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このまちのあの企業、あの製品
苫小牧市

行列店のホッキメニューに隠された2代目の想い。マルトマ食堂20231013

行列店のホッキメニューに隠された2代目の想い。マルトマ食堂

茹でてよし、揚げてよし、生でよし。
ずんぐりとした三角形の貝殻の中に詰まった、肉厚でプリップリの身。ホッキ貝は北海道が誇る海の味覚の一つです。
数ある産地の中でも北海道苫小牧市は、22年連続で漁獲量日本一に輝くホッキ帝国。2021年度は約870トンと、2位とは350トン以上の差(※苫小牧民報さまより)をつけました。
そんな日本一のホッキどころ・苫小牧に、連日多くのお客さんで行列ができる海鮮食堂があると聞きつけたくらしごと海チーム。さっそく食べに、いや、調査に向かいました!

marutomasyokudo00004.jpgマルトマ食堂のスタッフの皆さん

地域に支えられて半世紀!親子2代で営むマルトマ食堂

新千歳空港から車で20分ほどの苫小牧市。東西約30㎞と横に長~いまちで、なんと高速ICが苫小牧東・中央・西と贅沢に3か所もあるんです!町の南側は太平洋に面し、漁港やフェリーターミナルのほか、多彩なジャンルの工場群も立ち並んでいます。

今回お伺いするのはJR苫小牧駅にも近い中心部。苫小牧漁港にある老舗「マルトマ食堂」。漁港周辺の幹線である汐見大通からさらに海側に降りると、苫小牧漁協の建物があり、マルトマ食堂はその建物の1階で営業しています。ちなみに汐見大通沿いには同経営のテイクアウト専門店「マルミ商店」もあるので、そちらも要チェック!

marutomasyokudo00083.jpg港とは、まさに目と鼻の先にある食堂。

訪問したのは平日の14:30頃。一般的なランチタイムはすっかり終わっている時間です。飲食店の取材ですので、当然お客さんが多く忙しい時間を外しての訪問です。至極当然、大人のマナーです。
それではお邪魔します!

...!!
こ、混んでいる...!!
なんならまだ2組待っている...すみませんでした!!!

大人のマナー、マルトマ食堂に完敗です。
一旦外に出て、お客さんの流れが落ち着くまで、こちらも心を落ち着けます。

ふう...びっくりした。
せっかくなのでこの時間を利用して、改めてこの大人気食堂について情報を整理しておきましょう。

マルトマ食堂が誕生したのは今から半世紀以上前。創業53年を迎えた老舗食堂です。
かつては市場で働く人たちのための社員食堂だったそうで、市場の社長室の一部を譲ってもらい、今の場所で開業したのだとか。
市場の中にありますが市場が運営しているわけではなく、有限会社マルミ三浦が営むお店です。
創業当時のお客さんはほとんどが市場の人や漁師さん。スナックや居酒屋のオーナーが明け方に寄ってくれることも多かったのだとか。

marutomasyokudo00049.jpg店内は、あらゆる面が、感謝のサイン色紙とメニューで埋め尽くされています!

今のように一般客が増えてきたのは30年ほど前からで、人気と知名度の上昇とともにその割合も徐々に変化。現在は1日に300人が訪れ、その半数以上を観光客が占めるようになりました。
創業当初からある不動の看板メニュー・ホッキカレー(1,200円/ルウのみは1,000円〕)のルウには、有名ラーメン店での修行経験もある先代がとる秘伝のスープを使用。ホッキは煮込むだけでなく提供直前に生のホッキを追加してくれるので、ホッキの食感と甘みがスパイスに負けない存在感を発揮する逸品。ボリュームも満点です。

そうこうしているうちに、お客さんが続々とお店から出てきました。みなさんのにこやかな顔から満足度の高さが伺えます。
いざ再訪問!今度はOKです!
今回お時間を作ってくださったのは、代表取締役である2代目店長の三浦未(いまだ)さん。肌ツヤの良い好青年です...
え?今年で?44歳...?

わ、若ぁい...!

marutomasyokudo00011.jpgこちらが2代目店長、三浦未さん。笑顔がまぶしい!

我々が裏で検証を進めている「漁師さんみんな実年齢より若く見える」説は、「漁業に関わってる人みんな実年齢より若く見える」説に訂正すべきなのかもしれません。
お店の秘密と共に若さの秘密も聞き出さねばなりません。

大学卒業から料理人の道へ!離れてわかった故郷への思い

先代であるお父様から店を継ぎ、現在店を盛り立てている三浦さん。今でこそ料理人・経営者として辣腕を振るっていますが、学生時代はキャッチャーとして活躍してきた野球少年。プロ野球選手を目指して本気で野球に打ち込んでいました。その実力は髙く、プロ野球の入団試験の1次試験は見事合格したのだとか!すごい...!
高校時代、先代から店を継がないかと持ち掛けられるも、「絶対に店は継がない」と断って函館の大学に進学した三浦さん。しかし、一人暮らしをするようになって感じたのは、親のすごさとありがたさだったそうです。ちょうどその頃、先代率いるマルトマ食堂は徐々にその名を知られるようになり、メディアやCMで見かけることも多くなっていました。

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「正直に言うと、若いころは食堂っていう仕事をあまり良く思っていなかったんです。誰でもできる仕事だろう、なんて。ほんとに若かったですね(笑)。でも地元を離れて親のことを意識するようになって、食堂一本で身を立てて子どもを育てて、大学まで行かせるってすごいことだって、ようやくですが気付いたんです」

三浦さんの胸に芽生えたのは「恩返し」という思いでした。
自分にできる恩返しは、先代が大事に育ててきた店を継ぎ、苫小牧を盛り上げること。
そう考えた三浦さんは、早速行動を開始します。幸運なことに、大学の付属学校に調理専門学校があったため、大学4年のタイミングで大学と専門学校の両方に通い、お店を継ぐための勉強を始めることができました。

大学卒業後は先代から紹介された函館市内の料亭で修行の日々を送ります。
「ここで1年修行したら他の店10年分のスキルが身につく」と言われているお店だそうで、その修行は過酷を極めました。

marutomasyokudo00062.jpg大人気のホッキカレーは、一皿ごとに直前に追いホッキ。美味しさの為には手を抜きません

師事したのは、天皇陛下にお出しする料理を担当した経験もある一流の料理人。和食だけでなく洋食や中華にも精通し、料理そのものだけでなく料理に関連する歴史も厳しく叩き込まれました。
早朝の仕込みや片付けなど基礎からみっちり教わり、睡眠時間を削って調理の勉強。三浦さんは2年間の修行を終え、故郷・苫小牧の土を踏むのです。

常連客からの愛の鞭も!2代目マルトマ食堂誕生

修行を終えて故郷に戻ったのは24歳の頃。そんな三浦さんを待っていたのは、なんと、古くからマルトマ食堂に通う常連客の洗礼でした。
「マスター(先代)の料理を食べに来たんだ」とか
「オニイチャンに料理が作れるのか?」などと、見た目で判断されてしまうことも度々あったようです。
なぜでしょうか?

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読者の皆さんにも「昔から慣れ親しんだお店」や「地元に帰ったら必ず食べに行くお店」があるのでは。そういうお店に対して「味や作り手が変わってほしくない」という思いを抱くのは、当然といえば当然のこと。
常連客の皆さんにとって、「マルトマ食堂の味=先代の味」。だからこそ、修行を経た跡継ぎとはいえ20代の若者が作る料理をすんなりと受け入れることができないというのは、お店への強い愛情ゆえのことだったのかもしれません。

そんな舌の肥えた常連客に認められるため、金髪だった見た目を変え服装も和食調理人の装いに改め、再び現場での修行に突入した三浦さん。
認めてもらえない日々が続きます。
実の父親を慕う常連客をうならせる味とは何なのか?お店に出るようになり、料理人としての父親と料理を通して向き合うことで、そのすごさを改めて知りました。仕入れの目利きもこの時に一緒について回って教わったのだそうです。

ある日の定食はカレイの煮付け。
食べ終わった常連客が、だれが作ったのか尋ねました。
作ったのは三浦さんです。

「あのとき『うまかった』と言ってもらえて、ほんとに嬉しかったですね」
当時を思い出す三浦さんの顔がほころびます。

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28歳で店長に就き、常連客からの信頼を積み上げていく一方で、三浦さんには1つの思いがありました。
それは故郷苫小牧への恩返しです。

ホッキをはじめとした海産物のおいしさを通じて、苫小牧の良さをもっと多くの人に知ってほしい。三浦さんはそう考えています。
その本気度がわかりやすく示されているのが、サービス満点なメニューたちです。
ホッキカレーはもちろん、「マルトマ丼(1,500円)」や、期間限定の海鮮メニューの数々は、どれもこれもボリュームと価格が釣り合わない豪華っぷり!
飲食メニューだけでなく、ウニの折詰やイクラのしょうゆ漬けなどの加工商品も、思わず2度見してしまうサービス価格なのです。

「飲食店としては、まずお客さんに満足してもらうことが第一。そして僕が考える満足とは、やはり味と量なんです。市場で仕入れる魚介類の味は間違いないので、あとは量。行列ができてるので、よく儲かってるでしょと言われるんですが、採算度外視で提供しているメニューもあるので、実は2年連続で赤字出しちゃってるんです(笑)」

marutomasyokudo00028.jpg本日の採算度外視メニュー一覧。

確かに、にわかには信じがたい価格で、にわかには信じがたい盛りの海鮮丼が出てくることで有名なマルトマ食堂。
行列ができる赤字店だなんて、尊すぎる...!!

発明⇒検討⇒また発明!創作ホッキメニューの数々

店内には壁にも天井にも、満足の証である無数のサイン色紙が所狭しと飾られており、どれも結構新しいように見えます。聞けば貼り切れないサインが倉庫で大量に保管されているのだとか。
食べに来てくれたお客さんの記憶に残るグルメを提供することで、色々なメディアがお店に注目します。お店が注目されることでまちの魅力を全国にPRできる!
もはや表彰モノの身を削った郷土愛なのです。

さて、絶品ぞろいの先発メニューでお客さんを満足させる一方で、三浦さんには別の野望があります。
それは店の看板・ホッキカレーを超えるメニューを作ること。つまり長年現場で研鑽を重ねた、料理人としての大先輩であるお父様に追いつくことです。
この野望の根底には、先代が築いた店とメニューを継ぐだけの「親のスネかじり」だと思われたくないという、一人の料理人としての矜持があります。

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ホッキカレーと並ぶお店の2枚看板でもある「マルトマ丼」もその一つ。市場で仕入れた新鮮な魚介が盛りに盛られた、質・量・容姿のすべてに感涙の一杯です。
またホッキを使ったメニューは元々5品程度でしたが、三浦さんの代になってから開発に開発を重ねて、現在はなんと25を超えるホッキメニューが並びます。
ホッキめしやホッキ天丼・ホッキバター焼き定食といった安定感のあるものから、ほっきちゃんちゃん焼やホッキまぜそばといった変わり種も。ホッキハンバーグやホッキパスタ・ホッキピザといった洋食とホッキのコラボメニューもぜひお試しあれ。
さらに、ホッキ豆腐(要予約)・ホッキプリン(1日4個限定)・ホッキアイスなどは固定概念の枠を超え、「姿は見えずとも確かにそこにホッキがいる」という高みへ達しています。個人的には金曜と土曜にのみ現れるホッキシュウマイも非常に気になるところ...。
バリエーションと発想に脱帽です。

marutomasyokudo00053.jpg三浦さんの手によって、ホッキの可能性は無限大に

「マルトマ丼もそうですが、僕なりに苫小牧産の魚介や名物のホッキをもっとPRしたいんです。これまでに学んだ調理の技術を生かして色々なホッキメニューを作り、ホッキはこんな風にもおいしく食べられるんだぞという驚きを生み出していきたいと思っています」

マルトマ食堂のホッキメニューのほとんど(ホッキアイスなど例外あり)には、ホッキ3個分の身肉が使われており、1日に剥くホッキの数はなんと800個!仮に年間300日営業していたとすると、その数は単純計算で240,000個にも上ります。
曰く「たぶん苫小牧で一番ホッキを剝いてるんじゃないか」とのことですが、ホッキ漁獲量一位の苫小牧で一位なら、それはもう日本一なんじゃないでしょうか。きっとそうに違いない、だって240,000個ですもの。

お店を支えるスタッフと目指すべき未来とは?

marutomasyokudo00047.jpgホッキカレーには是非セットで!

三浦さんのじもと愛はホッキメニュー作りのみに留まらず、「ホッキカレー専用ガラナ」まで開発してしまいました。
ちなみに「ガラナ」とは北海道発祥の炭酸飲料で、独特の風味が道産子のDNAを刺激するご当地ドリンクです。ガラナを作っている工場が苫小牧市植苗にあることから三浦さんが企画を持ち込み、炭酸の強さや甘さを調整し1年がかりで実現しました。
アイスやプリンに使われるホッキの粉末も市内企業との共同開発。オール苫小牧でホッキの可能性を日々研究しています。

「苫小牧に戻ってきて、地元の人が『苫小牧には何も無い』と言っているのを目にすることがよくあって、ここを変えたいな、もったいないなと感じました。観光のお客さんだけでなく、地元の人にももっと苫小牧を好きになってもらいたい。ホッキメニュー開発も赤字もその過程なんです」

マルトマ食堂は、利益追求よりも地元のPRを優先する。
美しき利他の考えですが、それを実行し続けるのは並大抵のことではありません。さらに驚くべきことに、この考え方はスタッフ全員の共通認識だそうです。

marutomasyokudo00026.jpg最後のお客さんが帰った後の店内は、スタッフさんたちのほっとした空気と充実感が漂っていました

現在スタッフは朝昼入れ替え制で、パートさんを含め10名。
漁港の動き出しに合わせて5:00オープン。なので仕込み担当は早朝(深夜?)2:00にお店に入ります。14:00クローズですが、混んでいるときは13:00にはお客さんの受け入れを打ち切らないと時間内に提供できなくなるのだとか。
お店の後片づけをしている、まだあどけなさの残る青年に、どうしてマルトマ食堂で働こうと思ったのか聞いてみました。

「すごく人気のお店なのは知っていました。だからこそここで仕事をすることで、魚を扱う技術や飲食店の仕事のノウハウを勉強できるんじゃないかと思いました」

マルトマ食堂を継ぐために、函館の料亭で修行していた三浦さんの話を彷彿とさせます。この方に限らず、スタッフさんが次のスタッフさんを紹介してくれることが多いそうで、休憩中の会話は、まるで学校の休み時間のように日常の話題。わざわざ感のないやりとりに、普段から仲が良いんだろうなというのが伝わります。

店内に飾られた無数の色紙の中に、少し古びた手書きの張り紙があります。
「自慢はしたくないけど自慢したい程北寄貝が大好き!」
これは先代が書いたものだそうです。

marutomasyokudo00038.jpg働く喜びがここに。

カウンターにはその日のおすすめメニューが手書きで書かれています。
これは三浦さんが仕入れた食材を見てから毎朝書いているそうです。
世代を超えた地域愛の連鎖。これこそマルトマ食堂に人が集まる最大の理由なのかもしれません。

最期にこれからやってみたいことや事業拡大について聞いてみると、返ってきた答えはなんと「現状維持」。
マルトマ食堂とマルミ商店。この2つを今と同じようにずっと続けていくことが、三浦さんにとって苫小牧への、そして両親への恩返しであり、最大の目標なのだそうです。
ますます好きになってしまいます。

現状維持とは停滞ではなく、時代とともに歩み続けるということ。
すべてはお客さんの満足と、その先の苫小牧の認知向上のために。
並んででも食べたい、地元愛てんこ盛りのホッキグルメ。まずは一杯、食べに行ってみては?

マルトマ食堂
マルトマ食堂
住所

北海道苫小牧市汐見町1丁目1番13号

電話

0144-36-2023

URL

http://marutoma-shokudo.com/

営業時間5:00~14:00

定休日 日・祝


行列店のホッキメニューに隠された2代目の想い。マルトマ食堂

この記事は2023年9月21日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。