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このまちのあの企業、あの製品
苫小牧市

価値ある仕事に携わる誇り。漁船を手がけて1世紀以上の吉田造船20240321

価値ある仕事に携わる誇り。漁船を手がけて1世紀以上の吉田造船

北海道は豊かな漁場に恵まれ、漁師の数も漁船数も全国トップと言われています。おいしい魚を私たちに届けてくれる漁師さんたちの大事な相棒が漁船。その漁船を造り、水産業を支えているのが道内各地にある造船業者さんたちです。今回は、苫小牧市にある「吉田造船」を訪問。漁船や小型船舶の製造現場を見せていただき、仕事の面白さややりがいについて話を伺いました。

全道各地の漁船を製造。新規漁船の予約は、4年先まで埋まっているという現状

冬でも晴れの日が多い苫小牧。太平洋に面した漁港のそばに「吉田造船」はあります。事務所と作業場の向かいには、青空を背景に緑のシートに覆われた船の木型が並んでいました。

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大正5年、室蘭で創業したという同社。現在、代表取締役を務める矢木田光雄さんは3代目で、苫小牧に拠点を移したのは昭和31年頃だそう。今回は会社のことについて、代表の息子であり、専務の矢木田和明さんに伺いました。

「今はFRP(強化プラスチック)の漁船の製造を中心に、修理やメンテナンスも行っています。漁船だけでなく、材質がFRPであればプレジャーボートやスワンボートの修理なども請けています」

同社で製造しているのは、4.9トンの小型漁船が中心。エンジンも付けて、1艘7000万円以上するとか。中には1億になる漁船もあるそう。札幌の平均的な戸建てよりも高い数字に驚きますが、それもそのはず。漁師さんにとって漁船は大切な仕事道具であり、漁船の購入は工場でいう設備投資のようなもの。しかも海という自然の中で自分の命を預けるわけですから、金額云々ではないわけです。

tomakomai_yosidazousen00021.jpgこちらが、専務の矢木田和明さん

「うちで造っている漁船は、1艘ずつカスタムメイド。漁法や漁師さんの使いやすさ、こだわりに合わせて調整しています。大手メーカーさんの漁船などみんなと一緒なのがイヤだという方も結構いらっしゃるので」

細かいリクエストに応えられるのは、職人の技術力や経験値によるところが大きいそう。現在、同社が1年に新規で製造できるのは2艘程度。製造業はどこも人手不足と言われていますが、同社も人手が足りない状況で、修理の依頼も多いため、新しく造るのは2艘が限界と話します。

「漁師さんが漁船を購入しやすいように行っている国のリース事業があり、実は令和10年まで新規の漁船製造は予約でいっぱいという状況です。モノづくりに興味があり、一緒に船造りに関わってくれる方に来ていただけると助かるのですが...」

職人の高齢化に伴い、技術継承も含め、若手の育成も課題になっているそう。また、道内の同業者の数も減っているとのこと。

tomakomai_yosidazousen00010.jpg吉田造船さんには、2年前に若手スタッフも加わり、先輩たちのもと修行中です

「昔は道内各地のエリアごとに造船業者が1、2社ありましたが、自分の知る限り今は全道で10社ちょっと。そのため、遠方のエリアからの注文もあれば、修理依頼も増えています。遠くは湧別や根室まで出向くこともあります」

定期的にメンテナンスをしながら、キレイに使っていれば20年、30年と使えるという漁船。高額なため、中古の売買もよく行われています。近場の港で使われていた同社の漁船が、中古で売りに出され、遠方の港で活躍していることも多々あり、造ってくれたところに修理を頼みたいと連絡がくるケースもよくあるそうです。

丁寧に、キレイに。職人の技術が重要になってくる妥協のない漁船造り

さて、その漁船、どのように造られているのでしょうか。港から遠目で見ると小さく見える漁船も、目の前で見るとかなりの大きさです。4.9トンの漁船と言ってもピンとこないかもしれませんが、全長はだいたい20m未満、幅は約4mになります。

tomakomai_yosidazousen00005.jpg近くで見るとなかなかの大きさ。

船造りの第一歩は、船主である漁師さんとどのような船にするかを打ち合わせするところから。漁師さんにとっては大事な仕事の相棒であり、高額でもあるため、細かく丁寧にヒヤリングし、詳細を詰めていきます。

それから設計図を引いていきます。同社は船専門の設計士さんに設計図を依頼しているそう。あがってきた設計図をもとに、矢木田さんら職人総出でベニヤ板に原寸サイズの図面を描き起こします。曲線が多い漁船、なめらかな曲線を描くのはなかなか難しく、何度も調整しながら描いていきます。

このあと、足場を組んで、カットした板を組み立て、船の原型となる木型を造っていきます。木造船しかなかった頃、船を造る人を「船大工」と呼んでいたことを考えると、この作業はまさに大工仕事です。

tomakomai_yosidazousen00025.jpg緻密な設計図に基づいて、正確にカタチにしていきます

木型ができ上がったら、FRPの積層を行っていきます。ガラス繊維と樹脂を混ぜたものを何層にも塗り、空気が入らないように職人たちがローラーで念入りに仕上げていきます。

「どの工程も重要なのですが、特にこの積層に関しては船の強度にも関係してくるので、緊張感を持って作業にあたります。漁船は漁師さんの命を乗せているわけですから、妥協することなく、一つひとつ丁寧に、キレイに仕上げることを目標に作業していきます」

この工程が終わると、港でよく見かける船の姿が現れます。甲板や操船室などを取り付け、さらにエンジンや計器、電子機器などを装備し、これらが終わると作業は終了。納品となります。

「進水式の日は、とても緊張もします。でも無事に試運転が終わったら、ホッとしますね。そして、この仕事をしていて大きなやりがいを感じられる日でもあります」

tomakomai_yosidazousen00038.JPG手がけた船が、無事にお披露目されると、喜びもひとしお

漁師さんにとって大切な漁船のお披露目の日。矢木田専務や職人さんたちにとっても感慨深い日になるようです。

すべてオーダーメイド。ひとつとして同じものがないのも面白さのひとつ

「子どもの頃は、父が仕事をしている作業場へ遊びに来ることはありましたが、自分がこの仕事に携わるとは考えていませんでした」と矢木田専務。学生時代はバスケットボールに打ち込み、東京の大学へ進学します。卒業後、東京に残って働く選択肢もあったそうですが、ちょうど景気が悪化している最中だったため、苫小牧へ戻ることに。

「家業ではありましたが、正直、何をすればいいか右も左も分からないまま入社しました。最初は、根気が必要なその作業の多さに驚きましたし、職人としての父のすごさを目の当たりにしました」

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造船のイロハをイチからすべて覚え、さらに修理も1人で任せてもらえるようになるまで10年近くかかったそう。実は修理のほうが経験値を必要とするため、なかなか難しい作業なのだとか。

「うちで造っているのはすべてカスタムメイド、オーダーメイド。何艘船を造っても、同じものはひとつとしてありません。同じものを工場で淡々と造る製造業と違って、こういうところも仕事の面白さと言えるのかもしれませんね」

専務が今も忘れられないと言うのが、初めて自分で線を引いた漁船を納品したときのこと。「湧別のベテラン漁師さんの船だったんですけど、その方が『この船がお前の造った船の第一号になることを誇りに思えよ』と声をかけてくださったんです。ものすごく嬉しかったですね」と話します。

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根気が必要で難しい作業も。でも、それを上回るやりがいと喜びが得られる

モノづくりに興味があることはもちろん大前提ですが、どんな人が職人として向いているかを尋ねると、「やっぱり根気がある人かな。あとは少し器用なほうがいいと思う」と矢木田専務。一方で、「キレイ好きな人、整理整頓ができる人、作業にこだわりを持って取り組める人」と話すのは、入社して2年の小浜孝史さんです。ここからは小浜さんに職場のことや仕事について伺っていきましょう。

地元出身の小浜さんは、工業高校で化学系の学科を専攻。食品工場、屋根の板金加工の仕事を経て、吉田造船へ。きっかけは、「そのときはまだ船に乗ったことはなかったんですが、船という大きなものを造るのが面白そうと思ったから」と話し、「吉田造船に決めたのは、作業場を見学させてもらって会社の雰囲気が良かったのと、社長の人柄が良かったからです」と続けます。

tomakomai_yosidazousen00015.jpg作業の合間にお話してくれた、小浜孝史さん

入社してからすでに3艘の漁船造りに携わっている小浜さん。現在手掛けているのは4艘目になります。思っていたよりも手作業が多いというのが入社してすぐの小浜さんの最初の印象。ベニヤ板にどうやって設計図のように曲線を描くのかなど、最初は興味津々だったそう。

「先輩たちについて、一つずつ教えてもらい、実際に手を動かしながら覚えていきました。一見怖そうに見えますが(笑)、社長も専務も、先輩たちもとても親切。話しかけやすいし、質問すれば丁寧に教えてくれます。そして、皆さんやっぱり職人としてすごいなと思います」

さまざまな工程作業がありますが、小浜さんは船の先端部分、バルバス・バウと呼ばれるところの仕上げが一番好きだと話します。職人数人で左右対称に整えていくのですが、「社長も腕の見せ所といつも言っている作業なんです」とニッコリ。

小浜さんが仕事をしていて嬉しいこと、やりがいを感じることはいろいろあるそう。

tomakomai_yosidazousen00014.jpg空気が入らないように、丁寧に仕上げていきます

「船がトラブルなく動いているのを見たときもホッとして嬉しかったし、たまたま見ていたテレビにお客さんの船が映っていて、大事に使ってくれているのが分かったときも嬉しかったし...。あと、船主の漁師さんが船を造っている期間に途中経過を見にいらっしゃって、『やっぱりここをこうしたい』とかそれぞれ使いやすいように調整が入ることがよくあるんです。中には難しい要望もあるんですが、それに応えられたときに漁師さんが喜んでくれると嬉しいし、やりがいを感じますね」

取材中もオホーツクのほうから漁師さんたちが作業場の見学に訪れていました。年に数回、このように勉強のために見学に訪れる漁師さんたちがいるそう。若い漁師さんたちもたくさんいて、作業の様子を興味深そうに見ていました。未来の船主が中にいるかもしれません。

tomakomai_yosidazousen00036.jpg見学に訪れた漁師さんたちをお見送り

最後にこれからのことを尋ねると、「船を造るひと通りの流れは覚えましたが、同じ船は一つとしてないですから毎日が勉強。覚えることはまだまだたくさんあります。もちろん難しいことや大変な作業もありますが、できなかったことができるようになると楽しい!って思えるんですよね。これからもいろいろな経験を積んでもっと仕事を覚えていきたいです」と語ってくれました。

漁船を造る仕事は根気が必要で、決して楽とは言えません。それでも船が完成した際に得られる大きな喜びがあるから、また頑張れるという仕事の価値を矢木田専務と小浜さんの話から感じられました。そして、漁師さんたちに喜んでもらえる安全な船を造り上げることへのこだわり、職人としての誇りもじわじわと伝わってくる取材でした。

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有限会社 吉田造船
住所

北海道苫小牧市汐見町1-3-7

電話

0144-32-5451


価値ある仕事に携わる誇り。漁船を手がけて1世紀以上の吉田造船

この記事は2024年2月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。