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このまちのあの企業、あの製品
札幌市

北海道の木と人を思う、真面目なものづくり。チエモク(株)20230427

北海道の木と人を思う、真面目なものづくり。チエモク(株)

高層ビルが立ち並ぶ札幌の中心部から車で約15分。
同じ札幌市内でありながら、山に囲まれたのどかな風景が広がる小別沢地域。
緑豊かなこの地にぽつんと佇むのが、「チエモクファクトリー工房 小別沢」です。
工房に併設されたショップには、かわいらしい雑貨やおしゃれなうつわが所狭しと並び、訪れた人からは思わず「素敵!」と歓声が上がります。
今回の主役は、この素敵な木工クラフトたちを生み出す、チエモク株式会社代表・三島千枝さんです。

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本当にいいものをつくりたい。百貨店勤務から一念発起。

チエモクは、代表の三島千枝さんと、千枝さんの旦那様・格さん、社員1名の3名で営む小さな木工クラフト工房です。
すべて北海道産の木材を使うことにこだわり、ひとつひとつ丁寧にものづくりをしています。

ころんとした形がかわいい赤ちゃん向けの食器、ガラスと木の組み合わせがおしゃれなグラスに、黒板消しの形をした携帯ストラップなど......。チエモクならではのユニークなデザインの木工クラフトたちは、眺めているだけで愉しくなるものばかり。

でも実は、その可愛らしい形にも使いやすくするための意味があったり、木の特性を活かしながら耐久性をアップさせる工夫が凝らされていたり......素朴な木工クラフトでありながら、確かな機能性を備えていることも、チエモクの製品たちの大きな魅力です。

「本当に価値がある、いいものを作りたい」と熱い思いを語る千枝さん。
そんな千枝さんは物心ついた時から、家具職人である父の背中を見て育ちました。

「家の下に工房があったので、いつも機械の音がして、父が何かを作っているという環境でした」

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それでも意外なことに、家を継ぐ気は全く無かったそうです。
学校の教員になろうと、北海道札幌南高校を卒業後、北海道大学教育学部に進学。しかし、千枝さんの世代は教員の採用がとても少なかったのです。大学卒業後は教員ではなく、売り場の販売員として地元の百貨店に就職しました。
そこで過ごした2年半が、千枝さんがものづくりの道へ進むきっかけになったといいます。

「私にとってはデパートってオシャレすぎると感じてしまって。当時のアパレル業界では、製品そのものの価値よりも、有名なブランドのものかとか、雑誌にのったか、などで価値が決まってしまうようなところがありました。それを目の当たりにして、なんだかなあと思ってしまう自分がいました」

売り場での経験を通して、「本当にいいものってなんだろう」という疑問を抱えるようになった千枝さんは、やがて「いいものを自分で作ってみよう」と考えるようになります。

「本当にいいものを売りたくても、元々あまりモノに興味がない私ではいいものを揃えることもできない。それなら勉強して、価値のあるいいものを自分で作れるようになった方が早いなと思ったんです」

こうして2年半で百貨店の販売員を退職した千枝さんは、お父さんが営む工房「三島木工」に弟子入りし、木工クラフトの道へ進むことになったのです。千枝さんが25歳の時のことでした。

家具職人の父のもとで学んだ、職人の世界。

25歳で実家の工房に弟子入りした千枝さんでしたが、弟子入り後はある意味厳しい修行の日々が続きました。

「木工やりますと言っても、父さんはなかなか許してくれませんでした。たぶん続かないと思ったんじゃないかな。父さんは丁稚奉公で育った筋金入りの職人で、『技は教わるものではなく盗むもの』という世界の人。弟子入りしたと言っても、作り方を手取り足取り教えてもらうことはほとんどありませんでした」

千枝さんのお父さんは幼い頃から住み込みで木工会社に入り、先輩方の身の回りの世話をしながら修行する、いわゆる「丁稚奉公」で鍛え上げられた職人でした。技は習うのではなく、先輩方の作業を見ながら盗み、自ら練習して自分のものにする。そうして数年かけてやっと職人になるのだそうです。

「きちんと教えてもらったのは危険を伴う機械の使い方くらいで、あとはそばで見て分からないことを質問して、自分でもやってみて......の繰り返しです。最初の1年は本当に何も作らせてもらえなかったので、仕事は工房の掃除と犬の散歩くらいしかありませんでした(笑)。ペーパーがけを父さんに良しと言われるまでやり続けたり、刃物を研いで、その切れ味を試すために端材で簡単なものを作ったり......。自分がやったことが採用されるだけでも嬉しかったし、自分がやろうと思ったことは散々やり尽くしました」

自分なりに腕を磨いていった千枝さんは、やがて三島木工の中での小物部門を担うようになります。

「何年か経った時に父から、家具か小物か、どちらをやりたいか聞かれたんです。『小物で商売していくなら、小物でちゃんと食えるようにならないとダメだよ』という意味だなと受け止めて、私は小物づくりに専念することにしました」

三島木工にいる間に作るようになった黒板消しストラップやカードケースは、その温かみのあるデザインと実用性から千枝さんのヒット商品となり、委託販売先との契約が安定するなど、着実に販路を広げていきました。
そうして約9年間三島木工で過ごした千枝さんは、2008年、結婚と同時にチエモク株式会社を設立。34歳で独立したのでした。

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木にも人にも本当にいいものを。絶えることのない探究心。

チエモクの製品には、ものづくりの職人として「本当にいいものを作りたい」という千枝さんの熱い情熱がめいっぱい込められています。


たとえば......
代表作の黒板消しストラップは、木の質感を楽しみながらも、携帯電話の画面拭きやお化粧ポーチの鏡拭きにも使えるお役立ちアイテム。チンアナゴの形をした可愛いバターナイフは、テーブルに平置きしてもナイフ面が下につかない絶妙な形です。

chiemoku_meishi.pngこちらがカードケース(名刺入れ)。なんと取材スタッフにはこのカードケースを10年愛用している者もいました!
木目が美しいカードケースは、スライド式の扉を開くと名刺がぽこんと立ち上がる仕組みになっていて、他の木製カードケースとはひと味違う使い勝手の良さ。

製品の全ての材料・作り方・形に、「これにはこんな木材を使っていて......」「このデザインにはこんな意味があって......」とストーリーがあり、千枝さんの並々ならぬこだわりが感じられるのです。
そのこだわりは、製品の塗装のお話からも伺えます。

「チエモクの食器は全てシンナーを用いないガラスコーティングを施しています。木という材料は本来割れたり反れたり動くもので、カビも生えやすい。だから木で器をつくるには塗装がとっても重要なんです」

器は日々の暮らしの中で使う道具。汚れや色移りに強く、お手入れが簡単で、丈夫で安全性も高いのが理想です。
千枝さんは木の良さを活かしつつも、これらの理想の条件を叶える塗装を何年も研究して、現在使用しているガラスコーティングにやっとたどり着いたのだそう。

「せっかく木で器をつくっても、長く愛される器にしないと意味がありません。塗装によって木の素材をしっかり守ってあげないと、長生きするはずだった木があっという間に腐ってダメになってしまう。木の命をいただいて製品を作っているのに、木の寿命を縮めて終わり、ということだけはしたくないんです」

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ガラスコーティングに出会う前は、一般的なポリウレタン塗装を使っていたそうですが、「シンナーの匂いが気になる」というお客様からの声もあったのだそう。
千枝さんの「本当にいいものを作りたい」という情熱で、使いやすさも、耐久性も、安全性も兼ね備えた、チエモクならではの高機能性の木の器を提供できるようになったのでした。

それでもまだまだ満足しない千枝さん。
「塗装に関しては今でもずーっと試行錯誤を続けています。今でも実験している塗料があるんですよ」と、より良いものを探求し続ける姿勢に脱帽です。

木に対しても、使う人に対しても、「本当にいいもの」を作っていく。
木の命をいただくことへの感謝と、使う人への思いやり。
この真摯な姿勢でつくられたチエモクの製品は、口コミや紹介でどんどん評判を広げていきました。

「今お世話になっている取引先は、商品の売り先は紹介していただいたり、向こうが調べて声をかけてくださったりがほとんどです。とりあえずいただいた機会は断らずに全部やってみるというスタンスでずっとやってきました」

千枝さんの職人としての情熱が、長くお客様に愛されるチエモクの製品を生み出し、さらに進化させているようです。

木のいのちをいただくことに感謝して。

製品の機能性以外にも、チエモクならではのこだわりがあります。
それは、「地元・北海道産の木材でつくること」。

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雑貨やうつわに至るまで、チエモクの製品は全て北海道産の木材を使って作られています。
特に、林業の町として有名な下川町産のものを中心に使っているそうです。

「私が実家に勤めていた頃は、材料屋さんもほとんど北海道産なんて取り扱っていなくて、あるのはカタカナの名前の外材ばかり。北海道は木材資源が豊富にあるのに、なぜ北海道産の木材でつくられる家具や小物があまりないんだろう?とずっと疑問に思っていました」

独立を機に、せっかくだから地元の北海道産の木材を使いたいと色々と問い合わせをしてみた千枝さんでしたが、難しい現実に直面しました。

「当時北海道産木材を扱っている材料屋さんは、ほんとに少なかったですね。輸入材の方が当時は量的にも質的にも安定していて扱いやすかったようです。
私は林業の知識が全然なかったので、材料屋さんは難しくても山に行けばいろんな種類の木が手に入るだろうと思っていたんですけど、違うんですよね。北海道の林業で植えられるのは主にトドマツやカラマツなどの針葉樹で、私たちが使う広葉樹はメインではありません。しかも、私たちが一回に欲しい量はせいぜい板にして数枚、山のロットは丸太何本トラック何杯、って感じですから」

木工クラフトで使われるナラやカバ、カエデのような広葉樹は、メインの針葉樹を伐り出す際に偶然混ざり込む場合がほとんど。流通量が安定しない、と言われるのも無理もない状況でした。しかもそれらを多品種小ロットで手に入れたいとなると、北海道における木材流通の仕組みの中では難しいことでした。

しかしそこで出会ったのが、当時から循環型の林業を展開していた下川町です。

「下川町は、町有林(町が所有する山)を60のエリアに分け、毎年1つのエリアを伐って植える、を繰り返すことで、1歳から59歳までのエリアが60年サイクルで保たれるという森の循環づくりを始めていました。この仕組みのお陰で、下川町の森林資源は常に一定に保たれて、未来永劫継続できる。とってもクリエイティブな取組みだなと感動しました。なんとかこの森の材を使いたい!って思ったんです」

当時の下川町は、循環型の林業を展開すると同時に、町内で伐られた木材を加工して製品にできる人を探していたタイミング。

「それで、移住はできないけど、材料を買わせていただきたい!って申し出たんです。ですが、原則として森林組合は木材の小売自体をしていませんでした。最初は、ウチは小売やってないし、それもマツしかやってないから、って断られたんですけど、そこをなんとか!どのくらいまとめたら分けてもらえますか!?って何度もお願いして、やっと分けていただけることになりましたが、結局「トラック1杯」が単位でした(笑)
そうして分けていただいた、下川町産のシラカバ・センと、北海道産イチイ・エンジュが全部で5立方メートルちょっと。その材料を元手に、チエモク株式会社がスタートしました」

こうして千枝さんは、主に下川町から、北海道産の木材を安定的に手に入れられるようになったのでした。

「北海道産の木材でつくる」というこだわりに加え、さらにもう一つ、チエモクが大事にしていることは、「植樹活動を通じて次世代の森を育てること」。

チエモクでは年に1回下川町を訪れて、植樹活動を行なっています。

「下川町の循環型の林業がすごくいいなと思ったから、自分も何か関われないかなと考えて、はじめは夫婦2人で植樹を始めました。次第にスタッフも、せっかくならお客様も......と広がっていって、今では毎年5月、下川町の町民植樹祭の一角をチエモクスペースにしていただいて、多い時は20人くらいで植樹をしています」

2007年から開始したこの植樹活動は、チエモクの売上げの一部を寄付して開催し続けています。

「木の命をいただいてものづくりをする者として、少しでも次の世代の森づくりのお役に立てたらと思っています。お客様にも、自分達が使っているものがどこから来たのかを知ってもらえるきっかけになっていると思います」と笑顔の千枝さん。

目の前の製品やお客様だけでなく、木の未来にも真摯に向き合う千枝さんのものづくりの姿勢。
チエモクの製品に多くの人が惹きつけられ、高い評価を得ている理由が分かったような気がしました。

大好きな小別沢で続けていく、真面目なものづくり。

最後に、千枝さんに今後の抱負をお伺いすると、こんなことを話してくれました。

「『ものづくり』をもっと良い仕事にしたいなとずっと思っていて。ちゃんと真面目にいいものを作って、ちゃんと真面目に向き合えば、『ものづくり』はちゃんと食っていけるし、代替わりもしていける産業であるということを、自分で体現したいなと思っています」

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「......でももう48歳だから頑張らないと(笑)」と照れくさそうに笑う千枝さんですが、木の未来だけでなく、「ものづくり」の未来まで見据えた言葉に、やはり職人としての熱い情熱を感じたのでした。

「小別沢地域の木をつかったものづくりもしていきたいです。すでにいくつか小別沢産の製品は作っていて。こうして地域のものを使ったものづくりを通して、地域を繋ぐ役割を果たせたら嬉しいですよね。この地でちゃんと真面目にものづくりを続けていくことで、ものの循環はもちろんのこと、この仕事を引き継ごうという次の世代の人も育てていきたい。そんな風に考えています」

千枝さんがこの小別沢の地に工房とショップを構えて5年。
実家の三島木工がある地域のように、緑豊かな地でものづくりをずっと夢見ていた千枝さんにとって、小別沢でのものづくりは最高の環境なのだそう。

人にも木にも真面目に向き合う千枝さんの職人魂が、小別沢地域でどのような化学変化を起こしていくのか、これからもとても楽しみです。

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チエモク株式会社
チエモク株式会社
住所

北海道札幌市西区小別沢140

電話

011-790-7012

URL

https://chiemoku.co.jp/


北海道の木と人を思う、真面目なものづくり。チエモク(株)

この記事は2023年3月2日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。