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室蘭市

金型部品の多様な経験を礎に航空宇宙産業へ。株式会社キメラ20220317

この記事は2022年3月17日に公開した情報です。

金型部品の多様な経験を礎に航空宇宙産業へ。株式会社キメラ

北海道のものづくり企業の中で、ここ数年、航空宇宙産業への参入を目指す企業が増え、新たな企業連合ができるなど盛り上がりを見せています。その中で必ずと言っていいほど名前が挙がるのが、航空宇宙分野の品質管理マネジメントシステムISO9100を道内中小企業では初めて取得した株式会社キメラです。
鉄鋼のまち・室蘭市で1988年に創業し、「室蘭から世界へ情報発信」をテーマにミクロン単位の高精度の金型部品を製造しています。今後は航空機産業、ロケット産業への参入で世界へ羽ばたこうとしています。

微細加工の技術をベースに

精度の高さや徹底した品質管理基準が求められる航空宇宙産業に参入できるのは、製造業者の中でも限られた企業です。高精度の金型部品を得意とする株式会社キメラは、ミクロン単位の加工技術を持っているのが強みで、設計から製作、量産までの一貫生産が可能です。3次元CADを業界に先駆けて導入、事前に加工イメージを把握し、顧客と共有すると共に、作業効率化を図ってきました。微細加工を必要とする自動車を始め、医療、半導体、カメラ、美容など幅広い分野の金型部品を受注・製作し、品質、納期、コスト面でも高い評価を得ています。

chimera_4.JPG実際に見せていただいた3次元CADでの加工イメージ

2018年に航空機分野に参入したい企業や室蘭工業大学などが集まり開催された「室蘭市航空機産業フォーラム」を皮切りに、キメラの航空宇宙分野への挑戦が始まりました。航空宇宙分野の部品製作に参入するには、国際的な品質管理基準を持っていることを示すISO9100を取得することが実質的に必須となります。そこで、同社でも航空宇宙事業部を発足し、2019年6月から1年間のスケジュールで、ISO9100取得に向けて動き出しました。航空宇宙事業部ゼネラルマネージャーの赤塚良和さんは、取得の過程をこう振り返ります。

「当社ではISO9001を早い段階で取得し、独自の品質管理体制・品質基準を持っていますが、9100はさらに細かく厳しい基準になります。事業計画や管理体制、実施内容の構築など一つ一つ積み上げていかなければならず、最初は思っていた以上に厳しい指摘も受け、本当に大変でした。取り組みの中で、会社を客観的に分析するSWOT分析も行いました。当社の強みはミクロン加工を得意とするところ、小ロットから可能で一貫生産できること、モデリングを3次元化し加工に転用していること。弱みは航空分野の経験がないため知識が足りないことなど、さまざまな課題が浮き彫りになりました」

chimera_13.JPGこちらが航空宇宙事業部ゼネラルマネージャーの赤塚良和さん

社内体制を強化し新分野へ

赤塚さん自身は室蘭市出身で、室蘭工業大学を卒業し2002年に入社。その当時にちょうど開始されていた3次元モデルの導入に取り組み、その後はマシニングプログラムや加工管理を経験し、現在の航空宇宙事業部のリーダーに抜擢されました。

「もともと、いろいろなものが作りたくてキメラに入社しました。実際に多種多様な業界の部品製作ができる楽しさが原動力になっています。開発は何度も失敗を繰り返すこともあり苦難の道でもありますが、航空宇宙産業に携われることはうれしく思います」

chimera_15.JPGこの日の取材は本社と同じく室蘭市内にある第二工場にお邪魔いたしました

2020年6月に無事ISO9100を取得しましたが、世の中はコロナ禍で航空機業界は厳しい状況に。そんな中、キメラではSWOT分析でも上がっていた航空分野の知識を強化するため、外部コンサルの力を借り「航空エンジンものづくり力育成」の2年間のプロジェクトを開始しました。5つのものづくりの課題が与えられ、一つの仕事の各工程に対し、誰が見てもわかる作業指示書を作成するというものです。航空機の場合は何かトラブルが起こった際にトレーサビリティーが必要となるため、メーカーから受注するにはこのような体制が必須となります。

「正直、ISO9100を取得する時と同じくらい大変です。同じ部署の人や社員同士なら細かい説明を加えなくてもわかるものでも、航空分野はそれではダメ。完全な第三者、素人に近い人にも伝わるようにしないといけません。それでも勉強になりますし、コロナが収束して航空業界が復調するころには当社の準備が整い、参入できれば勝機があると考え、社員みんなで頑張っています」

chimera_14.JPG赤塚さんのご両親は室蘭でも有数の工業系企業で働いていたこともあり、小さな頃からものづくりは身近な存在でした

難しい部品製造でロケットも地産地消

一方、宇宙業界の部品製造はすでにスタートしています。大樹町でロケット打ち上げを行っているインターステラテクノロジズ株式会社(インターステラ)は、ロケットの部品を道外に発注していましたが、北海道で製造できるならぜひ地産地消でと、キメラと室蘭工業大学を交え三者で、ロケットのエンジンに燃料を供給するためのインデューサを共同開発することになりました。

キメラは設計図をもとに加工を担当していますが、複雑なねじれや曲線が数値化されたものを具現化する非常に難易度が高い加工です。キメラはこれをマシニング加工機で立体的に型を作って一貫生産し、量産もできるため、インターステラからは他の複雑な部品の依頼も来るなど頼りにされる存在になっています。

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インターステラのロケット開発に出資しているホリエモンこと堀江貴文さんも、キメラに来社し、「これから大樹町に発射場を増やし、どんどんロケットを打ち上げるので、インデューサもたくさん必要になる」と言われたとか。キメラの社員が、堀江さんのYouTubeにも出演しました。

地域の企業とのネットワークも強化しているところです。「室蘭航空宇宙産業ネットワーク(MAS-NET)」では代表を務め、道内で航空分野への参入を目指す企業連合「札幌エアークラフトサプライヤークラブ(SACSUC)」にも参加。北海道に航空産業の風を吹かせることで、地域活性化を図ろうとしています。
これから電気自動車化が進むと、これまでに作られていた部品は減っていくことが予想されます。それに代わるものとして、航空宇宙分野には大きく期待を寄せています。

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積極的に挑戦する社風

コストをかけながらもこのような新分野にチャレンジできた理由は、キメラの社風にあるといいます。「藤井徹也社長以下、キメラは挑戦のかたまりです。これまでもさまざまな業種や形状、材質にと向き合い、その都度技術を磨き、知識を得て、そのノウハウを次のものに活かしてきました。その経験がベースとなり、航空宇宙産業にも挑戦できたのだと思います」と赤塚さん。

キメラの舵を取る藤井徹也社長は、35歳からアルバイトで入社し、営業部長、工場長を経て2011年に前社長から会社を受け継いだという異色のキャリア。「機械は買えるけれど、人は買えない」を合言葉に、人材育成に力を入れてきた藤井社長が、妥協せずに高みを求めてきたこと、挑戦する姿勢が会社の土台となっています。

chimera_11.JPG挑戦をつづけるキメラ。「社内には負けず嫌いの人が多いかも」と赤塚さんはいいます

社員も、ものづくりが好きな仲間がそろっていると赤塚さんはいいます。

「加工に熱中し、うまくいったら純粋に喜ぶような人ばかりですね。ISO9100の取得の際も、『絶対に落ちられない』というプレッシャーを背負い、みんなが同じ気持ちで取り組めました。そんな良い仲間がいるからこそ、実現できた時は安心しましたね」

赤塚さんが入社したころは社員の平均年齢は29歳くらいでしたが、「みんな辞めないで続けているので」、経験を積むと共に平均年齢は上がり、現在37歳くらいになっているとか。

chimera_10.JPG業界でも高い評価のキメラの加工技術力

今後は、今のメンバーが持っている技術を若い人に引き継いでいくのが課題。

「昔のように、やって見せるから覚えろ、では通用しなくなってきました。OJTも動画を撮っていつでも見られるようにし、先輩がそれを使って教えるなど工夫し、徐々に若手も育ってきています」

顧客の求めに応じて満足できる結果を出し、また難しいことにも果敢に挑戦してきたからこそ上ることができた航空宇宙産業というステージ。その土台には、一人一人のものづくりへの情熱と、仲間の絆がありました。

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株式会社キメラ
株式会社キメラ
住所

北海道室蘭市香川町24番地16

電話

0143-55-5293

URL

http://www.chimera.co.jp/


金型部品の多様な経験を礎に航空宇宙産業へ。株式会社キメラ

この記事は2021年10月7日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。