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函館市

水中ドローンの可能性で未来を拓く、潜水事業者の挑戦 (株)大歩20231023

水中ドローンの可能性で未来を拓く、潜水事業者の挑戦 (株)大歩

海に潜る仕事と聞いて、最初に思い浮かべるのはレジャーダイビングのインストラクターという方が大半ではないでしょうか。もしくは海女さんという人もいるかもしれません。今回の主人公は、潜水士であり、レジャーダイビングのインストラクターでもある中村徹也さんです。海のエキスパートとして、函館で潜水作業などを行う「株式会社大歩(ダイブ)」と、レジャーダイビングのツアーなどを行う「株式会社北海道ダイビングサービス」の代表取締役として経営を行う傍ら、自ら海にも潜り、多忙な日々を送っています。海のエキスパートである中村さんに、一般ではなかなか関わる機会のない潜水士という仕事について伺うとともに、潜水士になるまでの話や海への想い、現在力を入れている水中ドローン事業などについて語ってもらいました。

国家資格である潜水士。その仕事は多方面にわたる

潜水士とは、潜水具をつけて海や湖など水中でさまざまな作業を行う専門の職種であり、国家資格です。厚労省の職業情報サイトによると、「水中で就業が可能な唯一の職業」となっています。早速、潜水士である中村さんが請け負っている具体的な仕事内容を伺ってみましょう。

daibu_nakamura00039.jpgこちらが、(株)大歩 代表の中村徹也さん。常に笑顔で、海への情熱を話してくれました。

「潜水作業の仕事は、海難事故の捜索救助や沈んだ船の撤去、または調査もあります。建築関係だと湾岸工事の基礎となる石材をならしたり、水中溶接をしたりもするし、漁業関係だと養殖ブロックの設置や、生物調査、環境調査など。水中撮影のために潜ることもあります」

水中に潜って行う作業が多岐に渡ることに驚きます。中村さんの会社では、水深40mを超える深さまで潜って作業を行う「大深度潜水」も対応。これはテクニカルダイビングとも呼ばれ、海底に沈んだ船骸調査や養殖施設の設置、捜索救助、大学などと共同で行う海底調査、災害時の被害状況調査なども行っています。国内で、大深度潜水ができる設備や技術がそろっているところは数が少なく、中村さんのところには全国から依頼がやってくるそうです。

「うちは、こうした潜水作業のほか、潜水士育成のための各種講習会をはじめ、学校などでも潜水に関する講習も行っています」

※中村さんが、ダイビングの指導を行っている、奥尻高校の記事はこちら

島をまるごと学び舎に!奥尻高校「まなびじま奥尻PROJECT」

近年は、水中ドローン事業にも力を入れているという中村さん。「潜水作業の際もドローンを用いることで、リスクも下げられるし、効率もよくなるんです」と話し、ドローンのあらゆる可能性を探るとともにドローン事業の普及にも努めています。

daibu_nakamura00018.jpg大きな金額を投資してでも、必要と考え建設した、ドローン用(多目的に活用可能)プールのある、社屋。

漁師の父、水産加工の祖父のもとで育ち、岩手で南部もぐりの潜水を学ぶ

ニコニコと笑顔を絶やさず、穏やかな口調で話をしてくれる中村さん。出身は道南ではなく、道東・根室半島の先端にある納沙布岬の近く。祖父は水産加工場を経営し、父親は漁師という家で育ちました。

「生まれたときから海が身近にありましたね。父親はサケ、マス、サンマ漁をやっていて、祖父は近くで獲れたウニなどの加工場をやっていました。昔はたくさんウニが採れましたからね。子どものころは、祖父の加工場でよくウニの殻むきを手伝っていました」

毎年、ウニ漁の時期になると、東北から「南部もぐり」のダイバーたちがたくさん出稼ぎにやってきてウニ漁を行っていたそう。「南部もぐり」とは、ヘルメットをかぶった伝統的な潜水技術で海に潜って作業を行う潜水夫たちのこと。中村さんは、毎年やってくる彼らとの交流を通じて、岩手の県立種市高校で潜水を学べると知り、進学を決めます。

daibu_nakamura00050.jpg潜水に使われていた、器具の一部

種市高校は、120年以上の歴史を誇る南部もぐりの技術のほか、最新の潜水法なども学べる学校。中村さんはここで潜水を習得し、青春時代を過ごします。

高校卒業後、函館の潜水会社に就職。大学の研究機関と実験なども実施

「一つ下の弟も同じ学校で学んでいて、親には仕送りとか金銭的に苦労かけたので、上の学校には進まず、高校卒業と同時に函館の潜水会社に就職することにしました」

そのころの潜水会社というのは、港湾工事の潜水調査などが一般的でした。ただ、中村さんが就職した会社はそれだけにとどまらず、潜水士の講習会を行ったり、大学の研究機関と一緒にヘリウムガスの実験を行ったり、潜水にまつわるいろいろなことを手広くやっている会社でした。

「僕も講習会などに同席させてもらって、大学の先生らと交流させてもらっていました。若いときは、潜水士のテキストを作っていた医大の先生らのカバン持ちもしていました(笑)。そのうち先生たちが人体の話をし、僕が潜水の実技指導を行うことが増えていきました」

daibu_nakamura00053.jpg左奥に見えるのは、空中ドローン。ドローンの可能性を、漁業だけでなく、広く広めたいと中村さん

その後、潜水士の資格取得に向けた講座を行うための講師資格も取得し、官庁や学校などで講習会も行うようになります。海上保安庁と一緒に講習会を開催することもあったそう。

中村さんがダイビングのインストラクターの資格を取ったのは23歳のとき。「僕はどちらかというと、海難救助や深く潜るテクニカルダイビングのほうを極めていきたかったんです。ただ、講習会をやるにしても、港湾の仕事しかできない、海難事故しかできないという潜水士よりも、いろいろな経験があり各地の海を潜っている潜水士のほうが、人に教える際、話に説得力もあると思って」と、インストラクターの資格を取った理由を話します。実際、中村さんはレジャーダイビングだけでなく、海難事故の現場も含めて日本中の海を潜っています。

慌ただしい中での独立。1年後には業績も右肩上がりに

中村さんが「大歩」を立ち上げたのは、2011年。独立のきっかけは、「前の会社の社長がガンを患い、廃業することになって...。それで、一緒に働いていた2人を連れ、創業しました」と話します。

daibu_nakamura00060.jpg社員は男女問わず、潜水士やインストラクターとして活躍中です。

とはいえ、3月に前の会社の廃業が決まり、中村さんたちが官庁や学校の仕事を請けるには、4月に法人化が完了していなければならない状況だったため、とても慌ただしく、大変だったそう。

「退職金を全部使って創業。最初の1年は本当に苦労しました。機材関係の初期投資も必要だし、社員2人の給料も出さなきゃならないし。あちこち営業に回りましたね」

創業時をそう振り返りますが、1年経つとどんどん仕事の依頼が入るようになります。それに伴い、潜水士をはじめ、システム担当やドローン担当者など、現在はトータルで32人の社員を抱えるまでに成長。社員の中には元海保の職員などもいるそうです。

後進育成にも力を注ぎ、安心して長く働ける職場環境を整備

「うちの自慢はね、若い人が辞めないことかな」と、目を細める中村さん。2年ごとに自身の母校である種市高校からも新卒者を採用しています。地元を離れて函館へやってくる若い子たちのために独身寮も完備。公私に渡り、サポートしています。

daibu_nakamura00014.jpg取材陣も操作させてもらいましたが、、、む、難しい。でもオモシロい!!

「潜水業界全体で若い人を育てていくことが大事だと考えているので、できるだけ新卒者も採用するようにしています。そして、1人前の潜水士になるまで5年くらいはかかるから、彼らが安心して長く働ける環境作りに努めています。ただ、いろいろなものは会社で用意しているけれど、潜水機材だけは各自で購入してもらっています。プロの潜水士がレンタルというわけにはいかないし、自分のギアは自分できちんと管理することを身につけてほしいですからね」

5年、10年経ち、いつか独立する子が出てきた際もサポートをできればと考えているそうです。自身の経験から独立する際には資金が必要だと痛感しているため、若い子たちには毎月積み立てをするように言っているそう。

「独立しないとしても、結婚したり、家を建てたり、人生において大きなお金が必要になったとき、貯金ゼロってわけにはいかないでしょ? だから、若い子たちには給料から天引きで積み立てしなさいと言っています。コツコツ貯めているという実績があれば、信頼につながるし、何かあったときに銀行も融資してくれやすいから」

そこまで社員の先のことを考えているとは、まるでみんなのお父さんのようです。「僕は家族に跡継ぎがいないので、社員には全員僕の跡を継ぐチャンスがあるよって、よく言うんですよ」と笑います。また、コロナ禍で忘年会などを控えていた時期には、社員全員に食品が載ったギフトブックを渡し、好きなものを選んで年末年始に家族で食べなさいと言っていたそう。「どうせお金を使うなら、有意義に使ったほうがいいと思うんですよね。社員の家族にも喜んでもらいたいでしょ」とニッコリ。

daibu_nakamura00043.jpg

ドローンの可能性をたくさんの人に知ってもらいたい

近年、ドローン普及のために奔走している中村さん。昨年11月に完成した新店舗には、ダイビング研修だけでなく、水中ドローンの練習にも使える屋内プールを併設しました。

「とにかくドローンの利用価値をたくさんの方に知ってもらいたい。何台か水中ドローンはあるんだけど、原材料が高騰して、さらに価格が上がるというから、この新しいドローンは、自分の車を売って現金化して慌てて購入しました(笑)」

そこまでしてドローン事業に力を入れるとは、どういうところにドローンの可能性を感じているのでしょうか。

「これまで海の中の情報はすべて潜水士からの報告だけに頼っていました。でも、水中ドローンを使うことで、事前にある程度の海中の情報をみんなが共有でき、潜水士も潜る際に何を持って潜ればいいかの判断がつきます。効率が抜群によくなり、潜水士の身体的な負担も減ります。新しいドローンは広範囲に移動しながら撮影もできるため、離れたところにいる人たちとも即座に動画を共有できます。そうすることでタイムラグがなく、その場でいろいろなジャッジができるようになります」

daibu_nakamura00021.jpg水中で、ドローンとの距離にかかわらず、ものの大きさ、長さを正確に測定できるそう

中村さんはドローンの操作の講習も行っており、高校などに出向いて指導にあたることも。北大のドローン研究会とも提携し、学生たちにプールも無料開放しています。「操作できる若い人を増やし、養殖業が盛んな漁組や自治体でもドローンを所有し、ぜひ活用してほしいと思っています。自分たちで海の様子を即座にチェックできるのは大きなメリットだから。早く各所で導入してもらって、情報交換をし、一緒にドローン活用の輪を広げていきたい。安定した海面養殖など、さまざまなチャンスが広がるし、強い漁業を作っていくきっかけになると思うんです」と、言葉にも熱が入ります。

水中だけでなく、空中ドローンを使った仕事も行っています。「養殖場でドローンを使ってエサを上から蒔くこともあります。この間は、山の上に木の苗木をドローンで運びました。40キロまで積め、GPSで測点も抑えられるので、的確にきちんと運ぶことができましたよ」と話します。このほか、認知症の高齢者が行方不明になった際、サーモセンサーを搭載したドローンを飛ばし、消防団とともに捜索にあたったり、定点観察のドローンで鹿や熊の生態を調査し、畑を荒らされないように対策を考えたりと、広範囲に渡ってドローンが活用できるという実績を積み重ねています。

daibu_nakamura00016.jpg何と、このプールを学生さんの練習用に無料開放!浅い部分と深い部分があり、最深は4M。ダイビングの練習にも使えます。

「うちだけでは手が回らない状況ですが、実はまだそれほど利益にはなっていません。ただ、うちだけが儲かればいいとかは一切思っていなくて、今はとにかくドローンを使うことによるメリットや可能性を一人でも多くの人に知ってもらいたい。そのためにドローンの実績を積むことを目標に奔走中です。儲けはあとからついてくるだろうって思ってます(笑)」

一次産業における人手不足解消につながる作業効率化などもありますが、中村さんがドローン事業を推進するにはもう一つ理由があるそう。

「ドローンのようなロボットは、操作する人を選ばないじゃないですか。ハンディキャップもジェンダーも関係ない。あと、遠隔でも操作しようと思えば操作ができるから、コミュニケーションが苦手な人でも、引きこもってゲームばかりやっている人でもできるわけですよ。むしろ、ゲームでコントローラー使っているから、操作もうまいかもしれないって思います。ドローンがそういう子たちの活躍のきっかけやツールになったらと考えています。僕はカウンセラーでもなんでもないのだけれど、なぜかいろいろなところから、社会になじめないという若い人の就労相談を受けるんです。うちにもそんな相談がきっかけで入社した子がいますが、今は元気いっぱい、活躍してくれていますよ」

daibu_nakamura00022.jpg「操作する人を選ばない」。まさにそれが、ドローンの最大の可能性だと思うのです。

海への感謝を忘れない。そして、潜るときは心を整えてから

現役でやれるうちにいろいろやりたいし、まずは自分が率先して動かなければと話す中村さん。ドローンのような新しいこともどんどん進めていますが、ベースである潜水士として、日々海に感謝することを大事にしています。

「僕たちは海で仕事をさせてもらっているわけですから。吸殻を海に投げるとか、海を汚すようなことは、神聖な職場を汚すことだから、絶対にするなと社員にも常々言っています」

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そしてもう一つ、潜る際に大事にしていることは「断る勇気」と教えてくれました。

「現場で不安を感じ、一瞬でも怖いと思ったら、無理して潜ってはいけない。それはプロ潜水士であっても、レジャーダイビングであっても同じ。潜ったあとに何かが起きてしまっては遅いですから。社員にも断る勇気を持ちなさいと伝えています」

現場に入る前、中村さんは自分の心を整える時間を大事にしているそう。日々のトレーニングもきちんとしてきた、器材の準備も万全だ、これまでの経験もたくさんある、だから大丈夫、と平常心に持っていくようにしていると言います。

また、レジャーダイビングでおすすめのスポットは奥尻の海と言い、たくさんいる魚の中でも奥尻付近のコブダイが神秘的でその生態もおもしろいと話します。

daibu_nakamura65.jpg奥尻ブルーと呼ばれる、美しく透き通った海。

「海の世界は未知がいっぱいだし、奥が深い。潜っている間の40分、1時間、誰とも話をしないというのも醍醐味かなと思います。レジャーダイビングでも構わないので、多くの人に海と潜水に関心を持ってもらえたらと思います」

多忙にも関わらず、笑顔でたくさん話をしてくださった中村さん。自分だけが良ければいいという考えが微塵もない中村さんの懐の深さは、海にも匹敵するような深さでした。

株式会社 大歩 代表取締役 中村徹也さん
住所

北海道函館市港町3丁目5番19号

電話

0138-41-7117

URL

https://dive-hads.com/


水中ドローンの可能性で未来を拓く、潜水事業者の挑戦 (株)大歩

この記事は2023年9月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。