HOME>このまちのあの企業、あの製品>仕事相手は子豚、でも働き方はサラリーマン?!北海道中央牧場

このまちのあの企業、あの製品
えりも町

仕事相手は子豚、でも働き方はサラリーマン?!北海道中央牧場20220707

仕事相手は子豚、でも働き方はサラリーマン?!北海道中央牧場

皆さん豚肉はお好きですか?とんかつ、ポークカレー、豚汁、豚丼。食卓のお供にいつもある豚肉。実は北海道は日本の中でも鹿児島県、宮崎県に次いで生産量が第3位。
暑さに弱い豚を飼育するのには恵まれた環境である、と北海道が注目されているのです。

そんな養豚に適した北海道赤井川村で、2010年から農場を開業し、その後も千歳市、羽幌町農場を増やし、2019年8月にはえりも町にも開業したのが「株式会社北海道中央牧場」です。
(養豚場を農場と呼ぶと、初めての方は違和感があるかもしれませんが業界では農場と呼ぶのです)

chuobokujyo2.JPG

養豚の仕事、と聞くと、生き物を相手にする仕事だし、なんとなぁく世の中のイメージは「キツくて」「汚くて」「危険?」なんて思われているのではないのでしょうか。大変そうだし、休みもなさそうなのでは?と。
取材陣もそう思いながらえりも農場へと車走らせ、実は身構えつつも行ってみると...びっくり。かなりの最先端の技術が駆使されており、勤務時間も17時上がり、月8から9日休みは当たり前。男性も含めた産休育休も形だけのお飾り制度ではなくきちんと整っていて今まさに取得中の方もいる、そして重労働もほとんどない!など、びっくりの現場だったのです。
生き物を扱う業種のなかでもピカイチの待遇なのでは?!

そんな豚にも、働く人にも優しい環境の理由は、そこにやっぱり人の想いがあったのでした。

えりも町で新しくスタートしたワケ

「食の安全」
飲食を扱う企業でこれを意識していないところはもうほとんどありません。もちろん消費者の意識はとても高まっています。
この「食の安全」のために我々くらしごと編集部も徹底した衛生管理の中、マニュアルに沿って中に進みます。敷地に入る為の車の消毒まで。

その厳重な衛生管理を行われている建物の事務所でお話を聞かせてくれたのは、
農場長の塚野典史(つかの つねふみ)さん。そして2020年4月に入社した荒川卓巳(あらかわ たくみ)さんです。

chuobokujyo3.JPG左が農場長の塚野さん、右が荒川さんです。

まずはやはり一番気になるポイント。なぜ「えりも町」に農場をつくったのか。

「新しい農場を建てる時に、もちろん色々な候補地を探していたのですが、えりも町から熱心にお声をかけて下さって、土地も探して見付けてきてくれたんです」と話すのは開業当時からいる塚野さん。実は飼料会社に務めており、経営者としてのすごい経歴も。定年退職後は仕事をせずのんびりすごそう、と考えていたところに昔の先輩に声をかけられて、このえりも町に引っ張られてきたのだと笑います。

えりも町は、昆布で有名な漁業のさかんな漁師町。大きな農場を建てるとなると地元の住民の方は良い顔をしなかったのでは。なんて勝手な想像をしてしまいがちでストレートに聞いてみると
「それが、逆だったんです。えりも町は風が強く、昔は山がはげ上がり、そのはげ上がった山から舞い上がった砂が町や海にふりそそぐ『えりも砂漠』なんて言われた時代があったんですよ。そしてまちの基幹産業である漁業に大打撃を与えました。なんとか元の豊かな海と山を取り戻すべく、長い時間かけてまちの人たちや漁師さん一丸となって緑化した歴史があります」

chuobokujyo22.JPG

えりも町は漁業の中でもコンブ漁が盛んで、良質なコンブで育つウニなどが獲れる磯周りの漁師たちも深刻なダメージを受けたのだと言います。
綺麗な山は綺麗な海に繋がることを身をもって知っているまちの人たちは、養豚場ができることで出る堆肥が良い土壌に繋がる、ということでウェルカムだったと塚野さんが微笑みます。

「この農場を建てたことで、えりもに雇用を生み出すことも出来ましたし、地元のえりも高校からの採用もしています。えりも町というまちで開業したことで大変だったことはあまりないかもしれないですね」

頭で考え、臨機応変に対応する仕事の面白さ

えりも町という人口約4,300人ほど(2022年5月現在)のまちで順調に地元の若い人たちの採用も行いながら操業している北海道中央牧場のえりも農場。
現在スタッフ18名(うちモンゴルの実習生が2名)で親豚約2,300頭、子豚は哺乳中が約5,000頭、離乳子豚が約10,000頭の計約15,000頭を育てるという大きな農場をまわしています。

chuobokujyo16.JPG

そして生き物相手でのお仕事ですから24時間張り付いて交代制でみているのかと思いきや「社員はほとんどみんな17:00には帰っていますね」と笑顔が返ってきたのです。
え〜〜!!とびっくりな取材陣。
なんとほとんどオートメーションで管理しているのだと言います。最先端!
餌や糞尿の掃除なども全て機械が担います。
ビックリしている取材陣にさらに農場長が追い打ちをかけます。
「休日もしっかり月30日の日は8日(休み)、月31日の日は9日(休み)、2月は28日しかないから7日(休み)だけだけどね」とさも当たり前かのように仰います。

ますますその働き方にも興味が湧いてきた取材陣。
では実際に働いているスタッフさんにも実際のぶっちゃけたお話を聞かないと!と荒川卓巳(たくみ)さんにインタビューの矛先を変えてみました。

chuobokujyo4.JPG

荒川さんは札幌市清田区出身。千歳科学技術大学に進学し、大学院まで進みました。
就職を考えたときに食品に携わりたいという思いがあり、北海道中央牧場の募集を見付けたのだと言います。

「バイオマテリアル学科という学科で学んだのですが、研究に向いてないなと思って(笑)。製造現場で働きたいなと思って全く違う会社を受けたんです」

まったく食品製造とは違う勉強をしていたという荒川さん。なんでまた製造をしたいと思ったのでしょう。

「製造は単調なイメージがあるかもしれないですが、中枢に関われるようになれば、その製造現場で働く良さを、もっと多くの人にも伝えられるようになるかもしれないと考えて決めました」と力強く答えます。

chuobokujyo10.JPG

実際に働き始めるとチームで動くことが多く、大学でサークル活動を楽しんでいた荒川さんは、人と考えながら進める今の仕事が楽しいと目を輝かせます。
そして他の食品製造工場とは違い、生き物を扱うこの農場をあえて選んだ理由を聞くと...?
「生き物を扱うことで、絶対に単調なだけではないだろうな、と思ったんです。生き物が好きでしたし、応用を利かせながら頭で考えていく仕事に就きたかったんです」

今荒川さんは働き始めて3年目。
そして今まさにイレギュラーな事態が起こる可能性がある「分娩舎」で勤務しています。

「分娩舎は、妊娠した豚があと2〜3日で生まれるって状態の豚がいる部門です。生まれてくるところを助けたり、そして生まれた豚はある程度大きくして子豚舎にいくまで面倒を見るセクションにいます」
まさに就職するときに望んでいたようなセクションにいった荒川さん。
初めて分娩シーンに立ち会ったときはドラマのような感動はなかったと言います。
「でも、沢山経験を経ていくうちに、例えば手伝わなかったら窒息してしまった子豚を助けられたり、そういう経験を積んだ方が自分に対処ができるようになってからは『良かったな』と感動することもありますね」

chuobokujyo14.JPG

豚の分娩舎では牛や馬とは違い、一頭のお母さん豚から多数の子豚が生まれ、さらには頻繁に分娩が起きているのだと言います。

「生き物相手なのでセオリー通りにいかないこともある。覚えたこととは違うなにかが起きることもある。ペットじゃないので命を割り切らなきゃいけない感情もあって大変なこともある。動物が可愛い!ってだけだと難しい面も確かにあるかもしれないですね。でもそれ以上に面白い、と僕は思います」

3年という経験を経てさらにその面白さを感じているという荒川さん。
親豚から生まれる子豚はえりも農場の平均だとだいたい平均16.5頭ほど。この子豚を大きくして、34〜35キロ近くの大きさになったら音更や平取などのグループ会社の農場へ出荷し、肉豚を新冠に出荷しています。

なぜそのような段階を踏むのでしょうか?
「万が一のことを考えて、例えば病気になってしまった場合、最悪その農場を閉鎖しなければなりません。同じ農場でも豚舎を仕分けしています。全て同舎で生育してしまうと大ダメージですが、いくつかの農場でわけることでリスクを分散させているんです」

chuobokujyo17.JPG

こういった手法は日本SPF豚協会でも推奨され、豚の慢性疾病を排除し健康な豚の飼育を行っています。
豚の健康管理もしっかりと行い、社員への働きやすい就業体制管理もしっかりと行う。それが北海道中央牧場えりも農場なのですね。

他のスタッフはどんな方が多いのかと聞くと「女性が多いですね」と荒川さんが答えます。

「産休をとって戻ってくるスタッフも多く、そして男性でも産休を取得している人もいるんです。女性も男性も関係なく長く働けるような環境を作っています」と塚野さんも付け加えます。

スタッフが安心して長く働ける環境を整えるのは今やもう企業にとっては当たり前のことかも知れません。それでも北海道の広い大地の片隅で、地域に根ざして地域の雇用を支えるために働くスタッフを守りつづけている企業があるのは、えりも町にとっても大きな財産となるでしょう。

chuobokujyo13.JPG

そんなえりも農場で働く荒川さんに、今後の夢を聞いてみました。
「当たり前ですけど、入社したときよりは成長していると思います。でも全然まだ半人前。もっともっと他の部署を経験して、しっかりとこの会社で全体把握ができるようになりたいです。それに、もう3年目なので後輩や同僚からも『荒川君がいたらいいよね』って言われるようになりたい。それが今の夢ですね」

頼もしい荒川さんのコメントに頬を緩める塚野さんにも、同じ質問をしてみます。

「今はまだ農場を大きくしている途中で、これから豚の頭数を増やすのも経営者としての手腕でもあるのですが、人材を育てていくのが経営者としてのミッションだと思っています。今はスタッフがギリギリなのでなんとか人を増やして、勉強会をやったり育てていけるような環境を作っていきたいと思っています」

塚野さんも荒川さんも、えりも町の暮らしはとても気に入っているそう。休日には都市部に行けるし、ネットでなんでも買えるし不便はないと言います。雪が少ないのも、北海道外から移住してこようと考えている方にはいいエリアであることも教えてくれました。
えりも町のマチナカに住み農場までは車で通っている、という働き方のスタッフが多いようで、住まいについても色々と選択肢があるとのこと。強い風の吹きすさぶこのえりも町で、人材育成の風を吹かせている北海道中央牧場は、地元の方々だけでなく、UIターンを考えている方にもチェックして貰いたい農場でした。

株式会社北海道中央牧場 えりも農場
株式会社北海道中央牧場 えりも農場
住所

北海道幌泉郡えりも町字大和810番地

URL

https://hokkaido-chuobokujo.com/


仕事相手は子豚、でも働き方はサラリーマン?!北海道中央牧場

この記事は2022年4月11日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。