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石狩市

高齢者〜子ども「ごちゃまぜ」で優しい心が生まれる場への第一歩。20221226

高齢者〜子ども「ごちゃまぜ」で優しい心が生まれる場への第一歩。

高齢者福祉の事業を運営している石狩市の社会福祉法人「瓔珞会(ようらくかい)」
お年寄りへのきめ細かなケアを行っている「特別養護老人ホームばんなぐろ(以下特養ばんなぐろ)」内に、来年春、児童発達支援・放課後等デイサービスがオープンします。
新しい施設の特徴は、デイサービスのお年寄りと児童が同じフロアで過ごすという「共生型」スタイル。
福祉業界ではかねてより、高齢者と障がいを持つ子どもの同時受け入れは難しいとされてきました。
しかし、スタッフが先駆的な共生型施設が室蘭市にあると聞き、見学・研修を受けたところ「自分たちもやれる!」と確かな手応えを得たそうです。
高齢者と障がいを持つ子どもが共に過ごす空間をつくることで、どのような相乗効果が生まれるのでしょうか...?

特養ばんなぐろの開設時から活躍するベテラン、統括施設長の佐々木 新(しん)さんと施設係長の佐野慎也さんのお二人に、新たな事業へ踏み出したお話しやこれまでのお話しを聞きました。

石狩の高齢者福祉を支えてきた瓔珞会が児童デイをオープン

特養ばんなぐろは石狩市の花川エリア近くにあり、居住者の部屋は完全個室で、建物内にデイサービスセンターとショートステイを併設しています。また、敷地内には地域密着型の特別養護老人ホームほとり、ケアハウスいしかりがあります。
来春にオープンする児童発達支援・放課後等デイサービスは、特養ばんなぐろの高齢者用デイサービスフロアを共用して使い、フロアの一角にある事務室を児童用スペースに改修する予定だそうです。

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「お年寄りは、無条件で子どもが好きなんです」と、統括施設長の佐々木さんは言います。コロナ前には認定こども園の子どもたちとの交流や、スタッフが自分の子どもを職場に連れてきて触れ合うこともありました。

「よく『かわいい、かわいい』と言っていますよね。子どもたちと接することが楽しい、安らぐ、など入居者さんにとっての癒やしになっているので、障がいの有無は関係ないんです」

職員全員で決めた「共生」の理念から、世代を超えた場づくりを

入居者のお年寄りのために、児童デイをつくろうと...?

「そうですね。でも、最初のきっかけは、この1月に社会福祉法人としての『理念』を改めたことでした」

理念、ですか...。少し堅苦しい話になるのかな、と思えば、新しい理念を作ったのは経営側ではなく、スタッフ全員が参加して決めたのだとか!

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佐々木さんは、こう話します。

「今の理事長から、『職員のみんなで瓔珞会の将来を考えてくれませんか?』との提案がありました。そこでまず、短い時間のパートやアルバイトの職員を含めた全ての職員に『仕事で大切にしていること』『これから目指していきたいこと』をふせんに書いてもらったんです。それを集めてKJ法を使い、全部見えるようにバーッと貼って、主任職以上の役職者で話し合いながら、新しい5つの理念をつくり上げました」

その後「自分たちでつくった理念を実現するために、何ができるだろう」と、スタッフたちは考えました。
理念には「入居者さんが自分らしく、笑顔になれる暮らし」「地域のつながりを大切にする」といった内容が書かれています。
コロナ禍で市民ボランティアや園児たち、そして家族との交流さえ制限されてしまっているなかで、入居者のお年寄りのために、そして、石狩の地域にのためにできることは...。
そんな中、ひとりの職員が「高齢者と子どものデイサービスを、一緒にやったらいいんじゃない?」と提案します。その一言が、児童発達支援・放課後等デイサービスに乗り出すきっかけになりました。

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共生・多機能型の施設で研修、得た手応え「このままの自分たちでいいんだ」

しかし、佐々木さんも佐野さんも、障がいを持つ子どもとお年寄りが一緒に過ごすということに、大きな不安があったといいます。

「私たちは高齢者福祉に対してはプロですが、児童福祉や障がい児のことはまったく分からない。『やんちゃな子どもがお年寄りにぶつかって転倒させてしまったらどうしよう』とか、不安なことばかりでした」

とはいっても、悩んでいては前に進むことができません。
まずは、先行事例を調べて自分たちに合った施設を探した結果、高齢者と障がいを持つ子どもの共生型デイサービスを北海道で初めてつくった「おたがいサロン」と多機能型「ゴチャマーゼ中島」を見つけました。
就労支援作業や食堂もあり、地域の人たちも気軽に出入りできるような、誰でもウェルカムの空間づくりを行っている。
瓔珞会のスタッフにとっては、まさに理想とする施設でした。

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そこで、理事長、佐々木さん、佐野さんを含めた6人は「おたがいサロン」と「ゴチャマーゼ中島」を訪問して、実地研修を受けます。
そこで学んだことは、佐々木さんや佐野さんをはじめ、スタッフたちの不安をいっぺんに吹き飛ばすものでした。

「例えば体操の時間でも、参加しないで自由に過ごしている子がいる。やるかどうかは本人次第で、ここでは自由なんです。それを強制してしまうから、発達障がいのお子さんはカーッとなったり、押し付けられるストレスを発散するために大声を出してしまう。うちの施設もお年寄りのやりたい、やりたくないという気持ちを大切にしていますから、『自分たちのやっているままでいいんだな』と安心しました」

bannaguro14.JPGデイサービスではやりたい人が集まって、したいことをする時間も多くあります。

また、新たに気付いたこともありました。

「研修で現場を見ていると、高齢者が子どもと直接関わることって、あまり多くはないんですよね」

それでは、何がお互いにとってのメリットにつながっているのでしょうか。

「子どもの気配を感じるだけで、お年寄りは良かったりする。『ちょっと声が聞こえるな』とか、『少し寂しそうだ』とか、『今日は顔みないなぁ。けど元気な声は聞こえるなぁ』とか。何もしていないようでいて、実は子どもたちを見守っているんです」

一方で、子どもたちのほうも、転倒リスクのあるお年寄りに自分から付き添ったりしてくれるのだとか。
このような、利用者が自然体でいられる共生型の空間づくりのためには、個々の特性を知る職員の存在が不可欠で、一人ひとりにしっかりと目配りをすることが必要なことも学んだのでした。
そして、デイサービスを利用する子どもたちも、この場所での「くらし」を少しずつ重ねていくことで、家庭でもやさしさと落ち着きを見せるようになってくるのだそうです。

bannaguro10.JPG撮影をお願いすると快く引き受けてくれるスタッフさんが沢山居ました

大きな不安から、高齢者と子どもの共生型スペースで生まれる「その人らしい、くらし」への期待。
ほかの職員も次々と室蘭の研修に参加して「私たちでもやれる!」と、児童デイへの自信を高めていきました。

「特別養護老人ホームばんなぐろ」は、どんな施設?

ところで、石狩市で20年近く運営を行ってきた「特別養護老人ホームばんなぐろ」は、どのような施設なのでしょうか。
佐々木さんに聞きました。

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特養ばんなぐろでは、2005年の開設時から、10人ずつの入居者ごとに約半数のスタッフを配置してきめ細かなケアを行う「ユニットケア」方式を採用しています。
当時は、このユニットケアを行う施設は道内でも珍しく、統括施設長の佐々木 新(しん)さんが別の施設から転職してきた理由もそこにありました。

「おむつ交換は何時に行うといった、一律に介護を行うやり方にずっと疑問を持っていました。それがユニットケアでは、入居者さん2人に職員が1人という割合なので、個々のくらしに合わせたケアができます。そこに惹かれて入所しました」

食事はみんなで取るけれども、1日の流れを強制することなく、お年寄りが自分のペースで過ごすことができる。
そのくらしを大切にしたいと語ります。

また、この施設で特徴的なのが、入居者一人ひとりの「やりたいこと・してみたいこと」をスタッフが聞いて、それをかなえるようにしていること。
施設係長の佐野さんに、どんなリクエストがあったのか聞いてみると・・・。

「お寿司が好きならお寿司屋さん、ラーメンならラーメン屋さんに行ったり、外へ行くことが難しければ出前を取ったりと、フレキシブルに対応します。そのほか、家に帰りたい、孫に会いたい、お墓参りに行きたい、温泉に泊まりたいという要望もありましたね」

入居者と家に行って、スタッフも一緒に娘さんの料理を振る舞ってもらったり、「家族と温泉に行きたい」というリクエストでは、運転手、スタッフが同行して定山渓温泉に1泊してきたこともあるとか。
希望をかなえるスタッフは大変なのでは...?そう尋ねると、運営予算の中でリクエストを叶えるための予算があって、もちろんスタッフの金銭面負担はなし、むしろ入居者の喜ぶ顔のために、やりがいを持って取り組んでいると話してくれました。

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お年寄り個人のくらしを大切に、困ったことがあればまずは話し合う

さらに、この施設では、お年寄りが「怒る、悲しむ」といったネガティブな感情を出すことも積極的に捉えています。
「誰でも、普段の生活のなかでは喜怒哀楽がありますから、そういった感情を我慢はしてほしくないんですよね」と佐野さん。
ずっと笑顔でいられるような環境づくりが理想だけれど、それを決めるのはお年寄りであって、良い・悪いの判断は個人によって違う。それを押し付けるようなことはしたくないと語ります。

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しかし、そうは言ってもケアをするためには、ある程度の「押し付け」が必要なときもある。
その時は...「まずは、話し合います」と、生活相談員でもある佐野さんは言います。

「困ったことがあれば、居住者さん本人、またはご家族の方と話し合います。職員の悩みにしてもそうです。まずは話し合って一緒に考える。それでも仕方ないときもありますが、最初からダメとか無理と決めつけるのではなく、お互いに良い解決法を探っていくことが必要だと思っています」

子どもと高齢者が自然体で過ごせる場に、職員の士気はヒートアップ!

地域に根差した社会福祉法人として、まちの将来を見据えながら、誰もが参加できるような共生型、多機能型の福祉施設をつくっていきたい。
その第一歩となる「児童発達支援・放課後等デイサービスばんなぐろ(仮)」のオープンに向けて、新しいスタッフの募集やフロアの改修工事など、着々と準備を進めています。

新卒で特養ばんなぐろの立ち上げに加わった佐野さんは、再び児童デイをゼロから一緒につくり上げていくことにやりがいを感じているといいます。

「新しい理念をみんなで考えたこと、室蘭の研修を受けたことで職員の結束もいっそう強まったように思います。やはり不安はありますけれど、ワクワクする気持ちのほうが強いですね。職員たちは積極的にあれこれとアイデアを考えています」

入居者のお年寄りと、障がいを持つ子どもたちが、それぞれ自分らしく過ごせるスペースづくり。
新しい理念のもと、雪が融け出す時季に始まる高齢者と子どもが共に過ごす空間と時間のデイサービスに向けて、スタッフたちの士気はますます上がっているようです。

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社会福祉法人瓔珞会 (仮称)児童発達支援・放課後等デイサービスセンターばんなぐろ
社会福祉法人瓔珞会 (仮称)児童発達支援・放課後等デイサービスセンターばんなぐろ
住所

北海道石狩市花畔360-26

電話

0133-76-1133

URL

https://yourakukai.or.jp


高齢者〜子ども「ごちゃまぜ」で優しい心が生まれる場への第一歩。

この記事は2022年12月13日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。