はロボットにはできないクリエイティブなことをやっていかなければならないんですよね。ロボットがやる業務が増えていったとしても、最終的にホテル業は『人』だと思っています。お客さまに楽しいと思っていただける手間ひまかけたサービスを提供し、スタッフ一人ひとりにファンがついて、どれだけリピーターになっていただけるかが大事。うちはいい意味でホテルっぽくないかもしれませんが、それが差別化になると考えています」
まだまだ進化の最中と話す田中社長。芦別の自慢でもある「星」をもっとサービスに絡めていきたいとも考えているそう。これからどのような楽しいサービスが生まれるのか楽しみです。
好きなサウナと興味のあったグランピングがきっかけで芦別へ
次に、グランピング施設をメインで担当している桂川銀太さんにここで働くきっかけや日々の仕事のことなどを伺うことに。桂川さんは今年の1月に入社したばかりですが、「やりたい」を実現させるため、日々楽しく仕事に取り組んでいるそう。
23歳という桂川さんは、下呂温泉で知られる岐阜県下呂市出身。高校を卒業後、愛知県で働いていましたが、今年に入って芦別へ。そのきっかけは、社会人になってからハマった「サウナ」でした。
「東海エリアの有名なサウナはほぼ網羅するほどサウナ好きに。サウナ情報を紹介するインスタのアカウントも開設し、フォロワーさんとzoomで情報交換をしたり、一緒にサウナへ行ったりしているうちに、自分でもサウナをやりたいと思うようになりました」
そこで、いきなり自分でサウナ施設を造る前にサウナのあるところで働きたいと考えます。
「サウナだけより、サウナと宿泊、できればグランピングをやっているようなところで仕事ができたらいいなと思って、自分のイメージに合う場所を探し始めました」
岡山のグランピングとサウナの施設に職場体験に行きますが、冬のシーズンは仕事がないかもしれないという話もあり、もう一つの候補だった芦別に職場体験に訪れます。
「オンラインで社長と面談して、いつかサウナをやりたいという話やグランピングに興味があるということを伝えました。職場体験をさせてほしいと話すと、快くおいでと言ってくれたので、11月に初めて北海道へ。3日間滞在して、簡単な仕事を手伝わせてもらいました」
その際、田中社長からこれからサウナにもっと力を入れたいという話を聞き、ぜひ関わりたいと思ったそう。また、グランピングのサービスもスタートして1年ほどと聞き、いろいろなことが挑戦できそうだなと魅力を感じたと言います。
ホテルの居心地の良さは、休みの日もつい来てしまうほど
入社を決め、1月に雪深い北海道へ。「想像はしていましたが、めちゃくちゃ寒かったです」と笑います。とはいえ、さすがサウナ好き。「せっかく北海道に来たので、休みの日に冬限定の新得町屈足湖のサウナへ行きました」と話します。取材陣が驚いたのは、公共交通機関を使ってそこまで行ったという話。「もう、行くのが大変で...。北海道は車が必須ですね」と桂川さんは苦笑い。
職場の雰囲気について尋ねると、「若い人が多くて、みんな元気。気さくな人が多くて、声をかけてくれるので馴染みやすいですね。僕より若い人もいて楽しいですよ」と話します。先月は、田中社長と熱波師でもある統括マネージャーと3人で江丹別のサウナへ趣味と勉強を兼ねて出かけたそう。「好きなことを仕事にできるって、本当に楽しいなと思います」とニッコリ。さらに、「やってみたいと声をあげれば、やってみなよって言ってもらえる雰囲気がいいなと思います」と続けます。今は、統括マネージャーについて熱波師を目指して勉強中なのだそう。
市街地にある寮に暮らしているという桂川さん。日々の暮らしで困ることは一切ないと話します。
「芦別って、出身地の下呂にも雰囲気が似ているんです。だから、自分としてはホッとする感じの町です。社長はもっと外に遊びに行っておいでって言うのですが、休みの日はホテルに来ることも多いんです。サウナに入ったり、露天風呂で星空を眺めたり、マンガを読んだり...。居心地がいいんですよね。あとは、みんなと食事に出かけたりもすることもあります」
休みに職場?と思いますが、「十分楽しい場所ですから」と笑います。それだけここが、若い人の楽しめる場所なのだということがあらためて分かります。
これからやってみたいこと、挑戦したいことを尋ねると、「まずは熱波師ですね。あとは、サウナもグランピングももっといろいろできそうな気がするので、アイデアを提案していきたいと思います。たとえば、塩サウナの塩にアロマや漢方、ヴィヒタを粉砕して混ぜたり、グランピングはオプションをもっと増やしたり...」と、次々アイデアが出てきます。
「まだまだあらゆることが勉強中ですが、楽しみながらやっていけたらと思います」と満面の笑みで締めくくってくれました。
- 芦別温泉スターライトホテル・おふろcafe星遊館
- 住所
北海道芦別市旭町油谷1番地
- 電話
0124-23-1155
- URL