突然ですが「チャンポン」というと、どんな料理を思い浮かべますか?
たっくさんの具や野菜を使った長崎チャンポンなどが真っ先に浮かぶ方も多いかもしれません。
今回は、まるで海の町である長万部を一皿に表現したかのようなチャンポンが名物の「三八飯店(さんぱちはんてん)」をご紹介したいと思います。名物の名前は「浜チャンポン」。
現在、本店である長万部店と、札幌白石店の2店舗を構えます。
「飯店」は一般的には中華料理店をあらわしますが、このお店の名物である浜チャンポンは、中華料理というより和風に見えませんか?
あれれ?そして看板にはお店のお名前より大きな「浜チャンポン」の文字だけじゃなく、「あんかけ焼きそば」の文字も書かれているではありませんか?謎は深まるばかりです!まず、社長で2代目の北村康幸さんにお話をうかがいました。
三八飯店の誕生
三八飯店の歴史は長く、前身のお店を含めるとその始まりは約55年前まで遡るそうです。
「三八飯店の前身は、寿都町で昭和40年頃に創業した飲食店でした。このお店は私の祖母が営んでいて、飲食店に旅館も併設していました」
ここから独立する形で三八飯店が誕生。ところが、先代(社長のお父様)は拠点を同じ寿都町には選びませんでした。創業当時は絶好の漁場・釣りスポットとして活気のあった寿都町でしたが、「次第に釣れなくなってきた」という情報を得て、お客さんの入りが厳しくなることを危惧し別の場所を探していたそうです。
明るくお話してくださった3代目の北村康幸さん(社長)。長万部店の店長も兼務しています
「昭和54年に、叔父が先に浜チャンポンを名物にしたお店を手稲で出店していたのですが、すでに寿都町の名物になっていた浜チャンポンが札幌でも食べられる!と盛況だったことから、寿都町以外での出店も十分通用するものだと思っていました。そして当時、長万部町にはドライブインが並び活気に満ちていました。そこに20席ほどの席数のある空きテナントを見つけてココだ!と思い、昭和57年にお店を出したんです」
昭和57年というと、翌年の昭和58年に苫小牧西IC〜白老IC間開通が控えていた頃。長万部にはまだまだ高速道路が開通しておらず、長万部の国道5号線のドライブインは道央と道南を結ぶ北海道の大動脈だったのです。観光客や大型トラック運転手にも飲食店が重宝され、長万部のドライブインは大変活況でした。
三八飯店を受け継いで
社長の北村康幸さんは寿都町に生まれ、中学時代までを過ごしました。その後小樽の高校に進学し、下宿をしたり白石店から通学をしていたそうです。学生の頃からお店を手伝っていたという社長。このお店を継ぐことを決めた理由は何だったのでしょうか?
「最初はお店を継ぐかどうかハッキリと決めていなかったんです・・・。きっかけは、ぶっちゃけると父に『車を買ってあげるから跡を継いでくれないか』と言われ、それに惹かれたことでした(笑)」
3年前に綺麗に改装した店内。座席も内装も全て新しくリニューアル
跡を継ぐ=一生の生業ということですから、車がきっかけだったとは!と、驚きを隠せない取材陣。社長の大らかな人柄があらわれたエピソードです。社長はしっかりと先代の味を受け継いでいきます。そうして三八飯店で勤めていくうちに、現在の奥さまと出会います。転勤族の父に連れられ八雲に住んでいた奥さまは、三八飯店にお客さんとして来店。何とも運命的なお話ですが、後日飲み屋で再会し、お互い「あ!浜チャンポンのお店の!」「あ!あの時のお客さん!」と覚えており、意気投合したのだとか。そこからお付き合いが始まり、社長は奥さまに「お店に出て働かせる事は無いから!」と結婚したそうです。でも、結局奥さまもずっとホール・厨房に立っているそう。「騙して結婚したんです(笑)」と、今となっては笑い話です。
二人三脚でお店を支えてきた奥様
味へのこだわり
ここで、三八飯店の「料理」についてお話をきいてみます。三八飯店さんのメニューはとにかくボリュームたっぷり。普通盛りを頼んでも、大盛りくらいの量だと感じられる方もいらっしゃると思います。お店のこだわりを、社長はこう話します。
「『美味しい料理をお腹いっぱい食べてもらいたい』という想いで作っているんです。だから、食材の『鮮度』も大切にしています。長万部町にはホタテ、ホッキ、イカなどの美味しい海産物がたくさんありますが、以前と比較するとやはり値上がりしていますね。なので、地元の漁師さんのツテを活かして少しでも安く仕入れたり、少しでも大きなイカを仕入れられるよう工夫したりと頑張っています」
新鮮なイカをお店でさばいています
また社長は、こうも語ります。
「利益はあとからついてきてくれればいいんです。まずはお腹いっぱい食べてもらって、ここでしか食べられない料理に感動して頂ければ」
鮮度のいい食材。料理人の確かな腕。そして、このあたたかい想いが加わり、三八飯店の料理が完成しています。
大きな魚介類がごろごろ!ワカメも、時期によっては生のものを使っています
お話どおり、浜チャンポンの具材の大きいこと!仕入れなどの工夫をしているから、活きがよく大きな素材を使えるのですね。意外なことに、浜チャンポンは創業当時からのメニューではないそうです。お客さんが「こんなラーメンが食べたい」「この具材を入れて欲しい」・・・その要望を聞いて、形になったのが今の「浜チャンポン」なのだとか。このエピソードからも、お客さんに喜んでもらおうとする思いが伝わってきます。
「寿都浜チャンポン」名前で商標登録されています
そして、実は浜チャンポンを越える人気メニューが看板にもある「あんかけ焼きそば」!このあんかけ焼きそばは創業当時からのメニューで、その味は一切変えていないのだといいます。
お店の顔である浜チャンポンと、不動の人気を誇るあんかけ焼きそば。この2つメニューが三八飯店の二大巨塔になっています。
一番の危機を乗りこえて
さて、ここで閑話休題。結婚後は息子さんお二人にも恵まれ、お店も地元の常連さん、観光客、仕事の出張で来る方や作業員さんなどが来店し繁盛します。でも、常に順調な時期ばかりではありませんでした。
何より一番大きな出来事が、道南への高速道路の開通でした。
車の台数が圧倒的に減り、当然ながらお客さんの数も減ることに。三八飯店に限らず、ドライブインにとっては危機的な状況です。
「高速が通る前までは、1993年の北海道南西沖地震の復興事業のトラックが通ったり、観光客が途中で寄ってくれるケースも多かったんですが、延伸によってもうここを通る必要がなくなってしまったんです」
加えて、長万部町の高齢化や過疎化も集客に影響をおよぼしていきます。先の見通せない状況に、大きな不安があったことは想像に難くありません。そんな中でも、このお店の立ち位置を模索しながら、社長やスタッフの皆さんは改修含めたメニュー提案などを行ってきました。例えば、この時期に開発されたメニューが辛みそホルモンラーメンや、浜やきそば。ピンチをチャンスに変えながら、お店を成長させてきました。
現在もまさに飲食店には厳しい状況となっていますが、
「今まで不況や時代の変化に対応することで、打たれ強さを経験させてもらっています。(コロナウィルスで)きっとこれからお花見の自粛など影響が出てくるでしょうし、決して楽観はしてはいませんが、そういった時代の試練を越えてきた経験のおかけで何とか乗り越えられると思えているんです」と社長は語ります。
顔馴染みのお客さまも多いのです
そして、いつも助けてくれたのはお客さんや長万部町の方たちでした。「高速道路開通での売上減少に立ち向かう飲食店」というテーマでテレビ出演した際には、番組を見て「大変そうだったので、少しでも力になれれば」と来てくれた方もいたのだそうです。また、何十年にもわたり来てくれている常連さんが徐々に子どもを連れてきたり、さらには孫を連れてきたり。長万部から別の地域に出て行った方が戻ってきたときに食べに来てくれたり。と、とにかくお客さまとの繋がりが強いのです。
そして、困難があるたびにお世話になったのが同じ長万部町の商工会の方々や、サンミートきむらの会長さんなど。商売とはなんたるか、を1からたたき込んでくれたといいます。また、地元の漁師さんも、どん底の時期を凌ぎ上がってきている方々が多く、そういった強さ見てを学ぶことも多かったのだそう。人との繋がりがこの仕事の醍醐味であり、不況を乗り越えられる力であると社長は仰います。
親から子へ受け継がれる味
1年前に三八飯店に入った、息子の北村大紘さんはお店の味を受け継ぐべく現在修行中です。小・中・高と野球部で活躍し、大学時代はアメフト、現在はゴルフが趣味と、ずっとスポーツを続けてきたアクティブ派。この春から、月の勤務のほとんどが長万部店になりました。
「小さい頃の夢はプロ野球選手でしたが、その後はずっと飲食店に勤めたいという気持ちがあったので、お店に入ることに迷いはなかったですね」と、三八飯店に勤める選択は自然なことだったといいます。
「長万部に来てやってみたいことですが、自然が豊かだと思うので、ゴルフや野球でしょうか。あと、三八飯店がお世話になったこの地に、例えば草野球の指導など自分のできることを何か還元できたらと思っています」
これからの三八飯店
最後に社長に、これからの目標を聞いてみました。
「まずは長万部店と白石店の2店舗を、『愛されるお店』として継続していきたいですね。また、守るだけではなく新たに挑戦してみたいことがあり、それがセカンドブランドの立ち上げです。既存店では、『浜チャンポン』と『あんかけ焼きそば』が良い意味で台頭し過ぎて、新メニューが霞んでしまっている面があるので、それならば違う店舗・業態を作ってみたらどうだろう?と思っているんです」
長年お店を支えてきたスタッフの皆さんで
セカンドブランドの立ち上げとは、何ともわくわくするお話です。お店の揺るがない看板メニューである「浜チャンポン」「あんかけ焼きそば」は既存店で守りつつ、それ以外のメニューも積極的に光を当てていくためのセカンドブランドの立ち上げ。たしかに折角考案したメニューが人気メニューに埋もれてしまうのはもったいないですよね。
「セカンドブランドを立ち上げたいもうひとつの理由は、息子達から今の時代に即した色々なアイデアをもらっていること。その意気を汲んでセカンドブランドで多くの方に知ってもらえればと思っています。例えば、アイディアのひとつには『肉チャンポン』などがあります」
今までの三八飯店から、これからの三八飯店へ。時代をこえて愛されるお店の新しい挑戦はすでにはじまっています。
三八飯店の味が受け継がれていきます
- 長万部三八飯店
- 住所
北海道山越郡長万部町中ノ沢56-1
- 電話
01377-2-5180