全国各地にある社会福祉協議会(以下、社協)は、日々の生活で困ったことがあった時に支えてくれる社会福祉の拠り所。日常はもちろん災害などの非常時まで、地域の人たちの暮らしを支える相談所です。
2018(平成30)年9月に発生した北海道胆振東部地震で震災の被害が大きかった安平(あびら)町で、社協の役割や取り組みについて伺いました。
社会福祉協議会の役割と業務を確認
安平町にある安平町社会福祉協議会(以下、安平社協)は、町内の早来地区にある本所と追分地区にある追分支所の2カ所あります。双方合わせて事務職員が7名、ヘルパー16名、運転士2名の総勢25名が安平町内全域の福祉を支えています(2023年12月現在)。
今回お話を伺ったのは、本所に所属する事務局長の高橋光暢(みつのぶ)さんと、主事・福祉活動専門員の岸本崚(りょう)さんです。
まずは社協の基本的な業務について、高橋さんから教えてもらいました。高橋さんは江別市出身で安平町在住25年。安平社協のベテランです。
「社協は地域の社会福祉活動を推進するための非営利の民間組織です。町や地域の事情や環境によって具体的な取り組み内容に違いはあっても、目的は一緒です」
社協は民間組織とはいえ、行政からの支援も受けている公共的な団体という位置づけ。全国の市町村に設置されていて、各町に1つずつ置かれています。
続けて高橋さんは、
「業務には社協の本来業務と、地域唯一の公共的な団体だからこそさまざまなことを請け負ってやっている、本来業務以外の業務があるんです」と教えてくれました。
本来業務と本来業務以外の業務とはなんでしょうか。詳しく伺ってみました。
地域の助け合いを促し後押しするのが本来の業務
高橋さんによると、本来業務は大きく2つあります。本来業務の1つ目は、地域のつながりで助け合いを促進していくこと。高橋さんが少しかみくだいて説明してくれました。
「『どこどこの誰々さん、最近調子悪そう』とか、『今まで元気だったのに出てこなくなった』とか、気づいたり気になったり心配したり、そういう気持ちを共有できるコミュニティが安平町の自治会や町内会です。心配だ、気になるという気持ちに基づいて、できることは何だろうと考えるみなさんを後押しするのが私たちの役割です」
本来業務の2つ目は、地域の助け合い活動を後押ししていくことで、手助けしてほしい人と手助けしてあげたい人をつなぐことです。例えば、給食のお弁当作りをしてお年寄りのところに届ける活動や、高齢者のところへ行って話し相手になる活動など、地域の活動のサポート役です。
「活動に賛同して一緒に協力しようかなという方も出てきますし、自分の住んでいるコミュニティを離れて何かのテーマや目的に基づいて集まってくる方もいます。ボランティアのコミュニティを作っていって、人をつないで助け合う活動を後押しする役割です」
本来業務以外のさまざまな業務もかなり重要
本来業務以外の業務というとまるでオマケみたいに聞こえてしまうかもしれませんが、決してオマケではなくこれも社協の重要な任務。公益的な業務です。安平社協で行っている本来業務以外の業務はさまざまありますが、大きく3つの例を高橋さんが教えてくれました。
1つ目は成年後見制度の請負。身寄りのない認知症の方などが、金銭管理や契約行為などの意思決定で手助けが必要な時に、本人が行うさまざまな判断の手伝いをする役割です。
2つ目は、社会福祉のさまざまな制度の相談に乗ったり困窮者の支援をしたりする役割です。
「社会福祉の制度の対象は高齢者、障害者、母子家庭、低所得者などさまざまありますが、たどり着かない方や制度の狭間に落ちてしまう方がいます。そのような方々が困りごとを抱えて誰にも相談できず孤立してしまわないようにする役割です」と高橋さん。
そのために、いつでも相談できるような関係づくりを心掛け、困ったことがあった方の相談に応じているそうです。
3つ目は、訪問介護事業や高齢者の移送サービスなどです。
「早来地区ではタクシー事業者が廃業してしまいましたし、訪問介護の事業者さんも撤退してしまったので、社協が訪問介護の事業継承を受けたり高齢者の移送サービスや通院の足を担ったりしています」と、地域の事情に合わせ対応をしていると高橋さんはいいます。
昨今は人口減少や働き手の減少で、住民を支えるサービスの担い手となる事業者が少なくなっています。ある程度公的資金を投入してでも最低限必要なサービスを維持するため、その受け皿を担う役割なのです。
「話ができる人」と思われる信頼関係を築くこと
では、安平社協のみなさんは実際に日々どんなことを心がけているのでしょうか。苫小牧市出身で3年前に子どもの福祉に関する仕事から安平社協に転職をした、岸本さんにお話を伺いました。
岸本さんが日々心がけていることは多々あるようですが、その中でも大事なことは大きく2つあるようです。まず開口一番語ったことは、信頼関係を築くこと。
「例えば何か集まりがあったら、まず顔を覚えてもらうために行きます。受け入れてもらえるようになってから信頼関係ができて、キーパーソンの方とつながりを持てるようになります。話ができるようになって、そこからどういう関わり方がよいのかなという視点で進めていきます」
町内のそれぞれのコミュニティで「話ができる人」と思ってもらえるようになることが肝要なようです。そのために、町内会や自治会など町内をくまなく訪れ顔を覚えてもらい、少しずつ信頼関係を築き上げてきました。
主体は住民、空気を読むセンスが大事
さらにもう一つ重要なことは、主体は社協ではなく地域の住民という立ち位置とバランス感覚。仮に、地域にこんな集まりがあったらいいなという社協の想いがあったとしても、社協が先頭に立って進めると住民の方々の気持ちがついていかずみなさんが重荷に感じられてしまうそうです。
「社協はあくまでコミュニティごとのキーパーソンを支える裏方です。住民の方々が『やっていることに意味がある』と感じて喜んでもらえるよう後押しをする存在です」と岸本さん。
そのために、社協がどこまで先導するか、いかに町民の方々を後押しするかというバランス感覚や場の空気を読むことが求められるようです。
抽象的ですが、住民の方々の「自分たちでやるぞ」という気持ちをどこまで持っていけるかということ。住民の方々のやりたいという気持ちがあったら、小さいことでも全力でお手伝いするというスタンスが社協の立ち位置です。
でも、どうやって岸本さんは住民のみなさんの気持ちを見極めているのでしょうか。
「具体的な方法は言葉にできなくて......。コミュニティごとに違いますし、場の空気というか、雰囲気や感じ取ったこととか、印象とか。まずしっかりと観察することだと思います」
岸本さんは自身が見て感じてきたことを高橋さんに伝えてアドバイスをもらいつつ、その後の進め方を見極めているそうです。例えば、しっかり形ができているコミュニティにはあえて時折顔を出すだけで入り込みすぎないようにしている一方、何回も行かないとコミュニティが安定しなさそうに感じられるところは定期的に訪問しています。
高橋さんと岸本さんは日々どれだけ深いコミュニケーションを図っているのかと思いきや、岸本さんから意外な返答が。
「ほんと、空気の話しかしていないかもしれません(笑)」
岸本さんが高橋さんに語ることは具体的なことというよりも、「こういう空気」という抽象的なことが多いのだとか。社協のみなさん、コミュニケーションの達人なのかもしれません。
顔を見て交流するきっかけ作りに「ふまねっと運動」
町内会やボランティア活動など、さまざまなコミュニティや取り組みがありますが、そのうちの代表的なものを教えてもらいました。「ふまねっと運動」の取り組みです。ふまねっと運動は、50センチ四方のマス目でできた大きな網を床に敷いて、歌や音楽に合わせて、ゆっくりしたテンポで網を踏まないように歩く運動。高齢者も障がい者も住民の誰もが参加できるようにと開発され、釧路市から各地に広まっていきました。
ふまねっと運動の目的は運動をすることではなく、住民のみなさんが顔を見て交流すること。あくまでコミュニケーションの手段の一つです。一見、簡単そうに思えますが、意外とみなさん間違えて網を踏んでしまうようです。それが面白くて場が和み、会話が進んで交流が深まるようです。
「『やっちゃったー、アハハ』というように笑顔や会話が生まれるんですね。ふまねっと運動だけでも各場所によって雰囲気が違って、自分が参加する時もあれば、脇に立って助ける役目という時もあります」と岸本さんが笑顔を見せます。
同じ活動に見えても、それぞれの場の空気と構成する人たちの関係性によって関わり方も進め方も変わってくるのが社協の仕事。コミュニティごとに最適な方法を探り当ててアシストし、みなさんを笑顔にすることがこの仕事の醍醐味なのかもしれません。
災害時は全町民が一斉に困りごとを抱える状況
今回のインタビューで、差し障りない範囲で伺いたいことがありました。それは、災害時の対応について。2018(平成30)年に起きた北海道胆振東部地震で安平町は震度6強を観測。町内の各所で家屋倒壊など甚大な被害が起きました。
その当時岸本さんは入社前だったので安平町で震災は経験していませんが、高橋さんは自宅が損壊する被害がありつつも、安平社協の職員として町民に向き合ってきました。
その時の社協の役割や気づいたことなど、高橋さんに率直に教えてもらいました。
「日常と大きく変わったことは、非常時は困りごとの定義が大きく広がることです。日常では必要なことは公的なサービスで賄われていて、そこからこぼれた困りごとだけ手助けが必要になるのですが、災害時は全町民が一斉に困り事を抱える状況になります。公的なサービスとか業者に頼んでやってもらうことができないし、行政も対応しきれないし。困りごとが一斉にあふれ出してくるのが災害時の状況です」
突然あふれ出る困りごとの相談窓口としての役割とともに、全国から助けたいとやってくる方々を町民につなぐのも社協の役目です。
通常のボランティアセンターを拡大して災害ボランティアセンターを立ち上げ、約3年間続けてきました。その中で、気づいたことや大事なことだと認識したことがあるそうです。
「困っていても困っていると言えない方がけっこういるんです。日常でもそうなのですけど、災害時もやっぱりそうなんです。建物はしっかりしていても家の中が崩れていてタンスが倒れたままとか、何週間も助けてって言えないとか。そこをすくいあげていくのも我々福祉の仕事の大きな役割だと再認識しました」
困っていると言えない方の心理は、今まで自分のことは自分でやってきたのでお願いする前に自分でしないといけないと思ってしまうケースや、知り合いにお願いしてやってもらうのは気を遣うし気負いしてしまうケースなどがあるようです
災害時は断らない援助と看板を掲げ続けることが大事
全町民が一斉に困りごとを抱える状況で、困っていると言えない方もいる中、具体的にどのように接して対応したのでしょうか。大きく2つ教えてくれました。
心がけたことの1つは、行政やNPOなどと役割分担をして、断らない援助をすることです。
「ボランティアセンターにたどり着けた人 に『今うちでそれはできません』って断ってしまったら、勇気を持って困りごとの相談に来たのに『やっぱりこれは自分でやんないといけないんだ、人には相談できない』って孤立して抱え込んでしまうと思います。社協や災害ボランティアセンターで解決できないことも、行政だったら解決できるとか、NPOだったらやってくれるところがあるから紹介をするとか、断らない援助が大事です」
こう語る高橋さん。災害時だけに限らず平時から心がけつつも、震災を通じて改めて実感したそうです。また、高橋さんがもう1つ心がけたことは、災害ボランティアセンターの看板を約3年間掲げ続けたことです。
「おおかたの困りごとは災害直後の1、 2ヶ月ぐらいで済んでしまうんですけれど、住居を失った人は再建まで結構長い期間がかかるんですよね。避難所、仮設住宅、再建した住居って3回も引っ越しするので、健康リスクもものすごく上がります。住所が変わる、孤立する、ストレスがたまるって。最後まで孤立しないように地域に定着していけるようと、長いスパンで関わるために看板を掲げ続けました」
震災からだいぶ時間が経って困りごとの案件があまりない状況でも、もしも何か案件があったらいつでも対応できるようにと、町内から仮設住宅がなくなるまで看板を掲げ続けたそうです。看板があることで対外的に安平町の復興がまだ終わっていないことを示すとともに、町外から手伝いに来る方々の窓口にもなりました。
高橋さんは震災の経験から、
「災害もそうですし平時においても困りごとってなかなか人には相談できないことなので、話を聞くだけでも支えになるという考え方で関わり続けるのが大事なことだと感じました」と語ります。
地域の人たちを孤立させないよう、困っている人に関わり続けていくことが社協の役目。高橋さんは震災を通じて社協の役割を改めてそのように再認識したそうです。
裏方で地域の暮らしと生活を支える
ある日突然やってくるかもしれない災害。普段関係ないと思っていた人も、社協の心強さを感じる時かもしれません。お2人にお話を伺い、お恥ずかしながら社協とは何か、やっと理解した気がします。
最後に高橋さんはこう話してくれました。
「社協が直接何かの支援をするわけではなく、間接的な支援なんですよね。支援する人やボランティアをサポートする裏方なので、自分たちの姿って見えないんですよね。社協ってこんなことしているって知っている人のほうが少ないのかなと思います」
社協は地域の人たちの暮らしを支える相談所。目にしにくい裏方の仕事とはいえ、この方々のおかげで地域の福祉が守られています。
安平社協のみなさんは、非常時だけ何か特別にするというわけではなく、日常から『相談しやすい』『助けてくれる』と思ってもらえるように住民と向き合ってきました。地域の隅々までコミュニティに入りこみ、日々顔を合わせて話しをしやすい環境作りをしてきた積み重ねがあったからこそ、全町民が一斉に困りごとを抱えた非常時を乗り越えられたのかもしれません。
- 社会福祉法人 安平町社会福祉協議会
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北海道勇払郡安平町早来大町41番地 かしわ館内
- 電話
0145-22-3061(代)
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