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むかわ町のために、働きたい人の受け皿を作る。フラワーヒルズ(株)20220901

この記事は2022年9月1日に公開した情報です。

むかわ町のために、働きたい人の受け皿を作る。フラワーヒルズ(株)

※フラワーヒルズのIT部門は2023年2月、札幌市へと移転しました。以下の記事は2022年の情報です。

むかわ町は胆振地方の東端に位置し、日高地方との境界にある町。秋に旬を迎えるししゃもが有名で、内陸部では稲作をはじめ、トマトやレタス栽培など農業も盛んです。
近年むかわ町内に、発芽玄米の販売とITビジネスという異色の2本柱で事業を展開し、新卒者が続々入社する注目の企業があります。むかわ町への移住者やUターン者が増えることを願い、それぞれの事業を展開する「フラワーヒルズ株式会社」です。どのような会社なのでしょうか?会社を立ち上げた会長・保市勝洋さんの熱い想いと、むかわ町へ移住してグループリーダーを務める高井雄翔さんの日常を探ってみました。

小学校の廃校の知らせを機に創業

フラワーヒルズは、むかわ町花岡地区で2004年に創業し、長年地元産の玄米を使用して発芽玄米の製造・販売を手掛けてきました。2019年にはIT事業もスタートし、社員を続々と採用している成長企業です。なぜ発芽玄米の製造・販売とともにIT事業を手掛けているのでしょうか。

創業者の保市さんはむかわ町出身で、2022年8月時点で御年77歳。高校卒業後に町を出て会社員生活を続けたのち、1991年に退職して東京で会社を設立。東京、大阪、札幌、福岡と拠点を増やし社員数も売上高も順調に伸ばしている中、2004年にむかわ町でフラワーヒルズを立ち上げ、発芽玄米の販売を開始しました。きっかけは、母校の廃校です。

「2004年2月29日に、私の母校である花岡小学校が廃校になるため閉校式があったんです。東京から久しぶりに故郷を訪れると、町の様子がだいぶ変わったなと感じました。町の人が減り、農業者も減るいっぽうで、多くの人たちが悲観的だったのです。昔の仲間と集まって話をしていく中で、『農業と違う形で花岡を盛り上げたい。まずは会社を作ろう』という話が出たのです」

本来会社を設立する際にはどんな事業をするのか決まっているのが普通ですが、この時は明確に決まっていない中で組織を作ることになったそうです。なぜなら、仲間のみなさんが「何かをやろう」「やる」と言ったから。その源泉は、花岡のため、むかわ町のために何かをしたいという気持ちです。

閉校式から1カ月少々、2004年4月12日に早くもフラワーヒルズを立ち上げることになり、保市さんが東京の会社を経営しながらフラワーヒルズの代表に就き、稲田さんら地元の仲間とともに会社を運営し始めます。ちなみにフラワーヒルズという会社名は、花岡の花と岡の英語読みに由来するのだそう。

flowerhills_kaicho-inada_0726.png会長の保市さん(写真左)と、創業メンバーの稲田 早子さん(写真右)は同級生。発芽玄米の原材料となる水田の前で

会社を立ち上げたものの、やることが決まっていないフラワーヒルズ。まずは農業者の声を聞くなど、地元の調査を重ねました。そんな中『白米は農業者自身で売ることができるが、付加価値をつけた発芽玄米を作って売れないだろうか』という話を耳にしました。

「ならば、調べてやってみよう」

早速、広島県福山市にある発芽玄米を研究している組織へ出向き、発芽玄米を生産して販売するノウハウの指導を仰ぎました。学んだ知識と技術をもとに、花岡で事業展開を開始。それ以来、2018年の北海道胆振東部地震で工場が被災し近隣に建て直したものの、18年間変わらず発芽玄米をこの地で生産し、販売し続けています。

むかわ町で働きたい人の受け皿を目指してIT事業をスタート

発芽玄米の販売は順調だったものの、町の人口減少が続いていることには変わりありません。

「発芽玄米だけずっと売っていればいいというものでもないのです。人口は減るいっぽうで、商店街のお店も半年に1軒くらいのペースで閉店しています。若い人たちは進学で町外に出ていくとほとんどむかわ町に戻らないので、中学校の一学年が30名少々いても、そのうちむかわ町で働く人は1人か2人くらいしかいないのです。出身者が戻ってくるくらいのことをやれたらいいと考えていました」

長年、町の過疎化を憂いていた保市さん。2020年に一大決心をします。なんと東京で営んでいた会社を売却のうえ、故郷のむかわへUターンし、フラワーヒルズのIT事業拡大に向けて採用に力を入れ始めました。手掛けているメインサービスは「ERPCloud」という会計や人事、生産、販売、物流など業務に必要な機能を網羅した基幹業務のITシステムです。北海道では他にない技術であり年々需要が高まっているといいます。

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「もともと専門でやってきた仕事をむかわ町でやればいいと思い至りました。本来札幌など人口が多い大都市に拠点を構えればスタッフが集まりやすいのですが、むかわ町で働きたいという人の受け皿となる企業にしたかったのです。
ITの仕事自体は場所を問わず、むかわ町でもできます。特に昨今はテレワークや在宅勤務が一気に広まりました。若い人たちがむかわ町に戻りたい、むかわ町に行きたいと思ってもらえるような会社を作り、会社の発展とともにむかわ町の発展のために寄与できることを目指しています」

会社で一番大事なものはスタッフと言い切る保市さん。クラウドサービスは利益率が高いこともあり、東京で営んでいた会社よりも高待遇の給与体系でスタッフを招き、2022年までに10名以上採用しています。さぞかし知識や経験が豊富なスタッフを全国からヘッドハンティングして集めているのかと思いきや、そうではないようです。

「ITは経験よりも人間力。未経験でじゅうぶんやっていけます。当社のクラウドシステムをしっかり覚えてもらうなど多少なりとも入社後の努力は必要ですが、ITの経験がなくても大丈夫です。新卒でIT未経験で入社したスタッフは何人もいます。かといって若ければいいというわけでもなく、年齢や学歴、国籍に関係なく、その人が持っている能力次第。一番大事なことは、お客様とお話をしてお客様のことを思い、尽くす熱意や意欲、コミュニケーション能力です」

2022年8月現在、社員28名のうち半分以上の方がここ3年以内に入社してIT事業に就いています。むかわ町に移住した人もいれば近隣市町からむかわ町へ通う人、遠方に在住でテレワーク勤務の人もいます。

院卒未経験で入社し、3年目にはグループリーダーに

IT事業ではどんな人が採用され、活躍しているのでしょうか。2020年に入社した高井雄翔さんにお話を伺います。高井さんは苫小牧市出身で、北海道大学大学院を卒業したのち新卒でフラワーヒルズに入社。2年間実家からJRでむかわ町の事業所へ通勤していましたが、2022年に事業所の近くへ引っ越したJターン組です。入社時にIT経験はありませんでしたが、現在ではグループリーダーを務め、後輩の指導をしながらIT事業をけん引する一人です。

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「大学院では生物学を専攻していて植物の遺伝子の研究などをしていました。ITは経験がないものの興味はあったので、フラワーヒルズならどちらも活かせるかなと思い志望しました。出身が近隣の苫小牧市ということもあって、むかわ町の会社に就職することに抵抗はありませんでした」

入社した当初は先輩社員から指導を受けて教えてもらうことが多かったものの、次第に自分のレベルに合わせた仕事を任せてもらい経験を積み重ねてきたそうです。1年でおおよその業務はわかるようになり、3年目で早くもグループリーダーに抜擢されました
高井さんがリーダーに就いた理由は、お客様から評価を受けていたということと、社内で周囲のスタッフに自分の知識をどんどん伝えたり教えたりする姿勢が評価されたためです。つまり、コミュニケーション能力の高さが認められたのですね。また、会社全体で新人教育に力を入れていることもあり、新人が早く育ちやすい環境も大きいようです。

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「基本的なことは1、2カ月で理解できるようになりますし、何人かで同じ案件につくことが多いので、わからないことがあっても先輩社員がサポートできる体制が整っているんです。先輩は教えるスキルを習得していき、後輩は先輩に教えてもらって力をつけていきます。いま私は新人を育成していく立場なので、わからないところを聞きやすい雰囲気づくりを心がけています。『先輩たちが忙しそうで質問したくても声をかけられない』ということはあまりありませんね」

教育体制がしっかりしているうえ、社員の平均年齢が30歳と若いこともあり、黙々と仕事をしつつも話し合いの時は元気がよく賑やかな様子。ゼロからのスタートという方が多いので、未経験でも心地よく競いながらやっていける社内風土です

熱意と意欲のある人がむかわ町にやってくる仕掛け

新人育成に取り組む高井さんに、この先のビジョンや目標についても伺いました。

「私自身はIT業務3年目でまだまだ未熟な部分があるのですが、これから数年間でキャリアを積んで重要なポジションに就いて働けるようになりたいなと思います。また、初めて部下ができたことで、教えるスキルをもっと高めていきたいと感じました。質の高い社員を生み出していけたらと思っています」

flowerhills_takai0640N.png部下にレクチャー。笑い声も聞こえる和気あいあいとした雰囲気

高井さんが2022年にむかわ町へ引っ越した理由も、新人指導のためだといいます。JRを利用した通勤だと列車本数が少なく、指導の途中でも列車の時間に合わせて切り上げることがありましたが、いまは職場まで自転車で通えるので、時間制約がなく働けるようになりました。自動車で通勤すればよいのではと思いきや、高井さんは車を持たずに生活しているそうです。

「クルマを持たないの?とまわりからけっこう言われます。でも、職場もスーパーも家からすぐですし、自転車で行ける範囲で事足りるので車がなくても生活に不便は感じません。どこか行くにしても本数こそ少ないものの電車で出かけられますし、休日はロードバイクに乗って隣町などに走りに行くこともあります。このあたりは比較的平坦でアップダウンが少ないので走りやすいんです」

flowerhills_takai_roadbike0687.png通勤も、休日のおでかけも、このロードバイクが相棒です

むかわ町への通勤生活からむかわ町民としての生活に変わった高井さん。仕事も生活ぶりも快調なようです。これぞまさに、保市さんが願っていたむかわ町への移住者増の実現であり、18年前に花岡小学校の閉校式で語り合ったみなさんの願いにも通じます。

保市さんはこう語ります。

「フラワーヒルズで働き、むかわ町に住んでもらえれば嬉しいのですが、別に札幌でも東京でもかまいません。月に数回むかわ町の事業所で勤務して、あとは在宅でも。むかわ町にこういう会社があるということが広まればと願いますし、少なくともむかわ町在住や出身の人たちがフラワーヒルズに入りたいと思ってもらえるようにしていきたいですね」

フラワーヒルズには、勤務形態は違っても、むかわ町の発展を願う人たちと、相手を想う熱意や意欲を見出された人たちが集います。これからもIT事業のさらなる拡大とともに、発芽玄米事業についてもSNSを活かした拡販などに取り組んでいくとのこと。むかわ町はししゃもの町であるとともに、ITの町と言われる日がそう遠くないのかもしれません。

フラワーヒルズ株式会社
フラワーヒルズ株式会社
住所

北海道勇払郡むかわ町花岡508-1 ※IT部門は2023年2月に札幌へ移転

電話

0145-47-3768

URL

https://www.fh-flowerhills.jp/


むかわ町のために、働きたい人の受け皿を作る。フラワーヒルズ(株)

この記事は2022年8月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。