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このまちのあの企業、あの製品
安平町

「断らない」福祉の歴史を刻む。社会福祉法人 富門華会20230105

「断らない」福祉の歴史を刻む。社会福祉法人 富門華会

安平町には、「富門華(ふもんけ)さん」と町民から親しみを込めて「さん付け」呼ばれる社会福祉法人「富門華会」があります。重度の障がいがある方たちを積極的に受け入れる施設から始まった同会は、現在2つの障がい者支援施設と障がい者グループホーム2カ所のほか、高齢者のケアハウス、デイサービスセンター、グループホームといった高齢者事業も行っています。今回は、早来エリアの「ケアハウス サックル」「デイサービスセンター サックル」へおじゃましました。

デイサービス利用者の最高齢は100歳!

取材チームを迎えてくれたのは、ケアハウス サックル、デイサービスセンター サックルの施設長を務める中田良彦さん。「さあ、どうぞ、どうぞ」と招き入れてくれる中田さん、マスクをしていても笑顔で話しているのが分かります。デイサービスを利用している方たちがくつろぐ広いホールを横切る際も、利用者の方たちにやさしく声をかけながら歩いていくのが印象的です。

fumonke_1B2A4960.JPGやさしい笑顔が印象的な施設長の中田良彦さん

ケアハウスとは、家庭での生活が難しいと考えられる高齢者が低料金で入居し、暮らすことができる福祉施設で、軽費老人ホームの一種。例えば、身体機能の低下により自立生活に不安がある方や軽い認知症の方などが入居しているそう。一方、デイサービスとは、施設には入所せずに自宅で生活しながら、日中通うことができる通所介護サービスのこと。利用者それぞれのできることに応じた機能訓練なども行われます。

「現在、このケアハウスに入っているのは町内をはじめ、近郊出身の方など30人。デイを利用してくださっているのは、町内の高齢者の方たち約70人。デイの利用者さんの平均年齢は85歳くらいかな。100歳の方も2人いて、1人はずっと陸上をやってきた方なのですが、今年大きな陸上大会の『100~104歳クラス』で、砲丸投げと円盤投げで大会記録を出して優勝しています」

デイの利用者の皆さんは、私たちの姿を見ると興味津々の様子。にこやかに挨拶してくださる方や話しかけてくれる方もいて、確かに元気な方が多い印象を受けます。

設立時から受け継がれる「断らない」という方針

1975年に設立された富門華会は、精神薄弱者更生施設からスタート。設立から20年ほど経ったとき、旧早来町から町のデイサービスの運営を委託されたのが高齢者事業のスタートだったそう。その後、施設の統合や町の合併などを経て、現在に至ります。

fumonke_1B2A4855.JPG広々とした施設の中は、ゆったりとした時間が流れています

「僕はもともと障がい者のほうの施設に長い間勤務していました。大学を卒業してから21年いましたね。14年前から高齢者事業のほうに携わるようになり、最初は認知症の方たちのグループホームに勤務していました」

苫小牧出身の中田さんは、高校生のころから安平町在住。大学進学で一度は北見へ移りますが、就職の際に戻ってきました。

「ここで働くようになったきっかけは、母の友人の紹介があったからなのですが、僕は人と接するのが大好きで、特に人のお世話をするのが好きだったんです。ここに就職していなければ、保育士、当時は保父と呼んでいましたが、保父になっていたかもしれません。それくらい人のお世話をするのが好きで(笑)。僕が就職した昭和61年ごろは、今と違って介護や支援の仕事はメジャーではなかった時代。周りからは変わっているねと言われたこともありましたが、僕はこの仕事が自分には天職のように思っていました」

仕事に就いた頃は、右も左も分からず苦労したこともあったそうですが、仕事を辞めたいと思ったことは一度もなかったと中田さん。

fumonke_1B2A4877.JPG職員さんたちは、利用者さんの体調に合わせてさまざまな活動をサポート

「障がいの重い方でも受け入れを『断らない』というのが富門華会のスタイル。それを知ってか、道内各地から最後にうちを頼ってきてくださる方たちもたくさんいます。50年近くその方針でやってきているので、自然と職員たちの間にはそういう想いや理念が浸透していると思います。入居している方、利用している方、一人ひとりとしっかり丁寧に向き合っていくことを大切にしています。それは高齢者事業も同じです」

「また行きたい」と思ってもらえるようなデイサービスに

デイサービスサックルは、一般型と認知症型の両方を運営。ひとつのデイサービスで両方を持っているところは多くはないそうです。1日の受け入れ人数は一般型が20人、認知症型は10人。認知症型は、認知症ケアに特化したプログラムを行っています。中田さんのお話を聞いていると、ケアハウス、デイサービス、ほかにも認知症高齢者グループホームなど、富門華会が町内の高齢者の方たちを丸ごとしっかりケアしているような印象を受けます。

「町内に施設が少ないということもありますが、50年近く町で社会福祉に携わってきているので、皆さんからの信用と信頼で成り立っているという感覚はあります。実はここのデイサービスも町立だと思っている方が実際まだいます」

利用者の方たちに「また行きたい」「通うのが楽しみ」と思ってもらえるようなデイサービスでありたいと考えていると中田さん。プログラムや行事なども楽しんでもらえるよう工夫していますが、デイサービスで提供する給食もできるだけ手作りにするようにしています。

fumonke_1B2A5027.JPG地元の食材を使った旬の食事は、いつもできたて

「業者に頼んでいるところもたくさんありますが、できるだけここで作った温かいものを利用者さんに食べてもらいたいというのが私たちの考え。食事の時間は楽しく、おいしくが大切ですから。安平や近郊は食材も豊富ですし、地元の農家さんから野菜などをいただくこともよくあり、それらも取り入れながら旬が感じられる献立を栄養士が考えています」

取材中もいい香りが給食室から漂っており、食欲をくすぐられました。健康であるためには食べることも重要。食事面からもしっかりサポートされているのだなと感じました。

町の良さを、町に住む大先輩たちから教えてもらう

利用者の方や入居者の方のため、スタッフの皆さんが日々いろいろ工夫されていることはよく分かりました。とはいえ、ほかの町と同様、安平町も高齢者の人数が増え、支える側の人手が足りないという状況なのだそう。中田さんも施設長の仕事の合間を縫って、デイの利用者さんの送迎を行ったりしています。

中田さんが施設長に就任したちょうど2年前、デイサービスセンターサックルに生活相談員として入社したのが介護福祉士の柴田さんです。1年目は恵庭市から通っていたそうですが、今は安平町で暮らしています。

「これまでも介護老人保健施設やサービス付き高齢者住宅などで働いてきましたが、安平町の高齢者の方はとにかく元気な方が多いと思いました。利用者の皆さんは、昔からの繋がりがあるので、外から来た私を受け入れてくれるか心配なところもありましたが、皆さん接しやすい方ばかりでとても親切にしてくれます」

1B2A4985_2.jpg生活相談員・介護福祉士の柴田さん(左)と施設長の中田さん。終始笑顔のお二人

柴田さんは安平のことをほとんど知らず、最初は夜勤がなく恵庭からも通えるという理由で就職を決めたそうですが、利用者の方たちから町のことを教えてもらったりするうちに、安平の町の良さを知ったと言います。

「高速なら恵庭から40分ほどですし、千歳や苫小牧も近くて交通アクセスがすごくいい。それなのに自然がとても豊かで静か。雪も少なめですし、暮らすには悪くないところだなと感じています」

隣で話を聞いていた中田さんが、「ここは新千歳空港からすぐだから、東京への日帰りも札幌から行くよりずっと早いし便利ですよ」と笑います。

柴田さんの仕事である生活相談員は、町内の高齢者の方のところを訪問し、生活状況や身体状態、病気のことなどをまずはヒヤリング。デイサービスの体験に来てもらい、通いたいとなったら契約し、通所のスケジュールを立てていくそうです。柴田さんは、通所されている方たちの介護はもちろん、送迎も行うほか、利用者の家族との連絡や事務仕事も行っており、「1日があっという間です」と話します。利用者の方がお風呂に入るときの介助を行う日もあるそうで、本当にフル稼働している印象です。しかし、常に笑顔の柴田さん、利用者さんへの声掛けからもやさしさがにじみ出ています。

fumonke_1B2A4966.JPG利用者さんに向けるまなざしが柴田さんのお人柄を感じさせます

「私の父親も特別養護老人ホームに入居していて、そこのスタッフの方たちにお世話になっています。自分の親がお世話になっていることを考えると感謝の気持ちでいっぱいに。だから、自分はここで一生懸命利用者さんのお世話をさせてもらっています」

柴田さんの話を聞いていると「恩送り」という言葉を思い出しました。誰かから受けた恩をその人に返すのではなく、別の人に送るという意味。この場所で、やさしさや温かさの循環が起きているのだなと感じました。

社会福祉の仕事は、相手の気持ちが分かる人こそ向いている

「社会福祉とひと言で言っても、高齢者、障がい者、保健福祉、児童や家庭福祉とその領域はさまざま。社会福祉の仕事をしたいけれど、どの分野、領域が合っているか分からないという人が案外多いようです」と中田さん。

富門華会で働いているスタッフの中には、ここで仕事を始めたのをきっかけに自分がどの領域に向いているかが分かったという方もいるそう。歴史があり、法人としての規模も大きく、高齢者と障がい者の施設があるからこそ、働く中で自分に向いている領域に気が付けたということのようです。

1B2A4880.JPG相手の気持ちに寄り添うことが何よりも大切な福祉のお仕事

「どの領域であっても社会福祉に携わる人は、相手の気持ちに寄り添い、気持ちを分かるかどうかが大切。『あなたのことを思って...』という独りよがりのサービスは相手にとって良いものとは限りません。そこをきちんと理解できている人がこの仕事には向いていると思います」と中田さん。そこにはただやさしいだけの施設長ではなく、社会福祉のプロとしての意識の高さがしっかりと感じられました。中田さんや柴田さんと一緒に働ける人は、プロとしてたくさんのことを学べるのだろうなと思いました。

社会福祉法人 富門華会(ふもんけかい) ケアハウス サックルデイサービスセンター サックル
社会福祉法人 富門華会(ふもんけかい)
ケアハウス サックル
デイサービスセンター サックル
住所

〒059-1505 北海道勇払郡安平町早来栄町157-1

電話

0145-22-4646

URL

https://www.fumonkekai.com/


「断らない」福祉の歴史を刻む。社会福祉法人 富門華会

この記事は2022年11月24日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。