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このまちのあの企業、あの製品
滝上町

林業をとおして、もっと魅力的な町へ。江本木材産業(株)20230817

林業をとおして、もっと魅力的な町へ。江本木材産業(株)

オホーツク海から車で40分。
四方を山に囲まれた北海道滝上町は、町面積の88%を森林が占め、林業・木材産業が盛んです。
人口約2,000人の小さな町で、山で木を伐る林業、木材を加工する製材、そして使われない木材のバイオマス利用など、豊かな森林資源を存分に活かす仕組みづくりを町で一体となって推し進めています。

今回取材に訪れたのは、そんな滝上町で林業・木材産業を展開する江本木材産業株式会社。
滝上町の一員として、町の山づくりに真面目に取り組む。その熱い思いに迫ります。

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滝上町の山と共に、真面目にチャレンジしてきた100年。

江本木材産業株式会社は大正15年の創業。
木炭業を営み、山で木を伐って炭を作り、また植える...という流れから、林業を仕事としていくようになりました。
現在は、山で木を育て伐採する「林業」と、工場で丸太を挽いて板などに加工する「製材業」を仕事の二本柱としています。

「山の仕事と工場の仕事、両方やっていることで連携が取れるのは強みですね。丸太を自社で調達して加工するので、無駄なコストを減らせます。林業だけだと1次産業ですが、製材をやることで、加工・運搬・販売も含めた6次産業的な展開も可能です」

そう話してくれたのは、業務課長の江本憲史さん。

emotomokuzai_12.jpgこちらが江本木材産業の江本憲史さん

豊かな森林資源をもとに林業で栄えてきた滝上町は、木を伐る、植える、育てる「林業」の現場がたくさんあります。江本木材産業が林業の現場として入るのは、滝上町内の山がほとんど。
「隣町に仕事をしに行くこともありますが、滝上町の山を最大限手入れすることが一番の任務だと考えています」と江本課長。
滝上町で100年近く林業に携わってきた江本木材産業だからこそ、滝上町の山を永続的に守り、育て、有効に使っていくことを大切にしているのです。

「当社は創業当時から滝上町で木を植えてきました。それから100年近く経った今は、我々が顔も知らない先祖たちが植えた木が大きく育って、それらを伐って使う、という長いサイクルを一つ回しきったところです。100年間この町で山に関わり続けてきたというのが、当社の大きな特徴ですね」

滝上町の山を支える役割として、江本木材産業は町で一体となって進めている木質バイオマス事業にも携わっています。

「町内の林業・木材関係者で立ち上げた滝上林業協同組合は、町の木質バイオマス破砕センターの指定管理者となっていて、当社は組合会員として、破砕センターでの木質チップ製造も担っています」

emotomokuzai_10.jpg右から左へと、丸太を破砕し、木質チップを製造する様子です

ここでは、これまで利用されてこなかった木材の切れ端などをチップ化して、町内の木質バイオマスボイラーの燃料などで利用しています。滝上町の山を伐って、植えて、育てて、無駄なく使うというサイクルを、町全体で回しているのです。
100年もの長い間この小さな町で林業に携わり続けられたのは、会社のチャレンジングな姿勢にも理由がありそうです。

「社長である父は約30年前、自ら油圧ショベルのアームに集材用ウィンチを取り付けて、いち早く山での機械集材(伐った木材を集める)をはじめたそうです。工場にこんな機能があればいいな、これを加工してみたら面白いんじゃないかと、自分たちで工夫してチャレンジしてみる気風が当社にはある気がします」

最近は、機械整備の仕事を退職した方が江本木材産業の社員として採用され、普段使っている林業機械の修繕やメンテナンスの技術について、社員みんなが学べる環境なのだとか。

「普通なら業者に頼まなければならないことも、自分たちが林業で使うモノや環境を、自分たちで工夫していけるようになったら面白いですよね」

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造林も造材も。いろんな作業を経験できるのが魅力。

ここで、江本木材産業で実際に働いている方からも話を伺っていきましょう。
お話ししてくれたのは、今年4月に入社したばかりの佐藤一樹さんです。
林業部門のスタッフとして、造林・造材の仕事を担当します。

佐藤さんは苫小牧市生まれの20歳。
親の転勤で小学校・中学校は登別市・伊達市と転々とし、高校の3年間は沖縄で過ごしました。八重山農林高校グリーンライフ科で、木工、造園、林業など、森や木に関わることをひと通り学び、卒業後の進路には北海道旭川市に開校した北の森づくり専門学院(通称「北森カレッジ」)を選びました。

emotomokuzai_1.jpgこちらが春に入社したばかりの佐藤一樹さん

北森カレッジへの入学のために北海道に戻ってきた佐藤さん。
「北森カレッジでは林業全般のことを学べたので、自分がどういう作業をしたいか、どんなことを仕事にしたいかもだんだん見えてきました」と言います。

「はじめは、木を伐って丸太にする造材の仕事をしたいと思っていたのですが、1年生の時に行かせてもらったインターン先で、1週間木を伐り続けるという経験をしたんです。その時に『さすがにこの作業ばかりだと飽きるな』と感じて(笑)。そこの現場監督が、『木を伐ってばかりだと将来に残すものがない。木を植えて育てる造林もしていると、自分のしたことが将来に残るからいいよね』という話をしていたのがすごく印象に残って、木を伐る造材、木を植えて育てる造林、どちらの作業もできる企業がいいなと考えるようになりました」

そうして北森カレッジ卒業後、就職先として佐藤さんが選んだのが江本木材産業でした。

「江本木材産業は、造林も造材もどちらもできるのが魅力です。2年生の時にインターンさせていただいて、人の雰囲気の良さや真面目さ、就業時間中は仕事に集中するというメリハリある姿勢を見て、自分に合っているなと思いここを選びました」

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取材時は苗木を植える造林の作業をしていた佐藤さん。
「これからやる造材(木を伐る)作業も楽しみ」と目を輝かせます。

林業の仕事に就いてまだ2ヶ月の佐藤さんですが、日々の作業をこなしていく中で、自分の成長も感じられているそうです。

「最初は苗木を100本しか植えられなかったのが、だんだん300本、400本と植えられるようになったり、斜面を歩いても息が上がりづらくなったり。林業の現場って、自分がどこからどこまでどんな風に作業したかが見えるんです。仕事が終わって、自分が苗木を植えた場所がば〜っと視界に広がった時は、すごく気持ちがいいですね」

滝上町では、会社が借り上げている町営住宅に一人暮らし。休みの日は、紋別市へ買い物に行ったり、旭川市へ友達に会いに行ったり、休日も満喫しているそうです。

「山に渓谷釣りに行くこともあります。林業の現場に行くと、釣れそうなポイントが分かるので。業界の人しか知らない道があったりもするんですよ」と楽しげに話してくれました。

林業を通して滝上町にやって来た若者が、滝上町での仕事と暮らしを楽しんでいる様子に、こちらも嬉しくなりました。

emotomokuzai_4.jpg山の中での作業を楽しむ姿が印象的でした!

林業の魅力を伝え、滝上町でしかできないことを。

今年の春は新卒の社員を2名採用した江本木材産業ですが、滝上町の山を十分に手入れしていくために、まだまだ人手が足りないと江本課長は感じています。

「滝上町に限らずですが、林業の業界はまだまだ人が足りません。木を植えて育てて、それを伐って手入れしてあげることで山は健全に保たれます。そのためには滝上町全体の林業事業者でも、あと2、3倍は人手があっていいほどです」

このような危機感の中、担い手の就業条件を改善していくことも重要だと考え、昨年は給料のベースアップを、今年は土日に加えて祝日も休みにし、天候に左右される林業の業界では先進的で、完全週休二日制の体制を整えました。日給月給制をとる林業事業者も多い中で、これはとても珍しいこと。
担い手不足に真剣に取り組む、江本木材産業の覚悟と本気を感じます。

emotomokuzai_11.jpg滝上町内にある江本木材産業の製材工場

また、江本木材産業では20年ほど前から、北海道移住イベントなどに継続的に参加し、求職者との交流を持つようにしています。
そんな中で感じるのは、「林業という職業が知られていない」ということ。

「イベントでお話ししても、林業とは何かを説明するだけで時間がかかり、踏み込んだ話ができません。まずは林業についての魅力発信を進めていかないと、就職までなかなか話が進まないなと感じます。まだ発信の良い形を見つけられてはいないんですけどね」

江本課長は、こうした林業の魅力発信は滝上町内に対しても重要だと考えています。

「滝上町のお祭りの中で『丸太早切り大会』を実施しているのですが、これも林業の魅力を多くの人にも知ってほしいから。こうした産業のお祭りを楽しくやれたらなと思っています」

丸太早切り大会は回数を重ねるごとに話題になり、今ではお祭りの中でも大人気コンテンツになっているそうです。
また、滝上町内での魅力発信の相手として欠かせないのは、町の将来を担っていく子どもたち。

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「子どもたちに向けた教育も、本当はもっと力を入れていきたいと思っています。子どもたちと林間学校で一緒に山に入った経験があるのですが、子どもたちって想像以上によく観察して考える力がある。森林環境教育って実は色々な可能性があるんです。もう少し自社の内部を整えられたら、子どもたちへの教育についても面白いことをやっていきたいですね」

こう話す江本課長は、実は学童保育の指導員として働いていた経歴をお持ちです。
日本大学生物資源科学部森林資源科学科で、森林や林業全般、木材の分子構造について専門的に学んだ後、「弟や妹もいましたし、子どもの面倒を見ることが好きで得意だったので、それを仕事にしてみたらどうなるだろう」と、児童教育の道へ進んだのだそう。
その後1年で実家に戻ることになり江本木材産業で働き出したのですが、一度ふるさとを離れ、子どもの可能性を知っているからこそ、子どもたちにふるさとへの愛着を持ってほしいと感じているそうです。

「子どもたちと一緒に山に入ることで、『山で面白いことやったぞ』と感じてもらうことが大事ですよね。そして大人になった時に『滝上町でしかできないことをやってたんだな』と気づいてもらえたら、滝上町に戻ろうかな、と思う人が増えるのではないでしょうか。これが正しい答えか分からないけど、滝上町での楽しかったこと、ここでしかできないこと、そういうふるさとを思い出すものを作りたいなと思っています」

emotomokuzai_14.jpgこれからの林業を支えるためには、若い人材もとても重要です

江本課長のお話を聞いていると、自分の会社だけではなく、「滝上町のために」という視点で常に物事を考えていることが強く伝わってきます。

「お給料や休日の改善だけではなく、滝上町での暮らしやすさを変えていかなければ、滝上町に人は来てくれません。会社の利益しか考えないという姿勢だと、『みんなで滝上町をもっとこうしていきましょう』という話すらできない。町にも、会社にも、どちらにも良い体制をつくっていくのが大事だと思っています」

このような視点をもつ企業があるからこそ、滝上町では地域一帯となって森林資源をフル活用する仕組みができているのかもしれません。

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これからの江本木材産業と滝上町。

最後に、これから江本木材産業が目指したいことについても伺いました。

「まず一つ目は、林業を割に合う仕事にしていきたいです。林業って実は、空気や水を綺麗にする、災害を防ぐ、動植物の多様性を守る...などの計り知れない山の機能を守る産業でもある。こういう機能保全の部分にもきちんと金額をつけて、林業を割に合う仕事にしていくことを目指したいですね」

現在の林業は、木材価格の低迷などから国や自治体の補助金に頼っていることがほとんどです。しかし、「林業は私たちの生活を守るために欠かせない産業であり、もっと価値をつけられるべきもの」だと、江本課長は言います。

emotomokuzai_6.jpg植えた木を資源として伐ることができるのは、およそ50年後です

「ただこれはなかなか大きな話なので、もっと現実的な目標としては、『循環する林業』を確立させていきたいと考えています。60年かけて育てる木々に対して、苗木をつくる苗畑、加工する工場、バイオマス利用...と、森林資源を無駄なく有効に使うサイクルをしっかりとした形で確立させて、収入もきちんと得ながら、綺麗な山を作っていきたいんです。綺麗に手入れされた山があるふるさとって素敵じゃないですか。そしてもう一つはやはり、林業を通して子どもたちが滝上町に帰って来てくれるようにしていきたいですね」

ひとつの企業だけでは難しいことでも、滝上町全体でならば、きっとこの目標も叶えられるのではないか。江本課長の話を聞いているとそう思えてきます。
滝上町と共に100年歩んできた江本木材産業が、さらに100年先を見据えて、これからどんなことを仕掛けていくのか。
会社と町のこれからの未来が、とても楽しみになりました。

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江本木材産業株式会社
住所

北海道紋別郡滝上町栄町

電話

0158-29-2102

URL

http://emotomokuzai.co.jp/


林業をとおして、もっと魅力的な町へ。江本木材産業(株)

この記事は2023年6月8日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。