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このまちのあの企業、あの製品
伊達市

町の活性化のため新規就農を積極受け入れ。(株)マルシメおぬき20231031

町の活性化のため新規就農を積極受け入れ。(株)マルシメおぬき

太平洋に面し、「北の湘南」とも呼ばれる伊達市。明治期、仙台藩亘理伊達家の集団移住により、伊達の農業が始まりました。侍たちが刀をクワに持ちかえ、原野を開墾したのがスタートでした。いち早くアメリカから西洋農具を導入し、西洋式農法の知識や技術を採用し、北海道農業の発祥地として繁栄。現在も、その温暖な気候や水はけのよい火山灰の土壌を生かし、多品種多品目の野菜を生産しており、農業は市の基幹産業となっています。

今回はその伊達市で代々農業を営んでいる小貫豊さんにお話を伺います。「(株)マルシメおぬき」と法人化し、現在は代表取締役として経営を行うほか、現場に出て農作業も行い、後進の指導にもあたっています。また、昨年新卒で入社した関西出身の社員・鍋嶋遼さん、石川昂成さんにもお話を伺いました。

歴史ある伊達の農業に誇りを持ち、多品目多品種の野菜や水稲を栽培

取材に伺ったのはちょうど9月。稲刈りの時期でした。事務所へ伺うと小貫さんは留守。雨雲が近づいてきており、急遽稲刈りを行うからと田んぼで作業しているとのことでした。あらためて、農業は自然と向き合う仕事であり、気象状況などによって左右されるのだなと感じるとともに、何気なく口にしている米や野菜もこうした農家の方たちの働きのおかげでおいしくいただいているのだと思いました。

しばらくすると、ひと仕事を終えた小貫さんが「ごめんね、悪かったね」と事務所へ。外は大きな雨粒の雨が激しく降り出していました。さて、早速インタビューです。

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小貫さんの先祖は、亘理伊達家の集団移住にともなって明治2年に北海道へやってきました。「移住してから数えると6代目なんだけど、うちは祖父の代に分家。分家でいうと僕は3代目になりますね」と小貫さん。

「北海道農業発祥の地とも言われるくらい、伊達の農業は歴史があります。亘理のお殿さまが何とか農業で成功しようって頑張って、海外からの技術を取り入れたりして、発展してきたんだよね。北海道で最初の製糖工場が造られたのも伊達なんですよ。クラーク博士が、伊達の土には火山灰が混じっているから、ビートの栽培ができると言ったのがきっかけでね。伊達の農業にはそういう歴史もあるんですよ」

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話を伺っているだけで、伊達の農業に対する想いの強さが伝わってきます。小さい頃から農業を継ぐという意識はあったのでしょうか?と尋ねると、「祖父にね、『お前は跡継ぎだからな』とずっと洗脳されてきたからね」と笑います。

「祖父は五反の畑作からはじめて、そのあと稲作も行うようになるんだけど、自分のものは自分で売りたい、さばきたいタイプの人でした。当時は、行商を行っている女性たちがたくさんいて、祖父はその人たちに直接野菜を売っていましたね。父親の代で、農協に卸すようにもなったけれど、僕は祖父の影響が強いのか、自分たちの野菜は自分たちで値段を決めて売りたいというタイプでして(笑)」

「こんな野菜を作ってほしい」「あんな野菜を売ってほしい」という周囲の声に応えているうちに、耕地面積は拡大。現在は、キャベツ、レタス、玉ねぎ、小麦、ビート、水稲、キュウリ、フルーツトマトなど16品目以上の作物を栽培しています。「唯一、自分が作りたい!と思って作ったのは長ナスくらいかな」と小貫さん。特産地である九州へ足を運び、現地で栽培方法などを学び、それを持ち帰って3年前から栽培をスタートさせています。

2010年には農業生産法人として株式会社を設立しました。スーパーに直接卸しているものもあれば、菓子、食品メーカーに加工用に卸しているものもあり、販路は拡大中。この販路拡大には、JGAPの認証取得も大きいと話します。JGAPは、日本における適切な農場管理の基準とされるもの。食品安全・労働安全・環境保全など、持続可能な農場経営への取り組みを行っているかをチェックする100以上の厳しい項目をクリアしなければ認証されません。JGAPの認証取得は、安心・安全な農作物の提供を行っているということの証と言えるのです。

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「うちだけ良ければいい」という考え方だと、伊達の農業が衰退してしまう

現在、小貫さんのところでは正社員が9名勤務しています。そのうち2名は女性。また、若い人が多いのも特徴です。このほか、季節労働者やパート社員が16名、インドネシア人の特定技能実習生も5人働いています。

「インドネシア語を話せる社員が前にいて、それがきっかけでインドネシアの人を受け入れることができたんですよ。言葉の分かる人が1人いると、コミュニケーションが取りやすくて助かりました」

その元社員の方は、小貫さんのところで2年間働き、その後、伊達の女性と結婚し、新規就農者として独立したのだそう。このように小貫さんのところで働きながら農業を学び、独立した人たちはこれまでに4人いて、3人は伊達に残って新規就農しています。

ここでひとつ、疑問が。農業のイロハを教えた上に、自分のところの人手が減ってしまうことに抵抗はないのでしょうか。

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「僕の中に『うちの会社だけよければいい』という考えがないんですよね。それよりも、伊達の農業が活性化し、町が元気になることのほうが大事。伊達の一次産業が衰退気味と言われているのに、その中で『うちだけ』というのはおかしいと思うんです。それに、野菜を作る人がいなくなったら、たくさんの人が困るでしょ。十勝のような大型農業はできないけれど、伊達は気候条件もいいし、多品目多品種の栽培ができるのも大きな魅力。取引先の方たちも伊達の野菜にはとても期待してくれているんです。だから、『うちだけ』という考えで、その火を消してはいけないんです。きちんと技術や知識を次の世代に継承していく役目が自分にはあると思っています」

独立を希望する人には、大きな借金をせずとも新規就農で利益を出せるようなアドバイスやフォローも行っているという小貫さん。独立したあとも、「同じ農業を営む仲間として、技術を教えることもあれば、逆に若い人から僕が教えてもらうこともあります。農業の技術も日進月歩ですからね。いいもの作っていくためには、みんなで情報の交換や共有をすることも大事だと思っています」と話します。

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「伊達ってね、いい町なんですよ。田舎過ぎず、都会過ぎずちょうどいい。実はそう思うようになったのは、うちの女の子のスタッフが『ここで結婚して、子育てしてもいいかなって思えるような町ですよね』って言ったのがきっかけ。雪が少なくて、気候も温暖で、自然も豊か。近くには温泉もある。でも、学校や病院も大きなスーパーもあって、JRの駅も高速道路もある。そういう意味では、農業をやりたい都会の人でも入りやすい場所なのではないかなと思います」

外から人が入ってくることも歓迎だと話す小貫さん。「だって、僕たちも元をたどれば移住者ですからね。この場所に移住させてもらったんだから」とニッコリ。

「まだまだ勉強です」と話す、大学卒業後に就職した関西出身の2人

さて、次に小貫さんのところで昨年から働いている2人の正社員、京都出身の鍋嶋さん、大阪出身の石川さんにお話を伺います。2人とも2022年に大学を卒業し、同年4月からここで働いています。

marushimeonuki10.jpg左:鍋嶋遼さん 右:石川昂成さん

鍋嶋さんは、地元の農業系高校を出たあと、東京農業大学網走キャンパスへ。土のことなど大学で学んだことを生かし、農業に携わりたいと農業法人を探していたそう。

「北海道を離れるつもりはなかったのですが、できれば次は少し暖かいところがいいなと思っていました。農業系の求人サイトでここを見つけて、伊達は暖かいと聞いていたのでちょうどいいなと。あと、ここはいろいろな作物を作っていて、もし将来独立するにしてもたくさんのことが学べると思ったのでここに決めました」と話します。

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一方、石川さんは生まれも育ちも大阪で、大学も地元の追手門学院大学へ。農業とはまったく無縁でしたが、就職活動が始まる際、自分が何をしたいのか考え、「行ったことのない土地で働いてみたい」と思い立ちます。旅行が好きであちこち旅をした経験があるものの、北海道には行ったことがなかったため、北海道に照準を当てます。

「単純なんですけど、北海道といえば農業かなと思って。そしてちょうどテレビで農業従事者の高齢化で担い手不足というのを知り、これは農業をするしかない!と思いました」と振り返ります。それから、鍋嶋さん同様に求人サイトでここを見つけます。「いくつかの農業法人で面接をしたのですが、小貫社長に実際会って、社長の考え方にも共感できたし、社長がにこやかで優しそうだなと思って(笑)、ここに就職することにしました」。

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入社してすぐは、とにかく先輩や社長について仕事を教えてもらう毎日。「農業の勉強をしてきていると言っても、やはり現場は違うから、知らないことだらけでした」(鍋嶋さん)。「僕なんか、最初何をやってるのかまったく分からなくて(笑)。言われたことをこなすのに必死でした。家に帰って、気絶するように寝ていたときもありました」(石川さん)。

入社して1年経ちましたが、「だいたいが1年に1回の作業なので、まだまだ現場で覚えなければならないことは山ほどあります」と鍋嶋さん。機械の使い方などもメモを取って忘れないようにしているそうですが、「それでも間違って注意されることもよくある」と石川さんは笑います。

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大変なこともたくさんありますが、それでも「広い畑の仕事をやり切ったとき、やったー!って思うし、僕にとっては未知の分野なんで、学ぶことが多い分、おもしろみもある」と石川さん。2人とも将来的には独立も考えているそうですが、「でもまだまだ先ですね。学ぶことだらけなので」と鍋嶋さん。

次世代育成のため、農業用ドローンなど機械化も積極的に実施

最近は、スマート農業の一環として農業用ドローンを使った作業も任されているという2人。社長の指示で、ドローンの免許も取得しました。「でも、僕、操作を誤って壊してしまって、ちょっとトラウマになっています(苦笑)」と鍋嶋さん。このときちょうど事務所に現れた小貫社長は、「何事も経験してみないと分からないから、今回の失敗も自分の中で経験値を上げたと思いなさい」と励まします。

「これからはこうした機械化がどんどん進むと思うので、彼らに新しいことを覚え、習得してもらって、また次に新しい人たちが入ったときに教えていってもらえたらと考えています」と続けます。そして、「自分が教えられることはきちんと伝えていきたいと思っている」と話し、今は鍋嶋さんに野菜のことを、石川さんに穀物のことをそれぞれ教えています。普段からマメに声をかけ、コミュニケーションを取ることも大事にしているそうです。

現在、2人とも伊達市内に部屋を借りて1人暮らしをしています。「伊達は生活に必要なものは何でもそろっているし、都会ではないけれど暮らすのにはちょうどいい」と石川さん。週に1回、きちんと休みをもらい、インドア派の鍋嶋さんは筋トレに励んでいるそうで、アウトドア派の石川さんはドライブやスノーボードに出かけるそう。タイプは異なる2人ですが、同期がいるのは心強いと互いに話します。

直近の目標を聞くと、「学ぶことがたくさんあるのでとにかく覚える。そして社長に怒られないようにする!(笑)」(石川さん)、「肥料設計などにも関われたらと思っているので、社長についてその辺りも学びたい」(鍋嶋さん)と話してくれました。若い2人がさらに成長し、未来の伊達の農業を牽引していくのが楽しみです。

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株式会社マルシメおぬき
株式会社マルシメおぬき
住所

北海道伊達市長和町693-2

電話

0142-82-6575


町の活性化のため新規就農を積極受け入れ。(株)マルシメおぬき

この記事は2023年9月21日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。