晴れ渡る広い空に、鼻がつんとなる冷たい空気。冬の訪れを感じさせる秋の風が吹き渡っていました。深く息を吸い込めば、木のいい香りがしてくるような...。今回くらしごと編集部が訪れたまちは、北海道のど真ん中に位置する新得町。豊な森林資源に囲まれ、かつては何社もの木材関連会社が存在していたまちです。
しかしある時、新得町の森林を「保安林として残す」と決められてからは、いくつもの木材関連会社がこのまちから去っていきました。 そんな中、1978年の創業から今も尚このまちで木材工業を営む「新得木材工業有限会社」にお邪魔しました!
みんなでつくりあげる、ひとつひとつの製品
この会社では現在、主にフローリング材をメインに製作しています。北米を中心に、さまざまな種類の丸太を輸入し、機械を使ってカット、厚さ3.5センチほどになったものを建材メーカーに卸しています。 ここで作られたものが、どこかの家の床材となっているのです。
3.5センチの厚さはこれくらい
新得木材工業の敷地に足を踏み入れてみると、まず真っ先に目に飛び込んできたのは、綺麗に並べられた木の板。ここに置かれているものが製品として、メーカーさんのもとへと渡っていきます。
よく見ると、木から湯気が...!
これは、蒸したばかりの木材。木の色を安定させるため、こうして「蒸す」という工程を踏むものもあるそうです。立ち上る湯気に乗って、ほのかに木の香りも漂ってきます。思わず取材陣もこの空間にうっとり...していると、次に見えてきたのは、たくさんの丸太が並べられた場所。
何やら水をたくさんかけられていますが、これは木の種類ごとの色を変化させないために水を含ませるという大切な作業。雨の日は水を止めたりと、天気予報とにらめっこしながら作業を進めるそうです。
川の水を引き上げる権利を買い、地下にタンクをつくりそこに溜まったものを噴水しています。新得町の水を気持ちよく浴びているように見えました。
それでは、この丸太が次にどう進んでいき、どのようにして製材となるかについて、流れを写真と共に追ってみましょう。
まずは、丸太の皮を剥ぐところから。削がれた木の皮は、家畜舎のベッドとして再利用されます。
こうして皮を剥がされた丸太は、いよいよ工場の中へと入っていき機械によりカットされます。
機械を使うものの、ひとつひとつ丁寧にスタッフさんたちが手がけていき、大きかった丸太が、どんどん私たちが目にするような木材へと姿を変えていきます。最後は仕分けのゾーンへと移ります。そこでは樹種ごとにまとめたり、一枚の板のデザインを考え木目を見て仕分けるという作業が行われているのですが、簡単なように見えて実はとっても難しそう...。ベテランさんたちの腕が鳴ります。
それぞれ作業の持ち場担当は違えど、スタッフが一丸となってひとつのものを作り出します。
こうして、今日もどこかで誰かが足を踏み込む床材が、ここ新得町の会社で誕生しているのです。普段何気なく目にしているフローリング。森で生きていた木が、ひとつひとつこうして姿を変えて、私たちの生活を支えてくれているのですね。
二拠点生活をしつつ働く新得木材工業の縁の下の力もち
さて敷地内の工場を案内してくださったのは、総務の木村玄美(きむら はるみ)さん。木村さんの妹さんが、新得木材工業の現社長のもとへと嫁ぎ、そのご縁でこの会社に入社しました。
こちらが木村さんです。
聞くと木村さん、とってもユニークな職歴の持ち主。
北海道旭川市で生まれ、大手企業の旭川営業所に入社。その後ご結婚されて、ご主人の転勤で東京へ行ったり、札幌へ行ったりと転々としていました。札幌に来てからは、ホテルの支配人や社長秘書、エステの専売メーカーで働いてみたりと、木村さんの興味の幅に驚くと同時に、これまでの経験が今の総務業務に役立っているのだなと、納得です。
「その後、旭川にいる父が亡くなり、母を一人にしておくのも心配で、主人が定年を迎えたら夫と3人旭川で住もうかってタイミングで、妹からこの会社の業務を手伝ってくれないかと連絡がきたんです。だから私は今でも旭川に住んでいて、旭川から通勤しているの(笑)」
あ、旭川から通勤!?
旭川と新得町、「ちょっとそこまで」なんて距離ではありません。詳しくお話を聞いてみると、週の後半は新得町で、前半は旭川でリモート勤務をしているそうです。
まさに今の時代に合った、新しい働き方を実践しているのですね。
しかも旭川から新得町へはバスで通われているそうで、片道なんと3時間。大変なのでは...?と心配するも「なかなかいいもんよ。ちょっとした小旅行みたいでしょ」と笑顔で話すその姿からは、この生活をとても楽しんでいる様子が見て窺えました。
北海道にあこがれて埼玉から移住
取材中、「こんにちは〜」と声をかけてくださったのが神川(かみかわ)さん。
2020年の2月に埼玉県から移住し、新得木材工業へと入社。北海道の大自然に憧れを抱き「北海道に行きたい!」という想いで、当時大学生だった神川さんは、大学を辞めてこの地にやってきたそうです。
なんたる行動力...!
もともと北海道に縁はなかったそうですが、神川さんのお母様が、木村さんとお友だち。そのご縁から、この会社の話を聞いて入社を決めたそうです。
ここでの生活について聞いてみると「生活自体も楽しいし、仕事もサポートしてもらってます」と笑顔を見せてくれ、その表情からそれが本心であることが伝わってきました。ベテラン社員も多くいる現場ではありますが、背中を見て覚えろ!というわけではなく、分からないことはイチから丁寧に教えてくれる環境でもあるそうです。
社長も優しく教えてくれます。
また、冬の北海道を知らなかった神川さん。初めて過ごした冬はどうでしたか?と聞いてみると「本当に寒かったです(笑)」と。
それほど雪は多くない地域ではありますが、カイロを体に貼って、寒さをしのぐのだとか。取材日も、10月の後半ではありましたが、新得町に到着した時には思わず身震いしてしまう寒さでした。
休憩室には昔懐かしストーブが。
神川さんは生産管理の業務を担当し、データの入力や、発送の段取り、工場の生産ラインのサポートなど多岐にわたります。そんな神川さんを我が子を見るかのような優しい瞳で見つめる木村さんは、「こうした道外から移住してくる人たちも大歓迎」と話します。移住となると、気になるのは「住むところ」でもありますが、それに関しては心配ご無用。
「住まいは、町営住宅があるんです。駐車場込みで20,000円!」
築30年程の町営住宅ではありますが、まだまだ綺麗で良い物件!と木村さんの太鼓判ありです。
ただもうひとつ...北海道に移住するとなると切っても切り離せないのが「車問題」。
車はやっぱり必要...ですよね?という野暮な質問に対しては、「必要ですね」との返答が。 ただ、埼玉県から移住してきた神川さんも実は免許を持たずに、北海道へと移住したそう。免許を持たずしても大丈夫だった理由は、事務所の窓から外を見てみると、すぐに分かりました。
なんと、隣に自動車学校が隣接してあったのです。
こちらが教習所です。
働きながらでも自動車学校に通いやすい環境は、ピカイチです。
それだけではありません。 窓からスキー場も見えるので...ウィンタースポーツが好きな人にとっても最高の立地ではないでしょうか。
こんなすぐ近くにスキー場が。
新得町は北海道のど真ん中。だからこそ、このまちを基点に道内各地を旅することだってできます。
ちなみに社長のご趣味は釣りやロードバイク。 社長の車のトランクを見てみると、趣味への熱い想いが伝わってきました。 釣り道具はしっかり完備されていますし、車の上にはキャリアが付いて、ロードバイクが乗せられるようになっています。もう、今すぐにでも行ける状態です。 会社自体、残業もほとんどなく、多い月でも月4〜5時間程度。だからこそ、趣味の時間も最大限に楽しめるのです。
社長ご自慢の釣りグッズを紹介してくださいました。車のトランクに乗せ、いつでも釣りに行く準備は万端です!
「自分の趣味の時間も大切にしたい」そんな方に、この会社は合っているのかもしれません。
総務で人事も担当する木村さんも「うちの会社に興味を持っていただけれるのであれば、こちらはどんな方でもウェルカムです」と話します。
「大学新卒、高校新卒でも、言ってしまえば中卒でも大歓迎。工業系の学校を出たかなんてのも関係ありません。みんな未経験で入ってきている人がほとんどなんです」
大事なのは「興味」と「やる気」。木村さんを始め、社長や社員が温かく迎えてくれるのだろうなと、なんだか想像できました。
ニーズに応える会社であるために
最後に、3代目社長の村瀬博行さんからもお話をお聞きしました。
現在ここで取り扱っている木材の98%を北米から輸入していますが、それはメーカーからのさまざまなニーズに答えるために必要なこと。
「その時その時の時代によって、流行が変わるんですよね。例えば景気が悪い時は白っぽい床材が売れる。景気が悪いと建てる家も小さくなるから、床材を白にすることによって少しでも広く見せようってことなんですよね」
おお〜...なるほど...!
「メーカーによって、『今年はこういうのをお願いします』と依頼が来て、海外に買い付けに行くんです。国によって木の種類も違います」
これまで何カ国もまわってきた社長。北米、ヨーロッパ、アジア...なんと、アマゾンにまで行ったことがあるそうですよ。
世界を一周していると言っても過言では無い社長から聞く旅のお話は、聞いていてとってもワクワクしました!
しかし新型コロナウィルスが蔓延したことにより、海外に行くことも難しくなり...現在の買い付け方法は、オンラインを使ってのリモートに。この時代らしい買い付けの方法となりましたが、やはり自分の目で見て確認することが出来ないからこその難しさも...。
さらには今「ウッドショック」問題もあり、今後の不安もまだまだ残っています。こうした問題とも向き合っていかなくてはなりませんが、いつだって前を向いている社長です。
また、林業というこの業界に対してや、林業従事者への想いも熱く「うちで出来ることは、なんでもしてあげたい」 と、日本の林業、木材業界の未来を見据えています。
まだまだ決して多くはない林業人口。新得木材工業でも同じく、離職率が低い反面、ベテラン勢が多く、高齢化も進んできてしまっています。ヨーロッパ、フランス、ドイツなどでは、林業者はマイスターとして、みなから憧れられる職業。しかし日本ではまだまだ、そこに至っていません。そうしたところに、少しでもうちも力になれたら...と強い想いを聞かせてくださいました。
決して都会とは言えない、いわゆる「田舎」な新得町。
この田舎でも、木村さんのように二拠点生活をしながら働いている人がいたり、北海道に憧れて木の香りたっぷりの職場にやってきた神川さんがいたり、仕事と趣味を全力で楽しんでいる社長がいたり...みんな、働く理由も、このまちに住む理由もそれぞれですが、こうした田舎まちでもあなたに合った新しい働き方が見つかるかもしれません。
- 新得木材工業有限会社
- 住所
北海道上川郡新得町本通北6丁目4
- 電話
0156-64-4312
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