北海道陸別町。北海道の中でも...いえ、日本の中で最も寒いことで有名なまちです。
11月の半ば、すでに寒さが体中に染み渡ってくる頃合いに、私たちくらしごと編集部はこのまちにある佐々木林業さんという会社にお邪魔しました。取材日を迎えるまで降り続いていた連日の雨も止み、陸別町に入ると、美しい青空が広がっていました。
造林から、チップの生産まで手広く行う会社
広大な土地を持つ佐々木林業さんは、主に造林・造材・木材チップ製造を行っている会社です。
「造林」は、その名のごとく、木の苗を植え、森をつくるお仕事。そして、時期が来た時にその木を伐倒し、必要とされる長さに切って木材にすることを「造材」といいます。 チップ製造は、丸太だった木を細かくし、それが主にパルプの原料となります。
パルプとは、紙をつくるための原料。
木材チップや古紙などから繊維を取りだし、パルプを製造しています。 佐々木林業の敷地内にも、溢れんばかりのチップが目に入ってきました。
こちらがチップです。
夏場は主に山での現場仕事がメインですが、11月頃から冬にかけては「造材」がメインとなり、チェーンソーを使う作業が多いとのこと。
佐々木林業きっての若手、加藤くんが軽々しく持ち上げて見せてくれたこのチェーンソーですが、これは刃先部分を除いた本体だけでも6.1キロ相当もするそうです。
そんな加藤くんには、記事の後半にたくさん語っていただきます!
ひょいと持ち上げて私たちに見せてくれました。
佐々木林業の歴史
社員は現在26名。ここ最近加藤くんのような、若手社員の入社も増えてきています。
そんな佐々木林業の歴史は昭和39年スタート。2021年で57年目を迎えました。 ここは、現社長である佐々木勇一さんのおじいさまが創業した会社です。
もともとは北海道別海町という、北海道の右端に位置する酪農業が盛んなまちで創業されたそうですが、より木が多いエリアを探して陸別町に拠点を移したといいます。 この陸別町というまちは、多くの木があるだけではなく、流通も良く、林業に適したまちでした。
こちらが3代目社長の佐々木さんです。
また、この会社のひとつの特徴として挙げられるのが先にもお伝えした通り、チップ生産です。紙の原料となるチップですが、インターネットが普及している今、今後紙の需要自体がなくなってしまう恐れがあるのでは...?そんな疑問を直球でぶつけてみた取材陣。
「うちのチップは、広葉樹を使っています。広葉樹から出来た紙は、高品質な紙になるんです。それもあって、まだまだ需要もあり、注文も増えているんですよ」
なるほど。さらに、今ではチップを扱う会社も減ってきたそうで、より佐々木林業への需要が増えるわけですが、その分人手がもっと欲しい...という歯がゆい部分でもあります。
チップをつくる大きな工場では、4名のスタッフが働いていました。一見、こんな大量のチップをたった4名で生産できるの?とも思いましたが、それは機械化が進んでいるからこそ。
もちろんチップだけではなく、製材としても出荷していますが、製材に向かない木材をチップにすることによって、一切の無駄を出さないのが佐々木林業の魅力のひとつ。
ここは佐々木さんにとっての家業であれど、この会社に入ったのは10年程前とのことです。それまで別の会社で土木関係のお仕事に就いていたそう。
この会社を継ごうと思ったのは、おじいさまの後の後継者だった佐々木さんの叔父さまに跡継ぎがいなかったことにより声がかかり、継ぐことを決意したと当時の想いを話してくださいました。
近年若者の入社もありますが、佐々木さんがこの会社に入った10年前と比べ、スタッフの数は減っています。これは、この会社に限った話ではなく、林業業界全体の課題でもあります。若者のなり手を増やすべく、佐々木さんは陸別町を出て、近隣の帯広農業高校をはじめ、いくつかの高校にも積極的に訪れては、会社説明を行っているようです。
こうして別のまちから陸別町に来た人のためにと、単身者用の寮も整備しました。働き手のことを考え、そして同時になり手を増やすべく、佐々木さんも奮闘中です。
現在の会社の年齢層は、20代か、50代以上かとはっきり年齢が分かれており、中間層がいない状態。だからこそ心配になるのは、社員同士のコミュニケーションですが、佐々木さんはこれに対し「年の差を埋めるようなコミュニケーションが取れている」と話します。親子程年齢が離れていると、先輩たちも後輩たちを我が子のように可愛がれるのかもしれませんね。
自然好きが高じて林業の世界へ
さあお待たせしました。冒頭でちょっとだけ登場してくれていた、加藤くん。歴史好きのお父さまにより、かの歴史上の人物「諸葛孔明」から名付けられた、加藤孔明くん、20歳。天真爛漫な笑顔と、楽しそうに話してくれる姿がとっても印象的だった加藤くんは、高校を卒業後、2019年に佐々木林業へと入社しました。
改めまして、こちらが加藤くんです!
陸別町から車で1時間半のところにある帯広市で生まれ育った加藤くんは、小さい頃から森の中で遊ぶのが大好きでした。自然との触れ合いが大好きで、高校は帯広農業高校の森林科学科に進学。
ここで林業のイロハを学びます。
「自分の進みたい道は自分で決めなさい」というご両親の教えのもと、林業の世界で活躍したいという夢を抱くようになった加藤くんは、その道に進むべく進路を考えます。
佐々木林業と出会ったのは、高校2年生の時。 学校が主催した、学内説明会でした。そこに来ていた佐々木林業の社長と出会い、話を聞いて、心動かされたそう。
もともと「まちなか」よりは「田舎」で生活がしたいと思っていた加藤くんにとって、陸別というまちは理想に近いものがありました。その後、実際に会社見学に行き、造林の現場へ実際に連れて行ってもらうと、社長直々に色々な作業を教えてもらったと言います。
その時の社長の優しさも入社の決め手のひとつ。加藤くんは、そのまま佐々木林業への入社が決まりました。
「最初は、就職することへの不安よりもちゃんと一人でごはんを食べれるかなぁ...という一人暮らしの心配が大きかったですね」と、場を和ませる加藤くんです。
「緑の雇用」でスキルを習得
高校卒業後、すぐに佐々木林業でのお仕事がスタート!...ではなく、緑の雇用という制度により、年間30日程度の座学と実習を3年間行います。
緑の雇用とは、国の事業であり、林業に必要な技能を学んでもらうためにキャリアアップを支援する制度のことです
加藤くんはここで、林業に就くために必要なスキルを身につけました。ここには、同年代の人もいれば、30代、50代とみな年齢もバラバラ。これまでの経歴が全く違う人たちと一緒に机を並べての学びは、高校時代とはまた違う楽しさも。友だちも出来、楽しかったと当時のことを振り返ります。
緑の雇用もあと1年残っていますが、本格的に佐々木林業の一員としての仕事が始まりました。加藤くんは当時のことを思い出して、少し真剣な表情でこう言います。
「実際の現場に入ってみて、特別ギャップを感じた部分はなかったんですが、想像以上にハードだなと思いました。特に今年の夏は暑くて暑くて...」
2021年夏、北海道に猛暑が襲いました。
この暑さでは作業効率も悪くなるだけでなく、命の危険もあるため、ある秘策(?)を決行。佐々木林業では、会社に集合してからみんなでひとつの車に乗って現場へと向かいます。そこで、真夏は集合時間を深夜に!まだ空が暗い中現場へと向かい、暑さがピークとなるお昼前には仕事を終えて会社に帰宅するという作戦でした。
おかげで暑さ問題はなんとか回避できたものの... あまりの集合時間の早さに「2回ほど遅刻しちゃって...」と、頭をかく加藤くん。
がっつり怒られることはなかったものの「次からは気をつけてね」と厳重注意を受けます。
「そこで閃いたんです。あ!現場に向かう車の中で寝て朝を迎えればいんだ!って」と、これまた天真爛漫に当時のエピソードを話す加藤くん。
それを聞いている佐々木さんも横でニヤリ顔。
前日夜から車に乗り込み、寝泊まり作戦を遂行。これには、集合時間に車のドアを開けた先輩もビックリでした(笑)。
今回は猛暑による対策で早起きをしなければいけないという苦労があったかと思いますが、もちろん現場でのお仕事も体力的にも厳しい部分があるはずです。
それでもこうして、笑顔を忘れずに働き続ける加藤くんに、仕事を続けられる理由は?と聞いてみると「うーん...1つ1つの仕事に意味があるから、ですかね...」とゆっくりと、その想いを聞かせてくれました。
「正直、同じ作業をずーっとしていたら飽きていたかもしれません。でも、林業は違う。その季節によって作業が違って、1つのサイクルが出来ている。このサイクルが出来上がった時の達成感もあるんです!」
重機に乗る日もあれば、チェーンソーを扱う日もあります。さらには機械が好きと話す加藤くんにとって、林業はとてもピッタリな業界だったのかもしれません。
操縦できるようになった加藤くんの表情はとっても楽しそうでした!
入社した当初は、年の離れた先輩をこわいなと思うことも正直あったそう。
しかし「ダメならダメなりに、しがみついていきたいと思った。せっかく夢を叶えたんだから」とまっすぐな瞳で私たちに訴えかけてきてくれました。 また、年の近い先輩の存在も大きく、気軽に話しかけやすい、なんでも聞きやすい先輩だといいます。
「でも...」と口を開いた加藤くん。何を話すかと思えば「いざ陸別に来てみたらセイコーマートが1件しかない!これにはビックリしました」と、笑います。
コンビニはまちに1件しかないし、帯広は人口16万人ほどのまちに対し、陸別町は2,000人ちょっと...。人は少ないのに、不思議と人の温かさを感じるまちなんです、とも話してくれました。
「いろんな人とこれまで関わってきたけど、人と触れ合いやすいまちだと実感しましたね。このまちに来て正解だったなとも思いました。寒いけど。馬鹿みたいに寒いけど(笑)」
思わず2回言ってしまうほどの寒さのようです(笑)。
それもそのはず、冬は過去一番の記録として最低マイナス33度まで下がったこともある、日本で一番寒いまちとして有名ですから!
仕事は大変なこともたくさんあります。
でも、これからもその屈託のない笑顔を忘れずに突き進み、林業業界を盛り上げていってほしい...私たち取材陣は思わず加藤くんを応援したくなってしまいます。
「今は目の前の仕事に精一杯。まわりから頼られる人になりたいそのために、これからもいろんなコツや技術を習得していきたい!」と、はにかむ加藤くんでした。
こうした加藤くんのような人懐っこい子はもちろん、佐々木さんは「人と話すことが苦手という人にも向いていると思う」と話しました。
「残業もなく、人と話すことも最低限。人と話すことが少し苦手という人や体を動かすことが好きという人にも向いている仕事だと思います。もちろん女性も歓迎だし、積極的に採用したいと思っています!」と。
今年で57年目と、歴史がどんどん深くなってきている佐々木林業。今後、どういった会社にしていきたいですか?とという問いに対し、最後にこう答えてくれました。
「若い人が育ち、誇りを持ってこの仕事をやってくれる人が増えたら嬉しい」と林業の未来を見据えます。
- 有限会社佐々木林業
- 住所
北海道足寄郡陸別町字陸別基線308番地の1
- 電話
0156-27-2107