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このまちのあの企業、あの製品
札幌市

ホテル同志の垣根を越え定山渓を盛り上げる。(株)ホテル鹿の湯20230928

ホテル同志の垣根を越え定山渓を盛り上げる。(株)ホテル鹿の湯

定山渓温泉の開祖として知られる僧侶・美泉定山は、ケガをした野生のシカが傷を癒やす秘湯があると聞き、ここにたどり着いたと言います。明治30年、定山渓を一大温泉地にしたいと考えた札幌の名士14人が出資し、開業に至ったのが「鹿の湯寒翠閣」でした。このとき、「鹿の湯」と名付けたのは、美泉の話を聞いた初代北海道長官・岩村通俊だと言われています。戦争など厳しい時代もありましたが、120年以上経った今も、「鹿の湯」の大浴場の下からはお湯がコンコンと湧いています。今回は、定山渓温泉街の中でも長い歴史を誇る「鹿の湯」の代表取締役社長・金川浩幸さんに、「鹿の湯」のことをはじめ、定山渓温泉のこれまでとこれからについてお話を伺いました。

苦しかったコロナ禍を経て、海外からの宿泊客も戻りつつある中、4代目社長に就任

jouzannkei_sikanoyu00006.jpgこちらが4代目社長、金川浩幸さん

「鹿の湯寒翠閣」で支配人を務めていたのが金川社長の曾祖父。昭和2年に寒翠閣のオーナーから、施設などをそのまま引き継ぐ形で「鹿の湯温泉旅館」として創業しました。これが現在の株式会社鹿の湯グループの始まりで、もうすぐ創業100年を迎えます。定山渓温泉の中で3番目に古いホテルということですが、一貫して同じ場所で営業を続けているという点では一番古いホテルなのだそうです。

「鹿の湯グループは僕で4代目になるのですが、実は今年の3月に専務から社長になったばかりなのです」

今年で40歳という金川社長。背が高く、スっとした立ち姿は、できるホテルマンといった印象です。社長業で多忙にも関わらず、今回は短時間でしたが取材に快く応じてくださいました。

鹿の湯グループは、本館と呼ばれる「鹿の湯」と別館「花もみじ」の2つの施設を有しています。本館は、定山渓温泉街の中でも一等地と呼ばれる定山源泉公園、月見橋のすぐそばの川岸に建ち、温泉街の中心にあると言っても過言ではありません。

jouankei_sikanoyu000019.jpg豊平川を目の前に望む「鹿の湯」。まさに定山渓の中心地にあります。

「本館、花もみじ、両方合わせて248室あり、定山渓温泉の中では3番目の客室数です。両館合わせて、年間約160,000〜170,000人のお客さまがご宿泊されます。月でいうと、平均14,000人くらいのお客さまがいらっしゃる計算になります。ただ、コロナ禍はさすがにそうはいきませんでしたが...」

コロナ禍にホテル業、観光業が大ダメージを受けたのは誰もが知るところ。もちろん、鹿の湯グループも同じでした。

「緊急事態宣言が出たときは両館ともに閉めて、数カ月後からは1館だけオープンして営業は続けていました。とにかく、従業員を守らなければならないという気持ちで、やれることはなんでもやりました。屋台骨である自分たち経営陣が簡単に折れるわけにはいきませんから、助成金などを活用して、踏ん張ってでも立っていようと思いました」

jouankei_sikanoyu000020.jpg団体客も家族連れもお一人様も、ゆったりくつろげる自慢の温泉

昨年あたりから客足が戻りはじめ、秋には海外からの観光客も戻ってきたそう。今は宿泊者数の3~4割は海外からの旅行者で、これからは海外の団体客や個人客がさらに増えるであろうと予測しています。

「国内のお客さまは、札幌近郊からいらっしゃる方が圧倒的です。客層はファミリーからご夫婦2人、お友達同士など、幅広いのが弊社の特徴かもしれません。おじいちゃん、おばあちゃんからお孫さんまで勢ぞろいという3世代ファミリーもたくさんいらっしゃいます」

陸上、音楽に夢中だった学生時代。跡を継ぐことを考えてはいなかった

幼少期、先々代の祖父には、よく温泉街に連れて来てもらっていたという金川社長。「南区内に家がありましたが、定山渓に住んではいなかったので、お祭りなどのイベントがあると、祖父に連れられて遊びに来ていました」と振り返ります。

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「親から跡を継ぐようにと言われたこともなかったので、自分も意識しないまま、高校、大学と進みました」

高校時代、中距離走の選手として陸上部に所属。大学は、箱根駅伝の名門・山梨学院大学へ進みます。

「箱根に出てみたいという憧れはありましたが、大学の陸上部は全国から集まったエリート選手だらけで、レベルの差を痛感し、自分には無理だなと感じました」

陸上を断念した金川社長は、ジャズバンドで演奏するなど音楽活動を始めます。「その流れで、東京の音楽関係の会社に就職がほぼ決まっていたのですが、先代の体調がよくないと連絡があり...」、卒業後すぐに札幌へ戻り、「鹿の湯」に入社します。

社長の息子とはいえ、まずは現場からのスタート。一般社員と同様にフロントに立つところから、社会人生活が始まりました。

「跡を継ぐとか考えていなかったので、ホテルでアルバイトもしたことがなく、本当に右も左も分からない状態からでした。驚くほど覚えることがいっぱいで、必死でしたね。また、社長の息子だからと周りのスタッフに気を使われるのがイヤだったので、できるだけフラットな関係でいられるよう、僕も僕なりに逆に気を使っていたかもしれません」

jouzannkei_sikanoyu00007.jpgつい、社長であることを忘れてしまう程、親しみやすい雰囲気の金川さん

ホテル同士が繋がり、協力し合って、地域として定山渓の魅力アップを推進

ここ数年、新しい店や施設ができるなど、定山渓温泉全体の動きが一気に活発になっているように見えます。イベントなども積極的に行われており、地域全体が団結しているようにも見受けられます。18年近く定山渓温泉で仕事をしてきた金川社長には、この状況はどのように見えているのでしょうか。

「ひと昔前の定山渓温泉は団体客が大半を占めており、各ホテルは団体客獲得のために営業が躍起になっていましたし、ライバル同士として正直、対立もしていました。しかし、時代が変わり、コロナもあり、昔のように団体客が殺到しなくなった今、経営者同士が繋がり合い、地域として魅力をアップさせていかなければならないと、皆の意識が変わりましたね」

観光協会が音頭を取って、定期的に各ホテルの経営者や支配人らが集まる機会を設け、情報交換をしているほか、新人研修を合同で行うなど、ホテルの垣根を超えて交流することができるようになりました。

「ほかの温泉街は、リーダー格のホテルがあって、そこがグイグイ引っ張っていくイメージが強いのですが、定山渓温泉は観光協会を中心に全体がいい感じでまとまっていて、みんなで盛り上げていこうという雰囲気です。それぞれのホテルや担当者が役割を担っていて、僕はPRのチームに入って定山渓温泉の情報発信などを行っています」

jouzannkei_sikanoyu00004.jpg忙しい中でも、笑顔を絶やさないスタッフの皆さんと

温泉街全体で取り組む企画やイベントなどは、各ホテルや施設の協力がないと盛り上がらないものですが、確かに定山渓温泉街はそれぞれが積極的に参加し、一体感があるという印象を受けます。

「定山渓温泉に一人でも多くの方に来てもらうためには、地域全体で手を取り合うことも大事。また、ほかも頑張っているから、うちも頑張ろうと思えますしね」

新設したサウナが話題に。宿泊はもちろん、日帰りでも楽しめる場所へ

訪れた人たちに定山渓で過ごす時間をより充実させてほしいと、温泉街には新たに話題の飲食店やスポットが作られていますが、「鹿の湯」にも「サウナ鹿の蒸」が登場。昨年末(2022年末)にオープンし、サウナファンの間では話題になっています。

「コロナでダメージを受けたあと、新たな一手を打つにあたって、ホテルの外に新たに何かを作るのではなく、弊社はまず施設内を整えていくことにしました。そこで着手したのがサウナ。これまではミストサウナしかなかったのですが、今回、しっかりこだわりのあるサウナを作りました」

サークル型サウナとスタジアム型サウナがあり、壁や天井には国産ヒノキを贅沢に用いています。サークル型サウナにはモニュメント的なサウナストーブが設置され、全体がまろやかで上質な蒸気に包まれます。また、水風呂は豊平川源流の沢水のかけ流しで、川のせせらぎを聞きながら外気浴も楽しめます。

jouankei_sikanoyu000021.jpg日帰りでも定山渓を楽しんでもらおうとリニューアルした、大人気のサウナ

「実はこのサウナが人気で、ありがたいことに日帰りのお客さまの数が5倍に。土日は、入場制限をかけさせていただくほどです」

ほかの道内の温泉街と違い、定山渓温泉は市街地から車で1時間という少し特異な立地。ドライブがてら日帰りで訪れやすい場所なのもプラスに作用しているようです。泊まっても良し、日帰りでも良し。定山渓温泉はどちらで訪れても満足できる場所に変わってきているというのがよく分かります。

「日帰りの方にも満足していただけるよう、今後も施設内のリニューアルを行っていきたいと考えています。直近では、日帰りでもご利用いただけるようにレストランを改修する予定です」

働く人にとって市街地から近いことは便利である一方、町としては...

市街地から1時間という立地は、観光スポットとしては大きなメリットではありますが、ここで暮らすという意味ではデメリットな部分もあると金川社長は話します。

「どこのホテルも定山渓に従業員の寮や住まいを設けていますが、従業員の多くは市街地から通勤しているケースがほとんど。札幌に家がある人にとっては、通いやすいというメリットがありますが、このエリアに居住している人が少ないために日用品や生鮮品の店がなく、暮らすという点では町が成り立っていないのです」

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現在、「鹿の湯」には新卒で入社したばかりのスタッフから60代のベテランまで幅広い層が勤務。中には台湾からの留学生もいます。寮で暮らすスタッフもいるそうですが、生活するという点においては少々不便を感じているようです。

スーパーを建てることはできませんが、少しでも住環境は整えてあげたいと、コロナで落ち込んだ売上が上向きになってきたら、寮もリフォームしたいと考えているそう。

「今の寮は古くて、若い子たちにとっては暮らしにくいと思うので、できる範囲で寮の中をリフォームする予定です。やはり、オフの時間のリラックスは良い仕事にもつながりますし、社員のために必要なものだと思うので」

「ありがとう」をたくさんいただけるホテルマンの仕事には、意義とやりがいがある

話がスタッフのことに及んだので、定山渓温泉で働くということについて続けて伺うと、「定山渓温泉という場所は、初めてサービス業に携わる人にとって、ちょうどいい場所だと僕は思っています」と金川社長。

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「都心のホテルよりもここに来るお客さまは、リラックスするために来てくださっている方が多いので、ピリピリしている方が少ない。我々も肩ひじ張らずに、ゆったりした気持ちでお客さまにサービスを提供しやすいという特徴があるのです。そういう意味では、未経験でもサービス業に興味がある方は働きやすいと思いますし、長く勤めていればしっかりスキルアップもできます」

サービス業やホテルマンという仕事について、現場経験もある金川社長は、「すごくいい仕事だと思う」と話します。

「大半のお客さまはチェックアウトの際に『ありがとう』と言ってくださいます。1日に何人もの方に『ありがとう』を言っていただける仕事なんて、そうそうないですよね。これはやりがいにもつながるし、最高に幸せなことだと僕は思います」

鹿の湯グループの理念の中に、「全てのお客様の思い出づくりをお手伝いする」という一文があります。

「皆さん、家族や友達と過ごした楽しかった思い出のうちに、一つ、二つは必ず旅行が含まれていますよね。その思い出の片隅には、きっと、泊まった宿のことやスタッフのことも刻まれています。我々はお泊りいただいたお客さまの思い出を作るお手伝いをさせていただいており、それくらい意義のある仕事をしていると思っています。
もしも人生の最後に、楽しかった思い出のひとつとして当館のことを思い出して頂けたら、これ以上の喜びはありません」

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笑顔でサラリと語ってくださいましたが、金川社長がいかにホテルの仕事に誇りと情熱を持っているのか、定山渓温泉という場所を大事に思っているのかが伝わってきました。

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定山渓温泉 鹿の湯グループ
定山渓温泉 鹿の湯グループ
住所

北海道札幌市南区定山渓温泉西3丁目32

電話

011-598-2311

URL

https://shikanoyu.co.jp/shikanoyu/


ホテル同志の垣根を越え定山渓を盛り上げる。(株)ホテル鹿の湯

この記事は2023年8月16日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。