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当別町

真の農福連携とは?高級卵生産を通して追求。ファームアグリコラ20230605

真の農福連携とは?高級卵生産を通して追求。ファームアグリコラ

この数年でよく耳にするようになった「農福連携」という言葉。農林水産省のホームページによると、障がいのある方たちが、農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みであると記されています。「みんなにとってどんな形がいいのか、真の農福連携を追求していきたい」と話すのは、当別町でFarm Agricola(ファームアグリコラ)を運営する代表の水野智大さん。通年で障がい者の就労支援を行い、食のプロたちが認める平飼いたまごを販売しています。今回は、ここを立ち上げるに至った理由や、こだわりの卵のこと、それを通して実現していきたいことなどを伺いました。

精神的、社会的、経済的に自立ができる仕組みを作りたい

水野さんはえりも町出身。実家はサラブレッドの生産牧場でした。高校卒業後、跡を継ぐために牧場に入りましたが、ときはバブルが崩壊したあと。馬主が減り、牧場の先行きは明るいものではありませんでした。

agurikora2.JPGこちらが代表の水野智大さん
「馬自体は好きだったのですが、競馬の世界、競争とかギャンブルが自分にはしっくり来なくて。違う世界で、人の役に立つ仕事や人を幸せにするような仕事がしたいと思っていました」

当時付き合っていた彼女(現在の奥さま)は、浦河町の病院に勤務する看護師だったことから、自分も看護師を目指してみたいと思いはじめます。牧場を継いでくれると思っていたご両親に、「看護師になりたい」と土下座し、何とか許しを得て、23歳のときに札幌へ。一念発起して1年間予備校で勉強に打ち込み、翌年小樽の看護学校へ入学。3年間の学生生活を経て、晴れて看護師となり、小樽の病院の脳神経外科に勤務します。

「脳神経外科はなかなかハードでした。でもここでの経験が、生きることや人間らしくあることなどを考えるきっかけになり、今の仕事にも繋がっている気がします」

奥さまが精神科に勤務していたこともあり、水野さんも精神科に興味を持つように。30歳のときに札幌の精神科のある病院へ移ります。

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「精神科は閉ざされている世界で、皆さんが思っている以上にとてもシビア。出口のない強制入院、薬物療法でおとなしくさせるなど、日本の精神科の在り方はWHOから改善をするよう指摘されていて、僕も、薬で患者さんをおとなしくさせる風潮を変えたいと思っていました。自分が組織の中で偉くなれば変えられるかもしれないと、頑張って看護師長にまでなりましたが、やはりその壁は想像以上に厚かったですね...」

患者さんたちが、人間らしく暮らしていくにはどうしたらいいか。どのような場所があればいいか。考え続けた水野さんは、「病院ではないところで、彼らが精神的にも、社会的にも、経済的にも自立できる仕組みを自分が作ろう」と病院を退職します。39歳のときでした。

手探りからスタート。こだわりの卵は食通も納得のおいしさ

水野さんは、自宅のあった当別町でファーム アグリコラを立ち上げます。牧場出身とはいえ、農業は初めて。手探りでのスタートでした。

agurikora8.JPG右のハウスが鶏たちの家。ちなみに敷地内はほぼ無臭です。
就労支援にはいろいろな仕事がありますが、農業を選んだのは、利用者の人たちに「健康」と「誇り」を持ってもらいたかったからと水野さん。

「朝起きて、太陽の日を浴び、土に触れ、体を動かす。そうしたら、夜もぐっすり眠れる。代謝がよくなり、便通もよくなり、食欲も出る。まずは体が健康的になることが大事だと考えていました。もともと日本人は農耕民族なので、本質的な部分でそういう暮らしが合っていると思うのです。それから、農業は自分たちが作ったもの、育てたものをお客さんに直接渡せるのがいいなと思っていました。利用者さんたちが自分たちの作ったものに誇りを持てるようにと考え、農業にしました」

最初は畑で野菜を育ててそれを販売しようと考えていましたが、天候に左右される畑作業にはそれなりのスキルや経験値も必要となります。さらに、利用者の人たちに少しでも多く給料を払いたいという気持ちもあったため、野菜も育てながら、早く現金化ができる養鶏も一緒にはじめ、卵の販売を行うことにしました。

agurikora16.JPG現在約7000羽の鶏たちが、伸び伸びと過ごしています。
養鶏は200羽からスタート。作るものに付加価値をつけようと考え、平飼いの養鶏方法を採用しました。野菜も有機JAS認証を取得し、オーガニック野菜を栽培。さらに付加価値を付けたものを出したいと考え、2019年には卵のオーガニック認証も取りました。

鶏のエサは、大豆や麦、米などが中心で、その8割がオーガニックのものを使っています。一般的な鶏のエサは魚粉を15%ほど混ぜていますが、アグリコラでは4%ほどとわずか。そのため、「生臭い」という理由で生卵が苦手な人でも、「ここの卵はニオイがしないから、おいしく食べられる」と気に入ってくれるそう。その味や質の高さは、一流シェフたちにも認められ、現在は東京の外資系高級ホテルや道内の有名レストランなどで採用されています。
ちなみに、オーガニック認証された卵は非常に稀少で、餌はもちろん、鶏が過ごす環境まで、厳しい審査に合格する必要があります。

「最初の2年半は、土日も関係なく、家族総出で休みなしで鶏の世話をしていましたね」と、振り返る水野さん。その合間に、飛び込み営業をしながら卵の売り先を獲得していきました。3年目辺りから、利用者さん以外にスタッフを雇えるようになり、事業としての土台が整ってきました。「事業を長く続けることが、みんなの幸せにつながっていくのだなと感じています」と話します。

薬に頼らず、コミュニケーションを円滑にすることに注力

就労継続支援A型事業所であるアグリコラには、現在18人の利用者さんが通っています。B型としても事業を行っており、登録している利用者さんは7人。多くは当別町内の人ですが、町外から通っている人もいるそう。ホームページを見て連絡をしてきた人や紹介でやってきた人などさまざま。
agurikora6.JPG餌をつくる小屋の中は、大豆を焙煎する香ばしい匂いがしています。
「ここに来たばかりの利用者さんのほとんどが、汗をかけないのです。その理由が、薬をたくさん摂取しすぎて、体の機能が正常に働いていないから...。飲んでいる薬を見せてもらって、少しずつ減らしていけるようにアドバイスなどをさせてもらっています」

精神科の看護師の経験があるからこそできるサポート。薬を減らして、普通の生活を送ることを大事にしていきたいという水野さんの想いがそこにはあります。

「精神の病気は、心の病か、脳の病かと議論になりますが、僕はコミュニケーションの病だと思っています。以前、新薬が出たとき、ある患者さんが『この薬は脳には効くが、魂は治してくれない』と言ったことがあって、なるほどと思いました。薬に頼るのではなく、コミュニケーションをどう円滑にすればよいかを突きつめていくことで、結果、利用者さんたちが人として当たり前の生活を送れると思うのです。そしてそれが僕たちの仕事なのです」

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2年前から、毎月1回、業務改善会議を利用者の人たちが主体となって行っています。「こういう道具があればいい」「こういうやり方だとスムーズにいく」など、それぞれが意見や課題を出し、それについてどうすればいいかを皆で考えていきます。最初の頃は、水野さんが中心になって会議を進めていましたが、今は利用者の人たちが主体に。スタッフは見守りに徹します。

また、利用者さんは障がいの程度によって能力も異なるため、会議の際に、「これができないけれど、どうしたらいい?」という相談もあがってくるそう。それに対して、「こうすればいいよ」と自身の経験からアドバイスをする人や、一緒に考えてくれる人もいて、「利用者間で助け合いができるようになり、コミュニケーションが生まれています」と水野さん。

利用者とスタッフ、それぞれの役割を果たせる形が理想

「A型というのは、利用者さんたちと労働雇用契約を結び、稼いだ分はすべて利用者さんの給料になります。卵を売ったお金は僕たちスタッフには入りませんが、僕たちは国から福祉のお金として訓練給付金をもらいます」

1B2A3502.JPG温かくなってくると、鶏たちはいよいよ外に出て、思い思いに草をついばみます。
A型、B型と耳にしたことはあっても、福祉業界にいない限り、その仕組みを理解している人は多くはないはず。どれだけ営業をかけて、卵を売っても、その利益が水野さんたちには入らないということに驚いていると、「こういう仕組みは知らない人のほうが多いですよね。アグリコラは資本主義ではないのです」と水野さん。

あくまで事業所のスタッフは、利用者さんたちが働けるように訓練し、支援するのが仕事であるということ。スタッフとして勤務する松本鴻太さんも、「スタッフが鶏の世話や畑作業をせず、利用者さんが中心となってすべて賄うことができるのが理想。スタッフの仕事は支援であり、それぞれの役割をきちんと果たせたらと思います」と話します。

agurikora23.JPGこちらが松本鴻太さん。サッカーの腕もかなりだそう。
松本さんは大学卒業後、重度の障がいがある人たちの生活介護の仕事に従事。農福連携に興味があり、ネットで検索していたところ、アグリコラのホームページを見つけ、共感できる部分があると3年前に転職してきました。「サッカーをやっていた体育会系で、頼もしいです」と水野さん。
現在は、もう1人、常勤の男性もいます。

松本さんに、仕事をする上で気を付けていることを尋ねると、「利用者さんが安全に作業できるように気を配ること、そして、利用者さんの様子をきちんと観察すること」と返ってきました。精神の病を抱えている人の中には、自分を傷つける人もいれば、最悪の場合、自死を選ぶ人も。そのサインを見逃さないよう観察する力が大切だと言います。

それを聞いていた水野さんも、「僕たちの仕事で観察はとても大事です。福祉といっても、死が隣り合わせであるケースも実はとても多い。人の命に関わっているということをいつもスタッフみんなで共有するようにしています」と話します。
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目先の感謝よりも、遠くの自立という幸せを見ていたい

「僕たちは、優しくない」と水野さん。世間一般で言う目先の「優しさ」は、差別のはじまりだと言います。

「誰かに優しくするという行為は、見返りや感謝を求めてしまいがちですが、ここでそれは必要ありません。本当に利用者さんのことを考えるのであれば、目先の優しさは不要。それよりも、精神的にも社会的にも自立するため、できることは自分でやってもらえるようにしていくほうが大事で、そこを伸ばし、サポートをするのが僕たちの仕事です。利用者さんからの目先のありがとうではなく、遠くにある利用者さんの自立という幸せを見ていきたい。何が本当の優しさなのかを見極められる、そんな福祉をやっていきたいですね」
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今後の展望や目標を尋ねると、「規模を拡大し、利用者さんたちの給料をもっとあげられたらと思っています」と水野さん。具体的には、鶏の数を現在の7000羽から1万羽へ増やしたいと考えているそう。また、利用者の人たちが安心して働けるよう、社会的保障の基盤を作りたいと話します。
そして、「卵の生産と販売を軸としながら、多角化もできればと思っています。例えば、この卵でマヨネーズも作ってみたいですね!」と話してくれた笑顔が、とても印象的でした。

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Farm Agricola(一般社団法人 アグリコラ)
Farm Agricola(一般社団法人 アグリコラ)
住所

北海道石狩郡当別町弥生52-11

電話

0133-27-5551

URL

https://www.agricola.jp/


真の農福連携とは?高級卵生産を通して追求。ファームアグリコラ

この記事は2023年5月9日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。