自然豊かな北海道へ移住したい。そう考えている方の多くが、「仕事」のことで二の足を踏んでいると聞きます。資格を生かして仕事をしてきた方や技術者の方たちは、それらを生かした働き口が移住先にあるかどうかが焦点に。また、自然に囲まれた暮らしに憧れるけれど、いきなり田舎は...という人も多いようです。
今回は、どちらの問題もクリアし、北海道の自然を満喫しながら、電気工事士の資格を生かして札幌で働いている、沖縄出身の田嶋元(はじめ)さんに取材。北海道での暮らし、働き方などについて話を伺いました。また、田嶋さんが働く株式会社フジソー(旧フジ総合管理株式会社)は、働き方改革を積極的に進め、田嶋さんの入社以降も、地元以外からの採用を行っています。そこについて、代表取締役の樋口直樹さんにも話を伺いました。
沖縄・宮古島から、まずは電気工事士として東京へ
政令指定都市・札幌は、人口190万を超える大都市です。自然豊かな場所への移住と札幌は結びつかないという方もいるかと思いますが、札幌は都市と田園が調和している全国でも珍しい街。少し車を走らせるだけで、牧歌的な景色や雄大な自然に出合えます。移住リストから外している方が多いかもしれませんが、実は移住先としてとても魅力的な街なのです。都市という側面がある分、当然さまざまな就職先もあり、移住のファーストステップとしてもおすすめの街です。
さて、今回お話を伺った田嶋さん、出身は沖縄県の宮古島。宮古島に移住する人の話はよく聞きますが、その逆で宮古島から北上してきたという珍しいケースです。といっても、最初から移住を目的として北海道へ来たわけではないそう。「たまたま」が重なり、結果として移住という形になったわけですが、とても満足していると話します。
柔和な笑顔が印象的な田嶋元さん
「宮古島の工業高校を出て、東京へ。島は好きでしたが、一度外へ出てみたいと思ったんです。よく、外に出ないとそこの良さが分からないっていうじゃないですか。それで、東京で就職することにしました」
もともと父親が電気工事士で、家の配線を好きにいじっている姿を見て、楽しそうだなと思ったのがきっかけとなり、自身も工業高校で電気工事士の資格を取得しました。卒業後、東京の小さな電気工事会社に就職します。初めての一人暮らし、しかも知り合いもいない東京での仕事、慣れるまで大変だったのではと思いきや...。
「東京をめちゃくちゃ満喫していました。仕事以外の時間は、好きなときに好きなものを食べて、遊んで...、もうやりたい放題(笑)。羽を伸ばしまくっていました。職場もアットホームな雰囲気の会社を選んだので、すぐに溶け込むことができ、寂しいと思うことはなかったですね」
恋人と一緒に北海道へ。初めての雪や「痛い」寒さに驚き
退屈することもなく、何の不満もなかった東京での暮らし。4年ほど経った頃、将来を考えていた恋人が出身地の北海道へ帰ることになり、田嶋さんも一緒に北海道へ。
「出身の宮古島とは正反対の北国。移住にまったく抵抗はなくて、むしろワクワクしていました。東京で雪がチラチラ舞うのは見たことがありましたけど、一面が雪に覆われているのは生で見たことがなかったので楽しみでしたね。土地勘がまったくないので、とりあえず彼女の実家のある恵庭へ引っ越すことにしました」
本格的な北国の雪を見るのを楽しみにしていたという田嶋さん。雪のある暮らしがどのようなものなのかを知るため、まずは一番雪が多くて寒いと言われる2月に札幌を訪れます。
「ちょうどコロナの感染拡大が始まる直前、雪まつりのときでした。一面の雪に驚いたし、感動しました。そして、雪まつり会場で食べた、蒸し牡蠣に感激。沖縄でも東京でも食べたことのないおいしさに驚きましたね。そして、寒さにもびっくりしました。寒いを通り越して、痛いという感覚でした」
冬でも10度以下になることがない宮古島で生まれ育った田嶋さん、氷点下という気温には相当驚いたそうです。
その後、札幌の土木建設の会社に就職を決め、晴れて移住。恵庭は札幌の通勤圏だと聞き、恵庭からの車通勤がスタートします。
「恵庭から札幌までだいたい30キロあるんですけど、最初は30キロ?!と、北海道の人の距離感覚に驚愕。北海道の人にとっては、隣町までの30キロは当たり前なんだなと。今はもう慣れましたけど、北海道は広いとあらためて感じました」
車通勤しながら、縦の信号機が多いことにも驚いたそう。雪が信号機に降り積もらないように縦になっていると聞き、北国ならではだなと感じました。また、雪道運転は意外と平気だったそうですが、雪道を歩くのは苦労したとか。何度も転んだと笑います。
電気の仕事がしたいと転職。北海道の人の温かさを職場で実感
土木の施工管理の仕事をしていた田嶋さん。「やっぱり電気の仕事がしたい」と思い、2年前、現在働いている株式会社フジソーへ転職。
「ご縁があって就職に至ったのですが、とても働きやすい会社です。今は電気施工管理を担当しています。会社の最初の印象は、建設業独特の威圧感がないことでした(笑)。それこそアットホームな雰囲気で、自分には合っているなと思いました。中小だけど、東京の大手並みにデジタルツールを早々と導入していて、新しいことにチャレンジしていく姿勢もいいなと思いました。仕事の回し方に無駄がないのも素晴らしいと思いましたね。事務と現場の温度差がなくて、風通しがよく、気さくな人が多いのもなじみやすくてありがたかったです」
東京で仕事をしていたときは、こんなものだと思っていた現場の環境が、フジソーへ来て、北海道の現場は「温かい」と感じたそうです。
「北海道の人が温かいんでしょうかね。人情味があるというか...。ちょっとその辺りは宮古島の人とも似ている感じがします。東京の現場は割とドライで、職人の人たちも淡々と仕事をこなして、終わったら、はい、さよならという感じ。つながりは薄かったんです。現場が終わったらもう会うことがない人も多かったし。でも、こっちは職人さんたちや、同じ施工管理の横のつながりもすごくあるんですよね」
東京では休憩時間に雑談をすることもなかったそうですが、こちらでは雑談しながらコミュニケーションを深め、互いを知ることで、信頼関係を自然と築いていっていると話します。現場でちょっとしたトラブルがあっても、「いいよ、いいよ」と職人の方が助けてくれたりするのも、普段の関係性があるからこそだと言います。
「たとえば北海道では、冬道で車がはまって動けなくなったりすると、自然と人が集まってみんなで助け合ったりするじゃないですか。そんな空気感が何となく、宮古島に似てるなと思うんです」
給与面に関しても東京時代とさほど変わらないと田嶋さん。家賃の安さなどを考えると、自由に使えるお金は移住してからのほうが多いかもしれないと話します。
働きやすさはもちろん、成長できる環境が整っているのも魅力
電気工事のプロとして、もっと成長したいと考えている田嶋さん。現在は、建物の改修工事などの現場を担当していますが、今後は大きな新築の現場なども挑戦してみたいと意欲的です。
「うちの会社は小さい現場から大きい現場までさまざまな案件があります。会社の雰囲気がいいだけでなく、経験値を広げていくことができ、自分を成長させていける環境があるのは、電気工事士としてもすごく魅力的です」
北海道は暖房機器があったり、断熱材を用いていたり、本州の建物と構造が異なるので、それらも会社に入ってからとても勉強になったと話します。
繁忙期は残業もありますが、有休が取りやすく、オンオフのメリハリをつけて仕事できるのも働く上で重要だと田嶋さん。長期休みの取得も取りやすいよう会社が考えてくれているため、実家のある宮古島へゆっくり帰省できるかもしれないというのもポイントと話します。メリハリがあることで、仕事への取り組み方も変わると言います。
そんな意欲的な田嶋さんに、会社のほうも期待を寄せています。代表取締役の樋口さんは、「彼は会社で一番の若手。会社のスタッフや現場の職人さんたちとも上手にコミュニケーションを取り、一生懸命頑張ってくれています。まだまだ伸びしろがあると思うので期待しています」と話します。
代表取締役の樋口直樹さん
日ごろから、若い世代が先輩に質問しやすいようにと風通しの良い会社作りに注力しているという同社。デジタルツールに関しても、働きやすさや効率アップにつながることなので、早くから導入を進めてきました。
「休みが取りにくい業界といわれていますが、それではいけないと思っています。今後は、一気に働いて、一気に休むという、バカンスのある欧米のような働き方も選択肢の一つにできればと考えています。そのためにはデジタルツールで、皆が情報を共有し、属人化させないことが重要。そうすればまとめて休みも取りやすくなると思っています。田嶋くんのように遠くに実家がある人もゆっくり帰省できますし」
樋口代表は、田嶋さんのような移住組も歓迎と言い、出身地に関わらず、北海道、札幌への移住を考えている優秀な人材であれば、ぜひ来てもらいたいと話します。場合によっては面接も代表自ら各地へ出向き、採用が決まれば引っ越し費用の補助など、移住に関するサポートも行ってくれるそうです。
食べ物も、自然も、人も。まだまだ北海道を楽しみたい
「北海道に来てもう4年になりますが、すっかり生活には慣れました。とにかく北海道は、食べ物がおいしいですよね。沖縄にもおいしいものはたくさんありましたし、東京ではいろいろなものが食べられましたが、北海道はとにかく素材がいい! 魚も野菜もどれもおいしいです」
特にジャガイモが格別だと話す田嶋さん。ほかにも、冬に食べる鍋料理の長ネギ、春に食べるジンギスカンと行者ニンニクの組み合わせなど、四季折々おいしいものがたくさんあると話します。
「すぐ近くに自然があるのも魅力ですね。札幌は都会なのに、ちょっと行くともう緑がいっぱいで。札幌は海も近いから、海釣りやキャンプもすぐに楽しめるのがいいですね。あと、沖縄には紅葉がないのですが、北海道は秋になるとキレイな紅葉が楽しめるのもいいなと思っています」
まだスキーやスノーボードを経験したことがないという田嶋さん。次の冬にはぜひ挑戦してみたいと話します。また、道内各地、まだ行ったことのないところがたくさんあるため、休みのたびにいろいろゆっくり回りたいとも。
「コロナでこれまで会社の人や職人さんたちと飲みに行く回数も限られていましたが、コロナが落ち着いてきているので、皆さんとの交流もさらに深められる機会が増えるかなと楽しみにしています。仕事も、できる分野をどんどん広げていきたいです。また若いスタッフが入ってきたときに、支えてあげられるようになりたいですね」
持っている資格を生かし、移住してからの仕事、プライベートを充実させている田嶋さん。北海道の現場だからこそ学べることもたくさんあると話します。これからもまだまだ北海道生活を満喫したいと締めくくってくれました。
- 株式会社フジソー(旧 フジ総合管理株式会社)
- 住所
札幌市豊平区美園8条3丁目1-10
- 電話
011-824-8677
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