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函館市

道南で自伐型林業に取り組む、双子姉妹の建築士。(株)平野建業20230727

道南で自伐型林業に取り組む、双子姉妹の建築士。(株)平野建業

建築士でありながら建築業のほか林業にも携わる双子の姉妹が函館市にいます。
「木から始まるstory」をコンセプトに据える工務店「平野建業」の中川かおりさんと妹の目黒さおりさんの二人。彼女達が注力しているのは、環境保全を意識した自伐型林業です。日々の建設業としての業務を行うとともに、任意団体の「道南森づくりの会」を立ち上げ、森を育てることに力を入れて活動をしています。

原動力は、幼少期からDNAのごとく心に刻まれた山の魅力

林業や環境保全活動に携わっていない方にとっては聞き慣れない「自伐型林業」とは、山主または地域の有志によって自分の所有山林もしくは地域の山林にバックホーで作業道を付け、間伐施業等を行い、森を長期的に管理していく
環境保全型で小規模な林業の一つの方法です。


hiranokengyo_futari1965.png左が姉の中川かおりさん、左が妹の目黒さおりさん。笑顔が素敵な双子姉妹です
長年建築業界で仕事をしてきた二人が林業に携わるようになったのは2019年頃から。建築業と林業では仕事の内容がかなり違うにも関わらず、林業に携わるようになったのはなぜでしょう。
林業に携わるようになった直接的なきっかけは知人の誘いです。
ただ、根底の想いは「山はワクワクしかない」という幼少期からDNAのごとく心に刻まれてきた山や森の魅力に由来するようです。

二人は建設業の家に生まれました。幼少期の頃から両親に連れられ、家族でよく山に行っていたそうです。目的は山菜取り。春はフキやウド、秋はキノコ狩りやクリ拾いがメインです。

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「山菜採りって宝さがしのようで。山ってワクワクしかないよねって感覚でした」
「クリを靴で踏んで殻を剥いて、いっぱい持ち帰っていました。時間ない時は殻ごとごぞっと持って帰ってきて家で踏んで剥いてね」
「春、枝が覆いかぶさって新緑のトンネルのようになっていました。これがすごく綺麗で。山の入口というか新緑のゲートのようで、また山に来たよって気持ちになりました」
「秋に山へ行くと、黒い木の幹に絡まる蔦に光があたって紅葉がものすごく綺麗でした。今でも脳裏に焼き付いています」

昔話をする二人の笑顔がひときわ輝きました。
山菜採りの楽しさだけではなく自然の美しい情景も合わせて、山や森の魅力が刷り込まれてきたようです。

家業の建築業に進みつつ、木と森を意識するようになる

その後、兄弟4人とも工業高校の建築科に進み、現在は4人とも2級建築士として活躍しています。家業が建築業ということもありますが、兄弟みな、ものづくりや絵を描くのが得意だったそうです。

「絵を描いたり何か作ったりするのが好きだったので自然と建築の仕事を選びました。現在は私の旦那がここの社長をしています」
こう語る妹のさおりさん。姉よりも一足先に家業に就きました。

hiranokengyo_office.pngオフィスにて。平野建業を家族皆で支えています

いっぽう、姉のかおりさんはこう語ります。
「私はすぐに実家ではなく、設計事務所などで修業してから来ました。デザイン重視のところだったので感化されて、今は空間重視で個性的な住宅を作るのが好きです。妹は機能性重視の住宅なので真逆ですが、二人で幅広いプランニングやプレゼンができるようになりました」

それぞれの違った強みをかけ合わせ、長年家業を支えてきました。いつしか、姉のかおりさんは趣味の盆栽を究め、山から採取したコケを使った山野草盆栽のワークショップを開催しました。妹のさおりさんは木育に力を入れ、木育マイスターとして活躍するように。
ちなみに木育とは、こどもをはじめとするすべての人が「木とふれあい、木に学び、木と生きる」取り組みの事です。

こうして年々、木を意識するようになるにつれ、山に目がいくようになり、森のことを考えた建築をしていきたい、という想いに至りました。

建築業と林業を兼業。きっかけは人の縁

転機は2018年、札幌で「自伐型林業家養成塾」の研修会があるので、興味はないかい?と声を掛けて頂いた時です。

二人は送ってもらった林業塾の資料を見て、「なんか気になるね」「まずは行ってみよう」と即決。この当時はまだ林業へ本格的に関わる考えには至っていなかったものの、興味があったため函館から札幌に通う日々が続きました。

受講最終日の相談会で、講師にこの後はどうするのかと尋ねられたそうです。
「教えてもらった自伐型林業を道南で広めたい」
二人はこう伝え、函館に帰ってきました。

自伐型林業を道南で広めるには、自分たちだけで行うだけではなく、広く知ってもらうことも重要です。
そこで、2019年のある日、函館市の五稜郭地区にある商業施設シエスタハコダテの多目的スペースで、北海道自伐型林業推進協議会の協力のもと、「道南でもジバツできる」という自伐型林業説明会を開催。また、およそ1か月後には有志の希望によりとあるカフェにて自伐型林業の説明会を行いました。

「やる前は20人とか30人とか集まればいいなって思っていたのです。ところが実際は2カ所合わせて60人くらい参加してくれました。しかも、林業に携わっていない一般の人たちばかり。ここで熱を感じました。興味ある人たちはいっぱいいるのではないかと」

道南森づくりの会を結成

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自伐型林業を広めるためには、木を伐り出す山が必要です。活動する団体も必要です。
2020年、林業塾を案内してくれた知人と、技術指導をしてもらうために一人で林業を営む方に声をかけ、4人で任意団体「道南森づくりの会」を結成。知人の紹介で七飯町内にある4ヘクタールの山林を貸してもらえることになり、まずはこの山を拠点に活動を始めました。

道南森づくりの会は4人からスタートしましたが、活動の仲間を増やしたい思いから道南版の「自伐型林業家養成塾in道南」を開催。道南で自伐型林業に関心を持つ人たちが増えていくきっかけになりました。

参加者は、ほとんどの方が林業とは畑違いの会社員や自営業、大学講師などの方々。切り盛りする二人が女性ということもあってか、参加者の中に女性の姿が数多く見受けられたそうです。
この動きに行政も注目。翌2021年になると函館市から声がかかり、函館市と連携。2022年に函館市から委託を受けて林業研修事業も行うようにもなりました。

講演会や自伐塾、林業塾などを開催してきたことと、SNSに活動内容を投稿し続けていることもあり、道南森づくりの会に参加をしたいという人たちが続々と集まりました。年々メンバーが増え、各人のスキルもアップ。二人もしっかり技術を身につけ、いまでは木も狙った方向に安全に切り倒せます。

自伐型林業が共感を生み広まるベースの考えは「楽しく安全に」

2023年5月現在、活動を呼びかける「山活動お誘いグループ」というLINEグループに39名が登録。ほとんどの方が平日は仕事をして休日に参加をするという週末林業という感覚で、職業も年齢もバラバラだそうです。
「毎年実施している里山保全の事業を始めます」「林業ワークショップを開催します」などと呼びかけると、いつも15名~20名くらいの人が集まるようになりました。

「活動を始める前は、山って楽しい、なんとなく林業に興味がある、という気持ちが強くてあまり仕事のイメージはなかったかもしれません。でも、環境保全の自伐型林業を道南で広めたいといっても、継続するには仕事にしなければ意味がないと思っています。今やっていることは仕事として形作って行くためのベースだと思って続けてきました」

「山からとってきた素材を建築に取り入れられたらよいなという考えはありました。後々に巡り合った山がいい素材を出せる山だったら取り込もうと。年輪が綺麗、木目が綺麗という素材なら、インテリアとか内装に使いたいなとか。山で切る一次産業から建物や家具、クラフト作品など一貫して携われるようになって、副業から生業になればと思います。」

山のワクワク感や人の縁から始まった二人の自伐型林業の取り組み。しっかりと将来の仕事も見据えて取り組んでいるものの、職人気質の堅苦しさなどはなく気軽さすら感じられます。

道南森づくりの会のモットーは「楽しく安全に」。

山へ行く時はお茶セットを持ち込み、みんなでお茶タイムも楽しむこともあります。
チェンソー体験やロープで木登り等を体験できる林業ワークショップを開く時もあります。
また、本来捨ててしまう木の枝や山の素材を使ってクラフト作品を作ってマルシェに参加もしています。

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道南森づくりの会の代表は姉のかおりさん、副代表は妹のさおりさんが務めています。山や自然が好き、山で仕事をしてみたいと思う人がどんどん集まって、林業を楽しみながら活動しています。

自伐型林業が広まっていく秘訣は、環境保全などの崇高な理念はもちろんありつつも、ベースは「楽しさ」なのかもしれません。

家族の協力と運命的な絆が二人の情熱を支える

家業の建築業をしながら林業も始めた二人。さまざまな人の協力なくしては成し得ないことです。
かつて札幌で開催された林業塾に通っていた頃、妹のさおりさんは生まれて間もない子どもがいる状況でした。夫婦共働きで小さな子どもがいるとなると、とても函館から札幌に通うことは難しいはず。それでも通い続けることができたのは、旦那様の協力があったから。
「行っておいで」とさおりさんを送り出し、子どもの世話をしてくれていたそうです。

姉のかおりさんはさらに驚くような苦難の中、林業塾に通っていました。実は、重い腎臓病を患っていて、2020年秋に腎臓移植を受けた身なのです。

「札幌に通っていた時も、山をやりたいといっていた時も、病状は末期の状態でした。でも、やりたいことは、今やる。病気を持っているからこそ先延ばしせずにやる。そう思い、取り組んでいました」

とはいえ、体調が優れない時や体力が続かないことがよくあり、仕事中でも横になってしばらく休憩することも多々。

「林業はふたりで協力しあってやっていこう」と決めて、かおりさんが山で疲れて休みたいときはいつもさおりさんがサポートして、なんとか切り抜けてきました。

2020年になると体調がより悪くなり、いよいよ移植するしかないという状態になりました。医師には春に手術をと薦められたものの、手術は晩秋にしました。なぜなら、春から秋は林業の季節。大好きな山を優先したのです。

移植のドナーは妹のさおりさん。建築業と林業の二足の藁を続けている中、手術に備え、二人ともさまざまな精密検査を受けました。
ここで運命的な事実が発覚。今まで姉妹は二卵性の双子といわれて長年過ごしてきましたが、検査をしたところ二人のDNAは99.9一致、一卵性の双子だったのです。

hiranokengyo_photo.png幼いころの二人。自分達でも見分けが付かない程そっくりですが、2年半前まで二卵生双生児と信じていました
腎臓移植をすると、一般的に移植後は拒絶反応との闘いが待っているのですが、一卵性の場合はDNAがほとんど一緒なので拒絶反応がほぼ起きません。

手術前のかおりさんは、毎日10種類程度の薬を飲み続けているうえ、疲れて休むことばかりだったといいます。
手術を終えると拒絶反応もなく、今は健常者とほとんど変わらないくらいに身体が回復。提供者のさおりさんも身体に異変はなく、いたって健康です。

心身ともに元気になった二人。

「一般の人に山をもっと身近に感じてもらいたい」
「街と森をつなげることを大事にしたい」

そう語り、道南での自伐型林業の普及に情熱を注ぎます。

2022年には平野建業1階に「seeds & soil -種と土-」をオープン。木をふんだんに使ったアトリエの中で、間伐した材を利用した木工クラフトや苔ボトルの販売、北海道の林業仲間から木にまつわる製品を預かり、委託販売しています。

「山はワクワクしかない」と幼少期からDNAのごとく心に刻まれてきた山や森の魅力を、彼女達がさらに広めていくに違いありません。

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株式会社平野建業/seeds & soil -種と土-
株式会社平野建業/seeds & soil -種と土-
住所

北海道函館市日乃出町2番7号

電話

0138-53-7297

URL

https://hiranokengyo.com/


道南で自伐型林業に取り組む、双子姉妹の建築士。(株)平野建業

この記事は2023年4月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。