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札幌圏約230万人の食を支える一大拠点!札幌市中央卸売市場20231120

札幌圏約230万人の食を支える一大拠点!札幌市中央卸売市場

たくさんの人がまだベッドの中にいる時間、卸売市場にはたくさんのトラックが出入りし、各地から運ばれてきた青果や鮮魚が並べられます。日が昇る少し前からせりがはじまり、市場は活気に溢れます...。約2500人の人たちが働いていると言われる札幌市中央卸売市場。その存在は知っていても、市場の仕組みや食料生鮮品の流通に関してはよく分からないという人も多いはず。一般の人は入れない場所も多いため閉ざされたイメージを持ちがちですが、実は予約をすれば1人で訪れても見学ができるのです。今回は、市場の見学案内などを行っている一般社団法人札幌市中央卸売市場協会の村上由美さんの案内で市場を見学。「へぇー!」「なるほど!」がいっぱいの見学のあとは、村上さんの仕事への想いなどを伺いました。

北海道唯一の「中央卸売市場」は、札幌圏の食を支える拠点

tyuuousijou00064.jpgこちらが、今日案内してくれる、札幌市中央卸売市場協会の村上由美さん

まず市場の見学の前に、札幌市中央卸売市場がどのようなところなのかを簡単にお伝えしておきましょう。そもそも、「卸売市場」というのは、各地から集まった野菜や果物、水産物、花、肉などを取引し、小売店やレストランなどの飲食業者、加工業者へ販売するための拠点を言います。市場によって扱っているものは異なり、札幌市中央卸売市場では青果物と水産物を扱っています。

卸売市場の機能・役割は、国内外から取り扱う食材を集め(集荷)、せりなどで公正かつ適正な価格を決め(価格形成)、品物を小分けにして小売業者などに販売(分荷)し、支払のルールを決めて速やかに確実に決済すること。さらに入荷量や卸売価格を公表する情報発信も行っています。生鮮食品を扱っているので市場内での鮮度維持も大事な役割です。

tyuuousijou00010.jpgこちらは水産棟の内部。全国から集められた水産物が品目毎に並びます

卸売市場には「中央」と付くものと、「地方」と付くものがありますが、中央卸売市場というのは、農林水産大臣から認可を得て開設したもの。その開設者のほとんどは自治体で、1959年に誕生した札幌市中央卸売市場も開設者は札幌市となっています。北海道で唯一の中央卸売市場です。中央卸売市場は全国40都市で65カ所開設されており、扱っている品数や規模的なもので見ると、札幌市中央卸売市場は全国5位くらいなのだそう。ちなみに地方卸売市場というのは各都道府県知事から認可を得て開設した卸売市場になります。

冒頭で、札幌市中央卸売市場には2500人近くが働いていると述べましたが、市場にはどのような人たちが出入りし、仕事をしているのでしょうか。

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まず、生産者、出荷団体、産地仲買人から買い付けた、あるいは委託された大量の青果物や水産物をせり場(卸売場)で仲卸業者や売買参加者に販売するのが「卸売業者」。札幌市中央卸売市場では、札幌市の許可を受けた青果物1社、水産物2社の卸売業者が業務を行っています。卸売業者からせりなどで価格をつけて仕入し、市場内の店舗で買出人に販売を行うのが「仲卸業者」です。仲卸業者も札幌市の許可がなければ市場で業務を行うことができず、現在は水産24社、青果24社が登録されています。また、仲卸業者から仕入れもできますが、卸売業者のせりにも参加ができるのが「売買参加者」です。同様に許可を受けなければ参加ができません。水産で66人、青果363人が許可を得て市場を訪れています。さらに、仲卸業者から青果や水産物を仕入れるのが、「買出人」と呼ばれるスーパーや小売業者、飲食業者、加工業者など。彼らは市場内の仲卸業者の店で買い付けを行います。このほか、市場には段ボールやパッケージの資材を扱う業者や食堂などで働く関連事業者の人たちも出入りしています。

と、前段階が長くなりましたが、ここまでを抑えた上で村上さんと一緒に市場見学に向かいたいと思います。

tyuuousijou00003.jpg市場内には色分けされた廊下や、掲示物などで分かりやすく見学コースが整備されています

市場見学はせりが見られる早朝がおすすめ! 水産棟ではマグロのせりを見学

朝5時30分。市場の見学をするならこの時間がおすすめということで、外がまだ暗いうちに集合。普段入ることのない場所なので、少し緊張しながら市場内の管理センターと呼ばれる建物へ。受付を済まし、村上さんと一緒にエレベーターに乗って上の階へ移動します。壁や床に見学者のための表示がされており、思っていたよりも開かれている場所なのだと分かります。

まずは海のものが揃う水産棟へ。見学はすべて2階の見学通路からとなっており、通路(と言っても広い)から1階のせり場(卸売場)を見渡すことができます。200m以上あるというせり場にはたくさんの発泡スチロールが積み上げられ、魚やカニなどがチラチラと見えます。いちばん手前にはマグロの売場があり、大きなマグロたちがズラリ。それらを目の前にすると、思わず「わぁ」と声が漏れてしまいます。

tyuuousijou00005.jpgマグロ売り場は、専用の温度管理がされた区画になっています

売場は配置が決まっており、手前がマグロ売場、その隣に低温活魚売場、その奥には毛ガニやウニ、タイ、ボタンエビなどの高級売場、サケや貝類などの近海売場、カレイやホッケ、イカなどの大口売場、と魚の種類ごとに売場が分けられています。さらに奥には冷凍製品の売場、塩サケや干物、かまぼこを扱う鮭鱒魚卵売場や製品売場と続きます。

「6時からマグロのせりがはじまるので、ぜひそれを見てください」と村上さん。売場に並んでいるマグロのサイズはさまざまで、「今日は宮城県の塩釜で水揚げされたものが中心で、重さとしては60㎏~100㎏のものが多いようですね」と解説してくれました。日によっては、1本30㎏サイズのものから300㎏近くの大きなものまで並ぶことがあるそうです。

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ブザーが鳴り、マグロのせりがスタート。水産は、「一声ぜり」(ひとこえぜり)と呼ばれる方法で取引が行われます。これは、せりに参加する人(仲卸業者や売買参加者)が希望価格を小さなホワイトボードに書き、せり人(卸売業者)のかけ声に合わせて一斉に見せ、その中で一番高値をつけた人がせり落とせるというもの。「せりがはじまる前に、仲卸業者や売買参加者はそれぞれの商品の下見をして品質をチェックし、需要と供給のバランスを見て希望価格を出します。みなさんが想像するせりはおそらくオークション式の『上げぜり』だと思いますが、それだと時間が少しかかってしまうため、生ものの水産物は、短時間で大量の取引ができる一声ぜりが採用されています」と村上さん。ちなみに市場ではせりのほか、売り手と買い手が話し合いで値段を決める相対(あいたい、相対売とも言う)と、入札(水産のみ)という取引方法もあります。せり落とされたマグロたちは、マグロ売場の奥のほうで卸業者によって手早くブロックに分けられ、それらを仲卸業者が運搬車などで次々と運んでいきます。

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展示室には、卸売市場の疑問や謎に答えてくれるものがズラリ

ここで気になったのが、せり場にいる人たちがかぶっている帽子。二桁の数字のワッペンのついた帽子の人や番号札を貼った帽子の人などがいます。「帽子の謎はこちらで説明しましょう」と、次に村上さんが案内してくれたのが市場のことが分かる展示室。

展示室には、札幌市中央卸売市場の歴史やせりの仕組みなどが書かれたパネルなどがあるほか、市場内を走るターレットと呼ばれる三輪の運搬自動車の実物も置かれており、記念撮影もできます。「ここでは約600台のターレットが走っています。場内を走っているのを見るとスピードがとても出ているように見えますが、最高速度は時速15㎞ほどで自転車くらいのスピードなんですよ」と村上さん。また、燃料はガソリンではなく環境に優しい天然ガスを使用しているそうです。冬になると前のタイヤだけ冬タイヤに代わるといった小ネタも教えてくれました。

tyuuousijou00031.jpg展示されているターレットは自由に乗ることもできます。もちろん撮影OK

さて、帽子。展示室の奥に、せり場にいる人たちの帽子が展示されていました。水産と青果で若干帽子は異なり、マグロ売場で見た二桁の数字のワッペンのついた帽子をかぶっているのは水産の仲卸業者で、数字はそれぞれの登録番号とのこと。せりが終わると、その商品をせり落とした仲卸業者の番号を書いた札が商品につけられるのだそう。
「黄文字に緑の縁取りと、黄文字に赤の縁取りの2種類あるのですが、緑の縁取りは社員の方たち、赤の縁取りは、業者の代表、つまり社長になります」と村上さん。

青果の仲卸業者は、白いプレートに黒文字で二桁の数字が印字されているそうで、「青果の仲卸業者の社長のプレートには、黒い縁取りがあるんですよ」とのこと。

「数字がなく、会社のロゴが入っている帽子は、水産、青果ともに卸売業者です。卸売業者でせり人の資格を持っている人は、せり人の証として、水産では六角形のバッジを帽子に付けていて、青果では、会社ロゴの入ったえんじ色の帽子を被っています。
ほかにも帽子に様々な番号札がついたひとたちがいますが、番号札は、市場で仕入れ許可がある売買参加者や買出人のひとたちです」と詳しく教えてくれました。

tyuuousijou00038.jpg帽子の意味がわかると、セリの様子がより一層理解でき見学もオモシロくなるかも

と、ここでまた一つ疑問が。せり人には資格があるのですか?という問いに、「あります!」と村上さん。3年間の実務経験プラス筆記試験の合格が条件となります。ちなみにこの資格は札幌市中央卸売市場でのみ適用されるものなので、ほかの地域の中央卸売市場でせり人をやる場合はそこの資格を取らなければならないそう。

余市産のリンゴがたくさん入荷。甘い香りが漂う青果棟

次は青果棟へ移動。水産棟と青果棟をつなぐ3階の連絡通路の途中で村上さんが立ち止まり、ガラス越しに「ここから左が今いた水産棟、右が青果棟になります。2つの棟の間の通りの向こうには、業者さんの車やトラックが停められる屋根付きの駐車場・センターヤードが広がっています」と説明してくれました。水産棟からはブルーのターレット、青果棟からは緑のターレットがそれぞれ出てきては、センターヤードへ食品を運んでいく様子が見えます。ちなみにこの札幌市中央卸売市場全体の面積は約13ヘクタールあり、札幌ドーム約2.5個分にあたるそう。また、センターヤードの屋根には太陽光パネルが設置されており、「このパネルは全部で1440枚。1年間で34万2000キロワットの電力を発電しています。一般住宅の約100軒分の年間使用量の電気と言われているんですよ」と村上さん。

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青果棟に近づくと、甘い果物の香りが漂ってきます。「八百屋さんに行ったときの匂いですよね。今はちょうど余市のリンゴやぶどうがたくさん入荷しているので、より甘い香りがするかもしれません」と村上さん。青果棟の見学通路も200m以上あるそうで、手前に「仲卸」と書かれた柱があり、そこには仲卸業者がせり落とした商品などが積まれています。「水産と違って、青果は常温で日持ちするものもあるので、このように仲卸業者が置いておく場所があるのです」と解説。水産棟と同じく、ここも外の気温と変わらないということですが、水産棟より暖かく感じたのは「水産棟は水をたくさん使っているから、ひんやり感じるのだと思いますよ」とニッコリ。

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果物は見学通路側で種類別にせりが行われ、奥のほうでは野菜が同じように種類ごとにせりを実施。「青果は『上げぜり』なので、せり人のかけ声に対して買い手が指のサインで希望の価格を示し、せり上げていきます。せり人が3回価格を言って、それ以上価格が上がらないと分かった時点でせりを落とした仲卸業者や売買参加者が決定します」と村上さん。テンポの良さや迫力が感じられる上げぜりですが、内容を教えてもらうと見るポイントも変わってきて、誰がせり落としたかも少しずつ分かった気分になります(実際のところ正解かどうかは不明...)。青果のせりはだいたい6時すぎからはじまり、7時30分くらいには終わるそう。

tyuuousijou00054.jpgいち早く季節を感じるのも市場ならでは。

リンゴのせりを見ていると、せり人の周りに同じ卸売業者の帽子をかぶった人たちが数名いて、せり落とされたリンゴに番号を書き込んだ札を次々に張っていました。聞き漏らすわけにはいきませんから、真剣勝負という雰囲気が伝わってきます。さらに、せり人の真横でずっと記録を取っている人の姿も。「公正な取引をしているということをきちんと記録しています。また、せりはボイスレコーダーで録音されていて、5日間は保存することになっています」と村上さん。入荷量や卸売価格はホームページでも公表されています。

青果棟では仲卸業者の店舗が軒を並べている様子も見学通路から見ることができます。そこには買出人と呼ばれる小売業者やレストランなどの飲食業者の人たちが集まっていて、せり落とされたものを吟味していました。

大人はもちろん、札幌に暮らす子どもたちにも気軽に見学してほしい

見学が終わったあとは、構内にある2つの食堂で朝食を食べる人もいるとのこと。見学経験のある人の中には、朝ごはんだけを食べに訪れるという通な人もいるそうです。村上さんは、「私は普段お弁当ですが、よく頑張った!と自分にご褒美をあげたいときは食堂で好きなものを食べます」と笑います。

そんな村上さん、出身は網走。地元の会社で事務をしていましたが、札幌に拠点を移し、もともと好きだった接客や人と話す仕事を探し始めました。ハローワークで「こんな仕事がありますよ」と紹介されたのがこの仕事。ちょうど6年前になります。「市場の見学サポートと事務という募集だったのですが、最初は市場なんてまったく知らなかったし、来てみて初めて知ることだらけでビックリしました。早朝からこんなにたくさんの人とたくさんの食品が集まってくるのを見て、最初は大きなイベントがあるのかというくらいの衝撃でした。でも、これがずっと前から休業日以外は毎日行われていると思ったら、本当に驚きでしかありませんでした」と振り返ります。

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「この時期(取材は9/20)の札幌市中央卸売市場に集まる水産物の約8割、野菜の約7割が道内産。ここに来れば、北海道がいかに食に恵まれた水産王国、農業王国であるかが分かると思います」と話し、ここで働くようになってから、スーパーで買い物をする際も道内産や旬を意識するようになったとも言います。

入社してしばらくは、団体の見学者の案内をする名人「タカさん」のサポートを務めるかたわら、市場のことを自ら率先して学びました。団体見学が入っている日は、卸売業者や仲卸業者の人たちに事前にどんな食品が入荷しているか尋ね、説明の際にそうした情報を提供しているそう。私たちにしてくれたマグロやリンゴの話も事前に仕入れてくれた情報です。

2年前にタカさんが76歳で現役を退くと、村上さんが団体の見学者の案内を一人でするようになりました。「もともとせり場で働いていたタカさんのように名調子で話はできませんが、それでもタカさんのように見学で訪れてくれた方たちに楽しんでもらえるようにとは思っています」とニッコリ。

tyuuousijou00070.jpg市場を管理する、札幌市の藤井さんと一緒に。セリの際の指での数字の表し方を教えてくれる、の図!

普段は7時45分に出社しているそうですが、団体客の入る時間によっては、5時台から出勤することもしばしば。「ここで働くようになって、自分が実は朝方人間だったと分かったので、朝早いのは気になりません」と笑います。また、1日に2~3回、団体見学の案内をする日もあるそうで、「声がかれそうになるときもありますが、人と話す仕事をしたいと思っていたので、たくさんの人と出会えるのはとてもうれしいです」と話します。

年間4,000人近くが見学に訪れるという札幌市中央卸売市場。最後に、「小学生をはじめ、若い層にたくさん札幌市中央卸売市場を知ってもらいたいと思っています。普段食べているものがどうやって運ばれ、誰の手を通って食卓に運ばれるのかを知るには、とてもいい場所だと思います。札幌圏の約230万人の食を支えている重要な場所ですから。そして、こんなに早くからたくさんの人が私たちの食卓を支えるために働いているということも、知ってもらえたらと思います。気軽に訪れてほしいですね」と笑顔で話してくれました。

札幌市中央卸売市場
札幌市中央卸売市場
住所

北海道札幌市中央区北12条西20丁目2-1

電話

011-611-3111

URL

https://www.sapporo-market.gr.jp/


札幌圏約230万人の食を支える一大拠点!札幌市中央卸売市場

この記事は2023年9月20日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。