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足寄町

社員への愛情が、若者の集まる会社にする。(株)イエツネ林業20221205

社員への愛情が、若者の集まる会社にする。(株)イエツネ林業

北海道十勝地方の北東部に位置する「日本一大きな町」足寄町。全国一の町面積を誇り(なんと香川県とほぼ同じ大きさ!)、その約8割を森林が占める、農林業がさかんな町として知られています。

本日は、この足寄町にある株式会社イエツネ林業を訪ねました。
林業業界の課題のひとつに、林業従事者数の減少と高齢化がありますが、イエツネ林業はここ数年、毎年のように新卒社員が入り、若者の割合が増えているのだそう。さらに今年の春には、北海道立北の森づくり専門学院の第1期卒業生も入社したのだとか。

さっそく、お話を伺っていきましょう。

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地道なPRが未来をつなぐ。

イエツネ林業は昭和34年の創業。
山で育った木をチェーンソーや重機で伐倒し丸太にする「造材」作業をメインに、苗を植えたり草を刈ったりなど、木を育てるための作業である「造林」作業も担っている会社です。
山の現場で働く作業員は現在20名。そのうち60代以上が7名とベテランも多い一方、18歳〜25歳も6名いて、若年層の割合も高くなっています。

「ちょっと前までは60代以上の作業員ばかりだったけど、引退者が出てきました。今は若手にどんどん引き継ぎしていく時期になってきています。今の林業はパソコンで管理する仕事も多く、コミュニケーション能力も必要になりますから、そういった面は若者の方が得意なので任せていますね。この造林現場の現場代理人(現場全体の管理責任者)は25歳で、6年前に採用した社員なんですよ」そう話すのは、株式会社イエツネ林業の代表取締役・家常尚詞さんです。

ietsune_9.JPGこちらが代表取締役・家常尚詞さん

林業担い手の育成と確保の取組みを実施する「十勝地域林業担い手確保推進協議会」の委員でもある家常代表。およそ6年前から、十勝総合振興局や他の林業事業体と連携しながら、担い手確保の取組みに力を入れて取り組んできました。そうして、1年に1人のペースで順調に若者が増えて行ったのだそうです。

「定期的に求人出したり、就業ガイダンスや高校に出かけて行ったりしてPRしてきたおかげかな。そういった活動の中で学校の先生たちとのパイプもできて、うちで働く卒業生の様子を見て推薦してもらえるようにもなった。ひとり卒業生が入ると、その後輩も先輩を頼ってうちに興味をもってくれるようになるしね」

肉体労働のイメージが強い林業は、担い手の確保が難しいという現実があります。それでも、家常代表が対外的なPRをコツコツ続けてきた結果、良い循環の歯車が今こうして回り出しているようです。

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北森カレッジからイエツネ林業へ。

そんなイエツネ林業に、今年も若者が一人入社しました。2020年4月、旭川市に開校した林業・木材産業の大学校「北海道立北の森づくり専門学院」(略称「北森カレッジ」)の第1期卒業生、高本颯佑(そうすけ)さんです。北森カレッジでの2年間で、林業・木材産業の専門的な知識と実践を重ねてきた高本さん。イエツネ林業で働き出して半年以上が過ぎましたが、実際に働いてみてどのようなことを感じていますか?

「入社してから今までは、苗を植えた場所の草刈りをする下刈りや、苗の植え付け作業などの『造林』作業を中心にやってきました。最初のうちは体力的に大変でしたね。最近はだんだん慣れてきたものの、自分はまだまだ作業が遅くて。先輩たちは草を刈るのも苗を植えるのも全てが早くて、まだ全然かないません」

ietsune_7.JPGこちらが高本颯佑(そうすけ)さん

北森カレッジでも、草刈りや植え付けの実習をしてきましたが、やはり本物の現場は、急斜面だったり石などの障害物が多かったりと、ひと味もふた味も違うようです。
「まあ実際は、実習とは違うだろうと想像はしていたので」と高本さん。いずれは先輩たちに追いつきたいと意気込みます。

高本さんは現在21歳。十勝地域の北西部に位置する新得町出身で、隣町・鹿追町の鹿追高校を卒業し、北森カレッジに入学しました。

北森カレッジを知るまでは、「林業を全く知らなかった」という高本さん。林業をやりたいというよりは体を動かす仕事をしたいという思いがあったところ、担任の先生に勧められた北森カレッジへの進学を決めたのだそうです。

ietsune_6.JPGこの日は、足寄の隣、本別町の現場での植え付け作業でした

「林業については、何をするかは全く分かってなかったです。ただ体を動かせる仕事がいいなと、軽い気持ちで決めました(笑)。学んでみて初めて『林業』という職業を知って、仕事内容そのものに驚きを感じましたね。そもそも山って、そのまま放置しておけばいいものだと思い込んでていたんですけど、『林業』という仕事をする人たちがいて、その人たちがちゃんと山を維持していかないと荒れてしまうものなんだと。そこにまず驚きました」

2年間の学びを通して、林業・木材産業の楽しい面も大変な面も知っていきながら、高本さんは「できるかどうかはやってみないと分からないけど、この仕事ならやってみたい」と、そのまま林業への道を選び、イエツネ林業へとやって来ました。

林業のお仕事、やりがいはありますか?と聞くと、「あります!」と笑顔の高本さん。
「『達成感』が自分にとっては仕事のやりがいなんです。たとえば草刈りをして、刈ってすぐは分かりづらいんですけど、しばらく経つと刈った場所と刈ってない場所の違いが、目で見てはっきりと分かるんです。そこで綺麗に刈れていたりすると、『これだけやったぞ!』と、すごく達成感を感じます」と嬉しそうに話してくれました。

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社員への愛情で進化する会社。

北森カレッジでは、実習やインターンなどを通して、学生の頃から多くの林業事業体を知ることができる環境にあります。そんな中で、高本さんがイエツネ林業を就職先に決めた理由は何だったのでしょうか?

「社内の『雰囲気』ですね。北森カレッジ2年生の時のインターンシップで、自分はイエツネ林業に入らせてもらったんですけど、その時に雰囲気がすごくいいなあと感じて。社員の年齢が、若い人とベテランで結構離れているんですけど、分け隔てなくみんな仲がいい感じだったんです。そこがすごく魅力でしたね」

ietsune_17.JPG作業の合間には先輩社員と談笑も

社内みんなが仲がいいという印象は、入社してからも変わらず。
「最初は、体力的についていけるか、人間関係をうまくやっていけるかの2つが心配だったんですけど。今のところはどちらも大丈夫だなって。先輩もすごく丁寧に仕事を教えてくださるので、感謝ですね」と笑顔の高本さん。

若い社員も増えてきたイエツネ林業は3年前、社員のための社宅を足寄町内に建てました。4戸住のその社宅には高本さんも入居中で、「社宅に住んでいる4人とも20代。宅飲みをしたり、外食に行ったり、仕事以外の部分でも会ったりしています」とプライベートも満喫している様子です。

ietsune_20.JPG足寄町の中心部で、生活もしやすい環境にある社宅

一方で家常代表からはこんなお話も。

「若い子はね、心配なのさ。特に高卒で入って来る子はまだ18歳でしょう。まずは生活基盤からしっかりしてもらわないと、心配で。だから即席味噌汁とか果物とかお菓子とか、たまに差し入れ持って社宅を覗きに行くんだけど、部屋がごみだらけだったりしてさ(苦笑)。安全面も、『とにかく怪我だけはするな』と言い聞かせています」

仕事の覚えが早くて助かっている反面、若者たちの生活面と安全面が心配でたまらないそうで、「まるで6人の孫がいるみたい」と困ったように笑います。

しかしこのエピソードからは、会社が社員を思う温かさや愛情深さが感じられて、多くの若い人たちがイエツネ林業で安心して働いている理由を、垣間見たように思いました。職場の居心地はいいですか?という質問に、「すごくいいです!」ときっぱり答えてくれた高本さんの笑顔からも、それは明らかです。

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「『人を育てること』は仕事だから」と語る家常代表。実は家業を継ぐ前は信用金庫の支店長として新入社員を育成していました。その経験を活かして、「社員が働きやすい職場づくりを」という代表の思いは、会社の雰囲気だけでなく制度面にもしっかりと反映されています。

1つ目は、簡単な能力評価を取り入れたこと。社員の能力をきちんと評価して、知識と技術アップに繋げられるよう、今期は何をやりたいか、目指す仕事は何かを、面談して話すのだそう。

2つ目は、働き方改革として週休2日制を月に1回取り入れていること。林業の業界では、悪天候の日は仕事が休みになることもあり、休日は日曜日のみの会社が多くなっています。しかし、イエツネ林業では、月に1回土曜日を休みとしており、近いうちに隔週で週休2日制を取り入れていきたいと考えているそうです。
また、イエツネ林業では、社員が有休を申し出しやすい雰囲気作りに努めていることもあり、有休取得率100%、残業もゼロをキープ。

ietsune_12.JPG現場で若手社員の話を聞く、家常代表

「まず林業の現場は残業がありません。うちは現場代理人が家・職場間を送迎していて、朝は6時に朝礼開始、15時には業務終了。有休も届け書を出せば取得できるようにしているので、みんな遠慮することなく有休を取ってくれていますよ。もちろん、周りに負担をかけないよう、ちゃんと段取りをして休むようにしてもらってはいますが。そのおかげもあって、朝が早く、天候に左右もされる仕事ですが、働きやすいという声も多いです」

緑の雇用事業も積極的に活用しており、希望する社員は集団研修やOJT研修を受けて、どんどんスキルアップを図ってもらうようにしています。このような制度面での努力もあり、イエツネ林業は若者の採用・育成に積極的です。

「なぜ林業に若者が集まらないのか・・・やっぱりこの業界の認知度が低いと思います。だからこそ、もっとアピールをしていかないといけない。この業界でもじわじわと働き方改革は広がってきています。こんなふうに業界全体の足並みが揃っていけば、林業に関心を持ってもらえると思います」

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若者が担う、イエツネ林業のこれから。

「とにかく社員を一人前にすることが私の仕事」と、会社と社員を育ててきた家常代表。来年には代表取締役を引退し、30代の娘婿へと引き継ぐのだそう。

「来春も北森カレッジ第2期卒業生2名が採用内定しています。社長を降りても若い人たちが一人前になるのを見届けてからでないと私は引退できません」と真摯に語りつつ、新入社員の高本さんに「頑張ってくれたまえ」とにやり。

ietsune_24.JPG高本さんへ「おつかれさん」と優しく声をかける家常代表でした

最後に高本さんに、これからの仕事の目標を教えてもらいました。

「まずは仕事をちゃんと覚えて、ちゃんと自分で考えて、一人前になることが一番の目標です。その次は、作業スピードをもっと上げて先輩たちに追いつきたいですね」

冬からは、育った木を伐倒し丸太を生産する「造材」作業も手伝っていくという高本さん。新しい経験を積みながら、知識も技術もレベルアップしてくのでしょう。家常代表と高本さんを見ていると、愛情深く社員を見守る会社の中で、伸び伸びと成長していく若者の縮図を見ているようで、これからの若者たちとイエツネ林業の成長が、とても楽しみになったのでした。

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株式会社イエツネ林業
株式会社イエツネ林業
住所

北海道足寄郡足寄町北3条1丁目21番地

電話

0156-25-2088


社員への愛情が、若者の集まる会社にする。(株)イエツネ林業

この記事は2022年9月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。