北海道北部に位置する名寄市。人口はおよそ26,000人。夏と冬の寒暖差が大きく、夏は30度を超え、冬はマイナス20度を下回ることも。そのぶん四季をはっきり感じることができます。農業も盛んで、もち米やアスパラガスなどの栽培、酪農でも栄えています。
そんな自然豊かな名寄市に本店を置く「北星信用金庫」を今回は訪れました。名寄市とその近辺に店舗を構え、道内に22店舗展開しています。もともとは「名寄信用金庫」という名称でしたが、2007年に隣の士別市の「士別信用金庫」と合併し、「北星信用金庫」として生まれ変わりました。
まず気になったのは「銀行と信用金庫ってどう違うの?」ということ。さらにお仕事の内容、信金を選んだ理由、地域との関係性などを、3名の職員の方々に伺いました。
銀行と信用金庫の違い。「信金さん」と呼ばれること。
まず最初は、北星信用金庫(以下、北星信金)総務企画部次長であり採用担当でもある渡邊健さん。名寄の隣、下川町出身の41歳。名寄市の高校を卒業後、立正大学に進学。教員を目指しチャレンジしますが叶わず進路を変更、偶然新聞の広告で見かけた北星信金の募集に応募し採用、今に至ります。
いきなりですが、渡邊さんに銀行と信金の違いについてお聞きしました。
北星信用金庫総務企画部次長の渡邊健さん
「銀行は株式会社なので、株主の利益が優先されます。大企業を含む全国の企業との取引が可能です。一方の信用金庫は、地域の方々が利用者・会員となって互いに地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした共同組織の金融機関で、主な取引先は中小企業や個人のお客様です。利益第一主義ではなく、地域社会の利益が優先されます。営業地域が一定の地域に限定されている点も特徴です。もともとは地域の人々が自分たちのための金融機関を立ち上げた、というところがスタートになっています」
人口も減ってきている中でも地域をしっかり守りたい。地域・経済を守ることが使命、と穏やかながらも熱い口調で語ります。利益第一ではなく、地域の経済や暮らしを守ることが第一義なので、「地域密着」という言葉がよく出るのだそう。渡邊さんはこう続けます。
「『信金さん』と呼ばれ、自分たちも地域の中に溶け込んでいきたい。かつ身近な存在としてご相談いただけるような立場で、街づくりに貢献していくことが使命だと思っています。最終的には『信金の○○さん』と名前で呼んでもらえたら、信金みょうりに尽きますね。そのまちに住んでいる方々の在り方や生活の仕方を大事にし、泥臭く、親身になってやっていくようにしています。それができるのが信金だと思っているので」
名寄も信金も「ちょうどいい」
名寄とはどんなまちなのでしょう。渡邊さんに聞いてみました。すると、出てきたのが「ちょうどいい」という言葉。今年内定となった学生から言われ、適切だと感じた言葉なのだそう。
「名寄が好きで就職したいという学生さんがいたんです。聞いてみたらその理由が『ちょうどいい』ということでした。名寄って田舎過ぎず都会過ぎず、でもなんでもあるんですよ。総合病院があるので、出産も子どもの病気も対応してもらえるし、陸上自衛隊や名寄市立大学もあって経済もしっかりと回る。農業が基幹産業であり、季節ごとに野菜が豊富で、おいしい飲食店がたくさんあります!」
他にも、全国的に有名な天文台があったり、市内にスキー場があったり、『星守る犬』という映画のロケ地になったり、観光できる場所も多々あるのだそうです。
「名寄には必要なものが揃っているので生活にも困ることはなく、住みやすいと思います。また、人を呼び込めるポテンシャルも持っていると思います。人口減少や産業の縮小化は否めませんが、そんな中でも『ちょうどよさ』をうまく残しているまちだと感じますね。その『ちょうどよさ』があるからこそ、信用金庫の存在感も高いのではないかと思います」
名寄への思い。北星信金を選んだ理由
次にお話を伺ったのは、入社2年目、24歳の氏家晃太さんです。出身は札幌で、小樽商科大学に進学、卒業後北星信金に入社しました。最初の1年間は札幌の円山支店に勤務していましたが、昨年の4月にここ名寄の本店に異動。明るくはつらつとした雰囲気の氏家さん。なぜ北星信金を選んだのでしょうか。
笑顔が印象的な氏家晃太さん
「もともと営業の仕事が希望で、ハウスメーカーと金融関係に興味がありました。就職活動をする中で北星信金を知り、その雰囲気に惹かれて決めました。それに、祖母の実家が中川町で名寄市の近くなんです。中川町は自分にとってのホームのひとつで、名寄はそこに近いまちでイメージもつきやすく、親近感を持っていたというのもあります」
金融関係のお仕事に興味があったとのことですが、信金を選んだのにはなにか理由があるのでしょうか。
「できれば道内で勤めたかったというのがあります。ちょうど就職活動の最中はコロナ禍で、なにかあったときにすぐ家族の元へ駆け付けたいという思いから、道外は避けていました。銀行も検討しましたが、本店が自分の故郷と近い北星信金を選んだんです」
札幌勤務の時には、顧客の大部分は企業だったとのことですが、本店の名寄に異動してきて、良かったと感じることが多いのだとか。
「名寄にきて、自分のイメージしていた仕事ができていると感じました。お客様との距離が圧倒的に近いんです!個人のお客様や地元の中小企業のお客様が多く、本当に地域に密着していると感じます。仕事内容は顧客回りで、具体的には預金の管理が一番多く、満期になったときのお手続きをしたりします。お客様の近くでお仕事をしたいと思っていたので、こちらでの仕事の方が自身のイメージに合っていると思っています」
氏家さんの口からたびたび発せられる「地域密着」という言葉。どのようなときに「地域密着」を感じるのでしょうか。
「名寄本店の前に小さな花壇があるんです。その花壇で、花を植えたりする活動を町内会の方々と一緒におこないました。そういう中で、お客様に顔と名前を憶えてもらえて嬉しく思いました。また、高齢の方が多いので、希望があれば現金をお届けに行くこともあります。札幌ではなかった仕事ですね」
お客様との距離が近いこと、お客様のそばで仕事をすることが本当に楽しいと、氏家さんはニコニコと語ります。
部活を通してできた人との繋がり
北星信金には部活動があり、サッカー部もあります。中学時代サッカー部だった氏家さん、もちろん入部しました。部活にはいろいろな支店の方が所属しており、毎週木曜日の終業後、練習をするそう。旭川の社会人リーグに参加して、試合をおこなうこともあるとのこと。
「部活を通して他の支店の方々とも交流を持てるので、札幌の支店から名寄の本店に異動してきた時も、知っている先輩がいて話しやすかったです。サッカー部の存在は自分にとってはありがたかったですね」
社内でしっかりとした人間関係を築けるのも良い所だと、氏家さんは続けます。最後に、これから就職活動をする方へ向けて、メッセージをいただきました。
「北星信金は雰囲気がすごく良いところです。でも、いろんな企業説明会などに参加した方がいいと思います。実際の雰囲気を味わったり見たりして決めたほうが良いです。自分自身の一番の決め手となったのは、いろいろなところを受けて比較して、雰囲気がいいというところでした」
エネルギーに満ち溢れ、親しみやすいキャラクターが光る氏家さん。地域密着感の強い名寄本店でのお仕事にたいへん満足しているようでした。
バックパックで世界一周!世界を巡り、そして名寄へ
次にお話を伺ったのは、士別市出身43歳の佐々木剛さん。佐々木さんは札幌学院大学を卒業後、函館の医療機器関係の商社に就職。しかし海外で働きたいという思いから転職をし、中国の大連で3年間IT関係のお仕事を経験します。そして29歳の時、なんとバックパックで約1年間の世界一周の旅へ!その後、札幌に戻り翻訳の仕事をしますが、中国の暮らしが忘れられず再び中国へ戻ります。中国の大らかさ、良い意味でのんびりとした空気感が好きだったと話す佐々木さん。
その後も海外での勤務を続けますが、2013年に結婚し、その後子どもが産まれたのを機に、日本に帰ろうと思い立ちました。年1〜2回しか会えない両親との時間を持ちたいという思いもあったとのこと。また、「地元の役に立つ仕事をしたい」という思いも湧いてきたのだと言います。
こちらが佐々木剛さん。柔らかな雰囲気でお話いただきました
「ちょうどその時に信金の話を聞いてこれは良いなと思い、2017年に北星信金に入庫しました。でも入る前は信金のことはよくわからず、銀行と一緒かなくらいに思っていました」
中国・ベトナム勤務や世界一周、なんとも驚きの経歴をお持ちの佐々木さん。穏やかなゆったりとした雰囲気でお話をしてくれます。しかしなぜ信金のお仕事を良いと感じ、選んだのでしょう。
「生まれ育った地域に根差している北星信用金庫で地域の支援ができればと思い、この仕事を選びました」
3年永山支店に勤務し、その後3年は和寒支店に勤務した佐々木さん。どちらも渉外や営業のお仕事でした。人と話すことが好きなので、外に出てお客様と話す仕事も好きだったと語ります。でもせっかく信金に勤めたので、もっと地域に根差している部署に就きたいと思っていたのだそう。そして名寄に来て就いた部署が、地域支援部という部署でした。
「ずっとこの仕事がしたかったんです。地元に貢献するような、地域と密接につながる仕事を。イベントの立ち上げや準備をしたり、地域のお祭りや行事のお手伝いもなんでもやります。社内紙をつくったりも。商工会議所や、市役所と一緒に活動することもあります。イベントの企画、運営、参加。今までとはまったく違う仕事です」
北星信金にはこんな部署もあるんですね。最近佐々木さんが携わったイベントをお伺いしました。
「今は『北の天文字焼き』という名寄で行うイベントのお手伝いをしています。名寄の名物になるように頑張っているところです。ギネス認定もされているんですよ。こういう形の地域貢献も、地方の金融機関の在り方のひとつだと感じています」
北の天文字焼きについて調べてみたところ、1989年から始まったお祭りで、山の斜面に「天」の字が描かれるイベント。なんとそこで使われるバーナーの使用数が世界一なのだそう。これは見ごたえがありそうですね。
今後、どのような目標があるのかについても尋ねてみました。
「広く地域の役に立てればいいと思っています。企業だけでなく、人の役に立ちたいですね」
そう言って笑う佐々木さん。佐々木さんの言葉からは、信金の仕事が単にお金を扱うことではなく、地域社会と深いかかわりを持つことだということが分かります。そしてそれは、佐々木さんにとって大きな喜びとなっているようです。海外での暮らしも気に入っていましたが、今はここでの暮らしに満足していると微笑みます。
お休みの日は、家族と出かけることも多いという佐々木さん。先日はワカサギ釣りに行ったのだとか。他には温泉に行ったり、スキーもやるそうです。ピヤシリスキー場は近いうえになんと中学生以下は無料!そういうところも名寄の良さだと語ります。
地域に育てられ、自己成長できる金融機関
ここで再び渡邊さんのお話に戻ります。もともとは教員志望だった渡邊さん。教員を目指した理由は、人と関わる仕事がしたかったからだそう。教員は教えるだけでなく子どもから教わることも多く、互いに教え合う関係だと話します。
「信金に入ってみてわかったことですが、結果的に教員の仕事も信金の仕事も同じでした。私たちは、地域に育てられていると感じます。お客様にほめてもらったり、叱ってもらったり。職員同士でも自分にないものを教え合ったり。いろんな業種の経営者とお会いできるというのもすごく面白いと感じています」
実は渡邊さん、つい最近第一子が誕生し育休を取得したのだそうです。渡邊さんが北星信金の男性職員での育休取得第一号となりましたが、改善すべき部分もあると感じたのだそう。北星信金としても、今後の男性職員の育休取得を推し進めているところだとのことです。
人間関係とまちづくり、どちらも目指すは再構築
今後のことについてお聞きしました。
「若い人々がやりがいを持って取り組める環境整備に尽力したいです。研修教育を年一回だったものを年二回にしたり、研修を階層別にして悩みやスキルアップが必要なところに焦点を当てたり、工夫を重ねて取り組んでいます」
もともと職員同士での交流を大切にしていたのですが、コロナの流行によって交流が断絶されたと言います。そこで渡邊さんは、研修会や懇親会を設けて、人脈を作ってもらったり北星信金内での仲間意識を作るきっかけづくりをしているのだと話します。
「今の世の中に合った形で、まちも人も仕事も、再構築していかなければならないと思います。人口は減っていくし、高齢化も進んでいきます。コロナによって変わってしまった部分もあります。私たちはそれらに合わせていろいろなものを再構築していかなければならない。そこに信金職員として携わっていきたいです。世代交代であったり、ダウンサイズしていくところもあると思います。ただ、信金もまちもなくなるということはないと思っています。適正な形、『ちょうどいい』形の中でちゃんと共存していくのではないでしょうか」
住む人にとって「ちょうどいい」まち、名寄。
今回お話を伺った3名にも、それぞれの「ちょうどよさ」があるように見えました。都市での仕事や暮らしよりも、地域密着で仕事をすることが「ちょうどいい」と感じる氏家さん。海外勤務の経験を持ちながらも、地域社会と深い関わりを持つことを「ちょうどいい」と思う佐々木さん。小さなまちでも、自分の望む仕事の在り方を見つけた2人。名寄、そして北星信金は、その人それぞれの「ちょうどよさ」を感じられる場所なのかもしれません。
- 北星信用金庫
- 住所
北海道名寄市西2条南5丁目5番地
- 電話
01654-2-1111
- URL