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札幌市

景観の研究から地域づくりの研究へ。寒地土木研究所20230420

景観の研究から地域づくりの研究へ。寒地土木研究所

札幌市豊平区平岸にある寒地土木研究所。こちらから昨年の12月に1通のメールが届きました。

「寒地土木研究所というところで主任研究員を務めている者です。地方小都市を対象に、景観やまちづくりを通じた魅力向上に関する研究に取り組んでいます。その一環で、市町村のまちづくり活動の活性度を把握する調査の一つとして、こうしたWEBマガジンにどのような記事が掲載されているかを自治体ごとに比較しています」という内容。

寒地土木研究所という名前から、おそらく北海道の土木関係の研究をしているところかなと漠然とイメージしてましたが、なぜそちらで地方都市の魅力向上の研究を?そもそも寒地土木研究所って何をしているところなんだろう?

様々な疑問と興味がわいてきましたが、話を聞いた方が早い!早速くらしごと取材班が行ってきました。

景観についての研究を行う地域景観チーム

寒地土木研究所はもともと北海道開発局の付属機関で、北海道開発局土木試験所という名前でした。平成18年に独立行政法人となり、現在の寒地土木研究所になりました。名前の通り、寒地土木技術に関する研究開発や技術指導、成果の普及などを行っています。

kanchidoboku3.jpg寒地土木研究所、地域景観チーム主任研究員の岩田圭佑さん

迎えていただいたのは寒地土木研究所、地域景観チーム主任研究員の岩田圭佑さん。北海道大学修士課程を修了したのちに熊本大学博士課程を修了。北海道にUターンして、平成25年からこちらで勤務されています。
地域景観チームは、公共インフラの観光利活用に関する研究や、美しい景観を創出することによる公共空間の質の向上の研究をしているとのこと。

まずは岩田さんに、寒地土木研究所で景観についての研究がどのように始まったかを伺いました。

「地域景観ユニット(地域景観チームの前身)は、2006年に発足しました。当時は、2003年にシーニックバイウェイ北海道が始まったり、2004年には景観法が制定されるなど、景観をいかして公共事業やまちづくりに取り組もうという機運が高まっていました。その一方で、公共事業の技術を『用(機能・使いやすさ)、強(安全性・耐久性)、美(美しさ・デザイン)』という3本柱で比べると、『美』を高める技術は充分確立されておらず、現場で使える技術を普及していかなければならない、という考えから、景観についての研究が始まりました」

一番最初は道路情報をどのように発信するかという観点と、道路を使って景色をどう見せていくかいう観点を、技術的な裏付けをもって研究していくことから始まったとのこと。


kanchidoboku4.jpgシーニックバイウェイ北海道の整備によって、多くの観光客が北海道の自然や景色を楽しむことができるようになっています

「研究が始まった当初は、現地調査や実験を通じて道路の景観を評価するということをやっていました。実際に道路を走ると電柱があったり、道路標識が乱雑に設置されていたりすることもあります。道路としてのコンセプトを持って、機能が最大限発揮されるように設置するべきだと思うんです。例えば、見た目からすると道路標識は無い方がすっきりしますが、道路の安全性やわかりやすさとしては下がってしまうかもしれません。道路として一番良い姿はどういったものなのかということを、道路標識の付け方一つから研究してきました」

道路標識の立て方や電柱を立てる位置なども、コストや景観について技術的な面から検討しながら、施工の現場に提案しているそうです。そういったものの積み重ねから徐々に、道路の更新工事の際に新しい設置方法が採用されるようになってきたとのこと。

「景観という観点に軸を置きながら、それを良くするための様々な技術的な検討をしているのが地域景観チームなんです」と岩田さんは説明してくれました。

「標識一つにも材質や安全性、コストや耐久性など、考えなければならないことが凄く多いと思うんですが、正直こういった研究って凄く大変じゃないですか?」
思いっきりストレートな質問を岩田さんに投げかけてみました。
「景観ってそういう分野ですね。考えなければならないことは凄く多いです。地域に入っていけば、その地域の歴史や文化も考える必要もあります」
なるほど、一口に景観と言ってもすごく幅が広いんですね。

地域のシンボルになるかも!ラウンドアバウトって知ってますか?

kanchidoboku5.jpg地域景観チーム研究員の増澤諭香さん。令和元年に新卒で入社されました。

続いてお話を伺ったのは研究員の増澤諭香さん。札幌出身で大学時代は新潟大学で吹雪について研究されていたそうです。
「もともと気象学に興味があって、吹雪とか雪崩とか災害関係の研究をしたいと思っていました」

寒地土木研究所には吹雪そのものを研究する雪氷チームというものがありますが、増澤さんが配属されたのは地域景観チーム。

「第一希望は雪氷チームで、地域景観チームは、旅行とかにも興味はあったので何となく第二希望にしてました。景観には全く知識の無い状態で、不安が大きいスタートだったのですが、現在はラウンドアバウトについて研究しています」

ラウンドアバウト?初めて聞く名前が出てきました。ラウンドアバウトとは円形交差点のこと。時計回りの環状の車道(環道)と、中央の車両が通行しない部分(中央島)で構成されています。
一般的に円形の交差点と聞くとロータリーをイメージするかと思いますが、環道に入る車の通行が優先されるものをロータリー(※ローカルルールがある場所も有)、環道内の車の通行が優先されるものをラウンドアバウトと区別するようです。8年前に道路交通法が改正され本格的な設置・運用が始まり、2022年時点で全国に140カ所、北海道では浜頓別町・上ノ国町・北広島市の3カ所に設置されています。

ラウンドアバウトは一方通行なので、直進車と対向から来る右折車との事故が減少します。また信号が必要ないので停電時も使用することができます」と増澤さんは説明します。

信号機を廃したコスト削減と安全性の確保も含めて、災害が激甚化する中で注目されています。一方で運用面での安全性の確保は不可欠。増澤さんはこの課題に対して、中央島にマウンドや植栽などを行った場合の景観だけでなく、運転者の視線挙動や走りやすさについても研究・実験しているとのこと。

増澤さんは更に、「ラウンドアバウトは、中央島の作り方によって、地域のシンボルやランドマークになる可能性があるんです」と教えてくれました。

たしかに注意喚起の看板設置だけでは、安全は担保されるかもしれませんが、景観という観点では魅力がありません。低木を植えたり石畳を配置したり、景観に配慮することで地域に馴染み、他の観光施設などと一緒になって地域に賑わいをもたらす。ラウンドアバウトには、そういった可能性が秘められているようです。

「国内に設置されているラウンドアバウトには、まだ中央島設計の詳細な規定が無いので、研究成果をもとに提案していきたいです」

増澤さんの研究成果により、安全性と景観が両立したより良いラウンドアバウトが生まれる。そして、その地域の魅力の1つになっていく将来もそう遠くないのかも知れません。

研究職と管理職。研究しやすい環境づくりのために

kanchidoboku8.jpg地域景観チーム上席研究員の福島宏文さん

上席研究員で管理職でもある福島宏文さんにも、お話を伺いました。福島さんが寒地土木研究所で勤務を開始したのは平成14年から。当初は景観関係ではなく地盤の研究をされていたとのこと。地盤の研究を13年重ねられた後、茨城県つくば市にある、土木研究所の企画部に勤務。そちらでは研究から少し離れ、組織や研究の評価をするような部署に3年ほど勤められました。また、東京の国土交通省本省にある北海道局での勤務も1年経験。その後札幌に戻り、企画室室長という立場で様々な裏方の仕事をされていました。そして昨年4月から、7年の間をあけて景観チームの研究職に戻られました。

景観には、狭い意味での景観と、広い意味での景観の二つあると、福島さんは語ります。

「狭い意味はそれこそ道路や標識などの景色、広い意味では観光等の地域づくりの視点です。道の駅が点だとしたら、シーニックバイウェイは線。点と線が繋がると面になって、観光にも寄与する。私たちは地域景観チームなので、見た目だけの話ではなく、地域のことも考える。そういった視点があります」

土木事業は公共工事が多いので、どうしてもコストの意識があります。バブル期は、どんどんお金をかけて良いものを作っていくべき、という感覚があったとのこと。福島さんは、コストをかけることが良い景観を作ることではないということを、行政関係の方に伝えてきたそうです。

「皆さんが普段から景観のことを考えていると、少しの工夫で良くなっていくんです。これをもっともっと伝えていきたいですね」

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福島さんの最近の研究テーマも伺ってみました。

「最近では、物事をスムーズに推し進めていくための合意形成をどうしたらよいかを数値モデル化する研究をしています。ただ、研究職に戻ったとは言え、だいぶマネジメントに寄る部分が多くなりました。やはり後進を育てるという意味で、働きやすい環境作りが大切ですね」

地域景観チームが、地域の幸せに貢献する研究を進めることができるようにしていくこと。その環境作りに尽力されている姿が、とても温かく感じられました。

電線の地中化と道の駅の研究

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札幌市内の電線地中化マップも見せていただきました。電線の地中化は、景観の向上と災害時のリスク軽減、視界の確保による交通安全への効果も期待できます。

ただ、電線の地中化は、主に市街地や観光地を中心に進められていて、北海道らしい雄大な景色が広がる農村や自然域ではあまり進んでいません。そこで、専用の掘削機械を導入している海外の事例を参考に、実際の掘削能力を確認する試験を行い、近年現場への普及が進んでいるとのこと。こういった技術革新やコスト低下があることで、郊外での無電柱化も進めやすくなっていく可能性があります。観光地の整備だけでなく、そこに至るアプローチから一体となって景観を考えていくことの重要性を、地域景観チームでは提案しています。

kanchidoboku19.JPG実際の電線地中化工事で行われた専用掘削機械(トレンチャー)の試験施工の様子。北海道開発局と寒地土研が連携して実施しました

更に道の駅の研究についても、模型を見ながら説明していただきました。道の駅は国土交通省が地域振興を目的に30年前に始めた事業で、各自治体が整備・運営しています。トイレや駐車場、休憩所など、基本的な要件をクリアすれば、自治体毎に創意工夫して整備・運営でき、地域振興に繋がっている事例も多くあります。一方で、運営に困っていたり、施設が老朽化しているところがあるのも事実。ですが、そういった道の駅建設の全体をサポートできる人はあまりいません。寒地土木研究所では、建設から運営に関する事まで全体的にバックアップを行っているとのこと。

2つの模型を見比べると、違いがよく分かります。駐車場や建物の設置位置、樹木の植え方、動線の取り方ひとつで印象がガラッと変わります。右側の模型の方が緑に溢れ、建物の前の賑わいもしっかり見ることができるようなつくりになっています。

「この2つの模型は、敷地の面積や駐車場の台数は変わっていないんです。ちょっとした配置の工夫で、立ち寄ってもらうための魅力が生まれたり、賑わいが生まれたりするんです。このように建物をつくるときの工夫も大切ですが、もっと大切なことは、まちづくりとして道の駅を運営する仕組みをつくって、地域を元気にすることなんです。なので、ハード面だけでなく、運営ノウハウも含めて提案しています」と岩田さんは教えてくれました。

景観づくりから地域づくりへ

土木事業の中での景観分野の歴史は、1960年代からの高速道路や河川の護岸整備事業に始まるそうです。1980年代はお金的にも恵まれた時代で、世論的にも景観への意識が高まり、「シビックデザイン」という言葉が生まれました。中には、過剰な装飾や景観への誤解も生まれてきたそうですが、一方で、地域の文化や歴史を守り伝えなければならないという意識や、そこに住む人や社会のニーズに対応した設計手法も生まれてきました。まちづくりも見据えた景観づくりやっていこうという動きです。

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「2004年には景観法が制定されました。地域をどうしていくかという大きな問題意識の中で、景観を考えるようになってきたのではないでしょうか」と岩田さんは語ります。

ただ景観を良くする、綺麗にするだけではなく、その地域にあった景観づくりや地域づくりを、コストも考えながら行っていくこと。地域景観チームはこの大きな課題に、日々取り組んでいます。

私たち取材班は、この度初めてこちらにお邪魔させていただきましたが、寒地土木研究所という名前から想像していたことの、何倍も広い世界を見せていただきました。

岩田さんは、「寒地土木研究所は、道路や橋や港など、暮らしを支える土木施設の整備や運営、維持管理をサポートをするのが主な仕事です。特に北海道では観光や景観という重要なテーマを見据えながらも、細かな基準やルールに目を配ることが大切なんです」と語ります。

普段何気なく見ている看板や道路標識、車窓からの景色には、いろんな思いや意味が含まれているということを知ったような気がしました。

寒地土木研究所では、毎年7月前後に一般公開を行ってます(詳細はHPをご覧下さい)。こちらで日々研究された成果が、私たちの生活の意外と近いところにあったりすることを知る機会になると思います。普段何気なく目にしていたものに、新しい発見があるかも知れません。

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国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所
国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所
住所

北海道札幌市豊平区平岸1条3丁目1番34号

電話

011-841-1111

URL

https://www.ceri.go.jp/


景観の研究から地域づくりの研究へ。寒地土木研究所

この記事は2023年3月16日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。